スロウス・ブライド ~剣聖の嫁は怠惰に暮らしたい~   作:ビスマルク

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第九話

 朝日が昇り、眠りから目覚めた人々が活動を始める時間。家の広いリビングにフジヒノ一家は集まっていた。アキラ以外のそれぞれは未だに寝巻のままで、寝惚け眼をこすりながらソファに座っている。時にスウなどは半分以上眠ったままのように見える。普段の彼女ならばまだ眠っている時間に起こされたのだから仕方ないのかもしれないが。

 ちなみにこの場には手伝い妖精三体の姿もある。カグラとアズマの双子が初めて会った時から仲良くなり、今ではこうして一家の一員としてまで認められた。なお容姿がそっくりで見分けがつかなかったので額の部分に数字が書いてある。呼び方はそのまま『1号』『2号』『3号』となっている。

 

「えー、それでは今から家での決まり事を決める。破った奴には罰を与えるんでそこの所覚えておくように」

 

「はい!!」

 

「……はーい」

 

 朝から元気のこもった返事をする双子の片割れの少女カグラと、気の抜けた返事を返しながら顔を洗った後でもまだ眠気がなくならないからか目をこする少年アズマ。双子と一目でわかるほど似た容姿の二人だったが性格は委員長気質で真面目な姉と、自由気ままにのんびりした生活を楽しむアズマとかけ離れていた。

 眠りにこぎ出しそうなアズマは、その頭の上にキュー!と鳴きながら飛び乗った1号の重さでようやく話を聞ける状態になった。飛び乗られた衝撃で若干首が痛くなったとその部分を手で押さえながらだが。

 

「ふぁ~……、朝早くからそんなことで起こさないでほしいんだけど……。お風呂に入ってもまだ眠いわ……」

 

「「キュー!!」」

 

「ギャン!!こ、コイツら私の頭殴ったわ!?私創造主なのに!!」

 

 そして最後まで今にも眠りそうになっていたスウの頭を左右から挟み込むように蹴りつける2号と3号。アキラの家に来るまで無報酬で働かされたせいか彼等手伝い妖精は他の家族には甘いのだが、創造主のスウにのみ強く当たっていた。

 二体の妖精はそのままスウの白金の髪を結びだした。女性らしく髪にこだわりがあるスウはそれに対して必死に抵抗する。

 

「はいそこまで。いつまでも喧嘩してたら話が進まないだろ」

 

「私が悪いの!?私ナニカした!?」

 

「お前この前妖精たち専用のお菓子喰っただろ。俺に黙ってるよう言ってたらしいけど知ってるぞ」

 

「うぐっ!?で、でも新しくお菓子買ったもん!!」

 

 手を叩きながらスウと手伝い妖精たちの喧嘩を止めるアキラ。アキラの声で喧嘩をやめた手伝い妖精たちだったがスウの方はまだ言い返していた。アキラは何回かこんな景色を見たが、妖精たちとスウの関係は悪くないと思っていた。少なくても無感情で仕事を任せ、任せられていた時に比べれば。それは人間の考えなのかもしれないけれど。

 恐らく妖精たちとスウの精神年齢は似たようなもんなんだろうなと思いつつ、スウを近くに寄らせて妖精たちによって結ばれた白金色の煌めく髪を優しい手つきでほどきながら話の続きを始める。

 

「えー、カグラとアズマを一家に迎え入れてからこの三日間で大抵の手続きやらが済み、今日から二人はギルドの開いてる学校に行くわけだが。その前に色々と家のルールを決めておくぞ」

 

「ルールは必要ね。そういうところから規律は生まれるんだから!」

 

「買い食いは駄目とかそういうの?それはやだなー」

 

 それぞれの反応はアキラの予想した通りだった。幼いながらも几帳面な部分が強いカグラはルールを決めるという事に好意的であり、アズマは腕を組み悩みながらも父がいう事なら仕方ないかと受け入れる様子を見せる。

 本来はここに色々と注文を挟んでくると考えていたスウの様子だが、髪を傷めないように後ろから作業しているアキラの作業に気をとられていて顔を赤くしながら黙り込んでいた。そんな両親の様子に「仲がいいなー」とばかりに見つめてくる双子の視線が余計にスウの顔を赤くするのだった。

 

「で、気になる我が家のルールだが事前に板に書いておいた。そこを見てちゃんと守る様に」

 

 アキラが親指でクイッと向け指した方向を見る妖精たちと双子。その視線の先には小さいタイヤの付いた黒板があり、1から6まで「フジヒノルール」と書かれていた。

 カグラはそれを見て、夜遅くトイレに向かう時に母が何か作っている所を見たのを思い出し、スウの手先の器用さとそのせいで寝不足になってたら駄目じゃないかと尊敬と呆れの二つの感情を抱いた。

 

「それじゃこの6つのルールをしっかり覚えてから出かけるように!」

 

 アキラは出来るだけ、イメージする父親らしくこの場の全員に伝え、それを聞いた一名を除く全員が返事をした。なお返事をしなかった一名ことスウは、未だにアキラに髪を弄られて顔を真っ赤に染めながら俯いていた。

 

 

※※※

 

 

「魔獣退治以外の依頼とかない?これ以上の肉体労働は私の主義に反するのよ」

 

「え~、急にそんなこと言われても~」

 

 双子を引き取るための諸々の手続きを処理していた三日間の中でもアキラとスウは毎日討伐依頼をこなしていた。流石に一日中という訳ではなく午前中だけだったが、討伐を終わらせ身体を疲れさせた後に頭を使うような作業をこなす。アキラの方はそれを当然のごとくこなしていたが、スウは元々の気質もありそんな生活を断固拒否したいと思っていたのだ。

 ちなみにカグラとアズマの双子は討伐依頼の際はギルドでサーラとライガのギルドトップ陣営に任されていた。Aランク冒険者とその相棒が引き取る話をしている双子の世話など、何かあれば問題になることは間違いない。そんな爆弾を請け負いたがる人材がいなかったための苦渋の決断だった。

 それはさておき。怠惰に生きるのが目的なのにもかかわらず、その目的を捨てて勤勉を通り越し病的なレベルの労働など、スウの性格上ここまで耐えて来ただけで偉業である。故にスウは言ったのだ。

 

 

『休日を作れぇ!!!じゃないともう私働かないからね!!!』と。

 

 

 結果的に毎日惰眠を貪るのが目的だったのがいつの間にか最低限の休みだけでいいから寄越せと言うまでになってしまった。なおアキラの働きぶりはこれを見越したものではなく、ただ単に素でこなせるからやっていただけである。

 だから双子の姉弟が学校に通う事になる今日を休みにしようとしていたのだが、アキラがつい口にしてしまった「途中入学とかアイツら馴染めるといいが……」という言葉に、スウは猛烈に反応してしまったのだ。

 

「だーかーらー、こうあるんじゃない?学校の警備とか見張りとか、色々と必要になると思うんだけど。冒険者の子供がそれなりに多い場所なんだしそう言った仕事も必要だと思うのよ。そんな依頼はないかって聞いてるの」

 

「た~しか~に~、そう言う依頼もな~いこともな~いけど~。そういうのは~普通に~もう受けられてるんだよ~」

 

「いいから学校に関わる仕事を頂戴!!」

 

「もうめちゃくちゃだよ~」

 

 仕事をくれと言っているスウの姿は知人が見たら絶句するか、いまだ夢の中にいるのかと錯覚してしまうだろう光景だった。普段から口を開けば働きたくない、本読んで生きていたい、もういっそ眠りの世界に移住したいと言い続けているのだから。そんな彼女が仕事を寄越せと言っているのだ。天変地異の前触れと言われてもおかしくないだろう。

 

「嫁に勤労意欲が出てきてよかったじゃねぇか。子持ちになると意識も変わるってか!!」

 

「相手に無茶ぶりするところは変わってないけどな……。まぁあいつらと暮らしてた三日間でなんか意識を変えることでもあったんじゃねぇか?」

 

 そんなサーラとスウのやり取りを遠目で眺めながら同業者でありBランクのベテラン冒険者『マックス』と飲み物を飲みながら話すアキラ。その目はスウに絡まれてるサーラに「大変だな」と思いつつ特に助け舟を出す気もなく眺めたままマックスと会話を続けていた。

 

「まぁ心配なのはわかるってもんよ。俺のガキも学校に通う年ごろになった時には嫁が心配心配いってたからな。ああいうのは子供が可愛い母親が一度はなることなんじゃねぇか」

 

「気持ちは分からんでもないけど、アイツがああなるのが一番びっくりだった」

 

「それこそ子持ちになれば意識は変わるもんだ。そうなっても特に変わってないお前がおかしい方だと思うぞ」

 

「おかしいのは自覚してるし、そう見られても特に気にしねぇよ俺は。……まぁあいつらの為に少しは生活環境変えた方がいいかもしれんとは思うが」

 

「それが人の親になる第一歩だと思うぜアキラ」

 

 ニカッと、そう表現するのが似合うマックスの笑顔に手を振り応えるアキラ。始めて会った時はAランク冒険者であったアキラに絡んだこともあった。結果決闘騒ぎにまでなった二人だったが今では年齢は離れているが話の合ういい友人となっていた。

 アキラの方もこの数日子持ちになった時に必要な物を揃える為にマックスに助けを頼むなどして、対等の関係を崩さず頼り頼られの人間関係を築いていた。

 ちなみにマックスの嫁のジョディはスウと友好関係を作っており、互いの男の動向を探ったりなどこちらも短い期間で親友とまで呼べる関係になっている。『龍』のスウは基本的に物知らずなのでそういう箱入りだった部分もまたジョディがスウを可愛がる理由の一つだとアキラは推測している。

 

「それじゃ~、この魔術の~臨時講師をやってみる?スウちゃんは~確か魔術に精通してるんだよね~。ちょっ~と困ったことに~、今朝急~に来た依頼だったから~対処が遅れてね~。受けてくれるなら~学校の方にも~連絡するよ~」

 

「その依頼受けたわ!!よし行くわよアキラ!!」

 

「今から行っても時間が有り余ると思うんだが、って言う前に出てくなよお前!!」

 

「がっはっはっはっ!!女に振り回されてそれについていってやるのもいい男の条件だぜ!!」

 

 依頼の紙を受け取ると同時にすぐに家に戻って準備する為ドアの向こう側に消えていったスウを呆れながらも目を離さないように走りだすアキラ。それを見て大笑いしながら見送るマックスはかつての自分達が似たような景色を作っていたことを思い出し、懐かしさと共に過去と未来に思いをはせた。

 なお依頼書を奪われるように持っていかれたサーラは本当に大丈夫かと心配になりながらも依頼を出してきた学校に連絡するよう手続きを進めていた。

 

 

 

※※※

 

 

 

「うぅ……!!今日からここに通うのね……!!だ、大丈夫かな、問題とか起きないかな……?」

 

「今からそんなに心配してても意味ないでしょ。受け入れられるときは受けいられるし、そうじゃないならその時はその時だよ」

 

「なんでアズマはそんなに悠長でいられるの!?」

 

「心配なんてしたところでなるようにしかならないよカグラ」

 

 母であるスウが子供たちを心配して学校の仕事がないかとギルドに突撃をかけようとしていた頃、その心配の元である双子は今日から通う学校の廊下を教師に連れながら歩いていた。教師、と言っても専任の者は少なくほとんどが兼業で成り立つのがこの学校だった。

 そんな学校で教会のシスターをこなしつつ二人の担任を務めることになっているのが双子の前を歩いていた女性『クリス』だった。クリスはこれから馴染めるか心配になっているカグラとマイペースを保ったままのアズマに顔を向けながら優しく語りかけた。

 

「大丈夫ですよ、二人とも。これから二人のお友達になる子たちは優しく元気のいい子ばかりだから。……元気がよすぎるのが玉に瑕とも言えるかもしれないけど」

 

「先生、余計に不安になってきたんですが!!」

 

「先生、流石に僕もその説明で不安を消すのは無理だと思う」

 

「えっ?」

 

 不思議そうな顔をしながら指を口に当てながらどこがダメだったのかと考え込む茶髪を腰まで伸ばしながらも無造作という印象を一切与えない教師にツッコミを入れる双子。この時点で双子のこのシスター教師に対する印象は「父親並の天然者」だった。子供から短い間で天然と称されるアキラは何をやったのだろうか。

 

「とにかく心配しても仕方ないって。いざとなれば僕が何とかするからさ」

 

「う、うん。分かったわ」

 

 父親のマイペースな部分を強くしたと周りから評価されているアズマはどこからそんな自信が出てくるのか分からないほど自信満々に胸を張りながら双子の姉を元気付ける。普段アズマを引っ張っているカグラは母親の心配性な部分が強いのかこういった非日常なところではアズマに助けられていた。血の繋がりはないはずなのに、なぜかこの家族はどこかが似通っていた。

 

「それじゃあこの中が今日から二人が勉強する教室ですよ。友達いっぱいできるといいわね」

 

「勉強時間がなければいいのに」

 

「お母さんの真似して怠惰に生きようとするのはやめなさい。お母さんのそれは口だけに見えるけど」

 

 軽口を言いながらクリスの開けた扉を潜り抜けた先には、今まで見たことのない数の同年代の少年少女が集まっていた。数はおよそ20人ほどだが、そもそも二人は同年代とは話したことがなかった。アキラ達によって起こされ、それから毎日街を歩いていたとはいえ昼間の子供達は大抵がここに集まっていたのだから接する機会がなかった。

 人と話すということ自体は父と母の同業者であるマックスを始めとして何人かいたがほとんどが親よりも年齢の高い人間ばかりだった。だからか、始めて見る同年代の子供に対して何を言えばいいのか迷ってしまう。そしてそんな二人の新しい仲間を見た少年少女たちは……。

 

 

「わぁ!すっごいきれいな子だわ!!」「やばい、可愛い」「十年後くらいに口説きたい」「小生これ知ってる!これから物語が始まるパターンだ!!」「黒髪だ……初めて見た……」「黒い髪ってここらへんじゃ見ないもんね」「なんでもいい!パンツを見せてくれ!!!」

 

 

 二人が全く予想していなかった騒ぎ方をしていた。確かにこれはクリスの言うように「元気がよすぎる」という発言も納得できるほど。双子が入るまで教室が静かだったのが信じられない程の大騒ぎが起きていた。

 カグラはその様子に呆然と勉強はちゃんとできるといいなと。アズマはこれからの生活を考えて退屈だけはしないだろうなと考えた。そんなこの状況に声を出さない二人を見てしばらく大騒ぎをしていた子供達を、クリスが手を叩き静かにさせた。子供たちは知っていた、普段は静かで優しいシスター教師が怒ると誰も逆らえない存在になることを。

 

「はい、今日から皆の友達になるカグラちゃんとアズマ君です。みんな仲良くするようにね」

 

「えっと、フジヒノカグラ、です。弟共々よろしくお願いします……」

 

「フジヒノアズマ。カグラの弟ってことになってるけど双子だからあんまり関係ないよ。とりあえずよろしく」

 

「はい、それじゃあ少しのあいだ質問時間にしますね。二人に聞きたいことがある人は手を上げてください」

 

 無難に挨拶をこなす二人に矢継ぎ早に質問が襲いかかる。それに一つ一つ答えながら、この敵意のないクラスだったら楽しく過ごせそうと二人は誰にも知られず安心していたのだった。

 

 

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