同名コンボで!?キングダム立志伝   作:kobu015

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第2話 助けるか否か

 ゆらゆらと、火が風に揺れる。

 その明かりに照らされた俺の顔は、たぶんひどく険しかった。傷だらけの巨漢が真剣な顔で黙り込んでいるんだから、他人が見れば、それなりに怖い絵面だっただろう。

 

 考えているのは、漂のことだ。

 

(このまま何もしなければ、漂は死ぬ)

 

 原作の流れを、俺は知っている。

 漂はある事件で命を落とす。まだこの時点では生きているのに。道ばたで一度見ただけの、あの少年が。

 

 助けるべきか。否か。

 簡単な問いに見えて、これがそうでもない。

 

(俺に助けるだけの力が「今」あるかはわからない。それに……)

 

 仮に助けたとして、原作の流れは変わる。

 そうなれば、俺の最大の武器――「この先の展開を知っている」という原作知識が、片っ端から無意味になっていく。地図を捨てて、知らない夜道を歩くようなものだ。

 

 ……それでも。

 

「まだ子供だろ」

 

 火に向かって、ぽつりと言った。

 この時代、この台詞は甘すぎる。人の命が、びっくりするほど安い世界だ。

 だがしょうがない。元の田有は男気の塊だし、何より中身の俺は現代日本でぬくぬく育った、平和ボケの大人だ。子供を守るのが大人だろ。そういう、安っぽくて、譲れない理屈が、腹の底に居座っている。

 

 もっとも――口で言うだけ、思うだけなら、誰でもできる。

 力のない正義は、結局は自己保身に負ける。何もしない言い訳に化ける。

 だが俺には、恵まれた体躯と、ゲームの「札」がある。

 

 思えば、前世の俺は、その「札」のためだけに生きていたようなものだ。

 『太閤立○伝』。死ぬ間際まで、それこそ寝食を削ってやり込んだ。何周もして、エンディングを潰して、持ち込み札をかき集めて。会社の机より、あの画面の前にいる時間のほうがずっと長かった。我ながら、ろくでもない人生だ。

 だがその、ろくでもない時間が、今になって牙を剥く。札の効果も、入手条件も、数値の上限も、ぜんぶ頭に入っている。ゲームでさんざん遊んだ知識が、この世界では命を左右する力になる。

 

(……皮肉なもんだ)

 

 ゲームに溶かした人生が、誰かの命を繋ぐ役に立つ。

 ならせめて、繋いでやろうじゃないか。

 

(やれない、ことはないはずだ)

 

 顔から、迷いが消えた。

 やると決めたら、あとはどうやるか、だ。

 

「まずは……能力の確認が、急務だな」

 

  ◇

 

 翌日から、俺は精力的に動いた。

 

 まず走り込み――は、しない。

 「忍術奥義皆伝」のおかげで、移動では体力が減らないからだ。いくら走っても、トレーニングにすらならない。チートの地味な弊害である。

 仕方ないので、ひたすら筋力でいじめる方向に切り替えた。岩を担ぎ、丸太を振り、井戸の水を汲み続ける。傍から見れば、ただの働き者の大工だ。

 

 次に、肝心の札技だ。

 実際に使えるのかを試すには、戦うのが手っ取り早い。幸い、この時代は徴兵だらけで、腕の立つ連中はそこら中にいた。俺は腕に覚えのある男に頼み込み、片っ端から仕合をした。

 

 すると――いざ拳や得物を交えた瞬間、不思議と「わかる」のだ。

 どの札技が、今使えるのか。感覚で、すとんと腑に落ちる。

 

──《鉄壁》──────────

 ・秘技札(個人戦)

 ・気合2消費で、自分の防御力を少し上昇

────────────────────

 

「お、効いてる効いてる」

 

 相手の一撃をわざと食らってみる。

 鉄壁を張った体は、明らかに頑丈になっていた。元から岩みたいな田有の体に、さらに「気合」で上乗せがかかる感覚。同時に「気合」――札技を使うためのコストの残量も、感覚でわかるようになった。

 ゲームでいうMPだの、SPだのと同じやつだ。戦っている間に、じわじわ回復していく。

 

 強襲、抜け突き、鉄壁。

 刀剣、槍、防御。手持ちの秘技を、片っ端から体に馴染ませていく。

 

 ……ただ、一つ誤算があった。

 俺は疲れない。

 

  ◇

 

「田有、ごめん。今日はもう、無理だ……」

 

 訓練に付き合ってくれた相手が、一人、また一人と脱落していく。

 当然だ。こっちは無限の体力を持つ化け物である。延々と、いつまでも、相手が音を上げるまで仕合を続けてしまう。悪気はない。ないんだが、付き合わされる方はたまったものじゃない。

 別格だ、人外だ、と恐れられ、訓練相手はみるみる減っていった。

 

 ところが。

 最後まで残った連中が何人かいた。

 

 原作には、影も形も出てこない男たちだ。

 ひとことで言えば、生粋の剣士。もっと正直に言えば、「剣術馬鹿」。

 不沈艦みたいな俺の防御を崩せないのが、こいつらにはたまらなく楽しいらしい。攻撃が一切通じないのに、目をきらきらさせて、何度でも打ち込んでくる。完全に変人だ。

 

「おいおい、また弾かれたぜ! なんだその体! どうなってんだ!」

「楽しくなってきやがった……もう一本!」

 

 しかも厄介なことに、こいつらの技を、俺の体はスポンジみたいに吸収していく。仕合うほどに、向こうの攻撃は当たらなくなる。

 普通なら心が折れる。だが剣術馬鹿どもは、それすら「自分も強くなってる証だ」と喜ぶのだ。

 

 途中から、俺はだんだん申し訳なくなってきた。

 やめようとしても、やめさせてくれない。目をキラッキラさせて、本当に楽しそうに向かってくる。やめられるか、こんなの。

 

 そんな、頭のおかしい連中との果てしない仕合が、よかったんだろう。

 

 ある日、頭の奥で、かちりと音が鳴った。

 

──《連続斬り》──────────

 ・秘技札/気合3消費で敵一人を攻撃(武器:刀剣)

──《剛力》────────────

 ・秘技札/気合2消費で、自分の攻撃力を少し上昇(武器:不問)

────────────────────

 

(「武芸」がLv2に上がった……新しい札を、二枚覚えた)

 

 はっきり目に見える成長は、最高の励みになる。

 ゲーマーの本能が、満たされていく。レベルが上がるのは、いつだって気持ちがいい。

 ……それにしても、こいつら。名も知らぬ剣術馬鹿どもだが、妙に馬が合う。いつかこの連中と、肩を並べて戦う日が来るのかもな――そんな益体もないことを、ふと思った。

 

  ◇

 

 訓練の合間。俺はもう一つ、別の「特訓」もしていた。

 信と漂の、見守りである。

 

 毎日、こっそり様子をうかがう。気配を消して、隠れて、二人を遠目に。

 ……改めて文字にすると、どう見ても、子供を狙うストーカーだ。我ながら危ない。だが救うと決めた以上、二人の動きは把握しておきたい。

 

 あの二人は、いつも本気だった。

 木の棒を打ち合い、転がり、罵り合い、また立ち上がる。日が暮れるまで、飽きもせず。「二人で天下の大将軍だ」と、ぼろをまとったガキが、本気の目で言うのだ。

 その光景を、俺は柄にもなく、まぶしく見ていた。……片方は、もうすぐ死ぬんだぞ。そう思うと、胸の奥が、ぎゅっと痛む。

 前世の俺には、あんなふうに本気でぶつかれる相手も、本気で追いかける夢もなかった。あったのは、画面の中の天下だけだ。

 だからかもしれない。あの二人が、やけに眩しく見えるのは。せめてあの夢を、片方だけでも閉ざさせたくない。そう思うのは、たぶん、ただのお節介なんかじゃなく――かなえられなかった俺自身の、未練みたいなものだ。

 

 気配を殺す意識を続けたおかげか、これにも成果が出た。

 

──《忍び足》──────────

 ・その他札(パッシブ)

 ・隠密工作が、見つかりにくくなる

────────────────────

 

(「忍術」がLv1に上がって、札を獲得……巨体が一個、消えるわけでもないだろうに)

 

 ともあれ田有は強くなった。

 着実に、ゲームの数値が、この体で意味を持っていく。

 

  ◇

 

 ふたたび、火の前。

 あとは、どこで、どう漂を救うかだ。

 

 原作の記憶を、慎重にたぐる。

 漂は昌文君に身請けされて、王宮へ行く。そのおよそ一ヶ月後に、事件は起きる。

 大王の影武者として咸陽を脱出する漂。だが王騎将軍の待ち伏せに遭い、昌文君は一騎打ちに敗れて崖下へ。漂は残った兵をまとめて奮戦するが――最後は、朱凶という刺客にやられ、逃げ込んだ里典の家で、深手がもとで死ぬ。

 

「つまり――その朱凶の相手を俺がやればいい」

 

 王騎将軍と昌文君の戦いに割って入るのは、身分的にも実力的にも無理がある。

 だが漂が一人になった、あとなら。

 

(いける。いけるはずだ。問題は……どこで起きるか、だな)

 

 戦いが起こるのは「束達の丘」。

 ……だがそこまでの細かい地理は、俺の記憶にはない。漫画の一場面を覚えているのと、その場所へ歩いていけるのは、まったくの別物だ。

 ただ事が起きるのは、王都「咸陽」から「黒卑村」までの間のはず。範囲は広いが、咸陽の裏門あたりを張って、脱出する漂たちについていけば、たどり着ける。

 

(咸陽の城で火の手が上がって、裏門から……だったよな。なら、裏門さえ見張ってれば――いける!)

 

 安易と言われれば、そうかもしれない。

 仮に間に合ったとして、俺は朱凶に勝てるのか、という問題も残っている。

 いや。

 勝てそうだ、とは思う。田有の体躯と、磨いてきた札技があれば。

 

「待ってろ、漂」

 

 火を消して、横になる。

 明日からは、もっと忙しくなる。

 田有による、原作崩壊の序章が――静かに、動き出そうとしていた。

 

  ◇

 

「一ヶ月ばかり、村を空ける」

 

 仲間たちにそう告げるのは、正直気が重かった。

 最近は訓練にかまけて、大工の仕事はだいぶ疎かにしていたからだ。どう切り出したものか、と悩んでいたのに。

 

「いいって、気にすんなよ」

「田有のことだ、大事な用なんだろ?」

「給金、上げてくれりゃそれでいいからよ」

 

 あっさり、快く送り出された。

 ……なんていい奴らなんだ。木材を頭に落とした件は、まだ根に持ってるけどな。

 

 大工というのは、つくづく悪くない生業だと思う。

 力仕事で飯が食えて、仲間は気のいい連中で、手を動かせば形が残る。前世のすり減るだけの暮らしより、よっぽど性に合っている。……とはいえ、今ここで頼りになるのは、鋸や鉋じゃない。札と、この腕っぷしのほうだ。門を直し、梁を組む技が、いつか戦場で役に立つ日が来るのかどうか――そんなことは、考えたこともなかった。今はただ、漂を救う。その一点だけを、見据えていた。

 

 食料を買い込み、俺は王都・咸陽へと発った。

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