【完結】同名コンボで!?キングダム立志伝   作:kobu015

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最終話 天下無敵の大将軍

 合従軍を退けて、季節が巡った。

 

 秦は、生き延びた。

 国そのものが滅びかけた、未曾有の大戦。それを原作より、ずっと少ない犠牲で乗り越えた。

 民はまた畑を耕し、市は賑わいを取り戻していく。当たり前の、なんてことのない日々。それがどれほど得がたいものか。誰かが命がけで守った日常だと知っている者は、ごくわずかだ。

 

 いや。本当のところを知っているのは、たぶん俺だけだ。

 

  ◇

 

 俺の隊も、無傷では帰れなかった。

 岩斗は左腕に深い傷を負った。「剣を振るうにゃ右で十分だ」と笑っていたが、しばらく槍は握れまい。禾は――蛇甘平原からの戦友を、一人、蕞で失った。骸を背負って帰ってきた禾は声もなく泣いて、それでも自分の足で歩いていた。

 救えた命がある。繋いだ命がある。だがこぼれ落ちた命も、確かにあった。

 全部は救えない。痛いほど、思い知った。

 それでもと思う。一人でも多く。次は、もう一人。そうやって繋いでいくしかない。それが、俺の選んだ戦い方なのだから。

 

  ◇

 

 ある日、俺はまた王騎将軍の屋敷に呼ばれた。

 

「ココ。よく来ましたねェ、面妖な大工どの」

 戦場には戻れぬ体で、それでも将軍は悠然と笑っていた。

 

「合従軍の戦、貴殿の隊もよう働いたと聞きますよ。蕞では武神を相手に、時を稼いだとか。……ただの大工が、ねェ」

「……運がよかっただけです」

「ココココ。よいでしょう。それで通しなさい」

 

 将軍はやはり、深くは聞かなかった。

 ただ最後に一つ、こう言った。

 

「貴殿があの日、余計なことをしてくれたおかげで……私はこうしてまだ、茶を飲めております。おかげで、次の世代も見届けられそうだ。礼を言いますよ、田有どの」

「……ただ、一つだけ。貴殿のような者が、なぜ他人の運命のために、そこまで身を張るのか。それだけは、いつか聞かせてほしいものですよ」

「……気が向いたら、いずれ」

「ココ。気の長い話ですねェ」

 

 俺は何も言えなかった。

 あなたを救ったことが巡り巡って、この国を救ったんです、なんて。言えるわけがない。それともう一つ。奇妙な噂も、耳に入っていた。

 退いていった合従軍の知将――李牧が、どうやら俺のことを気にかけているらしい、と。蕞で策を狂わせた「大工あがりの隊長」の名を、わざわざ書き留めたとか。

 ……勘弁してくれ。あんな化け物じみた知将に、目をつけられるなんて。地味に、こっそり、誰にも知られず。それが俺の生き方だったはずなのに。

 どうやら、ずらしてきた歴史は、知らないところで、とんでもない大物まで巻き込み始めているらしい。背筋が、ひやりとした。

 

  ◇

 

 その晩、生き残った隊の連中と、ささやかな酒の席を持った。

 岩斗が傷ついた左腕で、不器用に杯を掲げる。

「親分! 今回もよく生かしてくれたなァ!」

「……生かしきれなかったやつも、いる」

 場が少し静かになった。禾がうつむいたまま、ぽつりと言う。

「……でも、おれは親分の隊じゃなかったら蛇甘平原で死んでました。あいつも、ここまで一緒に来られた。……それだけでも、報われます」

 禾の目に、もうあの怯えだけの色はなかった。震えながらも自分の足で戦場を歩いた、男の目だ。

 俺は欠けた茶碗の泥みたいな酒を、戦友のいない夜空へそっと傾けた。

「……ああ。連れて帰れなかったぶん、お前らは絶対に死なせねえ」

 隊の連中が、ぐっと顔を上げた。

 こいつらにとって俺は、英雄でも化け物でもない。ただしぶとく生かす隊長だ。それでいい。それが、俺だ。

 

  ◇

 

 戦のあと、俺の隊には、新しい顔も増えた。

 合従軍の戦を生き延びた、若い兵たち。最初は、誰もがおっかなびっくりだ。かつての禾と、同じ目をしている。

 その新人たちに、禾が、あれこれと世話を焼いていた。「怖いのは当たり前だ。怖いから、よく見えるんだぞ」。……どこかで聞いた台詞だ。俺があいつに言った言葉を、今度はあいつが、後輩に渡している。

 臆病者だった若者が、いつのまにか、誰かを導く側になっていた。それを見て、俺は柄にもなく、目頭が熱くなった。繋いだのは、命だけじゃない。こういう何かも、確かに受け継がれていく。

 

  ◇

 

 屋敷を出ると、遠くの調練場から、威勢のいい声が聞こえてきた。

 

「だーかーら! 突っ込みすぎだっつってんだろ、信!」

「うるせえ! これがオレの戦い方だ!」

 

 信と、漂だ。

 二人ともめきめきと将の階段を上っている。城戸村でぼろをまとい、夢を語っていたガキども。原作では片方が早くに死に、二度と並ぶことのなかった二人だ。

 それが今、肩を並べて言い合って、笑っている。

 ふと漂がこちらに気づいた。城戸村で一度だけ目が合った、あの時のような顔で。だがすぐに信に小突かれ、また言い合いへ戻っていく。

 気づかれては、いない。気づかれなくて、いい。

 もっとも――漂のほうは、どこかで勘づいているのかもしれない。

 蕞で肩を並べて武神と戦ったとき、ほんの一瞬、あいつと目が合った。あの誠実な目が、何かを問いたげに、俺を見ていた。城戸村のあの夜、森から見ていた「怪しい男」と、戦場で命を預け合った大男が、同じ顔をしていることに。

 だが漂は何も言わなかった。たぶん、いつか確かめに来るつもりだろう。あいつはそういう律儀な男だ。

 ……そのときは、まあ、適当にとぼけるとしよう。礼なんて、柄じゃない。

 

 二人の言い合いは、まだ続いている。

「先に大将軍になるのは、この俺だ!」

「はっ、寝言は寝て言え! 俺が先だ!」

 売り言葉に買い言葉。だがその応酬のどこにも、棘はない。城戸村の納屋で同じ夢を見た、あの二人のままだ。

 

 同じ夢を追いかけて。

 ――天下最強の、大将軍。

 

 俺はその光景を、少し離れた木陰からこっそり眺めていた。

 あいつらは俺のことなんか、せいぜい「やたら強くて、やたら絡んでくる怪しいオッサン」くらいにしか思っちゃいない。

 それでいい。

 影の功労者ってのは、そういうものだ。誰にも知られず、誰にも褒められず。それでも確かに何かを守り、繋いだ。――それだけで、じゅうぶんだ。

 

  ◇

 

 考えてみれば、おかしな人生だった。いや、第二の人生か。

 

 前世では、ゲームに人生を溶かした挙句、駅のホームで間抜けに死んだ、しがない独身社会人。

 それが気づけば大好きだった漫画の世界で、大工あがりの猛者になっていた。札の力と原作知識を武器に、本来死ぬはずだった漂を救い、王騎将軍を救い――あげく国の命運まで、ほんの少しずらしてしまった。

 ……それも半分は、この体が大工だったからだ。札の力だけじゃない。門の壊れ方を読み、人を動かし、土と木で時間を作る。前世でやり込んだ戦国の知恵が、まさか紀元前の中華で命を繋ぐとはな。

 

 歴史の教科書にも、英雄譚にも、俺の名は載らないだろう。

 「田有が中華を救った」なんて、未来永劫、誰も信じやしない。

 それでもいいのだ。

 いや――一人だけ、気づいた者が、いたかもしれない。

 大王・嬴政だ。蕞で、退く敵を見据えていた、あの男。あの戦のあと、大王から、ささやかな沙汰があったと聞いた。「あの大工あがりの隊を、もう少し大きく使え」と。

 名までは、覚えられていないだろう。だが地味な働きは、確かに、天の高みにまで届いていたらしい。……まあ、それも悪くない。

 

 俺は知っている。

 あの二人が生きて笑っていることを。生ける伝説が次代を見守っていることを。秦が滅びずに、明日へ続いていることを。

 それを誰にも知られず、こっそり見ていられる。

 ――これ以上の、ご褒美があるか。

 

  ◇

 

 ふと自分の手のひらを見た。

 札を回し、隊を率い、ここまで来た。大工あがりの隊長は、いつのまにか、ひとかどの隊長として扱われるようになっていた。

 天下無敵の大将軍。

 信と漂が、そして田有という男が追い続ける夢だ。

 

(……俺もまだまだこれからだな)

 

 ゲームで「天下一」なら、何度も獲った。

 だがこの世界の天下は、画面の中の数字じゃない。血が通い、笑い声があり、守るべきものがたくさんある。

 だからこそ――面白い。

 まだ上を目指せる。あの二人と、肩を並べられる日まで。

 いつか、王騎将軍に問われた。なぜ、他人の運命のために、そこまで身を張るのか、と。

 答えは、まだうまく言えない。だがたぶん、こういうことだ。

 前世の俺は、画面の中の天下を、いくつも獲った。だが空っぽだった。誰も、そこにはいなかった。

 今は、違う。守りたい顔がある。繋ぎたい命がある。それが、どれほど満たされることか。たぶん、それを知ってしまったから、俺は、何度でも、身を張れるのだろう。

 

 信や漂のように、眩しくはなくていい。

 俺は俺のやり方で、本来なら死ぬはずだった誰かを一人でも多く生かす。地味で陰湿で、誰にも気づかれなくても。

 その積み重ねの果てに、もし「大将軍」と呼ばれる場所があるのなら。

 ――そこまで、行ってやる。

 

 ここまで、長い道だった。

 駅のホームで死んだあの日から、漂を救い、王騎を救い、数えきれない戦場を、馬鹿な仲間たちと駆け抜けてきた。誰にも知られない道のりだ。だが振り返れば、確かに俺だけの足跡だった。

 

 調練場の喧噪に、俺はのっそりと足を向けた。

 信がこっちに気づいて、面倒くさそうに、それでもどこか嬉しそうに叫ぶ。

 

「お、来たな怪しいオッサン! ちょうどいい、稽古つけろよ!」

「……人にものを頼む態度か、それが」

 

 ぼやきながら、俺は笑っていた。

 

 しがない元社会人の、ぶっ飛んだ天下取り。

 漂を救い、王騎を救い、合従軍から国を守った。それでもこれはまだ序章にすぎない。この先の中華が、原作とどうずれていくのか、もう誰にもわからない。

 その道は、まだ始まったばかりだ。

 

 ――同名コンボで引き当てた、田有という、たった一人の大工から始まった物語は。

 こうして誰にも知られぬまま、確かに中華の歴史を書き換えていったのだった。

 

 札を一枚、ではない。同名コンボで、田有という一つの人生を引き当てた。たったそれだけのことが、人の生き死にを変え、国の運命さえ変えた。

 ゲーマーだった俺の、二度目の人生。それは、画面の中のどんな天下取りより、ずっと得がたいものだ。

 ――さあ、続きを始めよう。この、誰にも知られない物語の。

 俺の天下取りは、まだまだ、これからだ。

 

(了)




長らく放置していた作品を完結させました〜w

新しくハリーポッターの二次創作を執筆してて、いざ投稿しようと思ったら放置に気付きまして「よっしゃー!完結させたるか〜」と気合を入れてやりました。

感想で要望あるようなら、続きも検討しますが・・・
とりあえずキリがいいかな〜っと思い、ここまでとさせていただきます。
→っと言いつつ、感想でいただいた意見や気づいた点は全体的に修正しようと思います。

読んでくれた方感謝です〜。

以上、こぶ尾でしたノシ
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