メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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一.人里離れたダムにて

 京都呪術高専2年生のメカ丸。

 

 メカ丸は与幸吉(むたこうきち)という呪術師が傀儡操術で操っていた。

 

 与幸吉はある出来事によって大切なモノを失い、後悔という底なし沼に囚われていた。

 

 幸吉は沈む夕日を見ながら、自らの行いを反芻する。

 

 人里離れたダムで宿敵・真人(まひと)と戦った時の話だ。

 

 どんな手段でもいい、五条悟と連絡を取り、渋谷の計画を伝えられば、よかった。せめて渋谷の計画さえ伝えられれば、”みんな”が死ぬような事態は避けられていただろう。たとえ、五条悟が封印されたとしても。

 

 どうして俺なんかが生きているんだ。折角体が完治したのに、折角何でもできるようになったのに、会いたかった人はもういない。

 

 あの時、俺は逃げ出したんだ。

 

 立派なダムと緑が生い茂る山奥で真人と戦って、そして、俺は逃した。

 

 

 それは真人と夏油が幸吉の体を治す為にやってきた日のことだ。

 

 戦いは真人が無為転変で幸吉の体を治した瞬間に始まった。予想通り真人が幸吉に襲い掛かろうとした。

 

 幸吉は事前に用意していた通常のサイズのメカ丸で一斉に奇襲をかけて真人の攻撃をいなす。作り出した僅かな時間で装甲傀儡究極メカ丸試作0号に向かって走る。

 

 真人が幸吉の体を治した後、どう行動するか予想はついていた。だから、この日の為に完璧に傀儡を調整した。元々、傀儡自体は自作していたが、ここまで巨大で精度の高いものを作ったのは初めてだった。

 

 名前は装甲傀儡(そうこうくぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号(メカまるしさくぜろごう)だ。メカ丸を巨大化させたこの機体はとてつもない可能性を秘めていた。

 

 幸吉は真人を巻いて、倉庫に隠してあった装甲傀儡究極メカ丸試作0号に乗りこむ。高なる鼓動を噛み締めるように、大きく深呼吸をして”起動”と書かれたボタンを押す。

 

 地響きをあげて、装甲傀儡究極メカ丸試作0号は立ち上がる。

 

「よし、問題なく動く。」

 

 ディスプレイが外の世界を映し出す。蟻のように小さな真人が目に入る。幸吉は試作0号機を作り始めた時のことを思い出した。

 

 

 試作0号機というのは0がかっこいいとか、某アニメに触発されたからみたいなくだらない理由ではなかった。この機体は本当に試作段階の0号機なのだ。

 

 そもそも試運転さえできていなかった。なぜなら、このサイズの傀儡を動かしたらバレてしまうし、そもそも呪力は節約しなければならなかった。勝率を少しでも上げる為に、切り札である”17年分の呪力”を少しも使いたくはなかった。

 

 だから乗るまで本当に動くかとても不安だった。

 

 幸吉は普段こんな土壇場の賭けを好まない。だが、そんな幸吉を変えるきっかけとなったのは東京校の生意気なパンダとの出会いだった。

 

 あの人懐っこいパンダが幸吉に目標を与えたのだ。

 

 それまでの幸吉には生きる希望がなかった。天与呪縛(フィジカルギフテッド)で多大なる恩恵(呪力)を受けとっていたが、常に全身の毛穴から針を刺されたように痛むという代償を払っていた。

 

 もちろん、天与呪縛のおかげで術師として呪霊を払えば、生きながらえることはできた。だが、何をどう頑張ろうと全身の痛みからは解放されないし、そんな状況で楽しみなんてものはなかった。何の為に生きているのか、分からなかった。

 

 そんな折、東京姉妹校との交流戦でパンダなのにゴリラに変身する変なやつと戦うことになった。

 

 初めは何も知らないくせに呪骸扱いされてムカついた。でも、戦っているうちにいい奴だってことが分かってきた。

 

 そんなパンダは幸吉に問いた。

 

「なんで呪術師やってんだ?」

 

 考えたこともなかった。ただ、生きる為にそれしかなかった。

 

 そして、パンダは続けた。

 

「何か叶えたいことがあるなら、俺はオマエを手伝うぜ。」

 

 ただ漠然と苦しみに耐えることが人生だった。前向きなことなんて考えたことがなかった。でも、その言葉を聞いた瞬間に、待ち構えていたかのように、叶えたいことが思い浮かんだ。

 

 みんなに会いたい。

 

 そして……願わくは……

 

 真人(まひと)と高専のスパイとなる縛りを結んだ時から、真人の思惑は見え透いていた。幸吉の体を治し、縛りが縛りがなくなったら、幸吉を殺そうとすることを。

 

 姉妹校交流試合の後は休む暇もなかった。今まで己を縛っていた17年5ヶ月6日分の呪いと4本の簡易領域を携えて、戦いに挑んだ。

 

 

 真人との戦いは想定通りに進んでいた。

 

 幸吉はテンポよく攻撃を与えることができていた。鳥のような羽を生やした真人を地面に叩きつけて、動けなくなった所に対真人用の簡易領域をぶちこんだ。普通の打撃では真人にダメージを与えられないが、その簡易領域なら攻撃を与えられた。

 

 だが、幸吉にピンチが訪れる。

 

 幸吉の猛攻撃を喰らい追い詰められた真人は自身の奥義である領域展開"自閉円頓裹(じへいえんどんか)”を発動する。

 

自閉円頓裹はその領域内にいるものの魂の形を変えるというものだ。

 

 即死の領域展開である。絶望的な状況だ。

 

「俺が呪力をケチって領域まで使わないと思ったか?」

 

 領域内で真人は勝ち誇っている。

 

 だが、この状況を幸吉が虎視眈々と狙っていたものだった。真人の安堵、余裕、油断に目をつけていたのだ。

 

 実はこの時幸吉はシン・陰流簡易領域を使っていた。領域展開を中和する術式だ。平安時代、蘆屋定綱が考案した凶悪巧者な呪詛師や呪霊から身を守る技である。シン・陰流簡易領域は故意に門外へ伝えられることは縛りで禁じられていた。しかし、幸吉は三輪がシン・陰流簡易領域を使う所を何度も見ていた為、使用することができた。

 

 幸吉は気配を殺して、勝ち誇りベラベラと話す真人の背後に回る。領域展開を張れると術師は必ず安堵する。きっと、普段の真人なら背後を取られたらすぐに気づいただろう。だが、必勝の領域展開内なので油断が生まれていた。それは幸吉が狙っていたタイミングだった。

 

 極度の緊張と戦いの高揚感に胸を高鳴らせる幸吉は真人の背中に簡易領域をぶちこんだ。

 

 その瞬間、真人の体は破裂するように膨らみ、爆発し、領域から解放される。

 

 幸吉は勝ちを確信し、思わず笑みが溢れた。目標がなかった幸吉は初めて何かを一生懸命に頑張り、それが結果となった。報われるという感情知った瞬間だった。

 

 次の敵である夏油のことを考えた。九年分の呪力と対真人用の簡易領域が1本余っていた。これだけあれば、夏油を追い込むことができる。胸の高鳴りが止まらなかった。

 

 みんなに会える....!!

 

 そう思うと、ニヤケが収まらなかった。想像する。任務の帰り道に京都校のみんなでマクドナルドに行く光景を。休日にみんなで映画を観に行く光景を。公園で日が暮れるまで意味もなく駄弁り続ける光景を。

 

 もう少しで手に入る。

 

 だが、”装甲傀儡究極メカ丸試作0号”のディスプレイに急にヒビが入る。

 

「な、なんだ。」

 

 そのヒビは広がり、大きな穴が開く。そこから真人が飛び出してきた。

 

 真人は生きていたのだ。

 

 幸吉は息を呑む。

 

 真人が領域展開を張って油断していたように、領域から解放された幸吉も油断していたのだ。

 

 幸吉は底が抜けたような衝撃を覚えつつも、なんとか意識を保つ。頭をフル回転させて勝ち筋を模索する。

 

 まだ簡易領域は1本残っている。これを直接、真人に刺せば勝てる....

 

 簡易領域を力強く、握りしめて真人に向かおうとする。

 

 幸吉はその瞬間、走馬灯をみた。

 

「今度お見舞いに行っていい?」

 

 三輪との会話だ。三輪はとてもいい奴だ。マキとか西宮みたいに当たりが強くなく、誰にでも優しい。

 

 交流試合の時、楽巌寺に虎杖の暗殺を頼まれた時も反対していた。自分の利益とかを顧みず、悪いことは悪いといえるんだと感心した。

 

 そして、メカ丸に対して人として接してくれる。ただの人形としてではなく。

 

 これがどんなに嬉しかったことか。他の奴らはどこかただのロボットとして接されていた気がし、天与呪縛のせいで親からもまともに相手されないなかった。

 

 三輪は幸吉を初めて対等に扱った人間だった。

 

 だから、幸吉は思ってしまった。

 

 生きて、三輪に会いたい、と。

 

 真人の拳が幸吉に命中する瞬間、”装甲傀儡究極メカ丸試作0号”の機内は真っ白な煙で満たされた。

 

 真人は煙を気にせずに襲いかかる。しかし、その拳は空振りとなる。真人は勢い余って、幸吉が居るはず(・・)のシートにぶつかる。

 

 真人は不思議な気怠さのようなものを感じる。

 

「なんだ....?力が出ねぇ。」

 

 真っ白な霧が段々と薄くなり、真人は状況を掴む。

 

「は?」

 

 真人の悪態が誰もいない”装甲傀儡究極メカ丸試作0号”の機内に響く。幸吉の姿がどこにも見当たらなかった。

 

 夏油が様子を見にやってきた。

 

「逃げられたのかい。」

 

「力が出ない。どうしてだ。」

 

「この変な煙のせいだろう。少し、機内を調べよう。あの特級クラスの呪力量の秘密も気になるし。」

 

「勝手にしろ。」

 

「嘱託式の”帷”の調整も終えて、気分がいいんだ。」

 

 

 幸吉は煙の発動と同時に緊急脱出ハッチを開けて、逃げ出していたのだった。機体の股にある梯子を使わずに、幸吉は外へ飛び出る。

 

 真人達に見つからないように、幸吉は森へ走った。

 

 今まで体を動かしたことがなかった幸吉は何度も転ろんだ。だが、何度転んでも立ち上がった。天与呪縛で日々感じていた痛みはこんな生ぬるいものではなかった。

 

 彼にとって転ぶはかすり傷なのだった。

 

 だけど、胸の奥では感じたことのない痛みも同時に抱えていた。

 

 この時、メカ丸は幸吉として生まれ変わった。

 

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