メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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メカ丸が真人との戦いで逃げ出したら、渋谷事変はどうなってしまっていたのか。
虎杖に五条が死んだことが伝わらない。京都校の生徒が予定よりも早く渋谷に着いてしまう。
様々なことが想定できる。

そして、逃げ出したメカ丸こと与幸吉はそんな渋谷事変を観て何を思うのだろうか。


十.渋谷にて②

気がつくと、目の前の景色がガラリと変わっていた。東京メトロ渋谷駅・地下5階の副都心線のホームだった。

 

ダルそうに携帯をイジるナース服を着た女性や必死にナンパするドラキュラの姿の男性etc...。駅のホームでさえも仮装をした若者達でごった返していた。

 

幸吉はハッとする。この場所は....

 

呪術総監部の渋谷事変レポートを盗み見た時のことを思い出す。あの頃はみんなはどうしているのだろうかと心配で必死に読みまくっていた。そのおかげでここがどこか分かる。何があった場所か分かる。

 

幸吉の手は震える。渋谷の呪霊・道玄(どうげん)の領域が何を見せたいのか、気が付き始めていた。

 

地下鉄の線路の方に目をやると、漏瑚(じょうご)花御(はなみ)脹相(ちょうそう)がいた。漏瑚(じょうご)花御(はなみ)は仲が良さそうで、脹相(ちょうそう)だけが浮いている印象を受ける。ホームにいる若者達には呪霊は見えない。

 

副都心線のホームは吹き抜けになっているのだが、その吹き抜けから呪術界最強の男・五条悟がスーッと降りてくる。

 

やっぱりだ。嫌な予感が当たる。幸吉は唇を噛む。

 

五条は線路に降り立ち、挑発するように漏瑚(じょうご)に言葉を投げる。漏瑚(じょうご)が言い返す。花御(はなみ)が吹き抜けの天井を植物で塞いだ。五条は逃げ道を失った。ホームと線路を仕切るホームドアが何故か開き、ホームにいた若者達は五条達がいる線路の方へ流れ落ちる。

 

それが戦いの始まりの合図だった。

 

呪霊達は無差別に若者達を殺し、隙をみては五条に攻撃を加える。漏瑚(じょうご)花御(はなみ)の華麗なコンビネーションとそれをサポートする脹相(ちょうそう)赤血操術(せっけつそうじゅつ)が五条に襲いかかる。

 

呪霊達は五条の無下限呪術(むかげんじゅじゅつ)について夏油から聞かされていた。五条の周りには無限があり、決して触れることはできない。だから、呪霊達は領域展延(りょういきてんえん)で、術式を中和し、無下限呪術を攻略した。

 

それだけではない。ホームと線路に溢れる非術師達。五条は非術師に危害を加えぬように戦わなければならない。つまり、領域展開を含む派手な術を使うことができないのである。五条の戦闘スタイルは周りを巻き込む性質のものが多い。そのため、基本的な呪術操作と体術のみで戦わなければならなかった。

 

呪霊全盛の時代を再び手に入れるため戦いであるのにも関わらず、呪霊達の作戦は非常に知的で、皮肉にも人間味を帯びていたと言えるだろう。

 

現代最強の術師・五条悟はそんな作戦に屈する男ではなかった。

 

生得術式(花御(はなみ)における木を操る能力)と領域展延(領域を中和すること)を同時に使えないことに五条は気づく。意図して無下限呪術を使わない戦闘に切り替えた。

 

その様子をみた花御(はなみ)は領域展延を解除し、生得術式を使う。地面や壁、あらゆる所から蔦を出し五条を掴もうとする。

 

その刹那、五条は花御(はなみ)の目から生えていた角を引き抜く。

 

このタイミングを待っていたのだ。五条は花御(はなみ)の身体を守る領域展延を解除するタイミングを待っていたのだ。さすがは現代最強の術師である。戦いの中で洞察力、その情報を処理する考察力、それを実行できる術師としてのパワーが並外れている。

 

花御(はなみ)!!」漏瑚(じょうご)は叫ぶ。

 

目から生えた角は尾を引いて、糸のように伸びる。テレパシーで会話をする花御(はなみ)の悲鳴が漏瑚(じょうご)の脳に直接響く。漏瑚(じょうご)はそろそろ、奥の手を使うしかないと判断した。

 

漏瑚(じょうご)は筒を取り出し、呪力を込めて放り投げた。すると、筒からプシューっと煙が出てきた。無味無臭の煙はじわじわと広がっていき、副都心線のホームを埋め尽くした。

 

ーーー「やっぱり....」幸吉の足が震える。手で抑えても止まらない。

 

煙は濃くなり、深い霧のように視界を悪くする。煙が充満して一般人は更にパニックになる。しかし、それでも戦いは続く。呪霊達は非術師を殺しながら、隙をみて五条に攻撃を仕掛ける。

 

留まることを知らない漏瑚(じょうご)達の攻撃を軽くあしらっていたはずの五条だったが、明らかに動きが悪くなっていた。

 

視界の悪い煙の中でも、六眼を使って敵の位置を正確に把握している。だが、体が思うように動かないという印象だった。時間が経つほど、呪霊達の拳が五条へ当たるようになってきた。煙の効果だろう。

 

ーーー「幸吉、みちゃいけない。渋谷の呪霊・道玄(どうげん)の思うツボよ。」西宮もこの煙が何を意味するのか気がつく。

 

煙の正体は”北斗七星の紫煙(セブンスター)”だった。幸吉が開発したもので、真人から逃げだすために用いたものだ。

 

北斗七星の紫煙(セブンスター)”の中には耐呪の効果が付与されていた。具体的な効果は以下の二つだ。

 

①対呪効果により、呪いそのものである呪霊は動きが鈍くなる。

②対呪効果により、呪術師は煙の中で呪力を練ることができない。

 

北斗七星の紫煙(セブンスター)”は勝てない呪霊に相対した時、術師が逃げるという発想のもの開発されたものだ。①の効果が強力であるため、②のデメリットを補うことができるのだ。

 

製作者の幸吉は死線に身を置く京都校の仲間の生存率を上げる為に開発した。誰でも使えるように嘱託式にして、緊急脱出装置のような役割だった。西宮達、京都校のメンツはプロトタイプを使ったことがあった。とても便利なものだった。

 

ーーー「でも、どうして奴らが....」西宮の感情のない声で呟く。「奪われたんだ....俺が逃げ出したから。」

 

真人と戦う為に開発した装甲傀儡究極メカ丸試作0号には念の為実用段階の”北斗七星の紫煙(セブンスター)”を搭載していたのだ。だが、幸吉は”生きたい”の一心で装甲傀儡究極メカ丸試作0号を乗り捨てた。それを真人達が回収したのだろう。

 

北斗七星の紫煙(セブンスター)”の当初の設計思想としては逃げる為の道具であった。

 

だが、目の前では戦いの為の道具、即ち兵器と化している。人間はサルとの生存競争において、”道具”を使うことで決定的な差を生み出した。

 

その道具は全て諸刃の剣である。優れてものであるほど、使い方を誤れば取り返しのつかないことになってしまう。

 

人間的な思考で作戦を組み立てた呪霊は賢明だった。道具の裏の面を使い、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

呪霊達が”北斗七星の紫煙(セブンスター)”の煙に包まれるということは人間にとってサウナの中にいるような感じである。あるいは数倍の重力下に置かれるような倦怠感である。数分なら我慢できなくはないが、快適に過ごすことはできない。想像してみてほしい。サウナの中で筋トレができるだろうか。

 

しかし、現に漏瑚(じょうご)花御(はなみ)は煙の中で五条と戦っている。それは何故か。

 

漏瑚(じょうご)達をよく見ると、呪いの膜が見える。何かしらの方法で呪いを身体の周りに固定したのだろう。呪いで作った防護服を身に着けていたのだ。煙はまずその膜を侵食していく。恐らく、この膜を作り上げるのにも相当な時間が掛かっているのだろう。それが分かるほど精巧な作りだった。

 

反対に、五条悟はどうだろうか。相手の攻撃は予想できているようだ。体質としての六眼は耐呪の効果を受けないからだろう。しかし、無下限呪術と基本的な呪術操作による身体強化が行えていない。それが何を意味するかのか。呪力を練れない五条悟はその時点でただの非術師と変わらないのだ。

 

漏瑚(じょうご)達は対策した上で、誰もが不利な状況にして、一方的に不利を五条に押し付けたのだ。

 

ーーー

 

幸吉は自分が開発した道具が兵器として利用される現実を目の当たりにして、呪霊の底知れない悪意に鳥肌が立つ。

 

「メカ丸、絶対にお前は悪くない。あれはあたし達を守る為に作ったものだろう。奴らの使い方が悪いんだ。」

 

西宮は慰めの言葉を何度も繰り返すが、幸吉は思う。本来の意図とはなんだ。そんなの関係ない。俺が作った物が悪意を振り撒いている。それは許されることではない。

 

「五条悟が封印されたのは俺のせいだ。俺が渋谷をめちゃくちゃにしたんだ。」

 

怒鳴り散らす。その瞬間、幸吉は背中を切り裂さかれた。服は破け、真っ赤な血が辺りに飛び散る。だが、辺りには誰もいなかった。一体どうやって?

 

背中にできた傷は大きなバツ印だった。幸吉の罪を断罪するような象徴的な傷だった。

 

あまりの痛さに幸吉は倒れ込み、西宮は支えるように駆け寄った。

 

取り乱した幸吉の姿を見て、西宮は少しだけ冷静になった。すっかり忘れていたが、ここは渋谷の呪霊の領域の中だ。切り裂き攻撃は必中効果なのか。だけど、何故このタイミングで....トリガーは?

 

ーーー

 

その後の展開はドミノのように崩れていく。

 

漏瑚(じょうご)が合図を送ると、花御(はなみ)が封じられた地下5階吹き抜けを開けた。”北斗七星の紫煙(セブンスター)”の煙は開いた天井に吸い込まれていく。五条はこの状況では不利であると判断し、開いた天井へ誘われる。

 

五条が水中から顔を出すように天井から上の階へ上がると、上で待ち構えていた獄門疆(ごくもんきょう)を持った夏油傑だった。

 

それは罠だったのだ。普段の冷静な五条なら絶対にこの程度の罠は看破していただろう。ここまで追い詰めた時点で漏瑚(じょうご)達はなかなかのものだ。そして...

 

「開門!!」

 

不意を突かれた五条は獄門疆(ごくもんきょう)に封印される。

 

幸吉の視界は再びグルグル回り始める。

 

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