メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜 作:ポケットの中の四次元
メカ丸こと与幸吉は敵の領域展開に飲み込まれ、メカ丸が逃げ出した世界線の渋谷事変を目撃することとなる。
その世界線の渋谷事変では五条悟は花御を倒すことなく封印された。
さらに、本来起こるはずのなかった出来事が次々に勃発していた。
そして、変わってしまった渋谷事変で幸吉が観たものとは。
五条悟の封印を目撃した後、あの10月31日に渋谷で起こった様々な出来事を順繰りに見せられた。顔を覆いたくなるような場面に何度も遭遇したが、領域の力で阻止される。強制的に仲間達が死んでいく場面を何度も見せられた。”時計じかけのオレンジ”のルドヴィコ療法のようにそれらのシーンは脳へ刻まれていく。
蛸のような特級呪霊・
それらの場面を強制的に見せられる中、領域の攻撃?がことあるごとに、幸吉と西宮を襲う。背けることのできないポルノ映像により二人は体力的にも、精神的にも限界が近づてきていた。
場面は何度も入れ替わってゆくのだが、彼らはとうとうあのシーンを目にすることとなってしまった。
漏瑚の放った火の手から逃げ惑う人々の場面を目にした後、二人は再び視界を奪われた。
闇になることによって、直前までの光景について考えてしまう。逃げ惑う人の叫び声が否が応でも脳でリピートされる。芋虫を潰したような時間だった。
悪夢のような闇から視界がジワジワと回復していく。周囲の明るさに目が徐々に慣れていく。ボヤけた視界がようやく一つの像を捉えると、そこに一人の女性が立っていた。
「三輪....」
幸吉は呟いた。
その声は擦れていた。領域の攻撃で体中が傷だらけの幸吉は目の前に現れた女性に釘付けになっていた。ずっと会いたいと願っていた人物である。水色の前髪はキレイに斜めに揃って、いつものように真っ黒なスーツを着ていた。
だが、残念なことに目の前に現れた”三輪”は渋谷の呪霊・
*
三輪の周りには京都校のメンバーがいた。京都校の面々は緊急要請を受けて、渋谷に来ているのだろう。
メンバーは東堂、禅院真依、三輪、新田だ。
「こんな時に、加茂と西宮は何をしている。」
真依が言う。
「加茂さん達は九州の方へ任務に行っていて、遅れてくるそうですよ。」
三輪が答えた。彼らは代官山から渋谷へ向かっていた。渋谷中心部への電車は当然のように止まっていたし、車で行こうにも補助監督員は渋谷に付きっきりだった。彼らは仕方なく周囲の駅から歩くこととなった。
その日の代官山はいつもより騒がしかった。渋谷での異変を嗅ぎつけて早々に避難を開始する者。渋谷を囲む謎の黒い球体をただ茫然と見つめる者。普段と変わらず仲間と遊び呆ける者。様々だった。
そういった人々を横目で見ながら彼らは渋谷へ向かってゆく。
「やっぱり東京は騒がしいですね。」
三輪は目を輝かせながら言う。
「渋谷でテロが起こっているからだろ。うわ、見てみろよ。あの帷。東京校との交流試合で見たものの何倍ものデカさだぜ。ここからでもはっきり見える。」
渋谷に何重もの帷が降ろされていて、尋常ではないほどの被害が出ている。と、補助監督員より連絡を受けていた。だが、それ以降、帷の中の情報が入ってきていなかった。口には出さないが、不安という害虫が京都校のメンバーの心を蝕み始めていた。
帷の中で一体何が起こっているのか。あの五条悟が来ているはずなのに、まだ解決されていないというのはどういうことなのか。彼らの心境はおおよそこういった感じだろう。
「ブラザー、待ってろよ。あいつに限っては大丈夫だろうがな。」
東堂は独り言を言った。姉妹校交流試合で東京校と京都校は仲を深めあった。特級呪霊・花御が暴れ出した際に共闘したこともあり、東堂達は東京呪術高専生の安否を心配していた。
「忠犬ハチ公、楽しみですね。」
しんみりとした空気を壊すように、いや、意図的に壊すためにか、ミーハーの三輪はどこか観光気分で場を和ませる。
「中で呪霊が暴れてんだぞ。そんな暇あるはずねえだろ。」
「ええ、一回くらい観てみたいじゃないですか。」
真依がツッコミを入り、緊張していた空気感は緩み、笑いが漏れる。
ーーーああ、間違いなく彼女は三輪だ。いつもこうして和ませてくれたな。独特の空気感がある。幸吉は三輪と過ごしたかけがえのない時間を回顧する。
小一時間、渋谷に向かって歩き続けた一行は、ついに帷の端まで来ていた。
「う〜む。立派な帷だ。」
帷の周りには人集りができていた。帷のような非科学的なモノが急に街中に現れたら、興味を持ってしまうのが、人間の性だろう。その人集りを掻き分けて、京都校のメンバーで唯一の一級術師である東堂はズカズカと帷の淵へ向かっていく。
「みんな、聞いてくれ。正直なところ、中がどんな状況か、俺には分からない。呪霊がウヨウヨいるかもしれないし、何も起こってませんでした〜!というオチもあるかもしれない。だが、これだけは言える。何かあったら俺の”
なんだかんだ東堂はこういう時には頼りになる。みんながそう思っていた。
東堂はしっかりとした足取りで帷の中へ入っていく。それに続いて、真依、三輪、新田の順で後に続く。
帷に入ってすぐ、彼らの目に飛び込んできたのは真っ白な煙だった。身体中から呪力が抜けていく感覚があった。だが、この感覚には既視感があった。
「くそ、メカ丸の奴、やっぱり黒だったのか。」
真依が短く悪態を突いた。そして、傍に設置されていたコカコーラの自販機を蹴り飛ばす。ジュースがガシャンっと数本でてきた。
「落ち着け、真依。」
東堂は事態の異様さに気づき、やけに冷静だった。
「くそ。これじゃ、上手く呪力が練れない。気怠い感じも腹が立つ。」
「だが、今の”
”
その時、炎の柱が立った。十数メートルくらいまで燃え上がり、程なくして消えた。
彼らが振り返った時にはもう遅かった。真依が燃えていた。灰になっていた。
骨が残るような生優しい炎ではない。高火力で一瞬だった。炭となり、空へ舞っていった。
弔う暇なんてものはなかった。
「真依!?」
東堂達は敵の存在に気づき、戦闘体勢をとり、周囲を見渡す。
煙の中から一つ目の特級呪霊・漏瑚が歩いてきた。ニヤニヤしながら手を握ったり開いたりしていた。
漏瑚の装いは明らかに変貌を遂げていた。猫背だった体はさらに前へ崩れてきていて、全身から負のオーラが溢れ出している。目つきは鋭く、目を合わせることすらも躊躇してしまう。
そこにあったのは自然の恐怖そのものだった。人は圧倒的なものを目にした時、恐怖を覚える。火山という自然の恐怖。北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピンプレート、四つのプレートに囲まれた地、そこに住む日本人には火山へ対する恐怖が遺伝子レベルから刻み込まれていた。
「ヒヒヒヒ...俺は呪霊としての生まれ変わったのだ。」
地響きにも似た不気味な声が空気を震わせる。頭に乗っている火山はマグマがグツグツと煮立っている。いかにも噴火寸前の雰囲気である。
「新田は距離を取れ、奴との戦いでは必ず負傷が出るだろう。お前を亡くす訳にはいかない。そして、三輪!悪いが俺と付き合ってくれ。」
東堂は咄嗟に指示を出す。東堂自身もこの選択が正しいのか分からなかった。今の漏瑚を仕留めることができるのか判断がつかなかった。ただ確実に分かることは、今ここで逃げたら、全員殺されるということだった。
「”
地面の奥深くが光り出す。何かが地面から近づいてくるのを感じる。すると、グツグツとした地球の
東堂と三輪は即死を免れるために走り出す。敵に向かう方向を悟らせないために、二人はわざとジグザグと走る。漏瑚の
東堂は走りながら、様子を見て数個の石を拾い、漏瑚に投げつけた。
漏瑚は蝿を叩くようにその石を叩き落とした。だが、東堂は継続して石を投げ続けた。
「お前らそれでも人間か。下等な攻撃だな。猿のようだ。」
そして、漏瑚のその煽りに答えるように、東堂は手を叩いた。放たれた数個の石の内、一つが三輪と入れ替わる。東堂の術式『
石と場所を入れ替えられた三輪は大きく両足を開いて、刀を構えていた。
「”シン・
三輪は切りかかる。基礎に忠実な上段から振り切りだ。シン・
シン・
その時、漏瑚の腕は輝いていた。ダイヤモンドだ。
ダイヤモンドは地下数百メートルのマントルの中で炭素が高音・高圧の中で化学変化を繰り返すことで生成されるのである。大地の呪霊である漏瑚は瞬間的にこの作業を行うことにより、自身の腕を地球で最も固いとされる物質のダイヤモンドに作り変えたのだ。
パン。
漏瑚が反撃のモーションに移る前に、東堂は三輪と自身の位置を入れ替える。
入れ替えると同時に、黒い稲光を伴ったパンチが漏瑚の腹に炸裂する。
「すまなかった。ブラザー。」と呟いていた。現在の渋谷の状況を見て、”今”の漏瑚の呪霊としての力を見て、はたまた、兄弟としての固く結ばれた絆故、虎杖がもうこの世にいないことを悟っていた。
東堂は妄想に浸っていた。漏瑚と戦いながら虎杖を弔おうとしていた。存在しないはずの”あの記憶”が東堂の頭の中で再生される。東堂にとって
俺が高田ちゃんに振られた日だった。成功はずもねえのに勢いに乗って言ってしまったんだったよな。だけど、何故か成功するような気がしたんだよな。あの日、虎杖が奢ってくれたラーメンの味は忘れられねえな。涙が混じって、しょっぱかったんだよな。
漏瑚は東堂の次の拳に合わせてダイヤモンドを生成し、拳を相殺した。そして、東堂に反撃するため、漏瑚の拳の周りに呪力が集まる。その拳はもちろんダイヤモンドで、炎を纏っていた。
拳は東堂の顔面があった場所にヒットした。だが、そこにあったのは小石で、拳に触れた瞬時に融解し、マグマとなり飛び散った。
「この霧の中でなかなかやるではないか。ヒヤリとしたぜ。」
漏瑚の頭の火山は真っ赤に燃え上がり噴火寸前だった。
漏瑚はポケットからボトルを取り出して、ごくごくと飲み始めた。
ーーー
「あ、あれは...」
幸吉の息が掠れた声帯を必死に震わせる。
漏瑚が飲んだものが何なのか、幸吉はで気がついてしまっていた。