メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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メカ丸が真人との戦いで逃げ出したら、渋谷事変はどうなってしまっていたのか?

メカ丸こと与幸吉は敵の領域展開に飲み込まれた。敵の領域展開はメカ丸が逃げ出した世界線の渋谷事変を強制的に見せるものであった。

その世界線の渋谷事変では五条悟は花御を倒すことなく封印された。

さらに、本来起こるはずのなかった出来事が次々に勃発していた。

メカ丸の初恋の人・三輪霞が漏瑚と戦う...

そして、変わってしまった渋谷事変で幸吉が観たものとは。


十二.渋谷にて④

漏瑚(じょうご)がグビッと飲み干したボトルを見て、幸吉はすぐに気が付いた。ボトルから溢れるオーラは幸吉のものだった。幸吉が天与呪縛で縛られていた分の呪力だった。生まれてからずっと幸吉が受けてきた辛さの結晶だった。

 

その呪力は装甲傀儡(そうこうくぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号(メカまるしさく0ごう)に搭載させていたものだ。装甲傀儡(そうこうくぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号(メカまるしさく0ごう)という巨大な機体は並の呪力では到底動かすことのできない代物だったのだ。幸吉はどこからそんな呪力を捻出していたかというと、その呪いだった。

 

それは全部で"17年分の呪い"だった。幸吉が生まれて以来、天与呪縛によって苦しめられた呪いそのものだった。

 

17年の苦しみと引き換えにあの巨大傀儡を動かしていたのだ。

 

そして、漏瑚(じょうご)が飲み干したボトルに入った呪力は幸吉が装甲傀儡(そうこうくぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号(メカまるしさく0ごう)に残してきたものだろう。8年分くらいを使って逃げ出したため、漏瑚(じょうご)が持っているボトルに入っているのは9年分だろうか。

 

その呪力は天与呪縛が無くなった幸吉を特級レベルまで引き上げ、真人とほぼ互角に戦うできるほどのものだ。それを一気に飲み干した漏瑚(じょうご)の恐ろしさが手に取るように分かる。自分自身がその力を使っていたのだから。

 

それと同時に、初恋の人・三輪の最後も容易に想像ができてしまう。

 

幸吉は逃げ出したかった。そんな映像を観たくなかった。逃げる場所がない。ここは領域展開の中なのだ。たとえ、領域の外であったとしても、身体中の傷だらけで動けなかっただろう。

 

ーーー

 

漏瑚(じょうご)は幸吉の残した"17年分の呪い"の余りの入ったボトルを飲み干した。一時的ではあるが、幸吉が特級術師クラスの呪力を手にした呪いだ。それを特級呪霊が飲むとどうなってしまうのだろうか。

 

漏瑚(じょうご)の頭の火山はついに真っ赤に燃え上がり、大量の煙を撒き散らし始めた。噴火が始まると、辺りに真っ赤な岩石を撒き散らした。蒸気が周囲に放出される。一つ目は真っ赤に充血していて、ガンギマリしていた。

 

極ノ番(ごくのばん)(いん)』」

 

空高くに流れ星が見える。だんだんと輪郭がはっきりしてくる。大気との摩擦で橙色の尾を引いている。とても幻想的だ。余裕さえあれば何かを願ってしまうような流れ星だ。

 

だが、ここは戦場である。そして、それは隕石だ。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴと、空が震える。熱気が空から押し寄せてくる。絶滅した恐竜たちの恐怖を身を持って感じる。

 

「これはまずい。」

 

東堂と三輪は攻撃の手を緩め、隕石の落下予想地点から距離をとる。

 

空を見上げると、隕石が近づいてきて分かる。空にいた時は直径1mm程度でしかなかった石ころは直径10m程の巨大な隕石となって、地面に接近してくる。どれだけ離れれば安全かなんて分からない。

 

今はただ走るのみだ。

 

漏瑚(じょうご)は逃げる二人を弄ぶように追いかける。

 

東堂は手を叩きながら、前にある瓦礫やゴミと位置を交換して、素早く移動する。

 

パン。パン。二人の息はピッタリだ。京都での東堂と虎杖を彷彿とさせる噛み合い具合だ。

 

必死に逃げる二人を見て、漏瑚(じょうご)は笑み浮かべる。漏瑚(じょうご)は実感していた。呪霊としての本能が笑顔を作り出していることを。

 

暴れ回ることがこんなにも楽しいことだったなんて。人間共が怯える顔を見るのがこんなにも心を満たしてくれるなんて。漏瑚(じょうご)は呪いとはなんたるか、呪霊の本能を思い出した。

 

夏油と手を組んで姑息な小細工に躍起になっていた自分を恥じた。漏瑚(じょうご)は生まれ変わったような気分であった。

 

パンッ。

 

それは一瞬の出来事だった。

 

東堂の”不義遊戯(ブギウギ)”と同時に、漏瑚(じょうご)の前に鮮やかな水色の髪が現れる。その長い髪はだらっと下に垂れている。そして、両足を大きく広げて、刀を握っていた。

 

漏瑚(じょうご)は不意をつかれて、固まっていた。だが、漏瑚(じょうご)の冴え渡った脳みそだけはフルスピードで思考していた。

 

東堂が”不義遊戯(ブギウギ)”を逃げることだけに使用すると思い込んでいたのだ。パンッという音を連発して、警戒心を解かされいたのだ。

 

「三輪、頼んだぞ!」

 

東堂の声が叫ぶ。

 

切りかかる瞬間、三輪は懐古していた。ミニバスでキャプテンをしていた頃、お母さんが髪を黒く染めてくれていたこと。中学の頃、師範と出会い、刀なんて振ったこともないのに呪術師になることを選んだこと。そして、ひたすらに刀を振っていたこと。お母さんの負担にならない為に、そして、死なない為に。

 

そして、そんな懐古は決意へ変わっていった。

 

この一振りにのせてみせる。

 

今までの全てとこれからの未来を。

 

もう二度と刀を振るえなくてもいい。

 

だから、

 

だから、ありったけを。

 

「シン・陰流”抜刀(ばっとう)”」

 

一直線に伸びる綺麗な太刀筋が伸びていく。

 

この世に直線なるものは絶対に存在しないと言われている。直線はとは概念だからである。どんなに精巧に作られた定規であろうと、分子レベルで見れば必ずズレがある。

 

だが、ここに直線が初めて存在した。太刀筋は精巧に作られた定規よりも、我々が心に思い描く直線よりも、真っ直ぐと切り裂く。これが直線だと言わんばかりに。

 

漏瑚(じょうご)の頭と身体はスパッと分断される。身体はばったりと倒れ、頭部は荒れたアスファルトの上をコロコロと転がていく。

 

「さすがだ。俺の兄弟(シス)だ。」

 

東堂はそう叫んだ。勝利の余韻に浸ることなく、走り続ける。そろそろ隕石の熱気を肌で感じるようになってきていた。

 

しばらく走り続け、帷の淵まできて立ち止まった。急展開すぎて脳がついてきていなかった。呼吸を整えながら、互いを労っていた。

 

が、そんな二人の目の前に、急に一つ目の呪霊が姿を現した。

 

頭の火山からダラダラと溶岩が流れ出していた。頭の上にはきのこ状の噴火雲が立ち込めている。

 

漏瑚(じょうご)はポケットからボトルを取り出し、ゴクゴクと飲み干す。

 

「くぅ〜〜〜!心に沁みる。最高だ。最後に一本、残しておいてよかったぜ。暴れるのも楽しかったが、そろそろ潮時か。」

 

そう言うと、頭の火山が再び噴火した。そして、素早い所作で印を結んだ。

 

「領域展開"蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)"」

 

「三輪!!簡易領域だ!」

 

咄嗟に叫ぶ東堂だったが、彼らにはもう簡易領域を貼るだけの呪力は残されていなかったのか。二人は領域に取り込まれていった。戦場には誰もいなかったのだ。

 

数分後、領域展開の中から漏瑚(じょうご)だけが出てきた。否、彼は灰となっていて、空を舞っているのかもしれない。

 

ーーー

 

「ぎゃあああああ。」

 

スパッ。という見えない斬撃の後、悲鳴が響き渡る。

 

友人達の死を目の当たりにする心の痛みと背中の傷。

 

幸吉は心も体もズタズタであった。渋谷の惨劇を目にし続けた上で、ダメ押しのように親しい友人の死を目の当たりにした。なんとか掴まっていたいた細い小枝を無慈悲に折られてしまった。もう立ち上がりたいとは思えなくなっていた。痛みが回り、だんだんと思考がマイナスへ働いていく。

 

幸吉は廃人のようにボーッと一点を見つめていた。

 

「頑張ったって何もないんだ。嘘つくんじゃねえよ、パンダ。」

 

だが、その隣。傷だらけの西宮の目にはまだ光が残っていた。幸吉と同じように背中が切り裂かれていた。

 

西宮は痛みの中で、絶叫の中である心に気が付き始めていた。渋谷の呪霊・道玄の領域展開のカラクリについて。

 

背中の痛みが脳の活性化させて、ニューロンを情報が駆け巡る。そして、ガチャリと何かが結合した。

 

「精神と肉体...」

 

西宮は呟く。本来ならば分離しているはずの精神と肉体が領域の中では一致する。

 

そして、心の痛みと傷付けられた背中の痛みを感じながら、彼女は決意する。

 

私達が戦っている相手は自分達の過去ではない。今を乗り越える為に敵の呪霊と戦っているのだ。弔うことなんて、後悔することなんて、戦いが終わればいつだってできる。

 

今、戦わないと。

 

あいつらが果敢に立ち向かっていったように。

 

西宮は負傷した身体をゆっくりと起こす。ゆっくりと這って、幸吉に近づく。

 

幸吉は廃人の瞳をしていた。絶望に打ちひしがれている。虚な瞳は常に揺れていて、焦点を掴むことすらできないようだ。もう涙すらも出ていない。人間が泣ける量をとっくに過ぎている。

 

幸吉のところまでくると、西宮は手を大きく振りかぶる。

 

パンッ。

 

「メカ丸、目を覚ましなさい。これは終わったことなの。いつまで、グジグジしているの!」

 

その平手打ちは背中の痛みとは違った種類の痛みを持っていた。心の中にジワジワと沁みてくる痛みだ。痛いのになんだか温かさを感じる。

 

「聞いて、メカ丸。みんなが、東堂くんや霞が戦ったように、私たちは渋谷の呪霊を倒さないといけないのよ。」

 

「でも、俺は。」

 

「何言ってんだ。そんな後悔は今を置いておけ。今を考えろ。今の敵は誰だ。」

 

「でも、でも、三輪が....三輪が....」

 

「一つ言っておくけどな。一ヶ月くらい前、お前が動かなくなってメカ丸裏切り者説が浮上し始めただろ。その時な。三輪だけは「メカ丸はそんなことする人じゃありません。」って、ずっと言い張っていたんだからな。」

 

「三輪が...」

 

幸吉の顔面に感情が戻り始めていた。再び、涙と鼻水がだらだらと噴き出し始める。

 

「そうよ。だからさ。あんたにはすることがあるんじゃないの。」

 

「俺は...そうか...!!」

 

領域展開によって創られた架空の渋谷の空に亀裂が入る。その亀裂は連鎖するように広がっていき、やがて空は亀裂で埋め尽くされる。一つ一つの亀裂の合間から光が漏れ始め、偽りの空は真の空に入れ替わっていく。

 

 

どうして西宮は領域の弱点を看破したのか。

 

キーワードは罪悪感だった。領域展開”今昔渋谷物語(こんじゃくしぶやものがたり)”の切り裂き攻撃の発動条件は自分を責めることであった。自責の念がそのまま具現化される。なんともシンプルな条件だ。

 

西宮にとって、自分の精神状態が大きなヒントとなった。

 

京都校のメンバーが渋谷事変に招集された時、西宮は加茂と出張に出ていて、すぐに応援に駆けつけることができなかった。だから、彼女もまた、東堂や三輪がやってくるシーンを目にして、罪悪感を覚えた。自分を責めた。どうしてあの時、ああしなかったのだろう、と。その瞬間に斬られた。

 

シーンを見る度に切り裂かれていた幸吉を見ていて、切り裂き攻撃は絶望感と連動するのかと予想していたが、そうではなかったようだ。

 

そして、罪悪感を感じたとしても、自らを攻めなけらば、攻撃は発動しない。

 

幸吉は自らの罪を自覚し、それを認め、自分を責めることを辞めた。それは決して並大抵のことではない。罪悪感を乗り越え、未来への糧としたのだ。

 

人はこう決意をすると、もう自分を責めたりはしない。だから、領域は消えていった。

 

精神を揺さぶる渋谷の呪霊・道玄の領域展開”今昔渋谷物語(こんじゃくしぶやものがたり)”に勝利したのは、西宮の心の強さが道玄の想定を遥かに上まわったからなのだ。あの西宮の喝がなければ、どうなっていたのだろうか。

 

 

夕陽が山に沈んでいく。領域展開の中に何時間いたのだろうか。

 

渋谷の呪霊・道玄はニヤニヤしながら、西宮の前に立っていた。その影は夕陽に照らされて、刻一刻と長くなっていく。

 

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