メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

13 / 13
この世界のメカ丸こと与幸吉は真人との戦いの途中で逃げ出してしまう。

逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。

贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向かい、過去の術師であるアインシュタインと共闘し、危機を脱したが、東京の呪術高専で緊急事態が発生していた。

救援のため東京に駆けつけた幸吉は見たことのない特級呪霊・道玄と邂逅することとなる。渋谷の呪霊である道玄の領域展開”今昔渋谷物語”に取り込まれた幸吉は渋谷事変を追体験することとなった。渋谷事変の残忍性により心をすり減らしたが、なんとか領域から脱出した。

そして、領域展開から解放された幸吉は新兵器を携えて、戦場に舞い降りようとしていた。


十三.東京呪術高専にて③

幸吉が気づいた時には、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の操縦席にいた。

 

「幸吉!戻ってこれたんだね。」

 

 sukimaが明るい声で言う。

 

「ごめん。俺、今までどうしてた。」

 

「急に意識が無くなって、電池が切れたみたいに動かなくなったんだ。念の為、東京校に向けて自動操縦してたんだけど、目を覚ましてよかったよ。」

 

「そうか。メカ丸Mark.3が領域展開に取り込まれたせいか。」

 

今まで幸吉は領域展開のような高度な術に触れてこなかった為なのか、この事態を想定できていなかった。メカ丸Mark.3が領域に取り込まれた時、意識を共有している"幸吉"が領域の方へ転送されたのだろう。もちろん、領域展開”今昔渋谷物語(こんじゃくしぶやものがたり)”は精神を司る領域だったため、そういう仕様になっていたのかもしれないが。

 

「幸吉、領域の中で何かあった?心拍数と血圧がかなり上がってるよ。」

 

「その割には落ち着いた顔付きをしておるの。何か変じゃ。」

 

「いや、何もない。気のせいだ。それより、あとどれくらいで東京に着く?」

 

幸吉は話を逸らせるように、sukimaに聞き返した。

 

「そろそろ着くよ!準備しなきゃね。」

 

大阪から東京までは新幹線でも3時間程度かかる。

 

東京呪術高専の危機をsukima の警報で知らされてから全力で向かったとしても、間に合うか怪しかっただろう。

 

特級クラスの呪霊に唯一対抗できる手段である装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号は整備もされていなければ、長距離を素早く移動することには向いていない。

 

そこで思いついたのである。装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号を整備しながら、東京に向かう。移動している装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号の中で素早く東京に向かえるメカ丸Mark.3を遠隔操縦して時間稼ぎをするという作戦だ。

 

その時間稼ぎは終わりを告げようとしていた。そして、整備中の装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号の方はというと。

 

整備を任せていた歴史に名を残した偉人アインことアルベルト・アインシュタインは興奮した声で整備状況を報告する。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号はわしが整備を加えて、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・”Ver.paranoia(パラノイア)”へ進化を遂げたぞ。それじゃ、説明するぞ。まず、呪力回路じゃが、無駄な配線が多かったから新たに繋ぎ直したわい。おそらく、反応速度、つまりお主が呪力をこめて実際に体が動くまでのラグが大幅に改善されたじゃろう。それから、レーザーじゃが、」

 

勢いよく話し続けるアインを幸吉は遮る。

 

「ちょっと待て、アイン。今は時間がない。もう一度聞く。整備状況はどうだ?」

 

アインはニヤリと笑った。

 

「最高の状態だ。」

 

「オーケー。それが聞きたかった。」

 

ハンドシェイクをバッチリ交わす。最後には拳と拳がピッタリと重なった。息はピッタリだ。

 

そして、アインは装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・改のオーバーヒートしないよう冷却装置を切らないようになど注意点を手短に説明した。

 

「わしの仕事はここまでじゃ。達者でな、幸吉。」

 

説明が終わったアインはそう言うと、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・改のハッチがパカッと開いた。風が機内へ勢いよく吹き付ける。

 

アインは助走をつけて、ハッチから飛び出した。地面に向かって真っ逆さまに落ちてゆく。

 

「えっ。そんな……」

 

幸吉はアインと過ごした短いが濃密な時間を思い出す。初めて会った時のこと。電気屋のマッサージチェアで呪霊技術やお互いの過去を語り合ったこと。もっと色々話したかった。役割を果たしたからってそんな。

 

だが、それは幸吉の杞憂だった。

 

次の瞬間、アインの背中から小さな翼が生えて、翼についたターボから炎が吹き出す。

 

アインは空を飛んでいた。それを見て、幸吉は胸を撫で下ろした。

 

「まったく。機械好きはこれだから...」

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)はアインシュタインの天与呪縛によって魔改造され、超高効率で動いていた。後に呪力革命と呼ばるこの技術はわずかこの数十時間で成し遂げられたのだ。

 

ボディはメタリックに輝き、救世主(メシア)を形容しているようにみえた。

 

 

道玄(どうげん)の領域展開”今昔渋谷物語(こんじゃくしぶやものがたり)”から解放された西宮はかつて東京呪術高専だった場所にいた。

 

目の前に道玄(どうげん)。その隣に動かなくなったメカ丸Mark.3が転がっていた。

 

「くそ、メカ丸の奴。正気を取り戻したの思ったのに。」

 

「ふふふ。彼は渋谷の呪いに耐えられなかった。それだけよ。あなたはなかなかにしつこいわね。渋谷に巣食うゴキブリのようね。」

 

「うっせえわ。」

 

道玄(どうげん)は淡々と告げ、両手を大きく広げる。

 

「"立籠混(スクランブル)"」

 

激しい戦いをなんとか生え残った数本の木々が引っこ抜かれる。抜かれた木は浮遊して、スピードを持って道玄(どうげん)の目の前でピタリと静止する。

 

西宮は箒に跨り、浮遊する木々を器用に避ける。だが、領域展開内での疲労も溜まっているようで、ヒヤリとすることが多々あった。

 

集まった木々は道玄(どうげん)の前で圧縮されていく。どこが根でどこが葉だったか、もう分からない。そして、直径1mくらいの塊が出来上がる。

 

「"通勤混(ラッシュ)"」

 

球の塊が通勤電車さながら西宮に発射される。西宮は箒に跨り、加速をつける。寸前のところで木の塊を避ける。

 

しかし、通り過ぎたはずの木の塊は急停止し、方向を変えた。そして、再びこちらに向かってくる。

 

「やめて!!」

 

西宮が諦めかけた時、光の柱が空から降ってきた。木の塊はミルミルと蒸発していく。木っ端みじんだ。

 

西宮は光の源に目を向ける。

 

巨大メカ丸だ!

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の顎から木の塊に向かって一直線に光が伸びている。

 

なんてパワー。あれは本当にメカ丸なの!?

 

西宮を仕留め損ねた道玄(どうげん)装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)へ意識を向ける。装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・改も背中のバーニアを出力全開にして臨戦態勢だ。

 

「なんだ。生きていたのね。」

 

「俺の使命はお前を成仏させることだと気が付いた。」

 

幸吉は恐ろしいほどに、落ち着いた声色で言う。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)は再び”真・大祓砲(シン・ウルトラキャノン)”を撃つために顎の辺りにパワーを充填し始める。

 

道玄(どうげん)装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)に近づいて、チャージを邪魔するために打撃を放つ。

 

ダンッ。ダンッ。ダンッ。

 

道玄(どうげん)の細い腕からは想像できない程の衝撃波が放射状に辺りに広がっていく。

 

だが、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の装甲は硬い。アインが素材の分子間のつながりを呪力の力を用いて、より強固にしたのだろう。しっかりと、論文にまとめてれば新素材として認められるほどのものだろう。

 

道玄(どうげん)は拳が通用しないと判断したのか、巨大傀儡から距離を取り、大きく両手を広げた。

 

「"立籠混(スクランブル)"」

 

道玄(どうげん)が一度目に放った”立籠混(スクランブル)”で周囲の木々は完全に損なわれていた。

 

西宮はもう密集させる素材がないから失敗すると、高を括っていた。だから、その光景を見て驚きを隠すことができなかった。

 

東京呪術高専は山間部に位置していた。人目から隠すために、あえてそういった場所に建設された。高専を囲む山はそれなりの大きさである。それなのに、その山が道玄(どうげん)の呪詞と同時にズルズルと動き始める。

 

「そ、そんな....」

 

人智を超越した術式に西宮は絶句する。

 

山に生い茂る木々、何十年もそこに佇む大岩、そして、大量の土砂が浮遊し始める。それらがスピードを持って、道玄(どうげん)の元へと集まってゆき、球を形成してゆく。

 

細かい土砂や枯れ木が列を行儀よく列を成して、集まってゆく。神が地球を創造したいうのなら、この光景はそれに限りなく近いだろう。木々や土砂が集まってできた球は中心へ、中心へ圧縮していく。密度を段々と増してゆき、球は小さくなってゆく。小さくなったと言っても、半径10mはある巨大な球だった。

 

一方、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)も顎が光り出した。それはエネルギー充填が完了した合図だった。怪獣バトルさながらの大規模バトルは佳境へと入っていく。

 

「”真・大祓砲(シン・ウルトラキャノン)"!!」「"通勤混(ラッシュ)"!!」

 

二つの巨大攻撃は同時に放たれた。渋谷の呪霊・道玄(どうげん)の”通勤混(ラッシュ)”はゆっくりと加速を始める。それを阻止するべく”真・大祓砲(シン・ウルトラキャノン)”が一瞬で土砂を圧縮した球に到達する。

 

二つがぶつかると、シューッという蒸発音が天を震わせる。

 

「いけるわ!一度目と同じように道玄(どうげん)の球は蒸発してしまうわ。あの照射にこの世の物質が耐えられるわけない。貫通して、道玄(どうげん)を撃ち抜いてくれるに決まっているわ。」

 

レーザーと球の衝突で風が荒れる。西宮は巻き添いを喰らわないように暴風の中を箒で全力疾走する。数キロ離れた所で西宮は振り返る。

 

「そんな...」

 

メカ丸のレーザーは半径10m程度の球を貫通できなかった。道玄(どうげん)の作り出した巨大な球は超圧力をかけて、超耐久力を得たのだろう。

 

球はゆっくりと加速をつけて、レーザーを徐々に押し返していく。

 

ゴゴゴゴ....

 

綱引きさながら丁度真ん中で大きな球とレーザーの均衡状態が保たれていた。

 

そんな均衡も長くは続かなかった。レーザーの出力が弱まってきた。多大なエネルギーを要する真・大祓砲(シン・ウルトラキャノン)が長時間射出できるわけがない。

 

道玄(どうげん)の巨大な球は両者の中間点を越えると、指数関数的にスピードが増していく。

 

そして、半径10m程度の球は装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・改に衝突してしまう。咄嗟に、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・改は両手で巨大な球を押し返す。なんとか抑え込もうとしているが、質量で大きく勝る道玄(どうげん)の球には歯が立たない。

 

「やめてーー!!」

 

この規模の戦いに一介の2級術師が影響を与えることなどできない。西宮の叫びは虚しく轟音にかき消される。

 

西宮にとって再び絶望が訪れた。渋谷事変で大切な仲間を失って、禅院直哉や加茂達と呪術界を再建しようとしたが、道玄(どうげん)によって屠られ、そして、また、やっと再開できたメカ丸こと与幸吉を失おうとしている。

 

西宮は必死に叫ぶ。

 

「もう嫌!いなくならないで!」

 

その言葉が通じたのか。次の瞬間、巨大な球にピキッと黒い稲光が光る。

 

黒閃だ。

 

ピキッ。

 

ピキッ。

 

黒閃が連発される。

 

黒閃連続発生記録は七海建人の連続4回だ。その記録に七海は「運が良かっただけですよ。」と言った。決して狙って出せるものではない。だが、記録を大きく上回る数の黒閃が球に何度も命中していく。

 

ピキッ。

 

ピキッ。

 

ピキッ。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)は何度何度も球を殴る。右の拳で殴ると、すぐさま左の拳が出てくる。拳からは黒い稲妻が広がる。

 

何十と拳を重ねると、やっと巨大な球に亀裂が入り始める。そして、その亀裂にさらに拳を重ねていく。亀裂はみるみる内に広がり、球は少しずつ瓦解してゆく。崩れた球の破片はバラバラと地面へ舞い落ちていく。

 

静かに砂煙が上がる。

 

「助かった...の...?」

 

西宮がそう呟いた時、砂煙の中に黒い稲光が光る。

 

それと同時に何かが高速で移動する音が聞こた。次の瞬間、何かが地面に叩きつけられた。衝撃で舞っていた砂埃が煽られて、姿が露わになる。

 

衝撃でできたクレーターの真ん中にいたのは道玄(どうげん)だった。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)はバーニアを全開にして、道玄(どうげん)に追撃する。

 

そして、クレーターの真ん中にいる道玄(どうげん)の真上までくると、拳を振り上げた。

 

ピキッ。

 

再び、黒い稲妻が(ほとばし)る。

 

黒い稲妻が空に描かれる度に、道玄(どうげん)は地面にめりこんでいく。クレーターの半径を増していく。

 

ピキッ。

 

ピキッ。

 

ピキッ。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)は延々と黒閃を放ち続ける。

 

すでに、道玄(どうげん)の体は粉々になっているというのに。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の拳は止まらない。淡々と殴り続ける。

 

その無機質で機械的な拳にはどんな感情が乗っているのだろうか。かつての仲間へのレクイエムなのだろうか。それとも、ただの八つ当たりなのだろうか。

 

西宮の目には、何かに取り憑かれているように映っていた。哀愁を孕んでいるようにみえた。

 

心がどうにかなってしまうんじゃないかと、西宮は思った。

 

大地を、敵を、呪霊を殴る振動が響き渡る。

 

道玄(どうげん)の球にされた山があった場所から夕日が差してくる。

 

見晴らしが良くなった東京呪術高専の跡地には、平らな大地が広がっていて、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の影だけが遠くまで伸びている。

 

大地に男が現れる。薨星宮(こうせいぐう)から天元を背中に背負った羂索(けんじゃく)が出てきた。辺りを見渡していた。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)はそれに気づいた。

 

「あっ。」

 

次の瞬間、羂索(けんじゃく)はレーザー光に包まれた。

 

そして、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)は天に向かって吠える。

 

「うおおおぉぉぉぉぉん。」

 

何かを威嚇するように、悲しみを吐き出すように、装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)の叫びは響いた。

 

 

かつて、東京呪術高専のあった場所は見る影もなく、荒れ果てた大地と化していた。

 

その大地に戦いを終えた装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)が降りてきた。前線にいながらもなんとか生き残った西宮や死滅回遊(しめつかいゆう)への任務に出ていた数人の術師は駆け寄った。

 

装甲(そうこう)傀儡(くぐつ)究極(アルティメット)メカ丸試作0号・Ver.paranoia(パラノイア)のハッチが開き、メカ丸こと与幸吉は梯子を一段一段、丁寧に降りる。

 

拍手が送られる。凄惨な戦いであったため生存者は少なく、拍手はまばらだったが、一つ一つの拍手に命を救われたという感謝の意が込めれられた重い拍手であった。

 

当の本人である幸吉は放心状態だった。疲れているのか。絶望しているのか。判断はつかない。

 

各々が感謝の言葉を幸吉に述べたが、心ここにあらずという感じだった。渋谷事変で仲間を喪失した悲しみは時が癒すだろうと西宮は思う。

 

我々は戦いに勝利したのだ。

 

全ての元凶である羂索(けんじゃく)とその手下である特級呪霊・道玄(どうげん)は撃破したのだ。絶望には変わりはないが、一筋の光が見えてきたと言っても過言ではないだろう。いや、過言であったとしても、明るい未来を想像しなければヒトは生きてはいけない。

 

西宮はふと、取り留めのない一つの疑問を幸吉に投げかける。

 

「どうして黒閃をあんなにも撃つことができたの?」

 

「技術さ。技術はどんな不可能なことだって可能にしてしまうのさ。」

 

幸吉は自省するようにボソリと呟いた。アインシュタインと共同で黒閃の確率を大幅に上げる補助装置を作りあげていたのだった。

 

幸吉はただ、空を眺めていた。

 

夕日は沈み月が上がり始めていた。

 

 

一方、その頃、北方の地・アイヌ呪術連。

 

「青髪の娘が目覚めたぞ。」

 

白衣を着た看護師の男が慌てた様子で廊下へ飛び出す。

 

看護師のいた部屋には一人の女性がいた。

 

包帯で全身がぐるぐるに巻かれていて、包帯の隙間から特徴的な青い髪の毛が飛び出ている。

 

ベットの傍のサイドテーブルにはファイルが置かれていた。

 

=患者情報=

入院日:11月1日

症状:全身火傷

救出場所:東京都渋谷区

氏名:不明

 




次回はここより数年後を描く予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。