メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜 作:ポケットの中の四次元
逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。
贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向かい、過去の術師であるアインシュタインと共闘し、危機を脱したが、東京の呪術高専で緊急事態が発生していた。
救援のため東京に駆けつけた幸吉は見たことのない特級呪霊・道玄と邂逅することとなる。渋谷の呪霊である道玄の領域展開”今昔渋谷物語”に取り込まれた幸吉は渋谷事変を追体験することとなった。渋谷事変の残忍性により心をすり減らしたが、なんとか領域から脱出した。
そして、領域展開から解放された幸吉は新兵器を携えて、戦場に舞い降りようとしていた。
幸吉が気づいた時には、
「幸吉!戻ってこれたんだね。」
sukimaが明るい声で言う。
「ごめん。俺、今までどうしてた。」
「急に意識が無くなって、電池が切れたみたいに動かなくなったんだ。念の為、東京校に向けて自動操縦してたんだけど、目を覚ましてよかったよ。」
「そうか。メカ丸Mark.3が領域展開に取り込まれたせいか。」
今まで幸吉は領域展開のような高度な術に触れてこなかった為なのか、この事態を想定できていなかった。メカ丸Mark.3が領域に取り込まれた時、意識を共有している"幸吉"が領域の方へ転送されたのだろう。もちろん、領域展開”
「幸吉、領域の中で何かあった?心拍数と血圧がかなり上がってるよ。」
「その割には落ち着いた顔付きをしておるの。何か変じゃ。」
「いや、何もない。気のせいだ。それより、あとどれくらいで東京に着く?」
幸吉は話を逸らせるように、sukimaに聞き返した。
「そろそろ着くよ!準備しなきゃね。」
大阪から東京までは新幹線でも3時間程度かかる。
東京呪術高専の危機をsukima の警報で知らされてから全力で向かったとしても、間に合うか怪しかっただろう。
特級クラスの呪霊に唯一対抗できる手段である
そこで思いついたのである。
その時間稼ぎは終わりを告げようとしていた。そして、整備中の
整備を任せていた歴史に名を残した偉人アインことアルベルト・アインシュタインは興奮した声で整備状況を報告する。
「
勢いよく話し続けるアインを幸吉は遮る。
「ちょっと待て、アイン。今は時間がない。もう一度聞く。整備状況はどうだ?」
アインはニヤリと笑った。
「最高の状態だ。」
「オーケー。それが聞きたかった。」
ハンドシェイクをバッチリ交わす。最後には拳と拳がピッタリと重なった。息はピッタリだ。
そして、アインは
「わしの仕事はここまでじゃ。達者でな、幸吉。」
説明が終わったアインはそう言うと、
アインは助走をつけて、ハッチから飛び出した。地面に向かって真っ逆さまに落ちてゆく。
「えっ。そんな……」
幸吉はアインと過ごした短いが濃密な時間を思い出す。初めて会った時のこと。電気屋のマッサージチェアで呪霊技術やお互いの過去を語り合ったこと。もっと色々話したかった。役割を果たしたからってそんな。
だが、それは幸吉の杞憂だった。
次の瞬間、アインの背中から小さな翼が生えて、翼についたターボから炎が吹き出す。
アインは空を飛んでいた。それを見て、幸吉は胸を撫で下ろした。
「まったく。機械好きはこれだから...」
ボディはメタリックに輝き、
*
目の前に
「くそ、メカ丸の奴。正気を取り戻したの思ったのに。」
「ふふふ。彼は渋谷の呪いに耐えられなかった。それだけよ。あなたはなかなかにしつこいわね。渋谷に巣食うゴキブリのようね。」
「うっせえわ。」
「"
激しい戦いをなんとか生え残った数本の木々が引っこ抜かれる。抜かれた木は浮遊して、スピードを持って
西宮は箒に跨り、浮遊する木々を器用に避ける。だが、領域展開内での疲労も溜まっているようで、ヒヤリとすることが多々あった。
集まった木々は
「"
球の塊が通勤電車さながら西宮に発射される。西宮は箒に跨り、加速をつける。寸前のところで木の塊を避ける。
しかし、通り過ぎたはずの木の塊は急停止し、方向を変えた。そして、再びこちらに向かってくる。
「やめて!!」
西宮が諦めかけた時、光の柱が空から降ってきた。木の塊はミルミルと蒸発していく。木っ端みじんだ。
西宮は光の源に目を向ける。
巨大メカ丸だ!
なんてパワー。あれは本当にメカ丸なの!?
西宮を仕留め損ねた
「なんだ。生きていたのね。」
「俺の使命はお前を成仏させることだと気が付いた。」
幸吉は恐ろしいほどに、落ち着いた声色で言う。
ダンッ。ダンッ。ダンッ。
だが、
「"
西宮はもう密集させる素材がないから失敗すると、高を括っていた。だから、その光景を見て驚きを隠すことができなかった。
東京呪術高専は山間部に位置していた。人目から隠すために、あえてそういった場所に建設された。高専を囲む山はそれなりの大きさである。それなのに、その山が
「そ、そんな....」
人智を超越した術式に西宮は絶句する。
山に生い茂る木々、何十年もそこに佇む大岩、そして、大量の土砂が浮遊し始める。それらがスピードを持って、
細かい土砂や枯れ木が列を行儀よく列を成して、集まってゆく。神が地球を創造したいうのなら、この光景はそれに限りなく近いだろう。木々や土砂が集まってできた球は中心へ、中心へ圧縮していく。密度を段々と増してゆき、球は小さくなってゆく。小さくなったと言っても、半径10mはある巨大な球だった。
一方、
「”
二つの巨大攻撃は同時に放たれた。渋谷の呪霊・
二つがぶつかると、シューッという蒸発音が天を震わせる。
「いけるわ!一度目と同じように
レーザーと球の衝突で風が荒れる。西宮は巻き添いを喰らわないように暴風の中を箒で全力疾走する。数キロ離れた所で西宮は振り返る。
「そんな...」
メカ丸のレーザーは半径10m程度の球を貫通できなかった。
球はゆっくりと加速をつけて、レーザーを徐々に押し返していく。
ゴゴゴゴ....
綱引きさながら丁度真ん中で大きな球とレーザーの均衡状態が保たれていた。
そんな均衡も長くは続かなかった。レーザーの出力が弱まってきた。多大なエネルギーを要する
そして、半径10m程度の球は
「やめてーー!!」
この規模の戦いに一介の2級術師が影響を与えることなどできない。西宮の叫びは虚しく轟音にかき消される。
西宮にとって再び絶望が訪れた。渋谷事変で大切な仲間を失って、禅院直哉や加茂達と呪術界を再建しようとしたが、
西宮は必死に叫ぶ。
「もう嫌!いなくならないで!」
その言葉が通じたのか。次の瞬間、巨大な球にピキッと黒い稲光が光る。
黒閃だ。
ピキッ。
ピキッ。
黒閃が連発される。
黒閃連続発生記録は七海建人の連続4回だ。その記録に七海は「運が良かっただけですよ。」と言った。決して狙って出せるものではない。だが、記録を大きく上回る数の黒閃が球に何度も命中していく。
ピキッ。
ピキッ。
ピキッ。
何十と拳を重ねると、やっと巨大な球に亀裂が入り始める。そして、その亀裂にさらに拳を重ねていく。亀裂はみるみる内に広がり、球は少しずつ瓦解してゆく。崩れた球の破片はバラバラと地面へ舞い落ちていく。
静かに砂煙が上がる。
「助かった...の...?」
西宮がそう呟いた時、砂煙の中に黒い稲光が光る。
それと同時に何かが高速で移動する音が聞こた。次の瞬間、何かが地面に叩きつけられた。衝撃で舞っていた砂埃が煽られて、姿が露わになる。
衝撃でできたクレーターの真ん中にいたのは
そして、クレーターの真ん中にいる
ピキッ。
再び、黒い稲妻が
黒い稲妻が空に描かれる度に、
ピキッ。
ピキッ。
ピキッ。
すでに、
その無機質で機械的な拳にはどんな感情が乗っているのだろうか。かつての仲間へのレクイエムなのだろうか。それとも、ただの八つ当たりなのだろうか。
西宮の目には、何かに取り憑かれているように映っていた。哀愁を孕んでいるようにみえた。
心がどうにかなってしまうんじゃないかと、西宮は思った。
大地を、敵を、呪霊を殴る振動が響き渡る。
見晴らしが良くなった東京呪術高専の跡地には、平らな大地が広がっていて、
大地に男が現れる。
「あっ。」
次の瞬間、
そして、
「うおおおぉぉぉぉぉん。」
何かを威嚇するように、悲しみを吐き出すように、
*
かつて、東京呪術高専のあった場所は見る影もなく、荒れ果てた大地と化していた。
その大地に戦いを終えた
拍手が送られる。凄惨な戦いであったため生存者は少なく、拍手はまばらだったが、一つ一つの拍手に命を救われたという感謝の意が込めれられた重い拍手であった。
当の本人である幸吉は放心状態だった。疲れているのか。絶望しているのか。判断はつかない。
各々が感謝の言葉を幸吉に述べたが、心ここにあらずという感じだった。渋谷事変で仲間を喪失した悲しみは時が癒すだろうと西宮は思う。
我々は戦いに勝利したのだ。
全ての元凶である
西宮はふと、取り留めのない一つの疑問を幸吉に投げかける。
「どうして黒閃をあんなにも撃つことができたの?」
「技術さ。技術はどんな不可能なことだって可能にしてしまうのさ。」
幸吉は自省するようにボソリと呟いた。アインシュタインと共同で黒閃の確率を大幅に上げる補助装置を作りあげていたのだった。
幸吉はただ、空を眺めていた。
夕日は沈み月が上がり始めていた。
*
一方、その頃、北方の地・アイヌ呪術連。
「青髪の娘が目覚めたぞ。」
白衣を着た看護師の男が慌てた様子で廊下へ飛び出す。
看護師のいた部屋には一人の女性がいた。
包帯で全身がぐるぐるに巻かれていて、包帯の隙間から特徴的な青い髪の毛が飛び出ている。
ベットの傍のサイドテーブルにはファイルが置かれていた。
=患者情報=
入院日:11月1日
症状:全身火傷
救出場所:東京都渋谷区
氏名:不明
次回はここより数年後を描く予定です。