メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜 作:ポケットの中の四次元
非術師の避難を手伝う中、意外な人物と出会うこととなる。
11月3日、幸吉は
「よお、俺はコガネ!!この結界の中では
渋谷事変後、夏油は真人から奪った『
力の無い者が一夜にして、強大な力を手にする。非術師が急に呪術を扱えることは子供に銃を持たせるようなものだ。治安なんてものは存在しなかった。街は荒れに荒れていた。それが死滅回遊。
だから、少しでも被害者を減らすべく幸吉は大阪コロニーへと足を踏み出したのだった。
「
幸吉の肩の辺りを丸い球体がふわふわと浮遊している。球体の左右からトンボの羽のようなものが伸びていて、それを高速で羽ばたかせて浮いている。そして、球体は機械音で告げる。
「ここは道頓堀付近だよ。梅田からは離れちゃったね。」
「梅田方面からコロニー入ったはずなのに。ランダムでワープさせられるのかもしれないな。」
球体の正体は幸吉が開発したサポート式神AI"
調伏した低級の式神(この時点では人間的な知性を持たない)にAI技術を融合させて作られた存在だ。簡単な調べ物や状況判断、簡単な攻撃を任せることができる。
「梅田までルート検索しようか?」
sukimaは尋ねる。
「いや、いい。中心部のが荒れているだろうから都合がいい。」
幸吉は心斎橋商店街を歩き始める。
昼間なのに誰もいなかった。突如として放棄された繁華街は独特の空気があった。食料品店は死滅回遊のプレイヤーがすでに荒らしているようだった。
荒れているとは聞いていたが、まさに世紀末のような佇まいだった。逃げ遅れた非術師はいないだろうかと気を配りながら歩みを進める。
しばらくすると、とあるたこ焼き屋が幸吉の目に入ってきた。
シャッターは当然閉まっていていた。入口付近の自販機は荒らされていて、ノボリはズタズタに引き裂かれていた。
だが、看板に描かれる蛸の特徴的なマスコットキャラクターを見て、幸吉は過去の記憶に引き戻されていった。
淡い記憶。
京都校のみんなと仕事の帰りに訪れた大阪。
*
その日は呪術師の研修があり、珍しく京都校の全員が揃っていた。普段は数人のグループで任務に就くため、みんなで街にくりだすなんてことはない。まるで旅行のような気分を味わっていた。
「メカ丸、見えてますか?たこ焼きですよ。」
三輪のくっきりとした瞳がこちらを覗き込んでくる。メカ丸は人混みでは目立つため、キーホルダーサイズの呪骸に入っていた。
そのキーホルダーメカ丸は不気味な見た目なので、誰も持ちたがらなかったが、三輪は喜んで持ち歩いてくれた。
「おい、かすみー。飯テロするなよ。メカ丸食えないんだぜ。」
マキが突っ込む。
「あっ。ごめんなさい。メカ丸、そんなつもりじゃなくて。お土産郵送するんで許して下さい。」
慌てた顔をして、申し訳なさそうにメカ丸に向かって両手を合わした。
「大丈夫だ。そういうのは慣れている。」
ぶっきら棒に幸吉は言う。
「ほらー。メカ丸、不貞腐れてんじゃん。」
三輪はからかわれてあたふたしている。
幸吉はいつも素直になれなかった。本当は呪骸を持ち歩いてくれてることに感謝していたし、一緒にいるだけで楽しんだ。そう伝えたかった。
素直なコミュニケーションを取ったことがなかったので、言葉が分からなかった。変に思われないだろうか。そんなことを考えると、口から出る言葉はいつも簡素な言葉になってしまう。
青くて綺麗な髪の毛は風でわずかになびいていて、その奥に見える笑顔は太陽のようだった。だけど、ほっぺたはたこ焼きが詰まっていて、少し間抜けそうな表情が露わになる。
「加茂!あっちの店で、高田ちゃんのコラボしているぞ。」
東堂も相変わらずのでかい声で叫んだ。
普段見せない表情や浮足だった感情が、クッと締め付けるように胸に押し寄せる。
もう一度、みんなで出かけたかった。今度はあのたこ焼きの味を確かめたかった。三輪や仲間達と「美味い!」って言い合いたかった。
折角、四肢を取り戻したのに、その願いは叶わない。渋谷事変が全てを消し去った。
あの時、真人との戦いで逃げ出してしまったことを思い出してしまう。どれだけ記憶から消そうとしても、ふとした瞬間に頭に浮かんでしまう。あの時、簡易領域はもう一本残っていた。真人に刺せていれば、渋谷事変で多大な犠牲者は出さなかったかもしれない。
どうして俺だけ生き残ってしまったんだと自問し、俺は逃げたからだと自責する。
この繰り返し。
そして、自分を責めることで救われようとしている自分に気が付いて、それも腹立たしい。
*
幸吉は転がっていたコーラの缶を蹴り飛ばす。飛んだ空き缶が地面に落ちてカンッと音が響く。
死滅回游が始まって以来、治安が悪いらしい。ゴミはそこら中に散らかっていた。
食料を売っているコンビニなどはすでに荒らされている。原始の時代に戻ったかのような奔放ぶりである。秩序がなくなるとはこういうことなのか。
心斎橋商店街を南下していると、グリコの看板で有名な恵比寿橋が見えてきた。
普段なら足の踏み場もないほどに賑わっている恵比寿橋だが、やはり誰もいない。ほとんどの非術師は避難していたし、いたとしてもこんな目立つ場所にはいないだろう。観光客のいないこの場所に不気味な印象を受ける。
「幸吉!あの辺り、様子が変じゃない。」
急にsukimaが声を出す。幸吉はsukimaが示す場所に注目する。
道頓堀川に架けられた円状の恵比寿橋。そして、その橋を越えた辺りの路上に人集りを見つけた。
「sukima、行くぞ。」
小走りで人集りに近づいていくと、状況が段々と理解できてくる。
足が震えて動けない主婦、ぬいぐるみを抱えて泣きじゃくる子供、その空間は恐怖に支配されていた。パニックだ。
人集りの中心には頭部と右手のない男の死体が転がっていた。
少し離れた所に目を向けると、バットが落ちていた。近づいてみると、そのバットには手が付いていた。体から切り離された右手は固くバットを握っていた。
引き千切られた右腕を見て、急に現実感が漂ってくる。
何かと戦って、命を落としたのだろうか。俺も下手するとこうなってしまうのか。
幸吉の足は震えていた。
戦えるのか。こんなちっぽけな俺が...
”幸吉のせい”で渋谷事変が思わぬ結末となってしまった。贖罪の為に人助けをすると決めたものの、真人との戦い以来、呪霊や呪詛師と戦っていなかったのだ。
自分が人を守ることができるのだろうか。
漠然とした不安が幸吉の足にまとわりつく。
不安に駆られていると、橋の向こうから男がズカズカと歩いてくる。
非術師の一人が震える声で言った。
「あ、あいつだ。に、逃げなきゃ。」
その男は”祭”と描かれた青いハッピを着ていた。顔は皺だらけで笑っているのか、真顔のなのか分からない。
「一緒にお祭りを楽しもうや。人生はお祭りや!」
男は訛った大阪弁で叫ぶ。
お祭り男の名前は折口という。叫ぶと同時に、白い足袋を履いた足を半歩下げて、印を構えた。
「
折口の手から真っ赤で太い眉の鬼が飛び出してきた。胴体は緑地に白抜きの毛卍文の布を身に纏っている。
幸吉は咄嗟に構える。
「sukima!あれはなんだ。」
「ほほい!あれは
「祭りか?祭で崇められていた霊が呪霊に転じたパターンか。それとも祭りの術式を持った術師か。」
獅子舞は綺麗に生え揃った白い歯をパクパクさせながらこちらへ猛スピードで突っ込んでくる。
この距離だと回避は間に合わないと判断し、幸吉はメカ丸Mark.2を起動した。
「
中型犬くらいの大きさのメカ丸Mark.2は口がパカッと開き、光が溜まっていく。光は段々明るくなっていき、臨界点に達する。
次の瞬間、ピカッと一筋の極限までに細い光のレーザーが獅子舞に向かって伸びていく。
直撃だ。
獅子舞を道頓堀川まで吹き飛ばす。水飛沫が川から噴き上げる。しかし...
ピィ〜ピロピロ〜ピィ〜。
水飛沫と粉塵の中、祭囃子の音がどこからともなく聞こえてくる。視界が開かれると、お祭り男・折口が小躍りしながら祭囃子を吹いるのが確認できる。
祭囃子に呼応するかのように道頓堀川の中から、獅子舞がのそのそと姿をあらわにして、体をくねらせている。
「やはり
「針のように細くして圧力を上げてみたが、歯が立たないみたいだ。」
メカ丸Mark.2は小型だった。天与呪縛から解放された幸吉の呪力で扱えるかつ、戦える大きさを吟味した結果、現在の大きさになったというわけだ。
そして、小型化に伴い、メカ丸のレーザー”
だが、折口レベル(おそらく過去の術師だろう。)には
ピィ〜ピロピロ〜ピィ〜。
フレーズが終わると、獅子舞の傷は完治する。術師は祭囃子を吹くという縛りを自身にかけているのだろうか。
獅子舞は威嚇するように、アスファルトの地面や建物を持ち前の白い歯でバクバクと破壊する。そして、折口の合図と共に、獅子舞は弧を描くように体をくねらせながら飛翔し、幸吉達に向かってくる。
幸吉は考えた。ここは一旦引くべきだ。今のメカ丸Mark.2では威力が足らない。埒が開かない。
「
獅子舞に攻撃を当て、隙を作くる。sukimaに非術師達を安全な所へ誘導するよう命令する。
レーザーを受けた獅子舞が攻撃体勢にうつると、獅子舞の攻撃を避けながら、再び極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)を発射し、獅子舞のヘイトを買い続ける。
ピィ〜ピロピロ〜ピィ〜。
何度も突進してくる獅子舞と幸吉は闘牛の牛と闘牛士のようだった。幸吉は迫りくる獅子舞を寸前でかわす。非術師に注目がいかないように隙を見て「
だが、そんな一進一退の攻防も長くはもたなかった。
お祭り男・折口は太鼓を取り出し、叩き始める。もちろん、祭囃子を吹きながらだ。
ピィ〜ピロピロ〜ピィ〜。ポンポン。ピィ〜ピロピロ〜ピィ〜。ポン。
音楽が始まると、獅子舞のスピードが格段に速くなる。動きの精度やキレも向上している。
やはり祭囃子などの楽器には獅子舞にバフをかける効果があるのだろう。術師が身動きを取りづらくなることで縛りが成立しているのだろう。
分析は十分にできたが、しかし、獅子舞の動きは早くなり対応が間に合わない。
「あっ。」
幸吉の頬から血が舞った。
今回は擦り傷だったが、油断するとやられかねない。
だんだん間を詰められている。そろそろ逃げるないと、いよいよヤバイかもしれない。だが、このスピード。無事に逃げ切れるのか。
一抹の不安を覚えたその時。
白人の老人が幸吉の隣に立っていった。
「ジジイ、何してんだ。危ないだろ。」
幸吉が激しく攻撃をいなしているど真ん中に突っ立っていた。何を考えているんだ。必死に戦っている幸吉は少し腹が立った。
老人は黒のストライプのスーツを着ていて、腰はひん曲がっている。何より特徴的だったのは、クルクルで真っ白な天然パーマだった。
老人は落ち着いた声で幸吉に語りかけた。
「あいつの口を狙うんじゃ。」
「は?」
「いいから口じゃ。」
それだけを言うと、老人はゆっくりと歩みを進め、非術師の避難している方へ去っていった。もちろん、獅子舞の攻撃を受けていなかった。
獅子舞の攻撃を避けているのか?何者なんだ?そんな疑問が浮かんだ。
だが、ゆっくりと考えている暇はない。獅子舞の攻撃はさらに激しくなっているのだ。
悔しいがここで決めなければ、やられてしまうだろう。これといって策があるわけではない。なら、願掛けだ。あのジジイの言うことを聞いてやろう。幸吉は腹をくくった。
獅子舞が加速してこちらに向かってくるタイミングで、意を決した幸吉は走り始めた。
全力で走る。
風を切り、足を上げる度に筋肉が張るのを感じる。これが体を使っている感覚かと実感していた。
道頓堀川に架かる恵比寿橋まで戻ってくる。すぐ後ろを獅子舞がつけている。
ノンストップで橋の際まで近づき、橋の高欄に手をかけて、幸吉は道頓堀に飛び込んだ。
獅子舞も幸吉を追うように橋から空中へ身を乗り出す。
その瞬間、川の下流の方から一筋の細い細い極小のレーザーの光が獅子舞の真っ白な歯を貫いた。
大きな爆発と共に獅子舞は蒸発した。
*
「泳げないのに飛び込んだらダメだよ。あと、道頓堀は細菌だらけなんだからね。絶対、お腹壊すよ。」
タオルを被った幸吉にsukimaが注意をする。
「獅子舞の口を狙うに落ちるしかなかったんだ。」
空を飛べる獅子舞には重力方向の慣性を無視しているようにみえた。だから、幸吉は重力方向に素早く移動し、正面から口を狙えおうと考えたのだ。
「口?口が弱点だったんだ。学習するね。」呪霊と言えども、AIなので勉強熱心だ。
弱点?幸吉は思い出したかのように、白人のお爺ちゃんのことを思い出し、被ったタオルを投げ捨てて立ち上がった。
非術師の避難民の中から老人を探し、ズカズカと歩いていく。
「お前、何者だ?」
幸吉は白髪の天然パーマのお爺ちゃんの前に立った。
お爺ちゃんはのっそりと立ち上がり、帽子を取り、礼をした。
「先ほどは助かった。感謝するぞ。」
「礼はいらん。お前のおかげだし、本体を倒したわけではない。1日もしないうちに見つかるだろう。それより、お前は何者だ?」
「わしはアルベルト・アインシュタインじゃ。」
「アインシュタイン....?もしかして、あの!?」
羂索の『無為転変』で呪師となったものは2種類に大別できた。覚醒タイプと受肉タイプだ。
覚醒タイプは元々呪術的才能のあった非術師が術師となったパターンだ。
受肉タイプは呪物が非術師を乗っ取るパターンだ。例えば、宿儺が虎杖を乗っ取ったように。受肉タイプは過去の術師が復活することだと言い換えてもよいだろう。
幸吉達の目の前にはアルベルト・アインシュタインと名乗る男がいる。彼も受肉タイプで復活したとみて良いだろう。あの相対性理論のアインシュタインは実は術師で羂索と契約していたと言うことなのか。
「アインシュタイン。そんなことより聞きたいことがある。」
幸吉は真剣な眼差しでアインシュタインに迫る。
「お前は術師なのにどうして戦わなかった?」