メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜 作:ポケットの中の四次元
逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。
贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向うこととなる。
そこで過去の術師として復活した偉大な科学者アインシュタインと出会う。なんとアインシュタインは天与呪縛を有していた。それは物理現象を可視化できる呪縛だった。
アインシュタインはその天与呪縛を使いこなし、メカ丸Mark.2を強化する。
そして、生まれ変わったメカ丸Mark.2ver.2.0の初陣が始まろうとしていた...!!
「
お祭り男・折口が掌印を結ぶと、幸吉達は黒い何かに取り込まれていく。上下左右の感覚を失い、ここではないどこかへ運ばれていく感覚だ。
しばらくすると、太鼓と祭囃子の小気味好いが遠くの方から聞こえてくる。
祭り...?
ボヤけた視界が回復していく。まず目に入ったのは、雄叫びをあげながら道路を埋めつく暑苦しい男達だった。この日のために生きてきたんだと言わんばかりの暑苦しい顔つきをしている。
男達は叫んでいた。掛け声は「そーりゃ!そーりゃ!」とピッタリと揃っていて気持ちいい。
男達が掛け声に合わせて曳くのは車輪のついた神輿だ。
そして、幸吉達はその神輿の上に乗っていることに気が付く。
「これがワシを育て原点の祭り・岸和田のだんじり祭りじゃー。」
だんじり祭りとは大阪の岸和田で毎年行われる祭りだ。神輿に車輪がついたようなだんじりに綱をつけて、数十人の男が全速力で引く。町内の決められたコースを延々と駆け回る。そして、何よりの魅力はだんじりの不安定な屋根上で男が飛び跳ねながら舞う踊りだ。
幸吉達はだんじりの屋根の上に乗せられていた。足元がぐらつき立つことさえ許されない。サポート式神AIの
幸吉は考えた。現在、折口の
幸吉は揺られるだんじりの上で辺りを見渡した。どこか懐かしさを感じる大阪の下町の風景がどこまでも続いている。一階は商店で二階は住居という昔ながらの家屋が立っていた。二階窓からは子供達がこちらに向かって手を振っている。
戦闘という極限状態だというのに、祭という晴れやかな雰囲気が幸吉の不安をかき立てる。
状況への理解が追いついてきたところで、幸吉はsukimaに尋ねる。
「奴はどこにいる。」
「あそこの白い馬だよ。」
祭に集まった群衆を見事に掻き分けながら、折口を乗せた白い馬が走っていた。
「今度は
折口は公家社会を思い出させるような着物を身にまとい、馬に乗っていた。馬は真っ白で幻想的だった。ファンタジーの世界から飛び出してきたようなその容姿の馬に思わずうっとりしてしまう。
「sukima、領域展開中に術式を発動することができるのか。」
「二つ考えられるよ。一つ目は領域自体が足場を不安定にするという比較的出力の弱い領域だから、別の術式を使用する容量が残されている。二つ目はこの領域全体が祭に関する術式を制限なく使用することができる。」
「なるほどな。どちらにせよ、今の状況はやばいな。アイン、大丈夫か?てか、なんで着いてきた?」
「なんとかしがみ付いとるよ。好奇心はわしの生き甲斐じゃ。遥々70年前からやってきたんじゃ。いろんなもん見たいんじゃ。」
「幸吉、危ない!矢が飛んでくるよ。」
疾走する馬に股がる折口は右手で弓をゆっくりと大きくひいている。流鏑馬の祭りのように姿勢が整っていて神聖ささえ感じてしまう所作だった。
幸吉は矢を撃墜するためにメカ丸Mark.2ver.2.0を起動する。
メカ丸Mark.2改はアインシュタインに呪力効率を高めてもらった直後だったため、姿勢制御が難しかったが、メカ丸Mark.2改は背中のバーニアから炎を出して、なんとかだんじりと並走する。
折口が矢を放つのを見ると、メカ丸Mark.2改の背中がパカっと開き、砲身が露出する。そして、放たれた矢に向かって無数の弾が連射される。弾幕だ!
正確に射撃することを難しいと判断した幸吉は小さい弾を大量に発射し、矢への命中確率を上げた。いわゆる、弾幕による防衛作戦に出たのだ。
メカ丸Mark.2改から放たれた無数の弾幕の内、一つが矢に命中する。
「花火みたいで綺麗じゃの。」
「アインに呪力効率を上げてもらったおかげで弾幕量を増やすことができた。改造がなきゃ、撃墜できなかったよ。」
「あれを使いこなすお主も大したものじゃよ。」
「だろ?そろそろ、こちらの反撃だ。パワーアップしたメカ丸Mark.2改を見せてやる。」
試し撃ちした時の感覚を思い出し、レーザーを発射させた。試し撃ちの時は加減していたが、切羽詰まった状況なのでそんな余裕はない。撃ちやすい70パーセント程度の出力で発射する。
発射されたレーザーは一直線に瞬間的に発射された。
レーザーの出力の高さに”昼”の中に”昼”が現れたように周りが照らされた。
そして、そのレーザーは地面を貫き、ポッカリと丸い穴を開けていた。物凄い威力だ。
幸吉はやったか?と思ったが、領域展開が解除されていないことに気づく。
「やり損ねたか。」
すると、折口の白馬がヒヒーンと鳴き声を上げて、飛び散った瓦礫を跳びこえた。
レーザーは当たっていなかったのだ。馬にも折口にもレーザーの傷はなかった。
「外れたのか。」
「不安定な足場で狙いがなかなか定まらないね。レーザー照射位置を自動計算しようとしても変数が多すぎて、できたもんじゃないよ。」
「くそ、折角パワーアップさせたのにこれじゃ意味がないじゃないか。」
「幸吉、矢がまた飛んでくるよ。」
「またか。弾幕を張る余裕はあるが、打開案が思い付かない。」
だが、お祭り男・折口の方も先ほどのレーザーの威力を見て焦っていた。あんな威力のレーザーを見せられたらビビるのも無理はない。
そして、折口は有利な今の状況を活かして早めに決着をつけようと動き出す。あのレーザーを二度と撃たせないために。
折口は今までと変わらず白馬の上から矢を定期的に飛ばしていたが、合間を見て今までとは違うメロディーの祭囃子を吹き始めた。
そのメロディーを一フレーズ吹き終えると、呼応するように道路や住居がゾロゾロと動き始める。
しばらくすると、動きは収まった。
「地形が動いたのか。」
幸吉達も地形の変動に気が付いたようだ。
「幸吉、あそこに曲がり角ができているよ。今のだんじりの速度から計算するに遠心力がすごいことになりそうだよ。」
だんじり祭りのカーブ。それは事故が多発するとして有名だ。約4tものスピードの乗った物体を人力で曲がるのだ。だんじり自体は立っていられないほど、不安定になるし、周り切れず家屋に衝突してしまう危険さえもある。実際に巻き添いになって死者が出た例も存在していた。
先ほどの折口の祭囃子はだんじり祭りのカーブという危険区域を作るために必要な儀式だったのだ。
だんじりは闘牛のようにカーブに向かって猛進していく。
「カーブまで推定10m、遠心力に気を付けて。」
sukimaが警告をする。幸吉とアインは飛ばされないように安定した支えを探す。
そして、だんじりはカーブに差し掛かる。
だんじりはカーブに差し掛かった瞬間には曲がらない。曲がりきるために、車体の先頭が壁につくギリギリラインで急に曲がり始める。
だんじりの大きな図体は遠心力によって大きく外へ広がる。
幸吉達は遠心力をもろに受ける。各々、屋根の端をがっしりと掴む。
傾いただんじりは住宅に急接近する。ここの家には庭なんてものはない。道路に密接する形で立ち並んでいる。地方の庭付きの一軒家のありがたさをこれほどまで恋しくなることは他にはないだろう。
幸吉は遠心力に抗い、急接近してくる住居に足が引っかからないように必死に足を曲げる。そして、遠心力がおさまりかけて安心した時、矢が飛んできていることに気づいた。
折口は祭りのことをよく理解していた。
背筋をピンと伸ばして、馬に股がる折口は不敵な笑みを浮かべている。狙い通りだという顔だ。折口は祭りを真剣に楽しんでいるのだ。
しがみつくのに精一杯の幸吉の足に矢が直撃した。
「うわあぁぁぁ。」
体をえぐるような痛み。これまで天与呪縛で受けてきた日常的な痛みとは別の種類の痛さだった。
この時、幸吉は初めて生を実感する。痛み、痛み、痛み。
山奥の基地から遠隔でメカ丸を操っていた時は起きること全てにどこか他人事に印象を受けた。
まるでゲームをしているような、自分の生きている世界とは別のどこかで起きていることなんだ、と。
論理では分かっていた。疑いようもなく、この世界は地続きで繋がっていて、倒す呪霊や呪詛師は現実のことなんだということを。
だが、実感は追いついてこなかったのだ。メカ丸から送られてくる情報に痛みがなかったからかもしれない。痛みまで共有していては戦いにならない。それは正しい。
針で全身を刺されるような痛みは常に感じている。だが、メカ丸から痛みは送られてこない。
視覚のみで相手と戦っていた。体の損傷具合、メカ丸の反応の鈍さ(損傷による同期ズレ)という視覚的情報でメカ丸の状態を理解していた。
だから、攻撃による痛みを感じた幸吉は衝撃的だったのだ。生きていると実感したのだ。それと同時に死が近づいている。己の体はメカ丸のように、簡単に修理できない。
体が鈍くなってきたら死に繋がる。手を放せば、死に繋がる。
ああ、戦いとはこういうことだったんだ。
冷静になれ。と、脳に命じてみるが、痛みを理性で抑えることなどできない。
痛い、痛い、痛い。
もう手を離してしまおうか。痛いのは嫌だ。
「幸吉、大丈夫?次のカーブが来るよ。」
sukimaの声が聞こえてくる。痛い。
「お前さん、分かっておるじゃろ。あそこを狙うんじゃ。」
アインの声が聞こえてくる。痛い。
「あそこって。それ、爺さんにしか見えないんだよ。」
幸吉は絶叫して潰れた喉から搾りだすように言葉を出した。痛みを声で発散するように
「そうじゃった。そうじゃった。馬も右脚の付け根じゃ。あの馬はそこに頼って走っている。そこさえ抑えれば、馬の機能は停止するじゃろう。」
「でも、幸吉、どうやって当てるの?」
sukimaが心配そうに声をかける。sukimaが人間だったら上目づかいで心配そうに覗きこんんできていただろう。
痛みに耐えなら必死に思考する。このままでは死が訪れる。
こんなところでやられては亡くした京都校の仲間たちに合わせる顔がないではないか。彼らにはもう会えないのだから、彼らの意志を継がなくては。
考えろ。気合を入れろ。痛みは忘れろ。
弱点は分かっている。だが、足場が不安定で、狙いが定まらない。奴の動きを特定できる場所はどこかないか。
「幸吉!カーブまであと50mだよ。きっと矢が飛んでくるよ。」
ダメだ。だんじりのランダム性と馬の走るルート。変数が多すぎて、とても計算できたもんじゃない。
「幸吉!カーブまであと30mだよ。屋根に捕まって!」
ん、カーブ....?
上がりきった鼓動が幸吉の集中力を高める。極限状態での閃きを現実に当てはめ、仮説を立てる。
折口はだんじりがカーブする時、一定の軌道を通ることを知っていたのではないか。だから、矢がピンポイントで俺に命中したのではないか。
つまり!俺は折口が弓を放つスポットを逆算すれれば...
「sukima!軌道計算を頼む!出力は20パーセントでいい。」
「任せて!カーブまであと10mだよ。軌道計算終わったよ。あのカーブミラーの右下を狙って!」
さすが、高性能AIだ。処理が早い。
「カーブまであと5mだよ。何かに捕まって!」
その合図で幸吉は屋根の上に立った。メカ丸Mark.2改を精密に操作する。sukimaの計算通りに。
馬に乗った折口も弓を引いていた。その瞳は真っ直ぐと幸吉を捉えていた。
「カーブまであと1mだよ。」
だが、
矢が幸吉に命中するよりも早く、折口の乗る馬の足を貫いた。
馬はバランスを崩して、前方へ倒れ込む。
それと同時に折口も前方にポーンと投げ出される。そして、折口は受け身を取ることができず、頭から地面に叩きつけられる。
だが、遅れて幸吉に矢が飛んでくる。折口によって計算し尽くされた究極の矢筋は確実に幸吉の胸に向かっていた。奴も今度は確実に仕留めるつもりだったのだ。
「幸吉!危ない!折口の矢が!」
sukimaが叫んだ瞬間、空にヒビが入った。
領域を構成していただんじりや群衆、街並みが崩壊していく。
そして、矢が幸吉の額に影を落とした瞬間に瓦解していった。
気がつくと、幸吉達はなんばグランド花月の前にいた。買い食いできるたこ焼き屋などの店が立ち並んでいる。ただし、客はいない。
「やったのか。」
かすれた声で呟く。
「5点追加されました。」とコガネが告げる。死滅回游でのゲームサポーターだ。
お祭り男・折口は折口信夫という民俗、国文学者からきています。アインシュタインほどトレースしたわけではないですが、実際に全国各地の祭りを観て回っていたそうです。