メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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メカ丸を操る呪術師・与幸吉は装甲傀儡究極メカ丸試作0号に乗り、真人と夏油と戦った。だが、この世界の幸吉は戦いの途中で逃げ出してしまう。

逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。

贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向った。

そこで過去の術師として復活した偉大な科学者アインシュタインと共闘し、お祭りの術式を使う折口に勝利した。

そして、戦いの傷を癒すためしばし休息を取っていたが、サポート式神AIのsukima(スキマ)から警報が発生する。

一体、何が起こるのか...!!


五.ビックカメラなんば店にて①

 うぅぅぅううぅぅぅううぅぅんん。

 

 誰もいないビックカメラのマッサージチェアで若者と老人は天井を眺めている。

 

「なんじゃ、この気持ちよさは。」

 

 お祭り男・折口を撃破した後、幸吉達は束の間の休息を取っていた。

 

 死滅回遊のコロニー内であっても電気は使えた。店員に文句を言われずに、他の客の冷たい視線を感じずに、マッサージし続けられる電気屋はまさに天国だった。

 

 駅前といえば、ビッグカメラである。

 

「こうしてマッサージを楽しんでいるのも、アインのおかげだよ。」

 

「どっちの意味じゃ。」

 

「どっちもだ。」

 

 幸吉のマッサージ機は一通りの施術を終え、停止する。だが、すかさずリモコンを手に取り、別もモードを起動して、腰を倒した。

 

 相変わらず、マッサージ音はフロアに響く。

 

「それにしても、お主の傀儡の操作精度はなかなかのものじゃったな。わしは呪力ちゅうもんはあまり知らんが、あれだけの質量のものを即加速させたり、停止させたりする技術は惚れ惚れしたわい。特に、レーザーの照射じゃな。照射の際、お主の傀儡は高速で移動しておった。風や温度などの不確定要素もかなりあった。それなのに、的確に敵の乗る馬にレーザーを命中させた。それを可能にしたのは背中のバーニアの精密な動きじゃろう。その技術は素晴らしい。」

 

 幸吉は過去の偉人に褒めちぎられて、顔を赤らめた。

 

「以前、10mの巨大傀儡を作ったことがあったんだ。その時に自重が重すぎて姿勢が保てなかったんだ。それで姿勢制御をもう勉強したのさ。」

 

「10mの巨大傀儡じゃと!?」

 

「ああ、それに乗って戦ったんだ。」

 

 謙遜気味にそういう幸吉は少し顔を曇らせる。その戦いで得た戦歴は決して輝かしいものではなかった。苦い思い出だ。

 

「オーマイガット。呪力というのはそんなことまでできてしまうのか。もしかして、呪力って万能ではないか。使用者が限られるって弱点はあるが。今度、是非見せてくれ。」

 

 幸吉とアインは装甲傀儡究極メカ丸試作0号に搭載した技術に関して、語り合う。

 

 アインは天与呪縛”脱構築(だつこうちく)”で呪力というものを操ることができないにも関わらず、幸吉の話す現代呪術技術についてスポンジのように吸収していた。それはアインの類い稀なるセンスとそれを助ける構造を可視化する”脱構築(だつこうちく)”がなせる技であった。

 

 初めは幸吉が先生役を務め、呪術に関してアインに教えるという形をとっていたが、ほんの数時間でアインと幸吉の呪術知識レベルは対等となり、話題は次に作成する傀儡はどういう仕様にしようかとか、今までの術式の新しい解釈についての議論へと発展させていった。

 

 例えば、”黒閃(こくせん)”を狙って出すにはどうすればいいか。

 

 ”黒閃(こくせん)”は呪術師の到達点の一つとして知られている。拳と呪力の時差が0.000001秒以下の時に発生する現象なのだが、月に刺さる針の穴に紐を通すようなそんな神技は到底狙って出せるものではない。だが、それは何故なのか。何が障害となり狙って出すことができないのか。もし、現実的に狙って出すとすれば、どう工夫をすればいいのか。

 

 そんな議論を延々と繰り返していた。

 

 アインと話していると既存の呪術は解体されて新しい高次元の何かになっていく。まさに脱構築。そんな気がさえ起こすような濃密な時間だった。

 

 だが、画面を埋め尽くす”警報”の文字と耳を刺すような警告音によって、楽しい議論は終わりを迎えることとなる。

 

 プーーールルルルルルルルゥー。プーーールルルルルルルルゥー。

 

「警報。警報。東京呪術高専が攻撃を受けようとしています。」

 

 sukimaの声はいつもの抑揚のある清々しいものではなく、淡々としていて、事実をのみを端的に伝える。

 

 sukimaの目(周りの状況を確認するただのセンサーに過ぎないが、)は赤の点滅を繰り返す。

 

「警報。警報。東京呪術高専が攻撃を受けようとしています。」

 

 幸吉が放っていた簡易的な傀儡虫が反応したのだ。高専には帷が貼られているが、それが破られた際に警報が入るように設定していた。

 

 何かが起こった時に駆けつけることができない。幸吉が駆けつけることのできなかった渋谷事変の反省から、システムを導入したのだ。

 

 この警報を鳴らすのも苦労まみれだった。天与呪縛から解放された幸吉の呪力量では遠隔操作できる傀儡虫は数匹しかいなかったのだ。その限られた数匹の傀儡虫の内、一体を高専に忍び込ませているのだ。

 

 だが、キンキンと鳴り響く警報を耳にしても、幸吉は上の空だった。自分で望んで警報設定をしたにも関わらず、突然の出来事にポカンとしていた。

 

「幸吉、行くの?」

 

 警報モードから通常モードに戻ったsukimaが言った。sukimaの声がスーッと体の中に入ってきて、芯に達して、やっと、じわりと実感が広がる。

 

 本当に行くのか。

 

 見たくなくて、蓋をしていたものがうめき出す。あの日からずっと先延ばしにしてきたことだ。

 

「らしくないではないか。折口との戦いのように誰かのために敵に飛び込んでいくのが、お前さんじゃなかったのか。」

 

 先程までとは明らかに違う幸吉の態度にアインは自然に疑問を投げかけていた。

 

 アインは知らなかったのだ。幸吉が呪術界から”裏切り者”として追放されていることを知らなかったのだ。

 

 幸吉は話し始める。

 

 

 幸吉は裏切り者として呪術総監部に目をつけられていた。

 

 真人と夏油との戦いから全速力で逃げ出した後、幸吉はたまたま見つけた小さな小屋で溶けるように眠りについた。

 

 身の毛がよだつような殺意から逃げるため、体力が果てるまで走ったのだ。呪力も切れていたし、新しい体にも不慣れだった。一晩で目が覚めるわけはなかった。

 

 目を覚ました時、どれだけの間眠っていたのか検討もつかなかった。ただ、とんでもない量の睡眠だったことだけは分かった。下半身が湿っていたので、トイレに行くことさえも放棄してしまうほどの睡魔だったのだろう。

 

 近くの川で水を浴びて、幸吉はようやく意識を取り戻してきた。夏油と真人と戦ったこと、最後の瞬間に逃げ出したこと、そして、夏油達が渋谷でテロを起こすこと。

 

 そうだった。夏油達が計画している渋谷でのテロを”五条悟”に伝えなければならないのだった。

 

 でも、どうやって?

 

 ここがどこか分からなかったし、腹も減っていたし、まともな服さえも持っていなかった。

 

 頭がねじれるんじゃないかと思うくらい考えた末に、傀儡を作ることを決めた。傀儡を操れば、誰とでも連絡がとれる。そう思ったからだ。

 

 本来、傀儡は何ヶ月もかけて呪いをかけて作成するものである。メカ丸も数ヶ月掛かって作り上げた。特別な道具も必要だし、時間も掛かる。

 

 そのため、傀儡の機能を絞ることにした。

 

①意思疎通ができること。

②長距離の移動が可能であること。

③現在の幸吉(天与呪縛がなくなった状態)の呪力で、上記二つが満足に遂行可能であること。

 

 その辺に生えていた木を切り、川で拾った鋭い石で適当に彫り出し、そこに呪いを込めた。作業に数日かかったが、なんとか完成させた。対真人用に装甲傀儡究極メカ丸試作0号を作っていたこともあって、思った以上に作業は捗った。

 

 試運転も早々に、すぐに幸吉は傀儡を全速力で飛ばした。

 

 目的地はもちろん東京呪術高専だ。夏油が10月31日に渋谷で起こそうとしているテロを五条悟に伝えなければならない。計画が実行されれば、多くの人が死ぬだろう。耳にするだけでも恐ろしい計画。絶対に阻止しなければならない。

 

 傀儡を東京に向かわせている間、幸吉は色々なことを考えた。

 

 真人との戦いから逃げることができたのは運がよかったのではないだろうか。あの時は逃げ出すことを(はな)から諦めていた。まさか逃げることができるなんて。

 

 もしかしたら、もう少しで京都高専の連中と再会できるかもしれない。しかも、生身の体で!だけど、天与呪縛がなくなったから降級かもしれないな。でも、それでも一から出直そう。生きているんだから。

 

 そして、三輪に...

 

 そんな明るい未来の想像をしているうちに、傀儡が東京呪術高専に着いた。

 

 だが、幸吉の目に入ってきた映像は明るい未来とは異なるものだった。

 

 幸吉はゾッとした。

 

 姉妹校交流試合で東京高専を訪れた時に、幸吉が感じていたわきあいあいとした雰囲気を一切感じない。

 

 静まり返った校舎、暗い顔をした高専関係者。不思議なことに生徒は一人も見かけなかった。

 

 もしかして....悪い想像が幸吉の頭を巡る。

 

 ふと、カレンダーが目に入った。悪い想像が現実となったことに気付く。

 

 11月1日。

 

 一日、遅かったのだ。

 

 渋谷事変は終わっていた。

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