メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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この世界のメカ丸こと与幸吉は真人との戦いの途中で逃げ出してしまう。

逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。

贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向かい、過去の術師であるアインシュタインと共闘し、危機を脱する。

一方、その頃東京の呪術高専で緊急事態が発生していた。

変わってしまった渋谷事変。そこから生まれた別の東京高専襲撃事件の全貌とは....?



七.東京呪術高専にて①

1週間前。

 

呪術高専の校長室の前に行列ができていた。

 

列には呪術師、補助監督員、元呪詛師など様々だった。みんな疲れた顔で列に並んでいた。

 

最前列、つまり校長室の中には禅院直哉(ぜんいんなおや)が座していて、自分の番が来た人は直哉にハキハキとした声で報告していた。

 

直哉は報告を聞く度に顔をしかめて、乱暴な関西弁で指示を出す。報告者は納得した様子で扉を出ていく。

 

そんな様子が日常となっていた。

 

10月31日に史上最悪の呪術テロ・渋谷事変が起った後、禅院直哉は呪術界の実質的なリーダーとなっていた。

 

渋谷事変が終結すると、禅院家当主・禅院直哉、加茂家当主・加茂憲紀(かものりとし)らが中心となり、緊急対策本部を呪術高専に設置した。緊急対策本部は呪術界を維持すること、羂索の野望を阻止すること、東京を復旧すること、死滅廻遊での犠牲者を軽減することなど、直近で解決しなければならない呪術界の問題を早急に解決することを目的に組織されたのだ。

 

禅院直哉は禅院家の当主として、緊急対策本部の指揮を取ることになったのだ。

 

渋谷事変にて、当主であり実の父親である禅院直毘人(なおびと)が亡くなった。直毘人の遺言にはこう書かれていた。

 

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一つ、禅院家27代目当主を禅院直哉とす。

 

一つ、高専忌庫及び禅院家忌庫に保管されている呪具を含めた全財産を直哉が相続し、禅院扇、禅院甚壱のいずれかの承認を得た上で、直哉が運用することとす。

 

ただし、なんらかの理由で五条悟が死亡または意思能力を喪失した場合、伏黒甚爾との誓約状を履行し伏黒恵を禅院家に迎え、同人を禅院家当主とし全財産を譲るものとする。

 

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直哉はこの遺言を聞いた時、額に皺を寄せて「あ゛?」と悪態をついた。五条悟は”獄門疆(ごくもんきょう)”に封印されたため意志能力を喪失していた。そのことによって、本家ではない伏黒恵が当主になることとなったのだ。

 

本家である直哉にとって聞き捨てならない事態だった。一日中ピリピリしていて、禅院家の私兵・躯倶留隊(くくるたい)のメンバーにやつ当たっていた。

 

しかし、数日後には伏黒恵が死亡したという事実が判明し、直哉は無事に禅院家当主となった。

 

皆が知っているように、直哉は嫌味な性格で周囲と打ち解けることができなかった。常に周りに強く当たり空気は最悪だった。周囲はなんて奴が当主になったんだ。ましてや緊急対策本部のリーダーだなんて。

 

だが、次から次へと舞い込んでくるの問題と常に状況が変わり続ける死滅廻遊に否が応でも対応せざるを得なかった。禅院家の代表として。術師を代表する御三家として。呪術界、あるいはそれらが守る日本という国の為に。

 

徹夜で様々な問題を解決していく中で直哉の中に心の変化が現れたようだ。個人プレーではどうにもならないことを察したのだろう。周りと協力をするようになっていった。

 

そして、頼れるリーダーへ成長を遂げていた。追い詰められた状況は精神面を大きく変えてしまうのだろう。直毘人も今の直哉の姿を見たら安心できるだろう。

 

ところで、五条悟に「腐ったミカンのバーゲンセール」と揶揄されていた呪術総監部はというと、支配力を無くしていた。

 

呪術総監部は渋谷事変並びに死滅廻遊により首都機能停止したことによって日本政府関係者とのパイプが途切れた。そこに追い討ちをかけるように御三家の世代交代と緊急対策本部の創設だ。

 

直哉達にとって今は緊急事態であり、呪術総監部の様子を一々伺っている暇がなかった。呪術総監部は正直邪魔だった。顔立てるにも繋がりのある親族はほとんど亡くなってしまった。

 

夏油傑の内通者を見抜けなかったことなどを理由に、直哉達は強引に呪術総監部を解体していった。

 

そんなわけで現在の呪術界の実質的トップは直哉となり、直哉を補助する形で加茂憲紀がナンバー2となった。五条悟の望んだ呪術界の世代交代はこうして成し遂げられた。

 

 

数日前。

 

直哉と加茂が緊急対策本部の職務に追われるある日、九十九由基(つくもゆき)が高専にやってきた。天元(てんげん)と話すと言い、特に断る理由もなかったので薨星宮(こうせいぐう)へ通すことにした。

 

九十九は何食わぬ顔で天元と話し、戻ってきた。そして、二人に告げた。

 

「数日後、夏油君、いや羂索(けんじゃく)がここにやってくる。狙いは天元だ。」

 

それは二人にとって、呪術界にとって思いもよらない千載一遇のチャンスだった。悩みの種である死滅廻遊のゲームを攻略するよりもゲームマスターの羂索を仕留める方が手取り早いからだ。

 

呪術の戦闘において、目的と戦闘地形を事前に知っていることはかなり有利である。渋谷事変にて羂索が現代最強の術師・五条悟を封印することで、事実上戦闘不能できたのも目的を理解し地形を把握していたからだ。実力に差があったとしても覆すことができるが呪術の戦闘なのだ。

 

幸いなことに死滅廻遊の対策のために、日本各地の呪術師が東京呪術高専に集まっていた。相当な実力者揃いで新しいリーダーを迎えた御三家に恩をうるべく集結していたのだ。

 

そして、直哉達は策を巡らせた。

 

どんな方法で攻めてきても対応できるよう数多くのシュミレーションを行った。呪霊操術を使いこなす夏油の手数はかなり多く、決して楽な作業ではなかった。寝る間も惜しんで、対策を練った。

 

11月11日は来るべくしてやってきた。それは羂索が攻めて来る日だ。

 

「早よ、配置につけや。」

 

”目付きの悪い男”禅院直哉が発破をかける。彼の言葉に威勢の良い返事し、若者達は持ち場へつく。

 

加茂憲紀が直哉の側にやってきた。直哉と憲紀は元々仲が良かった訳ではなかったが、緊急対策本部の運営を経て厚い信頼関係を結んでいた。

 

「直哉、勝てそうか。」

 

「まあ、やってみやな分からへんわ。もう後には引けんしな。ダメならダメや。」

 

「潔いな。」

 

「そう思わな生きていけへんわ。加茂君も貧血起こさんよーに注意せえよ。」

 

「ああ。」

 

禅院直哉と加茂憲紀は鬱蒼と生い茂る森の中へ入っていく。森の不安を掻き立てる薄暗さが二人を飲み込むようにみえた。

 

羂索は予想通り、真正面からやってきた。薨星宮がある建物に向かって、階段を一段一段ゆっくりと登ってきた。朝の散歩でもしているかのように。高専の特徴である真っ赤な鳥居の行列はそれを邪魔することなく、静観している。

 

直哉と憲紀は情報共有系の術者に現場の様子を逐一報告させていた。戦闘において情報は命である。いつの時代においても、情報が天下を分けるのである。

 

情報が届くと、直哉は驚いた。夏油の隣を呪霊が歩いていたのだ。

 

ある程度の術師なら呪霊を一目見ただけでその強さが分かる。一級呪霊?いや、そんな生ぬるくない。あいつは特級呪霊だ。直哉の直感がそう告げていた。

 

二足歩行で歩くその呪霊を一言で表すならば、派手だった。

 

フリルのスカートから飛び出る足はオレンジのカラータイツを纏っていた。

 

平成ギャルのような化粧と二郎ラーメンの野菜のように盛られた髪の毛。

 

歩く度に身体中に着いているアクセサリが揺れる。

 

人間に近い呪霊だ。羂索はあんな呪霊を一体どこから連れて来たんだ。いや、今は倒す手がかりを少しでも....

 

直哉の頭はフル回転していた。

 

羂索と派手な呪霊は高専の長い階段を登りきった。そこには神社特有の砂利が広がっていて、奥に厳かな建物がある。その建物から薨星宮に繋がる参道へ降りることができる。

 

この場所はあの五条悟が天内理子を護衛した際、禅院甚爾に敗北した場所だ。なんの因縁か、再びここで呪術界の未来を決める戦いが始まろうとしていた。

 

「見られているな。」

 

羂索が言った。

 

「あたしも感じるわ。階段を登り始めた頃から。すぐ殺そうかと思ったけど、それはあたしの流儀に反するわ。」

 

「フッ。呪霊のくせに。真人の影響か。」

 

「そうね。彼もまた渋谷で逝ってしまった者の一人。」

 

「まあいい。全員を相手している暇はない。ここは任せるぞ。」

 

「OK。任せて。」

 

 ”派手”な呪霊はピースをして、羂索に応答する。

 

そして、アクセサリが生い茂る腕を前に出し、六本の指で印を結んだ。

 

縦揺横揺(たてゆれよこゆれ)

 

空から七色に光るミラーボールが降りてくる。ミラーボールが適当な位置まで降りてくると、呪霊は指をパチンと鳴らす。

 

どこからともなく音楽が流れてくる。8ビートのアップテンポな曲調で、踊り出したくなるような曲だ。

 

直哉達はその奇怪な術式に目を奪われていた。気付いた時にはもう遅かった。奇襲をかけるべく、森の中に潜伏していた術師達が踊り始めた。

 

その様子に不安を覚えた直哉も飛び出してしまった。すると、体が動き出す。

 

「なんやねん。これ。体が勝手に」

 

その踊りは軽く汗を流す程度の動きだった。ただただ体が操れて不快なだけだった。

 

長期的なデバフ効果をもたらす術式か。と、解釈し始めたその時、異変に気づく。

 

「ん?これ、早っなってるで」

 

次第に踊りが激しくなっていくことに気が付く。噴き出るような汗が飛び出す。その汗は運動の見返りか、それとも焦りの汗なのか。

 

「加茂君、絶対音楽を聞くな!これはヤバい。」

 

息を切らしながら叫んだ。それが彼の最後の言葉だった。

 

踊りが激しくなってくるにつれて、余計なことを考える暇さえも無くなっていく。忙殺されるサラリーマンのような術式だ。

 

激しい踊りによって服はボロボロになり、汗を撒き散らす。本人の意思に反して、踊りは極めて精密かつ大胆になっていく。

 

そして、踊りは関節のルールを破り始める。音楽に合わせて、腕が曲がるはずのない方向に曲がる。本人は悲鳴をあげることすらできない。むしろ、終始笑顔である。もちろん、プロダンサーとしてのプライドではない。それは術式の効果だ。

 

綺麗に動きが揃ったダンスだった。踊りの境地、人が舞うとはこういうことなのか。そう思わせる完璧なダンスの終焉も近づいてきた。

 

音楽がフィナーレに向けて、盛大になっていく。それに伴って踊りも終わりへ向かっていく。

 

すると、音楽に合わせて腕がもぎれた。関節がなくなった腕は小道具のごとく完璧なタイミングで飛んでいった。クライマックスだ。

 

両腕がなくなり、頭部も飛び、片足も飛ぶ。

 

音楽が止まると同時に胴は地面に倒れる。

 

............

 

渋谷にいると、右も左も分からなくなる。

 

すると、支えが欲しくて誰かの真似をする。外見であったり、振る舞いであったり。

 

周りを見て同じ動きをしてしまう。同じ踊り(・・)をしてしまう。

 

その真似は本当に自分のしたいことだったのだろうか。自分が消えてしまう程に真似してしまってはいないだろうか。踊らされてはいないだろうか。

 

いつか限界が来た時に体は弾け飛ぶ。

 

渋谷が内包する呪いとはそんな儚さを内包していた。

 




渋谷をモチーフにした呪霊です。まちが抱える悲しみを術式で表現していきたいです。

九十九って書くと九十九十九を思い出しますね。
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