メカメカ廻戦〜もう役立たずなんて言わせない〜   作:ポケットの中の四次元

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この世界のメカ丸こと与幸吉は真人との戦いの途中で逃げ出してしまう。

逃げ出したことを後悔している幸吉だったが、そんなことお構いなしに時は流れていく。未曾有の呪術テロ・渋谷事変が終わり、死滅回游が始まった。

贖罪のために人助けをしようと、幸吉は大阪コロニーに向かい、過去の術師であるアインシュタインと共闘し、危機を脱したのだが、東京の呪術高専で緊急事態が発生していた。

幸吉は救援に駆けつけたが、そこには見たことのない特級呪霊が立ちはだかっていた。


八.東京呪術高専にて②

かつて東京高専の周囲には厳かな趣きの寺社仏閣が所狭しと立ち並んでいた。それらの建物は表沙汰にできない呪術の世界を隠していたのだ。

 

だが、今はもう見る影もなかった。

 

戦場は既に壊滅的だった。

 

ディスプレイ越しであったが、幸吉は息を呑んだ。

 

神社へ向かう階段に綺麗に整列していたあの真っ赤な鳥居は全てなぎ倒されている。寺の屋根はほとんど吹き飛ばされており、そこら中にご利益がありそうな大仏や呪具が転がっている。信仰心の厚い者なら見ていられないような無惨な光景だ。

 

森の方からは時々地響きが起こる。

 

戦いの音か?まだ、全滅したわけではないのか。

 

幸吉は拳を強く握り直した。

 

今、東京呪術高専にいるのは幸吉が操縦する”メカ丸Mark-3”だった。

 

幸吉が決意を固めた後、即座に東京呪術高専へ向かおうとしたのだが、数日前に起こった渋谷事変と現在進行中の死滅廻遊で日本の都市機能は完全に麻痺していた。

 

新幹線は線路が死滅廻遊のコロニーを横断しているので、運行することができなかった。高速道路、飛行機は都市から逃げようする非術師で大混雑だった。そして、船では遅すぎる。

 

大阪から東京へ向かう為の現実的な手段は徒歩しかなかった。

 

そこで、アインの協力を得て、急ピッチで"メカ丸Mark-3"を開発し、東京へ向かわせることにした。

 

"メカ丸Mark-3"は"メカ丸Mark-2改"をベースにスピードを大幅にパワーアップさせた。フル出力で時速300kmで移動可能となった。つまり新幹線と同じくらいのスピードで東京に向かうことができるわけだ。

 

そうして、大急ぎでやってきた東京の呪術高専。辺りの様子をメカ丸Mark-3のカメラを通して確認していた。

 

壊滅的な状況だったが、地面を震わせるような地響きが定期的にやってきていた。地響きの方向へメカ丸Mark-3を出力全開でぶっ飛ばした。

 

凰輪(ガルダ)!!」

 

丸い球体の式神が空中に軌道を描きながら飛んでいる。軌道の先には呪霊がいて、腹部にクリーンヒットさせた。すると、球体は解体されて蛇のように帯状になり、女性の元へ戻る。

 

その蛇のような式神を操る女性はガッチリとした体躯で、はち切れんばかりの乳房をノンスリーブのトップスが抑え込んでいる。かなり際どい衣装だ。加えて、長い髪と少し挑発的微笑み。

 

彼女の名前は九十九由基(つくもゆき)だ。

 

九十九由基は特級術師である。単独での国家転覆が可能である術師は特級術師として認定される。あの現代最強の術師・五条悟と肩を並べるほどの実力者だ。

 

決戦に際して、これほどの術師が一緒に戦ってくれるとなると心強い。幸吉はそう思ったが、九十九は既にかなり負傷していた。体中に擦り傷の跡がある。

 

「ん...?新手か」

 

鋭い一言に体がびくつく。

 

「なんだ、君か。さて、どっちなんだい。君も夏油くんみたいにそちら側に回ったのかい。それならおねえさん、かなりキツいかも。でも、渋谷事変のレポートを読んだ感想としては、どうも君は槍玉に挙げられたようにも見えた。」

 

九十九は息を切らしながら言った。どんなにピンチな状況で挑発的な態度と俯瞰したような口調は辞めれないのだろう。

 

「味方だ。」

 

張り詰めていた空気が少し和むの感じる。

 

「それは良かった。お姉さん一人じゃ、ちょっと厳しそうなんだ。手伝ってくれると嬉しいな。」

 

「それより、夏油は?」

 

「夏油君、いや、羂索(けんじゃく)というべきか。彼は薨星宮(こうせいぐう)に向かったよ。」

 

「薨星宮?なぜだ。」

 

天元(てんげん)さ。奴の計画には必要らしいんだ。私は天元の護衛をしてたんだけど、引き離されちゃって。あ、そうだ。耳は塞いだ方がいいよ。」

 

「敵の術式か?」

 

「ご名答!」

 

「もしかして、皆んなはそれで?」

 

道中一切、人が目に映らなかったことに幸吉は薄々気が付いていた。メカ丸Mark-3に戦闘体制になるよう命ずる。

 

「その通り。ほぼ全滅さ。」

 

九十九のその言葉が合図になり、メカ丸Mark-3の口がカパッと開き、極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)が敵に向かって、発射された。

 

そのレーザーを追いかけるように九十九は走り出す。

 

幸吉と九十九が相手にする呪霊は異様な装いだった。

 

遠目には普通の女の子なのだが、凝視すると不可解な所が多々見つかった。

 

低めの体躯に盛られた金髪。細いがくっきりと描かれた眉毛。その呪霊を一言で言い表すなら派手だった。

 

幸吉は目の前の呪霊に向かって極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)を放つ。

 

極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)は真っ直ぐに飛んでいったが、着弾寸前のところでヒラリと避けられる。盛られた金髪がサラリと揺れる。

 

すかさず九十九が凰輪(ガルダ)を飛ばし、星の怒り(ボンバイエ)凰輪(ガルダ)に質量を付与する。すると、極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)凰輪(ガルダ)の重力を利用して、カーブする。

 

九十九由基の術式”星の怒り(ボンバイエ)”は術者(九十九)と式神(凰輪(ガルダ))に質量を付与する術式だった。

 

重力により軌道が修正された極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)は呪霊に命中した。

 

ほぼ初対面なのに息のあった連携だった。

 

すると、九十九が左手の負傷を庇いながら、息を切らして言う。

 

「あいつは渋谷の呪霊。おそらく特級クラスだ。今のうちに知っていることを話す。よく聞いて。」

 

九十九は神妙な面持ちで続けた。

 

「10月31日に多くの人が渋谷で死んだね。漏瑚と宿儺の暴走。摩虎羅と陀艮の周りを顧みない戦い。夏油の放った大量の呪霊と真人が改造した人間。そして、あなたの”北斗七星の紫煙”。それらが人を殺しすぎた。死には無念や呪いが付き物だ。通常は呪霊化しても、大したことない。3級程度だろう。だが、渋谷では短時間で多くが死んだ。大量の無念と呪いがあいつだ。渋谷の呪霊・道玄だ。」

 

ある意味で自分が作り出した呪霊でもあるわけだ、と幸吉は思う。責任を取るというのはこいつを倒すことなのかもしれないと覚悟を改めた。

 

極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)が道玄に直撃した際の砂埃はだんだんと薄くなってきた。

 

呪霊は煙の中からノソノソと出てくる。

 

「やはりあの程度では無理か。」

 

アインと共に強化した”極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)”であったが、メカ丸Mark.3は速さを優先していたため、出力がそれほどでもなかった。

 

「ふふ。小賢しいわね。あたしの”縦揺横揺(たてゆれよこゆれ)”にもすぐに対応したし、貴方強いわね。」

 

渋谷の呪霊・道玄(どうげん)の声ははっきりとしていて自信が漲っている。

 

混雑交差点(スクランブル)

 

周囲の岩が道玄の前に集まっていく。集まった岩は集まるだけでなく、硬く凝縮していく。みるみるうちにハンドボールサイズの塊が出来上がる。

 

通勤混(ラッシュ)

 

集まった岩の塊は幸吉達に向かって発射される。風を斬るほどのスピードでこちらに飛んでくる。

 

二人は別々の方向へ避けた。何発かは食らったが、なんとか直撃は免れた。

 

隙を見てこちらも極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)星の怒り(ボンバイエ)の連携攻撃を与える。しかし、如何せん火力不足でダメージが入っている気がしない。

 

そうこうしているうちにスタミナが切れかけてきた。

 

九十九に関しては何時間前から戦っているのか想像できない。辛うじて笑顔は保っているが、かなり辛そうだ。

 

「キリがないね。そろそろおねーさんも限界だわ。援護を頼むよ。」

 

九十九は覚悟を決めたように言った。彼女をよく見ると、腕の肉はえぐれていて、顔からは大量に出血している。今にも倒れそうだった。が、しっかりとした足取りで道玄に向かっていった。

 

幸吉はそれを止めることができなかった。鋼鉄のような意志を感じたのだ。

 

向かってくる九十九に対して道玄は混雑交差点(スクランブル)通勤混(ラッシュ)で集中砲火を浴びせる。飛ばされた石が風を斬る音が大きくなることで弾数と弾速が一段と増えていることに気づく。

 

援護の為に弾幕を貼った所であのスピードの弾を撃墜することはできない。レーザーでないといけないのだ。極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)でないと。

 

幸吉は激しくなる道玄の攻撃に対応するために、ギアを上げて極小大祓砲(ミクロウルトラキャノン)の発射レートを上げる。だが、激しくなる通勤混(ラッシュ)の弾を撃墜するのに精一杯だ。

 

弾を認識してから撃つのでは間に合わない。ある程度、軌道を予測して撃墜する。

 

この膠着状態はかなりキツい。九十九は何かをしようとしているみたいだが、”あれ”が届けば、この状況を打開できるかもしれない。もう少しの辛抱だ。ふと他所ごとを考えてしまったその時。

 

「あっ。九十九!!」

 

道玄の通勤混(ラッシュ)を一つ撃墜し損ねてしまった。

 

気が付いた時には九十九の腹にポッカリと穴が空いていた。だが、九十九はびくともしなかった。腹が血がダラダラと流れているのに、足取りは変わらない。

 

その狂気じみた九十九に、終始笑顔だった道玄の顔に影が落ちた。

 

その後も九十九は数発直撃を受けるが、何食わぬ顔をして道玄に向かって歩みを進める。

 

狂っているのか、もう人間ではないのか。それとも圧倒的な信念があるのか。術師というものは頭のネジが外れている必要があるというのを再認識させられる光景だ。

 

いつの間にか、九十九は道玄の背後に立っていた。すると、道玄のブレスレットがジャラジャラついた腕に手を通し、羽交い締めにする。

 

九十九は悪魔のような笑みを浮かべ、一言放った。頭からの大量出血が九十九の恐怖を煽る。

 

「ねえ。呪霊くん。重力も質量も時間も突き詰めれば、何になると思う?」

 

瞬間、九十九の臍のあたりに渦が発生した。九十九と道玄の体はその渦に吸い込まれていく。

 

九十九と道玄が吸い込まれた渦は段々大きくなり、黒い点となる。すると、周りの地形をどんどん吸い込み始める。

 

吸い込んだ物の分だけ黒い点は大きくなっていく。轟音が響き渡る。

 

ブラックホールだ。

 

九十九は自身に質量を一定以上付与したのだ。重さは引き返すこのできない臨界点を突破すると、ブラックホールになる。

 

この世で一番重く、何もかもを吸い込むブラックホールを作り出したのだ。

 

山の上に確かに存在していた高専もブラックホールに飲み込まれた。ブラックホールはその存在をもみ消す。樹木も建物も土砂も何もかもを吸い込んでいく。宇宙の食いしん坊だ。好き嫌いはない。無差別に飲み込んでいく。

 

どこに重力があるのか。どこに向かっているのか。ここはどこなのか。既存の物理の法則が通用しない世界。

 

九十九の作り出したブラックホールはある程度大きくなると、爆散した。

 

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