昔、再会の約束をした少女が知らないうちに自分の国の皇帝になっていて、最終的に気づかぬうちに王室の中で人形みたいに愛されるだけになってしまう話くれよ 作:やゆゆゆゆ
あの王城での不思議な出来事があってから八年がたった。十歳だった僕の年は十八歳になり、この国では立派に働きに出る年だ。父さんが王城で働いていたこと、昔、あの城であった少女ともう一度会いたいこと、いくつかの理由が重なって僕は自分の就職先をあの銀白の美しい王城にしようと決めていた。王城での就職のために15歳から通い始めた侍従育成学校での成績はあんまり芳しいものではなく、特に剣技の成績と護衛の成績は眼も当てられないものだったから、正直、侍従学校でも上位数パーセントしか入れない王城の枠は厳しいと思っていた。しかし、どこで関係者が見ていたのか知らないが家に直接届いた王城への推薦証が僕を助けてくれたのだ。誰だか知らないが、調理の成績なんかは得意だったから、そこらへんが上手く働いたのかもしれないな。
「■■・■■■。貴様をライデン皇国、王城侍従の一員として命じる。陛下のためにその身命を捧げるように」
夢にまで見た白銀の城の中、恭しく渡された任命書を上官から受け取る。この三年間、ここで働くために慣れない実習も稽古も必死にやってきた。自分の努力の成果が報われたような万感の思いが僕の胸を引き締めていた。
それからの王城での仕事の日々はまさに激動だった。王城というのは陛下の安全を確保するために訓練や尋問用に調教された兵士は多いが、反乱者の絶対数を減らすためにスパイが紛れ込みやすい侍従の数は少ない。当然、一人の仕事量は並みのものではなく、僕は襲い来る初体験の仕事の数々に忙殺された。その中でも特に手を焼いたのは王城の中で「歓迎任務」と呼ばれる仕事だった。なんだか仰々しい名前で呼ばれる任務だが、この仕事の概要を説明するにはまずこの国がいかにして大きくなってきたか語る必要があるだろう。
「ライデン皇国には銀色の薔薇が咲く」
子供の頃は知らなかったがこの国、ライデン皇国を語る時によく言われるセリフだ。銀色の薔薇、普通ならば存在しない、この世の中にありえないその美しさが示すのは一つだけで、それは当然ライデン皇国の女王のことである。「銀の薔薇」そう代々呼ばれてきた女王は大陸の歴史の転換点にいくつも名前を残してきた。当時、大陸の半分を支配していたグスマン協和国を滅ぼした「白銀」、聖人として名高かったカッカ―リ聖を堕落させた「赤銀」、世にも名高き130年戦争の原因となった「青銀」、名前を挙げればきりがない銀薔薇の数々、そのすべての影響力は代々の女王の人外的な美しさに由来した。傾国の美女、簡単に言ってしまえばそんな感じでライデン皇国に代々生まれる女王は例外なく美しい。ただ、その美しさによって、その美貌によって皇帝は良い聖人は堕落し、戦争が巻き起こるのだ。
さて、長くなったがここで「歓迎任務」がいったん何なのかという話に戻そう。結局のところ、ありていに言えば歓迎任務とは女王様への面会の手配のことであった。この国にはひっきりなしに女王様への面会希望者が現れる。それは最近であれば隣国の王であったし第一信教の法皇であったし、当代一の戦武者であった。彼らは手に手に財宝やら土地やらを引っ提げて王城へとやってくる、僕たち侍従はそれを外の世俗に知られぬように隠し、秘密裏に面会が執り行われるように計らうのだ。
「如月国、シラヌイ将軍の姫様への面会であります。侍従および近衛一同、敬礼!」
そんなわけで今日も今日とて「歓迎任務」に勤しむ侍従一同。本日の面会者はケールヌイの合戦で名高いシラヌイ将軍。世間でも名高い戦上手という前評判、だったのだが……でれでれと頬を緩ませる姿を見る限りその様子はどうにも伺い知れない。僕はやっぱり、姫様ってのは凄いんだななんて陳腐な感想を抱いてシラヌイ将軍の対面、こちらからは全く見えない黒いカーテンの向こうを見つめた。面会において侍従は勿論、一部を除いた近衛でさえ姫の顔を見ることは許されない。法外な報酬と名誉を払って権利を勝ち取った面会者のみが大陸一、当代随一の美女と名高い姫様の尊顔を拝めるのだ。
「シラヌイ将軍からの献上品は名高き名刀マサムネ。戦場で千人を同時に切ったという伝説の一品であります」
事前に決まっていた献上品とその由来を述べる侍従長。将軍はでれでれとした顔を蕩けさせて大声で立ち上がった。
「おう、美しき『白銀』よ! この名刀こそマサムネ、あなたに献上するに相応しい至上の一品よ! どうか、どうか私の心ばかりの気持ちを受け取ってくだされ!」
必至な将軍の様子に姫様、「白銀」の君は答えない。今日も今日とて何も言わず、何も語らず、ただ微笑みのみを返したようだった。
「おぉ、美しい。美しい……まさにこの世のものではない絶世の美女よ!」
返事も帰ってこなかったのに関わらず将軍は喜色満面の様子。微笑み一つで権力者がこんな様子じゃあ、傾国の美女というかなんというか、美しさも過ぎれば魔法みたいだななんて何度も繰り返した感想を今日も今日とて僕は抱いた。
いったい誰が推薦状なんて書いてくれたんでしょうね?(すっとぼけ)