少女たちの無限夢路_Summer&Cosmos   作:十二の子

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±2/∞ 夢幻島嶼_His Broken Dream

ー*-

 

 「来ませんわね…?」

 

 蒼玻/アオバは、机の上に置かれたホチキス止め資料をめくりながら、応接室で待ちぼうけをくらっていた。

 

 (もう30分は経ってるよな…?

 

 /ローズ相談役は、遅れるような方ではないと聞いているのですが…)

 

 実際に来ないものは仕方がない。

 

 (実は時間を間違えてるとか場所を間違えてるとか…?/まさか…)

 

 端末を起動してメールをチェック。

 

 (ほら、間違ってませんわよ。

 

 …あら、重要メール。)

 

ー*-

 

 From:カクミガシ博士

 

 To:アオバ・フロックス

 

 CC:カグヤ・フロックス、パーシモンゼミナール生態研、パーシモンゼミナール測候所、ジニア先生

 

 学園島の力場について

 

 アオバくんへ

 

 測候所のデータを取り寄せて、送ってもらったデータと照らし合わせてみたよ。

 

 結論から言えば、学園島グランデ・コンティネントのBREAK力場(フィールド)はユキコシのものとは微妙に違うものだ。非常に濃い…ユキコシ地方にもその変動の影響が観測されるほどの濃度と、拍動状の変調、にもかかわらず高い震動安定性を持っている。

 

 暴走する恐れはない。ただ、おそらくステラー(Copied_Legend.)システム(Emulated_”Terapagos”)と同じ特徴を持っているね。テラパゴスのBREAKオーラ採取地はやはりそこだ。

 

 From:アオバ・フロックス

 

 To:カクミガシ博士

 

 CC:カグヤ・フロックス、パーシモンゼミナール生態研、パーシモンゼミナール測候所、ジニア先生

 

 Re:学園島の力場について

 

 力場の出所がどこかはわかりましたかしら?

 

 ユキコシのそれは、2000年前に大災厄(カタストロフ)をした破壊神が地方を再構築する際に欠落した欠陥を埋めるため、UMAトリオがユキコシを覆ったもの、ですわよね?

 

 グランデ・コンティネントにはそのような神話はなく、おそらく力場は近年に人為的に設置されたもの。ですが、グランデ・コンティネントは島と言ってもユキコシ地方の1/7の面積、属島も含まれるのならばもっとあります。

 

 どのように、どうやって、何が、神の御業を再現したのか。これを把握しないことには問題があるように思いますわ。

 

 From:カクミガシ博士

 

 To:アオバ・フロックス

 

 CC:カグヤ・フロックス、パーシモンゼミナール生態研、パーシモンゼミナール測候所、ジニア先生

 

 Re:Re:学園島の力場について 

 

 それを理解するためには、BREAK力場(フィールド)について理解を深める必要がある。

 

 ポケモンが善性を失い暴れまわる反転暴走や、ワカナエ大乱の観測結果を参照するに、力場の動作機序は「善なる概念の外付け」とそれによる「概念の焼き付き」だ。

 

 闇から顕れた悪の神にユキコシが創り直された時、うっかり善の部分を復元し損ねた。だから三神は、存在しない概念だった敬意やいたわりや志を存在させるため、概念を付け足すことにした。力場とは名ばかりで、アレの本質は形而上的なシロモノだと考えていい。

 

 あまりにも強い力と心を持つ者は、その強さと心を概念(イデア)として力場へ焼き付ける。すると強さのイデアはもはやBREAK力場(フィールド)という形而上的システムの一部に取り込まれるからして、その力を概念的、情報論的に受け取ることができる。カケラや実体化オーラ粒子の正体はおそらく「概念素子」とでも呼ぶべきだな。一般的に力場とされているものはそうやって形而上的に焼き付いた概念、上澄みだけだ。

 

 さて、本論を始めよう。

 

 よりしろさまのような強大な存在ならば、歴史による空間蓄積を必要とせずにBREAKオーラを自家供給できる。結局オーラの本質は「強さのイデア」だからね。イベルタル・ゼルネアスのBREAK進化も、仕組みは同じだ。

 

 圧倒的に、それこそ創世レベルの強さを誇る神格がいれば、それをゲットして体内に概念場としてのBREAK力場(フィールド)を付加すれば、生み出されたオーラはあふれ出してグランデ・コンティネントを覆い、疑似的なBREAK力場(フィールド)を形成しても理論上はおかしくはない。ただもしそうだとすれば、現在の学園島は、概念的には、その一部を神格級ポケモンからあふれ出した疑似BREAK力場(フィールド)にのっけている状態かもしれないな。

 

 アオバくん、何か島で異変はないかい?形而上的な異常があれば、それに伴って実体にも影響が出るはずだ。「Aという場所でBというモノがCということをしている」という情報と概念を世界が安定的に維持できなくなるわけだからね。物体が突如消失したり移動したりする…例えばポルターガイスト現象なんかが起きているとしたらかなり危険な段階だろう。

 

 アオバくん、その島は、ビー玉の上に浮いてるような感じだよ。

 

ー*-

 

 「おや...

 

 …こんなところにいましたか。」

 

 記憶喪失の少女を連れて散歩をしていたカグヤは、向こうからダンディなイケオジが話しかけてきたので、露骨に嫌そうな顔をした。

 

 「ローズ相談役?お姉ちゃんと会談の予定じゃなかったの?」

 

 失礼な物言いとはわかっているが、カグヤとしては、大事な姉を待たせてフラフラしているおっさん(元悪の組織ボス)などとても許せる相手ではないのだ。

 

 「いえ、先ほど、その子を見かけたものでしてね。

 

 彼女を渡していただけませんか?マクロコスモスで引き取ります。」

 

 「…この子の正体、知ってるんだ。」

 

 「もちろん。正体も、記憶が消えたことも、知っていますよ。

 

 そして、私たちのために、ガラルの発展のために、彼女が必要だ。」

 

 「…あ、あたしを、どうするつもり?」

 

 ローズ相談役は、懐からモンスターボールを取り出し、そして決定的な一言を告げた。

 

 「フロックス家令嬢の前では嘘で隠しおおせそうにはないな。

 

 きみには退場して(消えて)もらいます。

 

 あくまで、無名のトレーナーとしてね。」

 

 「いや、そうはならないよ。私がこの子を守るから。」

 

 カグヤが、フロックス家にのみ許されたボール、ノブレスボールを構えた。

 

 「行け、シュバルゴ」「ファイアロー、BREAK!」

 

 殻の鎧を身に着けた虫騎士が現れた直後。

 

 空間が揺らぎ、カグヤとローズがたたらをふむ。

 

 (なに、今の…!?)

 

 木々がざわめき、空間から金色の粒子がにじみ出して、ファイアローの体表へまとわりついた。

 

 BREAK進化ー蓄積されし強者のオーラを纏うことで、黄金色に染まるとともにさらなるパワーと能力を得る、ユキコシ限定の進化だ。

 

 「フレアドライブBREAK(ぐれんのつばさ)

 

 瞬間、金色の飛跡が宙を斬った。

 

 シュバルゴが、焦げだらけになってバタリと倒れる。

 

 「…マッギョ、行け。」「もう一度ぐれんのつばさ」

 

 再び、金色の飛跡が奔り、地面を跳ねるトラップポケモンへと突き刺さる。

 

 「今だ。トラバサミ。」

 

 バチン!音とともにファイアローBREAKの身体が挟み込まれた。

 

 「ガラルのマッギョと戦うのは、はじめてのようですね。

 

 ストーンエッジ。」

 

 挟まれたまま脳天を痛打され、ファイアローは金色の粒子を霧散させパタリと倒れた。

 

 「…ビビヨン、ぼうふうで飛ばしちゃって。」

 

 「あくびで眠らせろ。」

 

 「しびれごなで止めて。」

 

ー*-

 

 カグヤとローズのバトルを、記憶喪失の少女は黙って見つめていた。

 

 「厳しいねえ…厳しすぎるよ。こうしたら、いいんじゃないかな?ギギギアル!」

 

 「…むしろ手ぬるいくらいだよね。蹂躙して、ユキコシギギギアル(マハリハグルマ)!」

 

 何も思い出せない。

 

 「アシストギア!」「きんぞくおん!」

 

 そのポケモン達がどんなスペックであったのかも、どんなワザや特性を持っていたのかも。

 

 「「ギアチェンジ!」」

 

 だが、ひとつだけわかることがある。

 

 「ワイルドボルトです!」

 

 「ヒビを伸ばして受け止めて!」

 

 ーバトルを見ていると、心が湧く。

 

 「かげうち!」「ギアソーサー!」

 

 (あたし、記憶を失っちゃう前は、バトルが、好きだったのかな…)

 

 少女の視線の先、空間の亀裂がギギギアルを地面へと叩きつけ、ちびギア2つがマハリハグルマを上下から打ち据えた。

 

 ギギギアルが地面に半ば埋まって戦闘不能となる。マハリハグルマがゆっくりと墜落する。

 

 ローズは、肩をすくめた。

 

 「おやおや最後の1匹ですか…… ちょいとこまりましたねえ…

 

 ですから、どかーんと一発やってみせましょうかね!」

 

ー*-

 

 「あら…?」

 

 カタカタカタカタ...

 

 蒼玻/アオバは、座っている椅子が小刻みに揺れていることに気が付いた。

 

 「地震か…?/あら、地震速報...」

 

 本棚の本が震え、机に置いたコップの水面が波立つ。

 

 「地震なら情報を…」

 

 さすが地震国家日本育ちなだけあり、蒼玻は机の下に潜りこみながら端末で災害情報を調べた。

 

 「…あ、あれ?/どうしましたの?」

 

 右目だけ、困惑に彩られる。

 

 「ほらこれ…/ユキコシメディアの災害情報ですわね。/この地震書かれてないぞ。/更新してみればいいのではありませんの?」

 

 カタカタカタ...なおも机も椅子も揺れ、片手で机の脚を押さえる。

 

 「やっぱりだめだ。というかパルデアメディアでも報じてない。これ学園が勝手に警報鳴らしてるだけだぞ。

 

 /ではこれは地震ではない…ということかしら?」

 

 ー「例えばポルターガイスト現象なんかが起きているとしたらかなり危険な段階だろう。」

 

 令嬢は、肩を震わせた。その震えだけは決して、地震でもポルターガイストでもなかった。

 

 (実体ではなく概念が揺らぐことで起きる異常…?概念災害ってか?/まったくそんなの、冗談じゃございませんわよ!)

 

ー*ー

 

 ローズは、ボールからダイオウドウを出したのと同時に、天へと突き出すようにして一つのマスターボールを掲げた。

 

 地面が揺れ、空がきしむ。決定的にナニカがズレたような世界の中心で、滲み出す「色」が、ダイオウドウを包んだ。マスターボールから解き放たれるのは、赤黒いガラル粒子と金色のBREAKオーラ。

 

 その素性があまりにも暗喩的な粒子は、ダイオウドウの体表にまとわりつき、そして体表を赤黒く染め上げる。

 

 金色の光が、雲のように頭上に舞っている。

 

 「…これで完成するんだね!(ムゲン)結晶(クラスター)!」

 

 ローズに応えるかのように、マスターボールが拍動し、その上に赤黒い光がパキパキと結晶を始めている。

 

 「さあ、動作確認といこうか!

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウ!

 

 赤黒き禍光で身体を満たしたダイオウドウが、けたたましくいななく。

  

 「グレイシア、あんなのただ事じゃないよ。

 

 ゆきげしき!」

 

 「(ムゲン)ダイアースだよ。」

 

 雪が白く染める世界の中、(ムゲン)ダイダイオウドウが地面を前足で踏みしめる。瞬間、赤黒い波導とともに地面が大きく割れ、グレイシアを呑み込んだ。

 

 地割れが閉じ、爆発…

 

 赤黒く染まった地面の上で、それでもグレイシアはなんとか立っている。

 

 「…貴方がユキコシの人間だったら、これを知ってたら、勝てなかったよ。

 

 『ザ・グレイシャル・オールフリーズ』」

 

 氷霧が、視界を遮る。

 

 キン!静謐な音が響き、すべてが沈黙する。

 

 グレイシアと(ムゲン)ダイダイオウドウが、氷像に包まれていた。

 

 「これでチェックメイ」「ダイオウドウ、ヘビーボンバー」

 

 氷像が、砕け散った。

 

 金色の粒子を振り撒き、赤黒い(ムゲン)ダイダイオウドウが宙を舞って、未だ氷像に包まれたグレイシアを踏み潰した。

 

 な…呆然としながら、カグヤがグレイシアをボールへ戻す。

 

 「どうして…」

 

 「無限大のエネルギーを得られる(ムゲン)ダイマックスなのですよ?例え絶対零度の極低温であろうと、繁栄の礎は、消えることはない。

 

 ダイオウドウ、パワーウィップだ。」

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウの長い鼻がグイーっと伸び、カグヤと記憶喪失の少女を薙ぎ払った。

 

ー*ー

 

 ぐったりと倒れ口の端から血を垂らすカグヤに、記憶喪失の少女はとっさに覆いかぶさった…それは、少女が、例え記憶を失くしてもなお本能的に誰かを守ろうとする誇り高い人物であることを示していた。

 

 目の前に、ドス赤黒い(ムゲン)ダイダイオウドウが、金色の粒子を撒き散らしながらドスドス迫る。

 

 「お願い、出てきて...!」

 

 記憶喪失の少女は祈りながらボールを握り締めた。

 

 少女には、そのボールの中身は思い出せない。当然、それが強いのか弱いのかもだ。けれど、今はもう、そう願うしかなかった。

 

 「さて、過去の亡霊、弱さ、ためらい、忘れ物よ...

 

 …消えてもらおうか。ダイオウドウ、(ムゲン)ダイコウジン。」

 

 無数の鋼刃が、包み込むようにカグヤと記憶喪失の少女を取り囲む。

 

 「カグヤさん...っ」「だめ、私をかばっちゃ...!」

 

 そして、鋼の雨が降ったー

 

 「あらあらあら/さあさあさあ」

 

 -そのすべてを、ピンクダイヤに受け止められるかたちで。

 

ー*-

 

 (ごめんなさい蒼玻くん。わたくし少々…キレて、おりますわ。

 

 /俺もだアオバちゃん。止められる気がしないな。)

 

 「会談をずっと待っていたら地震が起きて様子を見に外に出てみれば/何を、わたくしの妹と客人に手を出しておりますのかしら?ローズ相談役?」

 

 「ダンデくんは100回話してもわかってくれませんでしたからね。話すまでもない、ということですよ。

 

 きみたちからしてみれば、私は酷いことをしているんだろう。けれどこれはガラル地方が永遠に安心して発展するための…そしてひとりの女の子のささやかな想いを叶えるための、崇高な計画、必要な犠牲なんですよ。

 

 伸びすぎた枝は剪定しなければならない…いいかね?

 

 ガラルの未来を守る計画を、ジャマするなんてもってのほかなんですよ!」

 

 「心の底からどうでもいいわ。/『てめーは俺を怒らせた』、今言うべきこととするべきことはこれだけだろ。」

 

 ”「はい。準備も、できています。」”

 

 「誇り高き俺たちの燦然、誰にも超えられはしないさ/直視すること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!」

 

 蒼玻とアオバー同じ景色を同じ身体から見る2人の心が、それぞれに結んだディアンシーとの絆。それが、2人の恋心を架け橋にして同時にディアンシーの力を呼び覚ます。

 

 「「デュアルメガシンカ!」」

 

 禍々しく赤黒い(ムゲン)ダイダイオウドウと、清楚なピンクの光を放つデュアルメガディアンシー。

 

 対象的な2体の、決闘が始まった。

 

 「(ムゲン)ダイコウジン!」「ダイヤストーム!」

 

 無数の鋼刃とピンクダイヤがお互いを削り合う。

 

 「ヘビーボンバー!」

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウの ヘビーボンバー_(Infinite)BREAK!

 

 「迎え撃ちますわよディアンシー!」

 

 -デュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!

 

 真上から落下する(ムゲン)ダイダイオウドウの超重量に対して、デュアルメガディアンシーは手のひらに光を集めてピンクダイヤの細剣とし、凛として、真上へピンと構える。

 

 「踏み潰すのですよ!」

 

 「軽々しく足蹴にしようなどと、舐められたものですわね!」

 

 (お姉ちゃん、ディアンシーはデュアルメガシンカでも軽すぎるしはがねタイプワザのヘビーボンバーはBREAKなしでも4倍、厳しいよ…!?)

 

 (タイミングは一度だけ、ですわよ?/ああ、俺たちのメガシンカ維持的にも、ダイオウドウを打ち抜くタイミング的にもな。)”「はい…!」”

 

 アオバ、蒼玻、ディアンシーの心は、同時に0に止まる時計の針のように一致し重なった。

 

 -デュアルメガディアンシーは ジオスケールを 発動した!

 

 -デュアルメガディアンシーは アクセラレーション状態に なった!

 

 瞬間、生物の想像もつかぬほどの長規模を持つ地質学的時間事象が、生物学的時間に圧縮された。

 

 デュアルメガディアンシーが、数百万年かかって生成されるダイヤを数秒で生み出すのと同じようにして、数マイクロ秒のうちに数秒かかる動作を終わらせるー光のレイピアを振り斬り、駆けるという単純な動作を。

 

 そして、赤黒き巨象、(ムゲン)ダイダイオウドウは、デュアルメガディアンシーの姿が消えたその場所へ落下した。砂塵が舞い、地面がひび割れ、視界のすべてがさえぎられる。

 

 デュアルメガディアンシーが、デュアルメガシンカと時間加速の負荷に耐えきれず手を地面につける。

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウは砂塵を振り払ってドシンと振り向き、デュアルメガディアンシーと向き合い...

 

 …横倒しに横転した。

 

ダイオウドウを覆っていた赤黒いオーラが霧散...せずに、ローズが握るマスターボールへ戻っていく。金色のBREAKオーラを巻き込んで。

 

 グラグラグラ...!

 

 島が大きく揺れる。ガラスが割れ、道路がヒビ割れ、雲がひしゃげ、海が湧き、山が崩れる。

 

 「な、なに…?これは…」

 

 視界のすべてが、毒々しい色に彩られる。

 

 「簡単なことです。

 

 ダイオウドウへ授けていたコレのオーラが戻っていく…それに誘発されて、島中に広がっていたオーラも本来の持ち主へと収束しているんですよ。」

 

 ローズは、濃密な赤黒いオーラでほとんど見えなくなっているマスターボールを掲げ、そう言った。

 

 「…そんなわけ…!一つのポケモンのBREAKオーラが、本当に島を覆うなんて…!」

 

 ーそれができるとすれば、それこそ神格級。

 

 「ローズ、お前が持ってるそのマスターボールの中身、やっぱり/貴方、まだ懲りてなかったのですわね…!」

 

 「…私がそう簡単にガラルの永遠を諦めるとでも…

 

 …おや?」

 

 目眩と、空中に投げ出されたかのような浮遊感と、とてつもない不安…それらがいっぺんに、グランデ・コンティネントの全住民を襲う。

 

 フロックス姉妹も記憶喪失の少女もまた、その果てしなく不快で不穏な感覚に思わず顔をしかめ目をつぶり…

 

 …再び目を開いた時、島の景色は完全にもとに戻っていた。

 

 島全体を禍々しく彩るオーラも、自分の存在の根底から差し迫る不快も、数秒の間にすっかり消え去って、青空とブルーの海が囲む島の風景に、人々の喧騒が聞こえてくるーそのただ中で、ローズから、彼が手に持つモノから、目が離せない。

 

 正二十面体の、結晶。

 

 赤黒紫の、カケラ。

 

 「それは…!」

 

 BREAKオーラすなわち強大なポケモンの強さのイデアーそれも島一つをまるまる覆うほどの途方もないものーそのすべてを凝縮し結晶した、それはつまり。

 

 「完成だ…!

 

 ムゲンダイナの…カケラ!」

 

 ブラックナイトがどうとかローズの企みがどうとか、そのような考えはその場の全員から消え失せていた。それよりも、本能で理解できるのだーアレは、ムゲンの神の強さと権能のカケラは、この世界にあってはならないものだと。

 

 「お姉ちゃん、追わなきゃ...ってお姉ちゃん?」

 

 カグヤは走り出そうとして、ガクリと姉が膝をついたので慌てて立ち止まった。

 

 「うぅ...デュアルメガシンカの負荷だ...頭痛薬欲しい…/ア、アスピリンで心は癒せませんわよ…」

 

 カグヤはつかの間逡巡した…が、最愛の姉と、世界への禍い…どちらを気にすべきかなんて、言うまでもない…かくて、ローズは逃げおおせたのだった。

 

ー*ー

 

 「あれほど強大なポケモン、1つしか知られておりませんわ。」

 

 ローズが口にしたとおりだ…マスターボールの中身は、無限のエネルギーを秘めるとされるムゲンダイナに間違いない。あれならば学園島グランデ・コンティネントをおのれのBREAKオーラで覆い擬似的なBREAK力場とすることも可能だろうし、シンオウ三神ならばともかくそのような強大なポケモンが他にいては困る。

 

 「ローズはプライベートジェットで帰国のため離陸したのが確認されたらしい。ここにはカケラを回収しに来てたみたいだな。たぶんガラル本土じゃカケラを育てる時の余波を隠し切れなかったんだ。」

 

 すんでのところで取り逃がした…蒼玻がほぞをかむ。ブラックナイト時のローズの「ムゲンダイナの無限のエネルギー利用」という目的ならばわざわざ学園島でムゲンダイナのカケラを作る理由はないのだから、よりロクでもないことが起きるに決まっているのだ。

 

 「それだけじゃないよ。ローズはこの子を消すつもりだった。

 

 この子と、たぶんこの子の失われた記憶。きっとローズの計画にとって重要で、目障りで、予期しないものだったんだよ。」

 

 「あたし、そんな…何も悪いことしてないはずなのに…」記憶喪失の少女がうつむく。

 

 「貴女が悪いわけではありませんわ。けれど放ってもおけないですわね。

 

 わたくしたちも飛びますわよ、ガラルに。貴女を知り、そしてローズを阻止するために。」

 

ー*-

 

 「コンフリー、なぜラスト団は、グランデ・コンティネントでムゲン団と手を組んだのです?」

 

 「伝説ポケモンの頂点の一つだろうかの破壊神を制御するため、ラスト団には対抗し得るような強力な伝説ポケモンの力が必要だった。Copied_Legendの目的はワカナエの防衛ではなく、それだ。

 

 一番向いている、期待値が高いのはテラパゴスだった。テラスタルという形式で多くのポケモンに容易く力を付与するから、伝説ポケモンそのものではなくその力を付与した機械を制御すれば上の上だろう。

 

 しかしテラパゴスを直接ユキコシに招いても大したBREAKオーラは生成できない。いくら強くても収量効率が悪い。数日ではカケラを形成してはくれない。

 

 ムゲン団との密約は渡りに船だった。強き者の力をBREAK力場を通して継承するBREAK力場(フィールド)システムを用いれば、伝説ポケモンの力のコピーができるから協力してほしいという申し出はね。」

 

 「やってることはユキコシ2000年の歴史と同じと考えていいんです?

 

 BREAK力場(フィールド)存在下では、強いポケモン(ムゲンダイナ)はその強さをオーラとして蓄積させる。蓄積したオーラはそれ自体が力場となり、他の強いポケモン(テラパゴス)のオーラをも存在させられるようになる...

 

 …そして、あまりにも強いポケモン(ムゲンダイナ)は、よりしろさまのごとく、そのあふれ出るオーラが実体化・析出し、他者へ自らの力を分け与える結晶(カケラ)を作り出す…」

 

 「ああ。あれは歴史の促成再現ってわけだ。

 

 向こうはBREAK力場系をムゲンダイナに植え付けるテクノロジーと、カケラ化するまで育てる場所がほしかった。こちらはムゲンダイナの無限のエネルギーが形成する疑似BREAK力場(フィールド)の中でテラパゴスがその強さを見せればステラーシステム用のテラパゴスのオーラ結晶が得られる。利害は一致した。そして、ムゲンダイナのカケラを彼らが必要とする大きさに結晶させるには、それなりの時間と機密秘匿が必要だった…」

 

 「だから、ガラルではなく、フロックス管理下の孤島で、多少の異常はバトルや研究によるものとごまかせる学術研究施設内でやったのか…」

 

 「再編している以上そろそろ気づいただろうね。

 

 というかローズが警戒しないわけがない。ムゲンダイナはBREAK力場(フィールド)展開とオーラ蓄積のため島に隠しっぱなし、ラスト団は解体され、持ち出し損ねた機密は捜査されている…ボスから預かったムゲンダイナを押収されてムゲン団の存在がバレるわけにはいかないだろう。」

 

 「フロックスとムゲン団の衝突はもはや目前であると?」

 

 「そして、フロックスの壊滅もだよ。

 

 キミのゼルネアスとイベルタルなど児戯でしかない。ムゲンダイナは文字通りの神格(The Infinite)だ。

 

 まして、最強のチャンピオンが無限の力を手にするというのに、ニワカ令嬢ごとき...期待値を計算するのも非効率だよ。」

 

 「…コンフリー、そのような強大な存在があっては、私たちホープ団のユキコシ奪還に差し障ります。

 

 なぜもっと早く報告してくれなかったのです。貴方は私の部下だと言うのに。」

 

 「必要がないからだよ。」

 

 「必要がない?」

 

 「ムゲン団のボス、チャンピオンユウリ...

 

 …そんな夢幻に気付かずにいる間は、ムゲン団は、例えどんなに強大な力を授かり勝利を重ねようと、無敗の敗北者のままだからだよ。

 

 これから始まる衝突...全員が、みじめな敗者だ。」

 

 

ー*ー

 

 「…というわけですわ。」

 

 「なるほど、コンジキ大まで届くオーラ異常など何事かと思ったけど、ムゲンダイナのBREAKオーラ、その収束と結晶化、か…

 

 ロクでもないことになっているね。そして、これはまだ始まりに過ぎないんだろうね。

 

 そういうことなら知り合いを紹介するよ。ムゲンダイナについての知見を我々ユキコシ本草学は持ち合わせない…ポケモン博士、ガラルの有識者の協力が必要だろう。

 

 ホップ博士に連絡をとりたまえ。」

 

ー*-

 

 ガラル地方、シュートシティ。

 

 空港でフロックス家プライベートジェットを出迎えた青年は、名乗るのもそこそこに、こう口にした。

 

 「君は、ユウリ...!?」

 

 記憶喪失の少女は、ホップ博士のその言葉に、ただ首をかしげるのみである。

 

 「「…はぁ!?」」

 

 令嬢姉妹の叫びが、空港にこだました。




・BREAK力場、オーラとは概念、情報、イデアを存在させ、保存し、受け継がせることができる概念素子の力場

・ローズたちムゲン団は何らかの目的のためにムゲンダイナにBREAK力場(フィールド)システムを植え付け、オーラ結晶を育てた。

・ラスト団はムゲンダイナから展開されるオーラの力場を使ってテラパゴスの強さのイデア(オーラ)の結晶を採取した。

・記憶喪失の少女=ユウリ...?
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