少女たちの無限夢路_Summer&Cosmos   作:十二の子

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 Q:本作でホップとソニアは付き合ってますか?

 A:転生ポケモン令嬢#39でソニア博士がカクミガシ博士に電話した時に「博士とかチャンピオンとか集めて」とホップのことを個別に紹介しなかったので、要するにそう(意識してない)。他のムゲン団創作だとホップとソニアの子どもが旅立つ年齢になるほど時間が経過しているけれど本作ではせいぜい数年なので、これから恋が始まるのかもしれません。

 Q:ホップ、ソニアの助手とか博士見習いじゃなくてもう博士なの?

 A:まさか。カクミガシ博士はユキコシ本草学であって(主流)ポケモン学に所属してないので十把一絡げにしてるだけ。

 Q:ユウリは成長してますか?

 A:してます。ムゲンダイナのおかげで姿が変わらなくなったりはしていません。だいたいムゲンダイナ、数か月以上パルデア沖の島に埋まってたし…

 Q:記憶喪失の少女が持ってる「開かないボール」ってもしかして?

 A:本作ではザシアンです。ソード版ムゲン団。



±3/∞ 無限の力_The World Is Shocked

ー*-

 

 前ガラルチャンピオン、ダンデ。

 

 かつて最強だった男は、再び、そして今度はチャレンジャーとして、チャンピオンタイムに挑んでいた。

 

 「キミを賞賛できない。キミの描く未来を、作りだす伝説を、楽しみには思えない。

 

 ユウリ、キミを倒す。

 

 もう、チャンピオンタイムは終わりだ!終わらせるッ!

 

 リザードンの本気をみせよう! キョダイマックスタイム!!」

 

 「…あたしね、つい最近、新しい力を手に入れたんだ。

 

 …ウーラオス、BREAK進化。」

 

ー*-

 

 「記憶喪失...そうか…そんなことになってるんだな…」

 

 学園島グランデ・コンティネントから連れて来られた、髪色の抜けた少女は申し訳なさそうにうつむいた。

 

 「確かに変なんだぞ。ユウリは今日もSNSに呟いてるしテレビに出てるんだぞ。

 

 …でもオマエはユウリなんだぞ。ユウリのことはオレが一番わかるんだぞ。」

 

 「あたしは、ユウリ...」

 

 「そうなんだぞ!ガラルで一番のトレーナー、オレのライバル、ユウリなんだぞ!」

 

 「そう、なんだ...」

 

 実感がわかない…少女はどこまでも申し訳なさそうだった。

 

 「ごめん、あたし、あなたのことも、ユウリさん...?のことも、思い出せない…」

 

 (アオバちゃん、してやられたな…

 

 /…ですわね…行方不明の人物、消息不明の有名人とは一致しませんでしたので正体不明に思っていましたが、よもや今もメディア露出している人物の色違いであるとは…

 

 /どう思う?昔馴染みが本人だって言うんだから親戚とか他人の空似でもないんだよな。でも今も元気にチャンピオンしてるユウリもいるんだよな。そっちだってニセモノだったら誰かにバレるだろ。

 

 /ドッペルゲンガー、ということかしら…?

 

 /いずれにせよローズ相談役は知ってたんだな。ユウリのそっくりさんだかドッペルゲンガーだかがいては困ることがあった、それにこの子の魂が「薄い」...チャンピオンユウリから分離した、言うならばユウリBとかユウリβって感じの存在じゃないのか?)

 

 「お姉ちゃん、ユウリさんに会って問い詰めなきゃ。

 

 ローズ相談役のこと、ムゲンダイナのこと、この子とこの子の記憶のこと…

 

 …全部、彼女につながってる気がするよ。」

 

 「ですわね…して、チャンピオンは今どこに?」

 

 「オレもそう思って、今から電話しようとしてたんだぞ。

 

 …もしもし、ユウリ、今」

 

 -「もしもし、ホップだよね?」

 

 「そうなんだぞ。それでユウリ、聞きたいことが」

 

 ー「あなたのため...ううん、全部、あたしの自己満足だから、ホップは気に病まないで。

 

 じきに全部終わるから。間違いも正されるから。だから...

 

 …『今度』はもっと、いい出逢いを。」

 

 「…!?ユウリ?ユウリ!?」

 

 むなしく、通話は切れる。

 

 それと同時だった。

 

 視界のすべてが、赤黒い光に包まれた。

 

 「なっ…なんなんだぞ!?これじゃブラックナイトみたい、いやもっとヤバイんだぞ!」

 

ー*-

 

 コンジキ大学、カクミガシ研究室。

 

 堆積した書籍の地層の中で、カクミガシ博士はPCと睨み合っていた。

 

 窓の外の空が、真っ赤に染まっている。

 

 室内も、うっすらと赤みがさし、そして金色の粒子がいくつか舞っていた。

 

 オーラ計測アプリの画面は、BREAKオーラが完全にフルチャージとなり、拍動状に波形を見せている。

 

 「これもムゲンダイナのBREAKオーラか…」

 

 ニューズ画像もSNSも、ガラルカロスパルデアイッシュホウエンシンオウカントーユキコシアローラ...世界中から、景色が赤黒く染まっている動画を映していた。

 

 「これほどのエネルギー...ユキコシ地方が2000年かけて作り上げたもの(力場)を一瞬で生み出して全世界を覆うなんて、歴史への冒涜だよ。

 

 こんなことができるのは...ムゲンダイナか。しかし世界を単一神格のBREAKオーラで包むなんて、なんのために...

 

 

 アオバくん、急ぎたまえ...!」

 

ー*-

 

 空も、街も、毒々しく染まっている。

 

 金色の粒子が、そこかしこを雪のように舞っている。

 

 ガラル粒子とBREAKオーラのハイブリッド...間違いない。ムゲンダイナのBREAKオーラが、ガラル、いや全世界に一斉に展開したのだ。

 

 「…アレを見るんだぞ!」

 

 ホップが指さす先...シュートシティの摩天楼の真上に、金色の雲が渦巻いていた。雲の中心からは金色の腕...そして巨大な掌が、市街そのものを握りつぶさんとするかのように降りている。

 

 「ムゲンダイマックス...にしても、大きすぎるんだぞ!」

 

 「金色の体表...ムゲンダイマックスBREAKというわけかしら…」

 

 「でも、BREAK進化でも普通は巨大化なんてしない…相乗効果で無茶苦茶なことになってるよ…早く止めなきゃ何が起きるか…!」

 

 「それなら、早くあそこへ…

 

 …ムゲンタワー最上階へ行くんだ。」

 

 ボロボロのキャップをずり落とさせながら、男はタクシーから転がり落ちた。

 

 「アニキ!?どうしたんだぞ!?」

 

 「やられてしまったよ…」

 

 あえなく、あっさり、あっけなく...かつての最強チャンピオンは敗北した。敗北したのだ。

 

 「とにかく、ユウリはムゲンタワー最上階にいる。」

 

 金色に輝く巨大なムゲンダイマックスの真下に、なるほど、時計塔がわずかに見える。

 

 「ムゲンダイナはユウリが持ってるし、この異常の震源もあそこだ。

 

 ローズもマリィも…マクロコスモス全部が再び敵に回った。

 

 早くユウリを止めろ。アイツは本気で...本気で、世界を掌握するつもりだぜ。」

 

 「ああもう、わかりましたわ。わかりましたから…こんなにボロボロじゃありませんの!」

 

 「アニキ、早く病院に行くんだぞ!ポケモンたちだって傷ついてるんだろ!?」

 

 「そうしたいんだが追手がな…

 

 ちっ...!」

 

 後方から、アーマーガアに騎乗した白いスーツの男たちが飛んできていた。

 

 「…アニキ、オレたちに任せるんだぞ。

 

 行け、エースバーン、カビゴン!」

 

 「今ユキコシ領事館に迎えを頼んだから黙って待ってて!

 

 お姉ちゃん、それまでの時間稼ぐよ!グレイシア!」

 

 「それまで?こんなの前哨戦だろ。こっから始まるんだよ…イーブイ!/BREAK力場(フィールド)アリの状況で、ユキコシの至宝ともあろうわたくしが、負けるわけにはまいりませんわね!はつげんちょうせい、サンダース!」

 

 ホップ博士のエースバーンが火球を打ち出し、カビゴンがおもいきり跳び上がってヘビーボンバーを空からかます。

 

 グレイシアのふぶきが、騎乗するトレーナーごとアーマーガアたちを呑む。

 

 遺伝子の変化で一時的にサンダースへ進化したイーブイが、追手のトレーナーが出したポケモン達に片っ端から雷を落としていった。

 

ー*-

 

 無限の未来に向けて時を刻む、巨大な時計塔。

 

 シュートシティの新たなシンボル。

 

 ムゲンタワー...その入り口を、多くの白いスーツのトレーナーたちが守っている。

 

 幾人かの人々が、この異常事態について何かの助けや言葉を得ようとやってきては、門前払いを受けている…

 

 …その真正面に、半ば突進するかのように、ユキコシ地方の旗を掲げた高級公用車は突っ込んだ。後ろを尾いてきていた白スーツたちが、外交問題を恐れているのかこわごわと遠巻きに見守っている。…一方公用車の中の人たちにしてみればユキコシ一の名家だけあって外交問題など知ったことではないし、そもそもそのようなことを言っている場合でもないとわかっていた。

 

 「サンドスローイング!」「ごう・みっかみばん!」

 

 出し惜しみはしないーユキコシ地方の偉大なぬしポケモンこと「よりしろさま」からいただいた特別なワザは、砂柱と呪焔となってタワー入り口の白スーツたちを呑んだ。

 

 「今だバイウールー、すてみタックル!」

 

 バイウールーが、崩れ落ちる砂柱へと突っ込むー轟音。砂埃が収まるのを待たず、蒼玻/アオバ、カグヤ、ホップ、記憶喪失の少女は、破壊されたムゲンタワー入口から内部へと侵入した。

 

ー*-

 

 「やっときましたか。

 

 ですがもう手遅れです。」

 

 「そこを通してくださりませんこと?ローズ相談役。」

 

 男はボールをすでに構えていて...そして、彼の決意を、志を、若いころからの夢を告げた。

 

 「この上にあるのは、私たちの希望なのです。

 

 行かせるわけにはいきません。ガラルの無限の繁栄と栄光のために。

 

 行け、ニャイキング!」

 

 「…私一人じゃわかんないね。ホップ博士、手伝ってもらえる?」「ああ。ここはオレに任せて、アオバさん、ユウリ、先に行くんだぞ!」

 

ー*-

 

 「話をさ、したかったんだ。」

 

 少女は淡々と、何かを慈しむように、蒼玻/アオバと記憶喪失の少女に背を向けたまま言った。

 

 「ダンデさんじゃ、ホップの身内だしさ。それに女の子同士でしかできない話って、あるけんね?」

 

 他人には聞かせられない話だと。

 

 「あ、あたしに...?何も、あたしにはわからない、思い出せないのに...?」

 

 「だから...だから、まっさらなあなたがどう思うか、あたしはそれに託したいんよ。

 

 あたしにはもう、あの子(ユウリ)に何か言う資格もないから…」

 

 資格があるとすれば、タワー中部へ訪ねてきたこの2人だけだと。

 

 「…それで、なんの話なのかしら?それにお名前は?」

 

 「あたしはマリィ。ムゲン団の創設者で、それで...

 

 ...ユウリの友達。」

 

 「創設者...

 

 ...にしては、浮かない声色ですわね。」

 

 「全部、話さなくちゃならんね。

 

 あたしが何を間違えて、どうしてこんなことになってしまったのか。」

 

ー*-

 

 「戻って、ビビヨン」

 

 「ナットレイ、戻ってくれ。

 

 ...ちょいと、困りましたねえ。ですからこれで、状況をよくしたいですねえ...」

 

 ローズの手の上、モンスターボールがぐんぐんと大きくなり、それに伴って金色の粒子をまとっていく。

 

 「…アレが、(ムゲン)ダイマックス...?

 

 そんなに大きくもないしキョダイマックスみたいに変化もないんだぞ...?」

 

 出現した、体表が赤黒く染まったダイオウドウ。その頭上の金色の雲を見上げながら、ホップが首をかしげつつエースバーンを出す。

 

 「そうじゃなくて...

 

 ...ファイアロー、フレアドライブっ!」

 

 「ダイオウドウ、パワーウィップ」

 

 ありえない、信じられないことだった。パワーウィップは草タイプワザ、フルスイングしたとて、炎タイプでタイプ一致のフレアドライブを弾き飛ばすなど。

 

 「大きさが変わらないから弱いとかそんなんじゃなくて...」「デカくならないぶん詰まってるってわけか。理解したんだぞ...

 

 エースバーン、にどげり!」

 

 「ダイオウドウ、アイアンヘッド」

 

 エースバーンもまた、渾身の蹴りを頭突きの一突きで弾き飛ばされる。タイプ相性など慰めにしかならないと言わんばかりだった。

 

 「だったら遠隔攻撃だよ!ファイアロー、だいもんじ!」「エースバーン、きあいだまだぞ!」

 

 「ダイオウドウ、(ムゲン)ダイコウジン」

 

 無数の鋼片が出現し、ファイアローとエースバーンの砲撃を爆発させてかき消す。

 

 鼻を振り回す巨象に、カグヤもホップも手がつけられず、ファイアローとエースバーンを遠まきに見守らせるしかない。

 

 「…ローズさん、オマエ何を企んでるんだぞ…?

 

 オレにはわからない。ブラックナイトと違ってポケモンが無差別に暴走するでもなく、ただムゲンダイナのオーラで世界を包んで…ローズさん、何をするつもりなんだ?何が狙いなんだ?何がしたいのかわからないんだぞ?

 

 ユウリを巻き込んで、どうしてこんなことをしてるんだぞ?」

 

 「ユウリさんを巻き込んでどうして…ですか…

 

 もとはと言えば、ホップ博士、あなたが元凶なんですよ。」

 

 「…え…オレ...?」

 

 「きみが狙いで、ユウリさんは私達を集め、ムゲン団を作ったんですよ。」

 

ー*-

 

 「最初は、ムゲン団なんて、ジョークだったんよ。

 

 ホップのチャンピオンになる夢を壊して、あの子はどうしたらいいか...申し訳なさそうにしてた。自分が強すぎた、トレーナーの才能が有りすぎたせいで、幼馴染の、好きな人の夢を奪っちゃったんだから、当然だよね。

 

 『あたしはホップを好きでいる資格ないんじゃないかな…』って、ときどき愚痴を聞いて...

 

 ...それで、ついぽろっと言っちゃっんさ。

 

 『せっかく無限の力を持つポケモン(ムゲンダイナ)を持ってるんだから、時でもなんでも超えてやり直せたらどんなによかばい』って。」

 

 「それは、『あの時ああしていればもっと良かったね』という、あくまで戯れ言、ですわよね...無限のエネルギーだけでは因果律を覆せるわけではございませんし…」

 

 -時間を操る力の一つ、デュアルメガディアンシーの「ジオスケール」を使っているからこそ言えることだった、時間操作はそういうものではない、と。どんなに強い爆発を起こせたって、それでタイムマシンになるわけではない、と。

 

 「そう。

 

 けれどあの子は、あたしが思ったより悩んでて、それである時、あたしに言ったのよ。

 

 『ムゲンダイナの力で過去を変えよう』って。

 

 過去に行けるわけないってわかってて、最初、あくまで気晴らしだと思って、ユウリの応援団のつもりで...

 

 ...気づけば、遠いところまで来てしまったたい…」

 

 立場だけではない。心も。

 

 「…ユウリさんは、もうひとりのあたしは、あの異常なムゲンダイナ…?で、何をするつもりなの…?」

 

 記憶喪失の少女の素朴な問い。マリィの答えもまた、簡潔だった。

 

 「世界の改変よ。」

 

 「世界の…改変?」

  

 「『過去』がどうやっても変えられないのなら…

 

 …あたかも『過去』が『そう』であったかのように、『今』を変えてしまえばいい。逆宇宙5分前仮説って言ってたとよ。」

 

 口にしたマリィすら、自分の言葉の意味にピンときていない様子だった…が、蒼玻だけが、その意味を理解できた。転生者だけに、SFの類に明るかったからだ。

 

 「『過去干渉』ではない。過去の歴史を含めた現在すべての『現実改変』…

 

 …それなら因果律こそ破綻していないけど、そんなこと、可能なのかしら?だってそれは、過去の一点への干渉ではなくって、過去のあるできごとに影響を受けている現在のすべての改変よね?」

 

 ホップを過去でチャンピオンにするために、過去干渉ならたったひとつ、過去でユウリがホップに勝たないようにするだけだ…だが現実改変ならば、ユウリではなくホップがチャンピオンになる「過去」によって影響を受けるすべてのこと…バトル記録、書籍紙面、地位立場、各種電子データ、所有ポケモン、そしてもちろんそれらに付随する全人類の記憶…それらすべての「現在」を改変しなければならない。

 

 因果律こそ破綻しない。だが、記憶も記録もすべてを改変してあたかもホップがチャンピオンとなったかのように世界そのものを改変する…という途方もない試みは、タイムスリップよりよほど無謀に思えた。

 

 「それでもユウリはそうしたがってる。例えそれが…現実改変が、今あるこの世界、この歴史を消し飛ばすことと同義だとしても。

 

 そして、ムゲンダイナの無限のエネルギーと、BREAKオーラの概念・情報素子としての機能なら、それができるけんね。」

 

 「できるったって…

 

 /それだけの覚悟を、彼女は固めている。それがどんなに盛大で、重大で、犠牲を出しうるものか気づいたうえで…かしら?」

 

 「あたしも、ローズ相談役ですら、何度も忠告した。だけど…

 

 …ユウリは諦めてくれなかった。ううん。すべての罪は自分で背負うって…」

 

 バタフライエフェクト。少しの歴史の改変も、未来でどのような影響を及ぼすか計り知れない。バタフリーの羽ばたき一つで竜巻が起きうる…だというのにユウリのプランは、「過去に〇〇であったことにする」現在の改変で、要は「過去にバタフリーが羽ばたいたことにするために、現在に竜巻を起こし多くの死傷者を出す」ような罪深い行為なのだ。にもかかわらず、ユウリはそれを理解してなお、私的な後悔のために突き進んでいる…

 

 「説得は無意味、ということですわね…」

 

 「ムゲン団を解散しよう、何度も元エール団のみんなと相談したんよ…

 

 …でも、今のユウリをひとりにしておけない。それに、ひとりになっても本当にひとりで戦って、世界を書き換えるまで辿り着いちゃう。…だったらせめて、あたしはユウリに、寄り添ってあげたい。いっしょに背負ってあげたい。

 

 あたしの話を聞いて、どう思ったとよ?もう一人のユウリ。」

 

 「あたし、は…」

  

 突然の、記憶喪失の少女への問いかけ。

 

 「何も思い出せないあたしに、あたしと同じ人だって言われてるそのユウリって人のいろんなことを何も知らないあたしに、何かを言う資格なんて…」

 

 「…わたくしの大切な人の言葉を、貴女に伝えますわ。

 

 /ユウリちゃんのドッペルゲンガー。お前は、お前の心が叫ぶままに、したいことをすればいい。

 

 記憶がなくても、存在の理由もわからなくても、お前の貫きたい想いは、矜持は、湧き上がってくる気持ちは、そこにあるんだろ?」

 

 ーそして、うつむいていた少女は、顔を上げた。

 

 「あたしは…

 

 …あたしは、もうひとりのあたしは、間違ってるって思う。

 

 大事な人のためだって、世界を、歴史を捧げるなんて、そんなこと、あたしだったら、ホップさんだって、絶対望んでないよ。それに、うまくなんていかないよ。

 

 ありがとう、マリィさん。きっともうひとりのあたしは、寂しくて、かわいそうで、考えすぎで…そんなあたしに、手を差し伸べてくれて。こんなあたしも、見捨てないでくれて。」

 

 「マリィさん…か…

 

 おねがい、行って。あたしじゃ、勝てんけん。」

 

 マリィが指差す方へ、蒼玻/アオバと記憶喪失の少女の2人が走り出す…途中で、蒼玻/アオバは振り向き、ふと尋ねた。

 

 「最後に一つ、お聞きしてもよろしくって?

 

 もし貴女が、本当にムゲンダイナで過去を変えられるとしたら、どうするつもりでしたの?」

 

 「…私が過去に戻れるとしたら…

 

 …私が過去に戻るとしたら、ムゲン団なんて作らない。

 

 落ち込んでるあの子を、街に連れ出してあげるんだ。」

 

 とまれ、過去は変えられないーマリィは、寂しそうに微笑み、純白髪の令嬢と無色髪の少女を見送った。

 

ー*ー

 

 「途中まで、私も、ユウリさんを止めるつもりでいました。しかし彼女は、自分の弱い部分をドッペルゲンガーとして外に切り離してまでして、そして言ったのです…

 

 『…あなたもまた、前リーグ理事長としてあたしのジムチャレンジを見守り、そしてマクロコスモスの陰謀というカタチであたしとホップの旅路を大きく左右した…だったら、直接に事象の改変をしていなくても、あたしがチャンピオンになる路を舗装してホップみたいなみんなの夢を踏みにじってきたことは同じでしょ?なら、今さら、現実改変でその逆を、ホップが過去でチャンピオンになる事実を作るためにたくさんの人の現在を弄んでも、構わないでしょ?』

 

 …ムゲンダイナのBREAKオーラを用いた現実改変は、この世界全体を任意のタイミングで望むように書き換えられます。あくまで副産物ですが…」

 

 かつてローズがムゲンダイナの無限のエネルギーをガラルの1000年後の繁栄に活用するため「ブラックナイト」を起こしたことを思い出せば、その「副産物」の意義は明らかだった…「任意のタイミングでの現実改変を可能にする」ーそれは、ガラルの繁栄に翳りが見えたタイミングで、衰退もそれに至る過去もまるで存在しなかったかのように現在のすべてを書き換えられるということを意味する。

 

 「永遠に続く繁栄の保証書を得られるのなら、すこし世界をいじるくらい、必要な犠牲だと思いませんか?

 

 それがひとりの女の子のささやかな想いを叶えるためというならなおさらです。

 

 まったくの部外者と元凶...キミたちにそれを止める資格と覚悟があるというなら、かかってきなさい!」

 

 ホップ博士の表情が、かげっている。

 

 「ふん。」

 

 だが赤いドレスの妹令嬢は違ったー鼻で笑ったのだ。超がつく名家の継承第1位のお嬢様ともあろうものが。はしたなくも。

 

 「…何が言いたい?」

 

 「ユウリさんには同情もするよ。大事な人を自分で傷つけちゃったら、誰だってパニックになる。私だってわかるよ、前にそれで一回世界に穴開けて壊しかけたもん。」

 

 ー「お前は、姉の姿をした者のとなりにいて感傷を慰めていただけだ。」

 

 ー「おままごとはもはや終わりだ。」

 

 ー(こんな、こんな世界、もう、もう...!壊れてしまってもかまわない、お姉ちゃんのいない世界なんか!)

 

 「だけどローズ社長、貴方は違う。貴方は自分のエゴの言い訳にユウリさんの後悔と恋を使ってるだけだよ。」

 

 「なんだと…!」

 

 「1000年後のことなんて1000年後の人間に任せればいいんだよ。私たちフロックス家は、ユキコシ人はそうやって、1000年後にも知恵を受け継ぎ力と志を蓄えてその時その時の内憂外患に立ち向かって生きてきた。

 

 貴方が入念に進めたはずのブラックナイトだって、居合わせたトレーナーたちに鎮められた。無限に続くエネルギーや保証書なんてなくたって、人とポケモンには無限の可能性があるんだよ。それが1000年積み重なって、未来が真っ暗だって?」

 

 「…貴様に何がわかるッ!

 

 私たち大人が、どんなに子どもを、未来を、子々孫々を心配しているか…ッ!

 

 夢見がちな子どもの理想論と希望論だけで、未来は、ガラルは守れないのがどうしてわからない…ッ!」

 

 激昂。

 

 「そうだよ。

 

 私には何もわからないよ。

 

 お姉ちゃんのためだとばかりおみや巡りの旅に出て、厳しい帝王学と経営の修行をしながらも傀儡化されたお姉ちゃんに付いていられなくて、せっかくのトレーナー修行の成果も肝心なときに活かせなくてお姉ちゃんのピンチを蒼玻くんに任せてるだけ、そんな無力な存在が私だよ。」

 

 それはカグヤが蓄えてきた、溜め込んできた、自らへの憤りだった。

 

 「私を邪魔する力もない、資格もない、そんな分際でよくもガラルの未来について私に説教できるね?」

 

 「…ううん、これはポケモントレーナーのカグヤとしての言葉じゃない。2000年続くフロックス家次席カグヤ・フロックスとしての、お姉ちゃんの名代としての、言葉と行動だよ。

 

 舐めないでよね。お姉ちゃんの手を煩わせる価値もない。1000年の未来も可能性も信じない貴方なんて、フロックス2000年の相手にもならない。

 

 グレイシアッ!」

 

 「何度やっても同じことの繰り返しだ!(ムゲン)ダイコウジン!」

 

 「援護するぞエースバーン!ほのおのうず!」

 

 無数の鋼刃を、炎が呑みこんでいく…だがさばききれない。いくつかの鋼の礫は、赤熱したままに勢いは失わず、グレイシアとエースバーンを傷つけていく。

 

 「やり返すよっ、ゆきなだれ!」

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウの真上に雪雲が沸き立ち、崩落、(ムゲン)ダイダイオウドウを呑み込む。

 

 「今のうちに…ホップさん、おみやげだけど、貸し一つね。」

 

 「オレこそ、オマエが強いってわかったし、博士見習いとして、コレをやらなくっちゃな。」

 

 (ムゲン)ダイダイオウドウが、雪を振り払い、怒りのいななきを上げる。

 

 ホップは、パルデア地方及びその近海ー学園島グランデ・コンティネントを含むーでしか取れない、特殊な石を掲げた。

 

 カグヤは、ガラル地方でしか見られない石でできたバンドを、手首に巻いた。

 

 「エースバーン、テラスタルだぞ!」

 

 「ダイマックスして、グレイシア!」

 

ー*ー

 

 ムゲンタワー最上階、時計の裏。

 

 玉座に腰掛ける彼女は、つまらなさそうにモニターを眺めていた。

 

 「…あなたを、止めに来たよ。」

 

 「…そっか。

 

 あなた(あたし)は、ここまでたどり着けないと思ってたよ。」

 

 「…やっぱり、ユウリさんは、あたし、なんだ…」

 

 「そうだよ。

 

 あなたは、あたしの闇。

 

 あたしの弱み、躊躇い、迷いだよ。

 

 …だから、ここまで来れないと思ってたよ。

 

 貴方が、ここまで連れてきたんだね?」

 

 「ええ。

 

 2人の貴女、引き合わせなければと思いましたので。

 

 この余興、お気に召しましたかしら?」

 

 「まったく?

 

 あたしの迷いなんて、捨てて(振り切って)おけばよかったんだよ。

 

 ホップのために一歩下がる、ホップのために先を譲る、それができなくて流されて、気づいたときにはいつもホップに勝ち続けて、ここまできた。あたしはもう、迷っちゃ、流されちゃいけないの。

 

 あたしはやり直す。あたしの幸せも、ホップの幸せも。」

 

 玉座の背後。透明な文字盤の向こう。…裏から見える時計の針は、左回りに廻っていた。

 

 「ううん、そんなこと誰も望んでない。そこから先はあたしたちは行っちゃいけないよ。」

 

 過去には戻れない、やり直しなんて赦されない。

 

 まだ、あたしたちには幸せを望んでる人がいる。助けてくれる人もいる。

 

 今ならまだ」

 

 「ううん。

 

 あたしはもう迷わない。

 

 きっと弱いあたしじゃ勝てないし、まして遅咲きのトレーナーごときに負けるあたしじゃないけど、それでも、あたしの前に立ちはだかるの?」

 

 「ええもちろん。

 

 止めて見せますわ、わたくし/俺たちが。」

 

 ーにじゅうこんぱくしゃの 蒼玻とアオバが しょうぶをしかけてきた!

 

 「倒して、インテレオン。」

 

 「撃ち払いなさいな、ブロスター。」

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