少女たちの無限夢路_Summer&Cosmos 作:十二の子
顔を認識できない、彼か彼女なのかも識別できない、記憶にすら留まれない謎の人物「ダレデモナイ」、その言葉に、闇ユウリは応じることができなかった。
「もう、遅いよ…」
すべてを打ち負かすムゲンダイナは失墜し、もはや立ち上がらない。
すべてを掌握できるムゲンダイナのカケラは、転生者の存在によって無効化されてしまった。
「いいえ。遅くなどありませんよ。
諦めずに繰り返せばいいのですよ。
…次の宇宙で。」
「もう、ムゲンダイナはつかえない。
あたしには、もう、なにもない...」
「そうでないことは、
ー*-
ああ、そうだー消滅するその瞬間、闇ユウリは気が付いた。
ムゲンダイナが墜ち、その権能もまた無意味と帰しても、まだムゲンダイナの力は、失われたわけではない、と。
闇ユウリが、BREAKオーラでできた金色の霧となり、吹き消える...その刹那、呑み込んでいた
そして、もはやほとんど見えなくなりかけの金色のヒトガタが、絶叫した。
「ムゥゲンダイィナァァァァ!!!」
ダレデモナイが立っていた時計の針の上には、分厚い本が一冊、載っているだけだった。
金色の光が、ムゲンダイナのカケラを核にして眩く輝く。
「あたしはまだ...」
金光は消えない。
「...諦めない!」
真ユウリが膝をつく。
-世界は 闇ユウリの情報を 取り戻した!
巨大な正二十面体型の、金色の光。それが割れ、目を固く閉じたユウリが、玉座から進み出た。
金色の粒子が、肌色の手を再生し、虚ろな手は震えながら、1つのモンスターボールを握り締める。
「戦おう、最後まで。
...ウールー!」
瞼が上がる。
ー闇ユウリは ウールーを くりだした!
-ウールーは 生まれて はじめてのバトルに はりきっている!
金色の瞳が爛々と輝く。
ー闇ユウリは ムゲンの力を 授けた!
ー*-
闇ユウリがムゲンダイナのカケラと完全に一体化し、ムゲンダイナの権能を得た姿。
無限のエネルギーを、自分に対してだけだが用いることができる。
ムゲンダイナの力を完全に帯びたウールー。ムゲンダイナと同等の力を持っているだけでなく、世界とつながっている。
ー*-
マゼンタでも黄金でもない。
そのウールーを形容するなら、こう表現するのが妥当だろうー「星雲渦巻く、銀河の如きウールー」。
その姿は明らかに、蒼玻が視た、「情報化してカケラに取り込まれた世界」に酷似する「銀河渦巻く虚無」の具現化だった。
「ウールー…
…行こ。」
ーあたしたちの、未来に。
ー
今度こそ蒼玻/アオバが、ノブレスボールとげんきのかたまりを投げた。
全身のピンクダイヤにヒビが入り、体力が回復したからといってとても戦える状況ではない…そんな痛々しい姿でも、ディアンシーは、きっと銀河渦巻くウールーを見据え、ダイヤのレイピアを生成し握りしめる。
ー
渦巻く銀河が、高速で流れていく。
「何が…起きてるんだぞ!?」
玉座の後ろから、コチコチコチ…けたたましい音が聞こえる。
「時間だよ…!
あのあたし、時を、加速させてるんだ…!」
目まぐるしく1周2周を終わらせようとする時計の分針の残像。
愕然、蒼玻/アオバ、カグヤ、ホップの心がフリーズする間にも、時計の針は加速し、ついには秒針が弾け飛ぶ。
「そんなこと、どうやって…!?」
「ブラックナイトの時も、時空が歪んで、ガラル中の景色が映ってた!おかしくはないんだぞ!」
「そんなことより…
ザシアン、止めるよ!きょじゅうざん!」
「ウールー、超えて。」
星雲渦巻く銀河をまとい、ウールーがザシアンと交錯する。瞬間、聖なる剣はタワーの外へと放り出され、ザシアンもまた、崩れかけの壁面へと叩きつけられたーウールーは見かけ上、ほとんど動いていないにもかかわらず。
「こっちから仕掛けてみよっか、とっしん。」
「っ、ザマゼンタ、きょじゅうだんっ!」
無茶苦茶というよりは無法そのものーその正体を、
「あたしのウールーは、空間じゃない、時間を走ってるんだよ。
...そしてこれはもちろん、あたしの夢を叶えるための攻撃じゃないし、最強無敗を続けるための力でもない。
あたしが、
ー原理は単純だ。
ムゲンダイナの無限のエネルギーは、ガラルを繁栄させること、ねがいぼしに込めてダイマックスの力をばら撒くこと、BREAKオーラにして変換して全世界の構成情報を奪い取ることなど、規格外のエネルギー量でさまざまな使い方がある。
しかし、世界に影響を与えたいのならそこまでややこしい手段は要らない...時空そのものにエネルギーを注ぎ込めばいいのだ。
「ムゲンダイナのエネルギーを、時間そのものの、宇宙そのものの加速につぎ込んで...
...ビッグクランチへ導くつもりってことだよな...!?」
ビッグバンから膨張しビッグクランチへと縮小する宇宙のタイムスケールを加速し、次の宇宙へとたどり着く...それは、
「そうだよホップ。
そしてあたしは往く...あなたとの幸せがある世界へ!何度宇宙を繰り返しても!諦めないッ!」
そしてまた、
(もはや一刻も無駄にはできない!
もう時針が半分は回ってる!
日が落ちてもう一度登ろうとしてる!
白み始めた朝日がもう姿を完全に見せている!
時の加速はグングン加速度を増してる...!
/わかっていますわ...!
こうして考えている間にも一時間が終わる、次の一時間は、その次の一時間は...
すぐにでも、体感の一秒の間に一日が終わり、次の一秒で月が代わり、次の一秒で時代すら過ぎ去ってもおかしくない...
そうなっては手が付けられませんわ!
手遅れにだけは...『手』『遅れ』だけには、するわけには参りませんわよッ!)
「「ディアンシー…!」」
ーメガシンカは、短時間に連続ではできない。
ーメガシンカは、ポケモンにもトレーナーにも負荷をかける。
ーだからこれは、賭けだ。
「「デュアルメガシンカですわッ/だァッ!」」
ーデュアルメガディアンシーの ダイヤストーム…
ー「「ディセラレーションッ!」」
いつの間にか、渦巻く銀河は、今にも崩れ去ろうとするムゲンタワーを包み込んでいた。
ピンクのダイヤが竜巻を成し、星雲へと入り交じってムゲンタワーを優しく覆う。
”「ですがアオバさん、蒼玻さん、長くは保ちません!」”
「アオバちゃん、ダメージだって抜けてないし負荷だって...!」
「そんなことわかっていますわよ
それにそもそもデュアルメガディアンシーの『ジオスケール』は地質時間の操作ですわ!/宇宙規模の事象、天文時間の操作をされたら、いずれ追いつかれる!」
あくまで、ダイヤが生まれるような地質的時間を生物が感知できる生物的時間のうちに行うことの延長としての「ジオスケール」...瞬きの間に年月を終わらせ、宇宙の一巡という超天文的事象を人間が苦にならない生物的時間のうちに終わらせるという圧倒的加速力の前には、あまりにも時間スケールが足りなさすぎるのだ。既に、本来ならば時間が止まっているように見えてもおかしくないほどの
「…インテレオン、もう一度、お願いッ!」
「エースバーン、なんとかするぞッ!」
「グレイシア、家名と命の賭けどころだよッ!」
(そうだ、一撃でいい。
手当ては要らない、診察も投薬も手術も要らない。
一撃、たった一撃、ウールーが攻撃する前に一撃、それでウールーを倒せばそれでいい。
再び宇宙の加速がジオスケールを上回ればもうどうせ何をしても無意味、ならばその前のわずかな間に、すべてを賭けるしかない...ッ!)「イーブイッ!」
「キョダイカキュウ!きょじゅうだん!」
「ダイアイス!」
氷槌と火球と光盾が、同時に
ウールーが湯気の爆発に包み込まれる...が、白煙が晴れるのを待ったりはしない。
「行きますわ/行けイーブイ
「ブイブイBREAK!!」」
はつげんちょうせいによって8種類の進化系の虚像を出し切ったイーブイが、進化系8体とともに一斉に突撃する。
”「みなさん、9つのうち2つ、避けられたみたいです!」”
「通訳ありがとうディアンシー!
/ウールーの時間の加速率が、ディアンシーの減速率に追いつきつつあるみたいですわね…!」
残された時間は短い...
...だが、最強のチャンピオンには、充分すぎる。
「狙いはいい?」
-キョダイマックスインテレオンの...
崩れかけのムゲンタワーの隣、長くのばされ直立する尻尾が、インテレオンを最上階と同じ高さへ持ち上げている。
-キョダイソゲキ!
特大の水弾が指先から撃ち出され...
...それは、再び目にも止まらぬ足の動きを見せようとする、時間を駆け始めている、
ー
「そっか。
ウールー、あなたは、あたしと共に来てくれるんだね…!
ウールー、じこさいせいッ!」
「ダメだぞっ!エースバーン、もう一回」
ー
「キョダ...
...あぁっ!」
間に合わなかった。
星雲からなる無限の銀河が渦巻き始める。
時計の分針が再びグングン廻り始める。
キョダイカキュウは
間に合わなかったのだ。天文的時間加速が、地質的時間減速を超えたのだ。
そして。
「もう、維持できない...!」
蒼玻/アオバが額から汗を垂らし...バタリと倒れた。
ジオスケールの限界ー
-そして、宇宙は寿命へと走り出した。
分針がけたたましく廻転しちぎれる。
時針が一周を刻み二周を刻み、歯車が耐えらずに折れてムゲンタワーの時計が止まる。
日が沈み、月が上り、日が上り、星々はもはや残像となって流れる。
もはや宇宙は滅びへと、そして再生へと輪廻を加速し続けるしかなかった。
ーギゴガゴビシャーンッ!!!
ー宇宙の 法則が 乱れる!
渦巻く銀河が、流れ行く星々が、悲鳴をあげてつんざけた。
もはや青空と夜空が混じり合おうとするガラルの空に、ヒビが入った。
デュアルメガディアンシーが、ザシアンが、ザマゼンタが、真に畏怖すべきモノの叫声に顔を上げた。真に驚嘆すべきモノの怒声に足を下げた。
触手のような、黒闇たるヒビ。赤黒い爪を生やし時空を引き裂くそれの向こうから、金色の頭蓋が、真紅の眼が、宇宙を睨む。
ー?????の リミットブレイク!!デュアルディアンシーは まぼろしの力を 解放した!
ー?????の リミットブレイク!!ザシアンは 伝説の力を 解放した!
ー?????の リミットブレイク!!ザマゼンタは 伝説の力を 解放した!
それはポケモンに、生物としての本当の力を解き放たせる。
それはポケモンを、神威の領域へと押し上げる。
それはポケモンを、この世の秩序から引き剥がす。
ーきゃううん、きゅううん、きょううん
”「汝はまた」””「あの破壊を、災厄を」””「繰り返すというのですか!?」”
”「否。
余はただ、裏側に棲まうものの役割を果たすのみ。」”
”「「「役割?」」」”
”「失われたもの、奪われたもの、混沌迫られるもの、まつろわぬもの、その神として、余は秩序なき世に秩序を刻む」”
”「わかりました」””「あなたがいたわりを知るのなら」””「私も敬意を捧げましょう。」”
ーユクシー・アグノム・エムリットの こころのいましめ!
星々が瞬くその外側から、それは心まで染み透る。
ー
「これは...あたしの、ムゲンダイナの力が...加速が...!?」
それは、無限の力も、無限の権能も、神の力をも「ポケットモンスター」の枠へと押し戻す、2000年を越え再来した奇蹟で。
| HP | 攻撃 | 特攻 | 防御 | 特防 | すばやさ | 計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ウールー | 42 | 40 | 40 | 55 | 45 | 48 | 270 |
| ムゲンダイマックス | 255 | 115 | 125 | 250 | 250 | 130 | 1125 |
| 297 | 155 | 165 | 305 | 295 | 178 | 1395 |
ー今なら、いける!蒼玻/アオバ、カグヤ、真ユウリ、ホップの心が一致した…が、げんきのかたまりで無理やり体力だけ回復させたポケモンたちに二撃目の力はなく、ヒビの向こうの存在が解放してくれたみなぎる力を感じるザシアン・ザマゼンタも、剣はムゲンタワーの外へと吹き飛ばされ盾はほとんど割れてしまっている。
「ディアンシー、もうひとふんばり/しなければならないようですわね…!」
”「は、はい!」“
「お姉ちゃん、大丈夫なの…!?」
連続してのメガシンカに、最大倍率のジオスケール発動を含む複数回の時間操作…ただでさえ通常のメガシンカより消耗の激しいデュアルメガシンカなのだ。
「頭が、割れるように痛いですわ/頭痛薬が欲しいぜ…!」
それでも、例え身に宿す2つの魂が張り裂けようと、ここで宇宙の滅びを止めるチャンスを見逃していいことにはならない…
…カグヤが、蒼玻/アオバの手を掴んだ。
「お姉ちゃん、蒼玻くん…
…私が、ついてるから…!」
”「ふむ…では…
…人の心に神の扶けがあるのなら、まさにこれを天命と云うべきであろう」“
「…え…?」”「なんでしょう…この、力は…!?」“
割れ欠けたダイヤが、温かい光とともに傷を消していく。
破れたヴェールが、カチューシャのごとく短く洗練される。
光のドレスは静謐にして荘厳な純白となり、チカチカと光を散乱させる。
「カグヤ、それ…」
カグヤの、愛しの姉と繋ぐ手。その指に、蒼玻/アオバが嵌める
「…これが、私のチェックメイトか...」
ー「許してないからね!特に男だなんて!」「...お姉ちゃん、特訓ね。」「お姉ちゃん逃げて!」「…お姉ちゃんに一歩近づいたね。」「もう、なんでもないなら匂わせぶりなそぶりしないでよ。」「いまさら、いまさらどのツラ下げてっ!」「…血が通った大切な姉の身体なんだから、わかるよそれくらい。」「おめでとう、おねえちゃん、蒼玻さん...」(お姉ちゃんの身体は...私が守る。)「にげて…にげて、おねえ、ちゃ…」「おねえちゃぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!」「…私はお姉ちゃんの旅立ちを、止める。」「お姉ちゃん、私に、力を貸させて?」「お姉ちゃん、本当に、往くの…?」「今度こそ、守るから!」「そっか、お姉ちゃん...うわぁぁぁぁん!!!」 「そうだよ。私には何もわからないよ。」「私が、ついてるから…!」
「
蹂躙するよっ、ディアンシー!」
”「はい!
あわせてください、3,2,1...」”
-奇蹟的な必然が、起きる。
「「「トリプルメガシンカ!」」」
三層に下半身を覆うダイヤ、頭を覆う半透明なヴェール、うすらと輝かせているのは浮かぶ無数のナノダイヤ。
古代より神秘の宝石とされてきたダイヤモンド、その姫が、ヴェールを後ろへと払う。
可憐なその瞳が見つめる手は悠久の輝きを宿し、空中を穏やかにスライドした。
「目がっ...!」-
空気中から染み出すように析出したダイヤの輝きは、一筋となる。
-Tri_デュアルメガディアンシーの ラディアント・レイピア!
ナノダイヤの渦が、廻転しながら空中の二酸化炭素を結晶させ、無数のピンクダイヤとなり、一つに融合する。
-Tri_デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム!
それは、
「使って!」「わたくしたちでは/これが限界」”「ですから!」”
「ありがとう、アオバちゃん、カグヤちゃん。
ホップ」
2人の幼馴染は、はじめて旅に出た日のように、向かい合い、拳をぶつけ合った。
「ユウリ、オマエと戦えて...オマエといっしょで、嬉しいぞ!
オマエと、オマエとの明日を掴み取る…」
ザシアンとザマゼンタが、ダイヤの剣と盾をくわえる。
「勝利の、きょじゅうざん!」「きょじゅうだん!」
ーザシアンの きょじゅうざんBREAK!
ーザマゼンタの きょじゅうだんBREAK!
直視すること能わざる、誰にも超えることはできない純白が、シュートシティの中心で炸裂した。
「ああ...
...さようなら...
...おめでとう、あたし...」
ー*-
(さようなら。
...あたしに悪いところがなかったなんてとても言えない。ホップの夢のこと、あたしたちの未来のこと...いっぱいいっぱいになったあたしに、誰かが付け込んで、誰もが躊躇って、あたしは孤独だと思い込んで、散り散りの心は悲劇へひた走った。
今度はホップと2人、あたしだけの一生を、ゆっくり刻んでいくから。
もしあなたのカケラがあたしの中に眠っているのなら、あたしを、あたしの幸せを、影で、見守っていて。)
落ち葉が赤と黄色に街路を彩るガラルの晩秋。
「無敗の敗北者、ここに眠る」
そう刻まれた、巨大な時計の針でできた碑が、倒壊したムゲンタワー跡地の公園で、早くも錆びつきを始めていた。
ー次章予告ー
パルデア沖の常夏の島で野暮用を済ますつもりが、ガラルで騒動に巻き込まれ、最強無敗のチャンピオンとの戦の間に宇宙を加速されなんと2週間もの時間を費やされてしまったフロックス姉妹。
だが、乙女の時は短い。そしてユキコシの暦もまた短い。
最後のジム戦として待ち受けるのは、7つ目にして最強、サンゴジュおみやぐうじ、チューリップ。
物語は、冬迫る大地へ舞い戻る…!
転生ポケモン令嬢第漆章「冬迫る地、最強を問え」
「冬コミまでには終わらせたいね!」
「2000年の悲願、私が、叶えましょう。」
「ええ、成功の期待値は、最大だからね。」
「俺たちの故郷を、必ず取り戻す...
待ってたぜ、アオバ・フロックスよぉ!」
※本編に戻る前に、同時上映版短編「舞わせ!シャリタツブレード!」が続きます。