転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます   作:苦闘点

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欲を抑えきれなかった


【プロローグ】 皆に紹介されます

 ───ロードスト領、その近隣の丘の上。

 ロードスト領を一望できるそこでは、先程まで第七王子一行と、暗殺者ギルドの5人が宴k……お茶会を行っていた。

 女性陣(+ロイド)の温泉での一幕も終え、丘の上には既に誰の気配も無くなっていた。

 

 

 あるのは、丘の頂上に立てらてた細い丸太を組ませた十字と、狼が象られたエンブレムを飾った、簡素な墓。

 

 暗殺者ギルドのリーダー───ジェイドの墓だ。

 

 魔界の王侯貴族、魔族のギザルムによって身体を乗っ取られ、最後はロイドの『虚空』により、全てを消し飛ばされた彼は、ロードストが一望できるここに墓が建てられた。

 

 

 穏やかな風が吹く中───空気が震える。

 

 ……否。正確には、世(・)界(・)が震えた。

 

 

 ジェイドの墓の前の空間が歪む。

 

 紙を剣で斬り裂いたような一条の線が、虚空に刻まれる。

 さらに紙を折り曲げたように、空が開き門のような形となる。

 

 

 そこから、1人の少年が靴音を響かせ歩いてくる。

 

 白と黒だけのシンプルなコートに手を突っ込み、短めのポニーテールにした空色の髪をなびかせ、少年は墓の前に立つ。

 

 開いていた空間は、何事もないように戻っていた。

 

 

「………………曲がってるな」

 

 

 そう独りごち、絶妙に傾いてる墓の木をクイクイと直した。

 

 

「……会いに来たぞ、ジェイド」

 

 

 そう言い、少年は墓の前にしゃがみ込み、暫し黙って墓を見つめる。

 

 少年の事を、暗殺者ギルドの5人は知らない。

 知っているのはジェイドだけだ。というのも、ジェイドの制御出来ない瞬間転移により転移した先、そこで2人は出会った。

 

 

『───やあ!僕はジェイド!! 君は誰かな!? あと、ここがどこか教えてくれない!?』

『…………』

 

 

 一緒にいた時間はそう長くない。せいぜい半日程度だ。

 

 色々話した。ジェイドの身の上話、少年の話、魔術の話……話題は尽きなかった。

 

 少年も、久しぶりに楽しんでいた。こんなに会話が続く相手は、今まで殆どいなかった。

 

 時間はあっという間に過ぎ、ジェイドが元いた場所に帰らなければならない時。

 

 

『また!! また会おう!! 今度はギルドの皆にも紹介したいんだ!』

『………まあ、いいぞ。またな、ジェイド』

『っ!!…………ああ!またね!! シ (ヴン)

『ジェイド!?』

 

 

 嵐のような人だった。急に出てきて、急に消えた。

 そのくせ、人の心を荒らし回っていった……友達。

 

 少年のまだ短い今生において、家族を除いて、初めてできた対等な友人。

 

 

「……すまん。弔いに行けなくて」

 

 

 少年はジェイドの状況を知らなかった。

 暗殺者ギルドの手配書が撤回されたら、またひょっこり現れるだろうと、漠然と思って。

 普段は絶対にしない、権力を使って冒険者ギルドに掛け合ったりもした。

 

 別にずっと考えていた訳ではない。 

 研究中のふとした時、頭にふっと浮かび上がる程度だ。

 

 

 だから、王城に帰って、暗殺者ギルドがロイドをどうのこうのとか聞いた時。

 ロードスト領に飛んで、ほぼ全てが終わっていたのを確認した時。

 

 ロイドの心配はしていない。アレに何かあるのなら、心配すべきはロイドではなく自分の身だ。

 

 ギリギリ、ジェイドの死に目……いや、正確には体だけだが、それでも最期を見れてよかった、と少年は1人思った。

 

 少年は立ち上がり、もう一度口を開く。

 

 

「じゃあな。 また来る。 ギルドの奴らは心配しなくていい。きっとロイドは、魔術の可能性に満ちてるアイツらを見放さないし……オレも、お前の忘れ形見を守るつもりだ」

 

 

 差し当たり紹介からだな、と言って少年は踵を返す。

 

 そして帰ろうとして……そそくさと墓の前に戻る。

 

 

「………………やっぱ、曲がってるな」

 

 

 

 

  

□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 ロードストの一件から数日経ち、ロードストも暗殺者ギルドの指揮もあり、復興が進んでいた。

 

 そんな中、元暗殺者ギルドの5人、それとついでにグリモは、ロードスト領内の草原の上で伸びていた。

 その内、緑髪の糸目の青年──『軟体のノロワレ』バビロンは空を眺めて呟く。

 

 

「…………硬ぇ」

「……それな、バビロン」

 

 

 呟きに同意を示すのは、スキンヘッドの大男──『糸のノロワレ』ガリレア。

 

 

「ダメ元で1回リベンジ……そう簡単にはいかないわね」

「まあ……ロイドだしね……」

「それは……そう」

 

 

 少し離れた場所で伸びている『傷のノロワレ』タリア、『毒のノロワレ』レン、『呪詛のノロワレ』クロウ。

 

 5人全員が生まれ持って特殊な魔力の性質を持ち、周囲に害を為す『ノロワレ』……だった。

 今はもう、全員ロイドにより直接術式を刻み込まれて、能力を制御可能になっている。

 

 だから……今ならワンチャンロイドに一杯食わせられるんじゃないか、と。

 

 そして、このザマである。

 

 

「追加でグリモも行ったのに……」

「ていうか息してるか?これ」

 

 

 レンとバビロンが見つめる先にある、地面に頭から埋まったモノ。

 『禁書の魔人』グリモワール、愛称グリモである。

 サルーム王国に古くから伝わる恐ろしい魔人……それもこのザマである。

 

 

「誰がこのザマだあぁっ!!?」

「あ、生きてた」

「まあグリモだしな」

「誰に、言ってるの?」

 

 

 勢いよく頭を地面から引っこ抜いたグリモが叫ぶ。

 グリモはこれで2敗目。ギザルムとの戦いを間近で見た身としては、正直勝てるとはサラサラ思っていなかったが、せめて結界1枚くらい……と思っていた。

 

 

「やっぱり硬すぎでしょ!?ロイド様の結界!」

「んー、そうかー?」

 

 

 『飛翔』を解き、フワリと地面に降り立った少年───サルーム王国第七王子・ロイドは、自身の使い魔であるグリモの言葉を軽く流す。

 

 

「ギザルムの攻撃で、パリンパリン割れてただろ」

「あんなバケモンを比較対象に出さないでくだせえ!!」

「割れたんだ、あの結界……」

 

 

 戦いをしっかりと見てはいないレンは、先の模擬戦でビクともしなかった結界が割れる様を想像して身震いした。

 一応彼女も、防御性能が低いとはいえ、ロイドの『空天蓋』を破壊しており、それだけでも十分に凄いことである。

 

 しかし、そんな彼女の最高濃度の毒をもってしても、対策されたロイドの糞硬結界は1枚も割れなかった。

 

 5人と1匹に回復魔法をかけ、快復させたロイドは、少し遠くを見てとんでもない事を言った。

 

 

 

「……ま、結界に関して言えば、俺はまだまだだからな」

 

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

 聞き捨てならないことを吐いたロイドに、全員が困惑の声を上げる。

 

 ───いやいやいやいや、何言ってんだこの人。

 

 種族の垣根を超え、全員の気持ちが一つになった瞬間であった。

 

 

「ロイド様……やっぱギザルムとの戦い、結構疲れたんじゃねえですかい?」

「だいぶ疲れてるな……レン」

「うん! 疲れてるなら、ボクが看病してあげるよ!」

「いやいやいやいや、ホントだって! ……なんなら皆のこと紹介しようかな?」

「いや、それこそ無理でしょ。俺の事とかどう紹介すんですか」

 

 

 グリモは今でこそ、丸々としたシルエットのマスコットであるが、本来は一国を滅ぼせる程の力を持った魔人であり、ロイドに解かれるまでは王国の地下で厳重に封印されていたのだ。

 そんな暗殺者ギルド以上のお尋ね者( )を、どう紹介すると言うのか。

 

 その本人のもっともな疑問は、ロイドの一言によって一蹴された。

 

 

「あー、大丈夫大丈夫。多分も(・)う(・)知(・)っ(・)て(・)る(・)し。皆のこともな」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

 本日2度目のハモリ。

 

 グリモの事は言うまでもなく、暗殺者ギルドの事を知っているのは、実際にロードストに参戦しに来た兵士とシルファ、第六王女、第二、第四王子、あとは現在王城にいる要人数名だけである。

 参戦しに来た者の中にいないとすれば、残るは王城にいる要人。国王も除くとなれば……。

 

 …………誰?

 

 

「え、ロイド様、それって一体……」

「よし、じゃあ今から行くか!久しぶりに会いたいしな!」

「今から!?ここから王城まで、結構あるよ!?」

「確かこの辺に……あった!」

 

 

 『領域拡大』により見た目よりかなり内容量のある鞄からロイドが取り出したのは、手の平サイズの小さな銀色のベル。

 それをチャリンチャリンと鳴らすと、何も無い空にピッ、と線が走る。

 

 

「お、きたきた」

 

 

 その線は徐々に大きくなり、やがて大人1人分ほどになる。

 そして古びたドアが開くように、ゆっくりと空間が開(・)い(・)た(・)。

 虚空そのもので折り紙をするような光景に、ロイド以外の全員が目を見開いた。

 

 空間が開ききると……その奥は一切の光を通さない闇に覆われていた。

 

 

「よし、行くぞー」

 

「ちょっと待てえええぇぇぇいい!!!」

 

 

 グリモはすぐさま、その暗闇を一切気にせず突き進もうとする主をひっぱたいて止めた。

 

 

「ロイド様これダメなやつでしょ!?完全に魔力も肉体も何もかも全て飲み込まれる感じのやつでしょこれ!?」

「多分あれだろ……ロイド様だから無事なやつだろアレ……」

「まあ、ロイド様なら有り得るな」

 

 

 必死に止めるグリモに加え、アレに入るのかと考えて血の気を引かせているガリレアとバビロン、その他3名。

 ロイドはグリモに大丈夫だと言っているが、ロイドが『闇』を指差して「大丈夫!」と言っても誰も信じないのは明白であった。

 

 

 誰も入りたがらない状況を知ってか知らずか……1人の少年が闇から出てきた。  

 ロイドより少し高い、クロウより少し小さいくらいの身長に纏うのは、白地の所々黒い模様のデザインされたシンプルなコート。同じく白黒のシンプルなパンツ。

 その中で目立つ、エメラルドのような瞳と、短いポニーテールに結った空色の髪。

 

 ゴタゴタしていたのもあり、完全に油断していた6人は、闇から出てきた少年が全身を見せるまで、誰一人も動かなかった。

 

 否……動けなかった。

 

 

『『『っっっ!!!』』』

 

 

 冷や汗がゾフリと全身から溢れる。

 ギザルムや、魔力放出の制限を少し外したロイドが横に立った時とは違う。異質な、しかし確かな力の波動。

 

 少年は少しだけ周囲を見回した後、ロイドの前に立ち微笑を浮かべて言った。

 

 

「───久しぶりだな、ロイド」

「そうだな〜、3年くらいかな?」

「大体な。相変わらずなようで何よりだよ」

 

 穏やかな会話とは裏腹に、6人は持てる意識を結集させ、そして行動に移る。

 

 

───コイツは、危ない!!!

 

 

「クロウ!タリア!」

「動くな!」

「『百傷』!」

「オラァ!!」

「お……」

 

 

 クロウの呪言、タリアの百傷による脛への斬撃の共有、更にガリレアの粘液により、少年は動きを封じられる。

 近くにいたロイドに影響はない。既に離れている。面白そうだから傍観するらしい。

 

 身動きを封じられた少年に、6人は更に追撃する。

 

 

「──『絡み毒蝶』──!」

「バビロン!」

「分かってるさ……!」

 

 

 レンにより直接神経毒を叩き込まれ、万が一にも動くことはなくなった。

 その懐に、バビロンが潜り込み……

 

 

「──『窮鼠・猫を穿つ』──!!」

 

 

 筋肉と骨格を捻った時に生じる反発解放。岩くらいなら破砕できるその技は、未完成とはいえ少年の後方に大きな土煙を上げる。

 しかし、

 

 

「っ!? まだ立つのかよ!?」

「バビロン!退けっ!!」

 

 

 未だ直立のまま、コートに手を入れる少年に驚くバビロンだが、ガリレアの指示により直ぐさま離脱する。

 上空で魔人の、グリモワールの魔力が昂っていたからだ。

 

 

「ぶっ飛べ!!『螺旋黒閃砲』っ!!!」

 

 

 螺旋を描く黒い魔力の奔流、血を肉を抉り削る古代魔術は、少年に直撃した。

 少年ごと地面まで削り取り、周囲が見えなくなるほどの土煙を巻あがらせる。

 

 明らかな危険人物。ロイドの使い魔と、これから従者になる者としては、些か過剰であると言えるかもしれない。

 しかし、あの気配は……。到底容認できようもなかった。全力でいかねばやられる、ギザルムとは違った威圧感(オーラ)があったのだ。

 

 じきに土煙が晴れる。

 これで倒れていなかったら……ロイド様案件だと皆が思っていた。

 そして、その思案は的中した。

 

 

「っ!!」

「うっそだろ……?」

 

 

 土煙が晴れ、クレーターになった地面の中心には、依然として棒立ちの少年がいた。

 心做しか、満足そうな顔をして。

 

 蒼白な4人を他所に、少年は先程より少し調子の上がった声を上げた。

 

 

「……良い使い魔と従者を持ったな、ロイド」

 

 

 その声は、威圧感の欠けらも無い、ただ穏やかな声だった。

 毒気を抜かれたような気になり、呆然と少年を眺める。

 その間に立ったロイドは、少年に少しだけ胸を張って応えた。

 

 

「ま、俺の使い魔と従者だからな。それで……紹介いるか?」

「ああ。一応頼む」

「よし!それじゃあ皆!紹介するよ」

 

 ロイドは6人の方に向き直り、少年の方を差して紹介した。

 

 

 

「こちら、俺の兄で、サルーム王国第六王子の、

シィズ=ディ=サルーム。
 それで…… 結(・)界(・)魔(・)術(・) のスペシャリスト だ。」

 

「弟が世話になっているな。 これからも弟をよろしく頼む」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

 急に攻撃した事を咎めることなく、律儀に頭まで下げてくるシィズに暗殺者ギルドの5人は……

 

 然して、全力の土下座を決行したのであった。

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