転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
ただ、明日明後日は用事があるので投稿厳しいです。どうか気長にお待ちください。
それでは、雨天前の晴天をお楽しみください。
シィズの教会入信一日目、バビロンと一緒に厨房にいた。
「……茶菓子の時も思ったが、王族なのに料理なんてするんですね」
「前も言ったけど、オレなんてずっと引きこもってたなんちゃって王族だからな。たまに研究で行き詰まった時とかに、気分転換で作ってたんだよ」
「気ままでいいですね……私はギルドのメンバーが問題児だらけだったので毎日大変でしたよ」
「ハハハ、確かにあの面子じゃあな。
「しかもそれでクソ貧乏ですから……少ない物でボリュームがあって美味いものを作る技術は磨かれましたね。……え、最後何を……」
「さ、終わったな。配膳行くぞ」
バビロンの苦労話を聴きながら、二人は手を動かす。教会の皆の朝ご飯作りである。シスター全員分なので量は多いが、作り慣れてるバビロンと器用なシィズなので割とすぐに作り終わった。
バビロンは少し釈然としなかったが、大人しくシィズの後を着いて行った。
「「「美味しい!!」」」
「そりゃ良かった。作った甲斐があったよ」
「悪魔の子と仲良くしてたからと心配してたが……めちゃ良い子じゃないか……(泣)」
「泣くほどか?」
「この2日見てきましたけど、ロイド様関連でしかおかしくならないんですよこの神父様。面白いですよね」
ロイドとの落差で涙まで流す神父に苦笑し、作ったホットサンドを頬張る。
その横でイーシャはチーズを伸ばしていた。
「ん〜!美味しいです!」
「イーシャのはチーズ多めとの事だったが、美味しいなら何よりだよ」
「……あれっ、何かモヤッとした」
「どうしたバビロン、不整脈か?」
サンドからはみ出るチーズをハムハムしていたイーシャだったが、ふとチーズを一息に飲み込んだ。
「詰まらせるぞ」
「んっ……ぷはぁ!バビロンさん、シィズ君、今日良ければ一緒にパンケーキを食べに行きませんか!?サリアと約束してるんですよ!」
「私はパス」
「即答っ!?うぅ、でも仕方ないです……」
「シィズさんも行かないだろ。何か気になる事があるみたいだし……」
「……バビロン」
「? 何ですか?」
いつの間にやらホットサンドを平らげていたシィズは、いつになく神妙な面持ちで言った。
「───パンケーキ、食べに行っていい?」
「…………は?」
「ベルは渡しておくから!何かあれば『門』ですぐ行くから!」
「パンケーキなんてシィズさんなら自分で作れるでしょ。なんなら昼ご飯パンケーキにしましょうか?」
「……………………因みにイーシャ。どこのパンケーキ屋に行くんだ?」
(めっちゃ悩んだなこの人……)
「え〜っと……デーン大橋の近くのお店ですね」
「じゃ、そういう事だからバビロン」
「どういう事ですか……まぁ分かりましたよ。元々私一人でやるべき事ですから」
申し訳なさを完全に捨てきり、開き直った態度になってベルを押し付けてくるシィズ。やっぱり常識人なのか非常識なのか分からず、バビロンは眉間を手で抑えた。
そんなバビロンの肩に、シィズはポンと手を置いた。
「お前の危険に対する嗅覚はオレも信用してる。ロイドもそう言ってたんだろ?」
「……じゃあ、一つ教えてくれませんか?
まだ会ってから一週間も経ってないのに、アンタは偶に
普段は閉じてる目を片方だけ開けて、バビロンは問う。
それに対し、シィズは微笑を浮かべて言った。
「……お前の事をよく知ってる、お前もよく知ってる奴に聞いてな」
「! それって……!」
「それじゃ、オレたちはもう行くから!頼んだぞバビロン!」
「あっ、引っ張らないで下さいよシィズ君!バビロンさんも、お土産にパンケーキいっぱい買っておきますね!」
シィズに引っ張られて手を振るイーシャを見送りながら、バビロンはこみ上げる笑いを抑えて一人厨房へ向かった。
「クク……一体あの人とお前が何処で会ったのかは見当も付かないが……何処まで残していく気だ?お前は……」
街を横断するように流れる大河、その上に架けられた橋である『デーン大橋』は、交通の要で昼前という事もあり、多くの人で賑わっていた。
その人混みの中で、シィズにイーシャ、それとサリアは三人で歩いていた。
「また護衛も付けないで外出して……アルベルト兄さんに怒られますよ、サリア姉さん」
「それを言うならシルもそう。演奏会の時も一人で来てたでしょ」
「シズですサリア姉さん」
「まあまあ。何かあっても、私の神聖魔術でやっつけちゃいます!なんちゃって……」
「「ムリムリ、それは無理」」
「ヒドイっ!」
変なところで息が合う2人。しかしサリアは依然としてシィズの名前は間違えていた。
「もうサリア!お姉ちゃんなんだから、弟のシィズ君の名前を間違えちゃいけませんよ!」
「歌も楽器もやらないミズが悪い。子どもの頃勧めたのに、一つもやらなかったし」
「あ〜……ありましたねそんな事。あとシズです」
サリアがロイドくらいの歳の時だったか、城中の人間に片っ端から音楽を布教する時期があった。
その時シィズは5、6歳くらいだったが勿論勧誘に来た。しかし結界に関する魔術書を読み漁るので忙しかったため、突っぱねていたのだ。
「音楽ですか…………確かに長くやってませんね」
「そう。結局その後引きこもったから、また勧める機会が…………今なんて?」
「え?ですから、音楽とか長いことやってないって……」
「シィズ君、何か楽器弾けるんですか?」
「……むかーし、少し齧った程度ですよ。別に何が得意って訳でもないです。あと聖歌も一応覚えてますね」
昔というのは前世の話だ。学園の授業で一度だけ音楽を習った。成績上重要性が低かったから、すぐに切り捨てたが。
「そうだったんですか!でしたら今度一緒に歌いましょう!バビロンさんは普段は断られちゃいますけど、シィズ君も一緒なら分かんないですよ!」
「普通に断ると思うぞ」
「…………」
その時、今まで黙っていたサリアがシィズの手を掴んだ。
「? どうしましたかサリア姉さん」
「パンケーキを食べたら私と直ぐに城に行くこと。拒否は認めない。イーシャ、借りるけどいいよね」
「おぉう……いつになく強引ですね」
「きっと、シィズ君と音楽が出来るって知って、テンションが上がったんでしょうね……」
(弟たちが音楽に興味を……!最近良いことばっかり……!)(フンス!)
「……みたいですね」
教会の事は少し気掛かりではあるが、これも引きこもりの贖罪と思って、シィズは甘んじて受け入れようと思った。
パンケーキ屋に向かっていると、前方に見覚えのある三人と一匹がいた。
ロイドとシルファとレン、それにシロ(中にグリモとジリエル)である。
「あ!ロイドく〜ん!」
「イーシャにサリア姉さんに、シズ兄さん!」
「よっ、ロイド。突然だけどパンケーキ食べ行かない?」
「いいですね!先日のお礼も兼ねて、是非一緒に行きましょう!」
「本当に突然だね……」
「バビロンさんも誘ったんですけど、即答で断られまして……」
「あぁ〜……バビロンはホントそういう付き合い悪いから……気にしないでください」
バビロンが「私はパス」と言っている様がありありと想像できたレンは、申し訳なさそうにイーシャに言う。
それに対し、イーシャではなくシロの毛の中に隠れていたジリエルは声を上げてブチ切れていたが、グリモに殴られて黙らされていた。
「(うぅ……てかロイド様…私行きたいぃ……イーシャたんとサリアたんと一緒にパンケーキ行きたいぃ……)」
「(バカ、行くわけねえだろ。ロイド様は神聖魔術の実験のために来てんだぞ。この人が魔術より優先する事なんざ……)」
「行きますっ!」
「「(アレー!?)」」
「決まりだな。シルファとレンも来るよな?」
「ロイド様が行くのでしたら」
「ボ、ボクも!」
そんなこんなで、六人は近くのパンケーキ屋さんに赴いていた。
シィズの隣で、腕を組み座して待つロイドは、とても真面目な雰囲気を醸し出していた。
「(にしても意外でしたぜ。ロイド様が魔術以外にこんな食いつくなんて……。シィズの方はまだ分からないでもないが)」
「そう意外でもないさグリモ。あと敬語やめたのな。別にいいけど」
「(使う気が失せたんだよ。で、そうでもないってのは、どういう事で?)」
「……パンケーキは魔術だよ……」
「いや、パンケーキはパンケーキですぜ」
真剣な面持ちでそう言うロイドであるが、実際大真面目である。
マジレスするグリモを他所に、シィズもうんうんと同意を示す。
「その通り、パンケーキの深淵は無間界廊の最奥、果ては魔術の深淵にも匹敵する」
「その通り……」
「何言ってんのかサッパリなんですが」
「旨味と甘味の空気を内包したフワフワボディ、そこにたっぷりの蜂蜜シロップと濃厚なバターが調和する……」
「ナイフが必要無いと感じる程の柔肌からは、シロップが染み込んだ生地と共に湧き出るミルクと蜂蜜の香り」
「食すまでもなく、その者の口角を引き上げ、理性と唾液腺を木っ端微塵に破壊する……」
「これを魔術と呼ばずして何と呼ぶ……!」
(( 確かに!!(?) ))
ロイドとシィズの熱弁に、グリモとジリエルは納得させられた。なるほど、それは確かに魔術だ(?)と。
「ロイド、シズ!ここのパンケーキが初めてならまずプレーンを食べなさい!まずそのものの旨味をうんたらかんたら」
「勿論ですよサリア姉さん、トッピングはパンケーキのあれをうんたらかんたら」
「はい、なんなら先ずはシロップなしの生地だけの旨味をうんたらかんたら」
「(ロイド様と第四王女は前も思ったけど、シィズも似てんのか)」
講釈は一度中断し、サリアは全員分のプレーンを頼む。よく来るらしいイーシャの分は、『デラックスダイナマイトの山盛りフルーツ乗せ』という名前からしてボリュームが凄そうなのを遠慮がちに頼んでいた。
少しして来たパンケーキを、恐らく食べた事の無いレンなどは美味しそうに食べていた。
「ん〜!何この食べ物!口のなかで溶けてく〜!」
「いっぱい食べてくださいね!私たちのおごりです!」
(サリア)「まはみももふもまい!めんもへむまへまんまみょうふ!(???)」
「何言ってるのか1ミリも分かんないですサリア姉さん」
「シルファ〜、コレ城でも再現できるかなぁ?」
「はい!必ず再現してみせますとも!」
「そう言えば、皆さんは今日はどうされたんですか?」
「グール退治」
「おっふ……」
「そう言えば今日行くんだったな」
パンケーキフワフワ空間は、一言でバリバリバリと音をたてて崩壊した。
ロイドは神聖魔術の実験の為に、最近街で騒動が絶えないグール退治に来ていた。その騒動はデーン大橋の近くが特に多いとの事で、ここら辺にいたという。
(神父から説明はあったが、偶に教会にも避難者が来るらしいな。東西を結ぶデーン大橋近く、北の大墓地や南の裏通りでも被害があって、その中心にある教会は良い避難場所になってると……)
イーシャがロイド達に説明している中、お茶を飲んで一息ついたサリアがこぼした。
「……私は、演奏会が中止にならなければそれでいい」
「またやるんですか!?演奏会!」
「はい!今度のは前のよりもっと凄いですよ!その日は神さまの誕生を祝う大聖誕祭!!国王様や教皇様も出席されるんですよ!」
「教皇様って教会で1番偉い人ですよね!そんな場所で演奏するなんて、本当に凄いです!」
「皆さんも是非来てくださいね!」
「父上も来るのか……そう言えばまだ挨拶行ってないな」
「……無事に、開演出来ればいいのですが……」
「……」
笑いながらも、少し心配そうなイーシャの様子を見て、レンは身を乗り出して宣言した。
「大丈夫です!ボク達が絶対にグールを駆逐してみせますから!演奏会は開催されます!だから安心してください!」
「レンさん……」
「第一目的はロイド様の神聖魔術の実験だということをお忘れないよう」
「も、勿論それも頑張りますです!」
「期待してる、お願いねロイド、レム、シルフィ」
「レンです」「シルファです」
そんなこんなで、パンケーキを食べ終えた一行は店の前で別れることになった。
「それじゃあ皆さん!グール退治、気をつけて行ってください!」
「はい!イーシャさん達も気をつけて!」
「あ、そうだロイド」
「はい?どうしましたかサリア姉さん」
「今度ロイドも私のとこに来ること。歌の練習」
「え゛っ!?…………行けたら行きます!」
「来ないだろう、お前」
「シズも」
「オレもですか!?」
ロイドだけでなくシィズまで引っ張り出す気であるサリア。心なしかさっきから機嫌がよかったのはそのためか。
ロイド達とはそのまま店の前で別れ、少ししたところでイーシャとも別れた。
「それじゃあ私は先に帰ってますね。あまり遅くなっちゃ駄目ですよ?サリアも程々にしてあげてくださいね」
「それは分からない。全部シズ次第」
「なるべく早く帰ってくるから、バビロンにはそう伝えといてくれ」
「む、どういうこと」
「じゃあイーシャも気をつけて帰れよ。行きましょっかサリア姉さん」
変に追及される前にシィズたちはお土産のパンケーキを抱えたイーシャと別れた。
午前は晴天だったのに、いつの間にか曇天となった空の下を、シィズとサリアは歩く。
特に何事もなく歩いていると、ふとサリアはシズに聞いた。
「シズは、五年間何してたの?」
「……研究ですよ。実はずっと大好きなものがありまして」
「魔術?」
「その一つですね。色々成果も出てるから、少し後悔はありますけど引きこもりも無駄じゃなかったですよ」
「そう。ならいい」
そこまで言って、また会話は途切れる。
少し経ってから、今度はシィズから切り出した。
「……ここは追及しないんですね。アルベルト兄さんあたりなら、根掘り葉掘り聴いてきますよ」
「シズが何をしてようと、私は止めない。シズが私のすることを止めなければ」
「なら心配なさそうですね」
「…………けど、一つ言っておくね」
「? 何でしょうか」
サリアはロイドと同類だ。好きすぎる何かを持つ者。好きなものが最優先で、他の事は二の次な異端者。ロイドもサリアも、なんとなく気付いている。だから他の兄弟に比べて遠慮がない。
シィズもその意味では、同類と言えるかもしれない。『結界』という一つのものをずっと研究しているという点では。
ただ、ある意味では二人とは全く違うとも言える。
「─────貴方は、もう少し
「……それってどういう───」
「!!」
シィズの鼓膜に響いた鐘の音。
シィズがロイドやガリレア、そして今朝バビロンに渡した小さな銀色のベル。これには「超長距離念話の術式」が刻まれている。魔力を持った者が鳴らせば術式が発動し、鐘の音がシィズへと伝わる。
また、それぞれに渡してある鐘は音が違うため、誰が鳴らしたかも識別可能である。
今の音は───バビロンに渡した鐘だ。
「悪い、サリア姉さん!見せるのはまた今度で頼む!」
「……分かった。じゃあ今度ね」
返事を聞くのもそこそこに、シィズは『門』に飛び込んで行ってしまった。
一人残されたサリアは、開けられた『門』の切れ目を見た後、王城へと歩いていった。
すっかり暗くなった雲、雷の音も微かに聞こえる。
……じき、雨が降る。
教会の中庭、ペットの埋葬に使われる神聖な場所。
薔薇が咲き誇る綺麗な庭園。
「あ」
その庭の中で黒いローブを着た一人の神父が声を漏らす。
その左手には、首を絞められて呻く教会デーン支部の神父。
その傍らには、ふよふよと浮かぶ
そして、凡そ教会には似つかわしくない、藁でできた穴の空いた天蓋と、白地に所々大小様々な黒い水玉模様の派手な袈裟を着た僧侶。
「シビル・ウォーが地下で交戦し始めましたね……」
「それはそれは……。やはり見張りは増やした方が良さそうですね。で、俺はその神父に入ればいいので?」
「ええ。コレなら教会を自由に動けますから……」
「…………」
その後方で、パサリと何かが落ちる音がした。
背の高い神父が振り返ると、そこには心の底から湧いた恐怖を顔に浮かべた、イーシャがいた。
「なっ…何、して……貴方……!」
「……あぁ、またいい感じの屑肉が来ましたね……」
対して、無表情に無感情に、恐ろしい事を宣う神父。
過呼吸気味なイーシャは逃げる事も出来ず、何より今にも息絶えそうな神父を放っておけず、その場に立ち尽くしてしまう。
「主様ぁ……俺どうせ憑依するなら可愛い子がいいなぁ……」
「構いませんよ。……じゃあこっちはホントに屑肉ですね」
「っ、神父様っ!!」
既に泡を吹いて気絶している神父の首を、より強く締めようとする。
イーシャはそれを止めようとした事で、目の前に飛び出てきたレイスへの反応が遅れた。
「キヒヒッ!」
「どうぞ好きに使ってください……その女の歌には常々吐き気を催していましたから……」
謎の神父が首を握り潰そうと、レイスがイーシャを飲み込もうとしていた。
……その寸前
「!」
「へ?」
驚きに顔を染める神父と、間抜けな声を上げるレイス。
レイスの頭に当たる部分には、極彩色のナイフが刺さっていた。
謎神父に関しては、二の腕から先が首を締めていた神父ごと視界から消えていた。
それを見下ろすように、庭園の門の上から笑い声が聞こえた。
「───くく、どうした神父様。また迷子か?」
「悪いがオレ達も新参でな。務まるかどうかは保証しかねるが……」
門の上にいたのは、ナイフの柄を頭に押し当て笑うバビロンと、神父を脇に抱えたシィズ。
バビロンはイーシャとは入れ違いで謎神父を見つけ、シィズに連絡すると共に教会にいたシスター達を逃がしていた。
連絡を受け文字通り飛んできたシィズは、シスター達を『無間界廊』に隔離して、今に至る。
門から飛び降り、二人はイーシャを庇うように前に立つ。神父はひとまずイーシャに預けておいた。治癒魔法はかけておいたから、大事はないだろう。
敵に悟られないよう、二人は小声で話す。
「……バビロン、どうする?このまま逃げるか?」
「何で私に聞くんだ……。シィズさんから見て、この二人はどのくらいのレベルだ?」
「一人はそこそこな魔人クラス。もう一人は……分からん」
「……クク、なら逃げれないな」
暗殺者ギルドとグリモの総攻撃を受けてビクともしない程の魔術師であるシィズをもってして、『分からない』。
それなら、少なくともシィズと同等かそれ以上だと、長年の暗殺稼業の勘からバビロンは判断した。
『分からない』というのは、謎神父の正確な力量だ。魔力量が不自然な程に小さい。まるで意図的に押さえつけているようだ。
(最低でグリモかオレクラス。……下手したらギザルムレベルか)
『計り知れない』それがシィズが下した判断。
故に、役割分担は迅速だった。
「バビロンは僧侶の方を頼む。キツイと思うが死ぬなよ」
「シィズさんは大丈夫そうなのか?それで」
「神父の方とやったら、多分お前は死ぬ。オレしか勝機はない」
やたら無口な僧侶。こちらも魔力量なら魔人クラス。しかし、それはシィズに数歩劣る。
勝ちは出来なくても、バビロンなら十分持ち堪えられる。
シィズは思案を終え、始める前にイーシャ達をシスター達のように『無間界廊』へ逃がそうとした。
「……は?」
その声はバビロンのものだ。
鈴が鳴るような音がしたと思ったら、シィズが横から
その光景にバビロンの思考が追いつく前に、もう一度その鈴の音は鳴った。
「なっ!?」
今度は、僧侶とシィズがその場から
戦闘力的に頼りにしていたシィズの消失に、バビロンは混乱する頭を必死に回す。
(何をされた!?『瞬間転移』か!?いや、あれはジェイド固有のものだ!他の奴に再現なんて……!)
「どうやら行ってしまったようですね……。さて、どうします?やりますか?」
依然変わらない微笑を浮かべて言う神父。その余りに平然とした様子で、バビロンは逆に落ち着いてきた。
(…………落ち着け。シィズさんの結界はロイド様でも破るのに苦労するんだ。そう簡単に殺せる奴がいれば、魔力量が魔人クラスなんて事は無い)
「……そうだな、正直やりたくないが……好きにさせるとボスと仲間にドヤされるからな。しっかりご案内してやるよ」
「あなたには、案内役は荷が重い……」
バビロンは努めて不敵に笑い、目の前の化け物と戦闘を開始した。
───何処とも分からぬ土地。いや、土地ですらない。
何より、光が乏しかった。
「っ……!」
シィズは咄嗟に『界』を展開する。
急激に奪われる体温に、体が内側から飛び出るような衝撃を感じたからだ。
周囲を見渡せば、上は真っ黒な夜、下は雲。そして前にはあの派手な僧侶がいた。
(超高高度に飛ばされた?『瞬間転移』……では無いな。飛ばすならオレだけ飛ばす筈)
「…………」
(とにかく、今すぐ教会に戻らなければならん。バビロンだけじゃ……確実に死ぬ。コイツを倒さないと……)
「……ほう、堕ちぬか」
「!!」
ようやく喋ったかと思ったら、シィズはその気持ち悪さに顔を強ばらせた。
音声を逆再生したように聞こえるのに、不思議と意味は分かる。そんな声だ。
「……拙僧の過ちであるな。これでは主殿に顔向け出来ぬ …… 」
その僧侶は手に持つ数珠をジャラジャラ鳴らし、天蓋に空いた黒穴をシィズに向けた。