転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
あと今回で、シィズとロイドの違いが顕著に出るかもですね。
それでは、どうぞお楽しみください。
───とある東方の島国。赤ん坊は産まれ落ちた。
……いや、本来産まれるべき日時よりも前、赤ん坊は自らの母親の上半身を消し飛ばして産まれた。
母の鮮血に染まりながら、赤ん坊は自らを殺そうとした父の腹に風穴を空けた。
その翌日、血の海で泣く赤ん坊を見つけた一人の僧侶は盗賊に襲われたのだと思い、赤ん坊を引き取り育てる事にした。
赤ん坊は成人するまで修行に励んだ。一緒に修行を積んだ仲間や自分を育てた僧侶と、至って普通に生活していた。
……ある日、寺が盗賊に襲われた。
男は皆を守ろうとした。その最中、赤ん坊の頃より眠っていた力が、再び目覚めた。
男は寺院ごと、盗賊達を
跡に残っていたのは、辺りを焼き焦がすような溶岩だった。
男はそれが、自分の為した物だと分からなかった。赤ん坊の記憶は無い。自分の両親も、育ての親も仲間も殺したのだと男は気付かず、『仏の御業』であると納得した。
居場所を失った男は、皆の分も修行をこなす為、行脚を開始した。
その最中、その国では様々な物が消えた。
食糧、家畜、建物、人……一時は怪奇の仕業だと思われたが、その近くには何時も決まって一人の僧侶がいた。
天蓋を被り、錫杖を鳴らすその者は迫害され、島の外へ送られた。送った舟は帰って来なかった。
大陸へ降り立った僧侶がする事は、それでもただ修行するのみ。
様々なモノを消したその僧侶は、やがて大陸にてこう呼ばれるようになる……。
その虚無僧は、修行の果てに何を得る。
シィズは目の前の派手僧侶の事、瞬間転移のような現象、残されたバビロンの事……考える事は様々だが、まず確認する事を聞いた。
「……色々言いたい事はあるけど……ここ何処だ?」
「……教えるとお思いか?」
「だろうな。あとその喋り方やめろ。気持ち悪い」
「拙僧とて、意図してしているのでは無い。
修行の仕儀である」
「分かった。ならもう喋るな。気持ち悪いし読みにくいから。打つのも大変なんだぞ」
シィズは『界』の中に入り、その操作により浮いているが、僧侶の方は普通の『飛翔』だ。見た目の割に魔術もいけるらしい。
シィズとしては、コイツに興味はあるが今はそれ所じゃない。一刻も早くバビロンを助けなければならない。
そうして、僧侶を無視して教会に戻ろうと──
錫杖を空中に立て、また鈴のような音が鳴る。
すると『界』の上に、一瞬だけマグマが現れた。
そのマグマは瞬時に熱を奪われ、黒い溶岩となって『界』の側面を覆った。
(視界を奪われた……オレはロイド程魔力探知に長けてないからな。『門』は『界』の中にいると使えないが、今『界』を解除するのは危険だな。またコイツに飛ばされる可能性がある。それなら……)
具現化した数本の長剣により、溶岩を全て削る。視界はひとまず確保できた。
そして、僧侶が後ろにまわっていた。
振り下ろされた錫杖は『界』が防ぐ。そのまま光武により畳み掛けるが、僧侶は錫杖を鳴らしてシィズの前に移動した。
「オレの結界は物理じゃ突破出来ないぞ」
「其のようであるな。誠、不可思議極まれり」
「そうだな、オレもお前の能力が不思議でしかたない、よっ!」
4本の光武を『界』の中で操作し、僧侶へと仕向ける。4本とも同じ方向、一塊にしてだ。
(さっきは四方向からだったが、多分これなら……)
錫杖を鳴らす事による瞬間転移。今度消えたのは光武の方だった。
それを見て、シィズは笑う。未だタネは分からないが、条件は多少分かった。
(コイツは
最初にこの高高度に転移した時、体が外側に引っ張られたのは気圧の変化が原因だな。教会の空間ごと転移したから、空気が外に飛び出そうとしたんだ。
攻撃の時も、四方向からの光武だと中心に自分がいるから、自分のいる空間だけを転移。一方向なら、その塊ごと空間を転移。マグマを転移させたのも、何処かの火山から削り取ってきた空間か)
自由度の低い『影狼』みたいなものである。ただ、対象が一定体積の空間だけと言っても、教会のようにシィズが纏っている結界を丸ごと転移させられれば防ぎようがない。
あと、能力とは関係ないが、もう一つ分かったことがある。
この僧侶はさっきから詠唱なしで転移を行っている。アクションは錫杖のみ。
制約術式*1にしても、このレベルの魔術となれば相当の制約が必要なはずであるが、錫杖のみとなると……。
「……お前のそれ、ノロワレの力だろ。魔人か?」
「……否。此なるは拙僧が仏より賜りし業
即ち───仏の御業なり」
ノロワレはその能力の発動に詠唱を介さない。
何より、ノロワレはその能力を制御出来ない故の『ノロワレ』。ノロワレが能力を制御するには、ギルドの皆のように術式を刻まれるか……魔人に身体を乗っ取られるか。
魔人では無いと、僧侶は言った。ならば術式を刻まれた?それも否。そんな事ロイド以外出来る筈は無い。
僧侶は錫杖を高く上げ、勢いよく振り下ろす。
(……来たな)
振り下ろされる直前、シィズは『流動結界』を全力でまわす。
ノロワレにも種類はある。タリアやクロウのように、何かアクションを起こすと自分の意思に関係なく発動する者。
レン、バビロン、ガリレアのように、ほぼ常時現象を垂れ流している者。
そして、ジェイドのように常に発動している訳でも無く、何のアクションも無く突発的に現象が起きる者。
この僧侶の場合は、ジェイドのパターンだろう。
このパターンの場合は、現象の発動に何の予兆も無いように見えるが、実際にはコンマ一秒にも満たない『起こり』がある。ジェイドで言うと、転移門がそれだ。
それならば、『流動結界』により動体視力を極限まで上げれば、その起こりを見極められる。
案の定、その『起こり』が来た。
『界』の上空へ、天蓋が降りたような影が伸びた。
その影はシィズがいる『界』さえ包む大きさ。恐らくこの影に呑まれれば、強制的に転移させられるんだろう。
次はマグマの中か、宇宙空間か、何なら太陽の中とか。いずれにせよ、この影に喰われるのはマズイ。
瞬きよりも速く展開される影に呑まれる前に、シィズは『界』を解除。上がった身体能力と『疾走飛翔』により回避する。追撃を警戒し、直ぐに『界』を張り直す。
その後、シィズが元いた場所から球体状のマグマが出現した。
(ん? 何でマグマが……空間転移のノロワレじゃないのか。……………………そうか、分かった)
コイツの能力は分かった。突破法もだ。
折角だ。結界よりも単純に、迅速にいこう。
「───神聖魔術はデリケートでな。無闇に弄ると効力が激減するんだ」
「……?」
「だから、基礎は結界の方にした。そこに『光武』を織り交ぜることで……不思議な反応が起きてな。光武の術式が結界に上書きされて、純粋なエネルギーになったのか、ロイドの光武みたいになったんだ。
……オレ固有の『光武』として、こう名付けた」
『光武』
六面六臂、その腕に各々彩色豊かな極大剣を手にした修羅。
世界さえも両断する、神像である。
『───貴方も迷子ですか?』
『……否。元より拙僧の旅路に
『あ、でしたらここ何処ですかね?サルームに行きたいのですが、生憎いつも連れてる子が居なくて……』
『拙僧は異国の者。此の地の事は分からぬ』
『そうですか……。それにしても修行ですか。何か成し遂げたい事でも?』
『……修行に達成など有りはせぬ。仏の威徳に近付く為、只管に精進するのみ。
……が、そうであるな。強いて言うなれば……問うぞ、「仏」とは、何ぞや』
物心ついた頃より、僧侶は修行を続けてきた。仏に近付く為、悟りを開き真理へと至る為、無心となって励み続けた。
しかし、常に胸の内に巣食う「迷い」。
……あの日、仲間と親代わりごと盗賊を滅したあの御業は、仏による物なのか。仏が僧侶に
ならば、仏とは何だ。
『「仏」……異国の神のような物ですか』
『神……では無い。仏とは悟りを開いたその人である。然し、此の地で知り得た神という物は、確かに仏のような物であるな』
『皆の理想、模範となるのが「仏」である。なれば、何故その仏は罪なき者まで、罪人と諸共に殺すのか?何故其のような力を、拙僧に下さったのか……分からぬ』
『成程……でしたら、私と共に来ますか?』
『……何故だ』
『実は、私もずっと分からないんですよ。「神」とは何か。本当に「神」等と大仰に呼ばれるものなのか。……良ければ、一緒に探しませんか?』
『……拙僧の力は、拙僧を介して顕れる仏の御業。拙僧の意思には関わらぬ物だ』
『それも、私であれば制する事が出来ます。これでも、あなた方僧侶が目指す位置には、結構近い所まで行ったんですよ?もう昔のことですけど。 ……如何ですか?』
その日、僧侶は神父と共に行く事にした。
今までのどの修行よりも辛い苦痛さえ受け入れ、僧侶は力を制した。
その力を、如何にして振るうか。
神父が目指す場所は、僧侶の目指す場所では無い。しかし、受けた恩は返されねばならない。
何より……似た思いを持つあの神父の行末を、見たかった。ともすると、自分の迷いの答えとなるやもしれないから。
───故に、この者は…………
この童が主の腕を斬り飛ばした時、その力の計り知れなさを感じた。
今すぐ、主から遠ざけねばならぬ。さも無くば標は閉ざされる。
僧侶は、
此処で戦う事こそ、自身が主殿と来た意味。
此の場所こそ、自身の修行の果て。
天蓋に空いた黒穴は、今一度その障害を見据えた。
(……コイツのノロワレの力は、『空間転移』ではなく……『空間の
よく考えれば分かることだ。空間ごと転移させるのなら、その転移先にあった空間はどうなるか。
影狼の場合、転移させるのは物体か魔術であるため、転移先にある空気を押しのけて転移させる。
が、空間ごと転移させるのなら、空気等も纏めて転移することになり、言うなれば『空間の飽和状態』となる。
それを解消するのならばと考え、『空間を丸ごと入れ替える』能力だと思ったわけだ。
もっとも、シィズが確信を持ったのは、『破喰』を避けた後にマグマがその場に現れた時だ。
あのまま影に喰われていれば、マグマの中の空間と入れ替えられたのだろう。それでも死にはしないが、僧侶を見失う事になる。
余談だが、シィズが『界』の中にずっといるのも正解であった。
最初のマグマの攻撃。アレは本来結界ごとシィズの上半身を削るつもりで放ったものだ。『界』の断絶性により、その外側だけが入れ替わったようだ。『界』を解除した瞬間、体の一部だけ入れ替えられるだろう。
僧侶は焦り始めたのか、錫杖を先程より大きく振りかぶって足元に突いた。
球体に切り取った空間ではなく、蛇のように畝った空間を削り取る攻撃。
それも、『流動結界・迅』によりシィズには視えていた。
(『非天六道』で六方向からの攻撃。余程大きい入れ替えをしてこない限り、消せはしない。極めつけはその斬撃の性質……)
『非天六道』は、結界魔術と神聖魔術の性質を併せ持つ。
光武により具現化した修羅が持つ大剣。浄化系神聖魔術『微光』の特性も含んでおり、魔性に対しては特攻となる。
そこに『界』が持つ究極の断絶性能が加わり、あらゆる物、魔人、不死者、空間さえ絶ち斬る斬撃となった。
修羅像の大腕が、極大剣と共に真下に振るわれる。
「!!!?」
その斬撃は転移するはずの空間諸共、僧侶を右の肩口から脇腹までを斬り伏せた。
間合いも距離も関係なく、空間を面として斬る。防御は不可能、巨体故に避ける事も困難。
理不尽極まる一撃。
(『門』が開く時の切れ目を攻撃的に作ったようなものだな……にしても……)
「……まだ、生きてるのか。やっぱり魔人じゃないのか?」
僧侶は上半身だけとなっても、まだ息があるようだった。『飛翔』を保てているのだから、さほど瀕死という訳でもないだろう。それに、斬った断面が朽ち始めている。魔人や不死者が浄化を食らった時に現れる現象だ。
それでもかなり消耗したのか、僧侶は生気を感じさせない声で言う。
「…………例え魔性に堕ちようと、拙僧が為す事は変わらぬ。
…………拙僧が身命を賭す故は、主殿の為にのみ」
そう言って僧侶は、残った手に持つ錫杖を掲げた。
「っ!」
「───地獄で再び相見えましょうぞ、……主殿」
その瞬間、『界』もシィズも、その数メートル先の空までまで喰らい尽くす闇に包まれる。
次にシィズの目の前に見えたのは、真っ赤に煮えたぎるマグマだった。
(最後の最期で自身すら巻き込む入れ替え!そこまでオレを教会に戻らせたくないか!)
シィズはすぐに『界』ごと飛翔し、『門』を展開。『無間界廊』を最短距離で移動し、教会に登録してある扉に入る。
かなり時間を食った。急がなければ本当に手遅れになる。
また……また、家族や故郷のように…………
「バビロンっ!!」
……高高度、マグマの中、空中、界廊の中、目まぐるしく変わる景色に、シィズは教会の状況を把握するのが遅れた。
破壊された教会のステンドグラス。打ち付けられたような破壊跡。
そして…………串刺しにされたバビロンの姿。
…………まただ。
また、また…………繰り返した。
何がダメだった。何を間違えた。何が、何が───
「───あれ、来たんですか」
思考が止まり、声がした方へと振り向く。
そこには貼り付けたような微笑を浮かべた神父が佇んでいた。
───前世において、シィズは家族を殺した魔獣を殺さなかった。いや、既に討伐されていた為に、殺せなかった。
今この時、守ると友に誓った者が、友達のバビロンが殺された。
───その激情は、どこへ向くか。
……火を見るより明らかだった。
「……そろそろ帰らないとなんですがねぇ」
『光武』は使用者の精神性に影響を受ける。
極彩色を血赤色に染めた修羅像は、主の何を映したのか。
その激情は、深淵に何処まで通用するのか。