転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
今後のプロットとか考えてたら時間が経ってました。断じてコナン熱が再燃したとかではないです。
アニメ!ギルドの皆に声が付いてる!レン可愛い!バビロンカッコイイ!タリアセクシー!クロウイケボ!ガリレア杉田!
あとジェイドの島崎信長ボイス解釈一致ですありがとうございます
───雨がポツポツと降り始める。それを涙のように滴らせる、血濡れの修羅像。
シィズの光武、『非天六道』は結界魔術と神聖魔術の混合魔術。二重詠唱ではなく、両者の術式を弄って一つの術式にしたものだ。
その構造は、光武を『界』で覆ったようなもので、その内部、外部には『流動結界』と似たような結界のエネルギーが循環している。それ故に、斬撃は『界』が持つ断絶性能を内包する。
循環するエネルギーは、『流動結界・迅』のように循環速度を上げる事で、能力を著しく増加させることができる。
その性質は、生身ではない光武においても当てはまる。
『廻天陸道』は『流動結界』が通常の上限を遥かに超えて循環している状態。
リミッターを外れて駆け巡る結界は、その性能を限界を超えて引き上げる。
それと同時に…………その力は自身を崩壊へと導く諸刃の剣。
また、神聖魔術は持ち主の魂と強く繋がっている。
『廻天陸道』が崩壊する時、魂の繋がりを辿ってシィズの肉体にまで影響を及ぼす可能性もある。
『廻天陸道』が崩壊するまでの時間は、凡そ
本来のシィズであれば、実験でしか使わないような時限爆弾である。
いつも自然とかけている枷。ロイドの魔力制限のように、自身も周囲も害さないよう無意識にかけた縛り。
それを解いた血に染った修羅。その剣先は真っ直ぐと敵へと向く。
「……特殊な『光武』ですね。特にその剣……何か混ぜました?」
シィズの手が下ろされると同時に、六腕に握られた大剣が一斉に神父へと振るわれる。
その一撃目が黒い外套にかすると、神父はそれより後の攻撃を全て大袈裟に避けた。
シィズの光武は、間合いに関係無く、その延長にある物まで全てを断つ。しかし、教会以外の更に向こうの建物に影響は見られない。
今シィズは、目の前の神父に全ての意識を回しているものの、その直前にバビロンの周り、そして教会の外周に結界を張った。教会周囲の何物にも被弾する事はない。
───故に、出し惜しみはしない。
『廻天陸道』を顕現させた状態での『二重界』。それも三セット同時に。
『二重界』は発動に集中力が必要となる。それを三つ同時、砲撃が終わり次第順次行う為に、シィズはさらに『結界』を高速で循環させる。
それにより制限時間は減少。
崩壊まで ─── 残り二分。
六つの空間を断つ斬撃に加え、三つの魔術門から放たれる万死の砲撃。
それに対し神父は、外套から飛び出たバッタのような脚で教会の中を駆ける。
避けに徹しながらも、魔物の腕のような触手や口が鋏のようになった魔物の頭を何本も出し、攻撃を掻い潜ってシィズへと差し向ける。
その悉くは光武と界白により墜とされ、シィズを覆う『界』により阻まれる。
……しかし、その攻撃を放つ度、受ける度に修羅像にはヒビが入り、一言も発さないシィズの目鼻からは血が滴る。
その様子を見て、神父の眉がピクリと動いた。
「…………成程、時間制限付きですか。やっぱり不便ですねぇ、神聖魔術」
神父は回避を強いられながらも冷静に分析し、目の前の少年が行使する人ならざる力が、そう長く続かない事を悟った。加えて、自身に負荷がかかるタイプの制限時間技。
であれば、その時間を縮めさせればいい。
一瞬でも油断すれば致命傷となる攻撃の嵐の中、その一瞬を用いて神父はここで初めて魔術を発動させた。
「─── 『光武』 ───」
崩壊した教会に浮かぶ、幾本もの巨大な長剣。
柄の部分にシンボルマークが付いたそれは、修羅の斬撃と開闢の光の間を縫ってシィズへと向かう。
が、それも先の攻撃と同じく、『界』によりシィズには届かない。
それを見ても神父は、その微笑みを崩さない。
神父は外套からまたも魔獣の頭を飛び出させ、大口を開けて『廻天陸道』を喰らおうとする。その殆どは斬り落とされるが、幾つかはその体に食いついた。
さらに長剣での追撃。ついさっきまでの猛攻が嘘のように受けに回るシィズ。
だが……それも当然である。
「───っ…………」
足がふらつく。音が遠い。赤く滲んだ視界が揺れる。
『廻天陸道』を一分半顕現させ続けた時点で、シィズの限界はとうに超えている。
『流動結界』による身体強化は、通常の『身体強化』魔法と違い、やればやるだけ恩恵が得られる訳ではない。ある限界を超えれば、術者自身さえ崩壊に導く。
この集中状態を維持するだけで、魔力枯渇よりも数倍苦しい状態が続いている。
魔力はまだある。周りを覆う『界』が明滅し始めるが、まだ倒れる訳にはいかない。
(……コイツは………止める…………)
戦闘をしながらも止血はしたが、バビロンの心肺は停止している。
けど、魔力の息吹はまだ止まってない。
シィズの治癒魔法の技術では助けられない。
バビロンを助けられるのは、ロイドだけだ。
(死なせるものか……アイツの仲間を……!)
これ以上、暗殺者ギルドは失わせない。
言っただろう。アイツの忘れ形見を守ると──!
……崩壊まで───残り一分…………
「………………は?」
まるでガラスが割れるように、軽い音をたてて『廻天陸道』は崩れ落ちた。
像には長剣が突き刺さり、灰のように散っていく。
その柄のシンボルは、少し変化していた。
それを見る前に、シィズの視界は数瞬の間、ブラックアウトし、更には膝から崩れ落ちた。
『廻天陸道』は結界を高速循環させる都合上、普通の光武よりも術者との魂の繋がりが強い。
光武が崩壊した事により、シィズはほんの一瞬だけ、その影響を受けた。
現在展開している、自身、バビロン、教会の外を覆う『界』が途切れそうになるも、何とか自分の周りのものだけに留める。
目の前の化け物を野放しにしないよう、バビロンに影響が無いよう。
──────自分、だけ……
「─────あっ…………」
「─────お終い、ですね」
トドメとばかりに、シィズの背中に長剣が突き刺さった。
背中から胸まで貫いたそれにより、今度こそシィズの意識は落ちる。
続いて展開していた『界』も全て崩壊し、後にはほとんど更地になった教会と、そこに佇む神父だけが残った。
先程までの轟音が嘘のように、雨音だけがそこに響く。
誰かが来る前に、神父はその場を去ろうとする。
表情は変わらず、目を細めて微笑みを浮かんだまま。
……しかし、少し残念そうに呟いた。
「………………貴方は、
その声は、雨音に掻き消され、神父の姿と共に闇へと消えていった。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
冒険者ギルドにて、雨に濡れた修道女と担がれた神父が、倒れ込むように入ってきた。
ギルドの受付の少女、カタリナはその様子に慌てて駆け寄った。
「貴方は……イーシャさん!?どうかされました!? わっ!神父さん気を失ってるし……!」
「ハァ……ハァ……あの……その……!」
息を切らしながら事情を説明しようとするイーシャに、雨宿りしていた冒険者達は声をかける。
「おうイーシャちゃん!困り事か!?」
「イーシャちゃんの頼みなら、ココにいる奴ら全員手を貸すぜ!」
「み、皆さん……」
気のいい冒険者達に、イーシャは顔を綻ばせる。
しかし、思い出すのは教会でのバビロンの言葉。
そして、あの神父の…………
「─────大丈夫です!神父様が道で滑っちゃって……少し休ませてあげたかっただけですよ!」
イーシャはいつものように笑顔を浮かべる。
いつものように、明るく、柔らかに、何も無かったように。
「それじゃあ……私、行く所があるので……神父様を、よろしくお願いします!」
「あっ、ちょっと……!…………イーシャさん?」
カタリナの声も届かず、イーシャは傘も差さずにギルドを飛び出た。
土砂降りで、道には誰も居ない。
聞こえるのも、地面を叩く雨音だけ。
……誰がすすり泣く声も、聞こえはしない。
「……うぅ……うっ……あぁ……」
(……なんでっ……私はっ…………あんなに、強そうな人達が沢山いたのにっ……)
助けを求めれば良かった。教会に化け物がいると。言えば、心優しい冒険者たちはきっと直ぐさま駆け付けてくれる。
空色の髪の少年……シィズの事をイーシャはよく知らない。けど、きっと強いんだろう。あの小さな体でも、自分よりずっとずっと強いんだろう。
……その少年も、何処かに消えた。忽然と、初めからいなかったように。
それをやったであろう神父の顔も、鮮明に覚えている。
「…………うっ……」
あの時自分が感じたものは、その顔よりももっと鮮明に。
喉の奥からせり揚げてきたものを、道端にぶち撒けた。
戦闘能力など無いに等しいイーシャでも、解ってしまった。本能として、身体の芯で感じてしまった。
(……誰にも、勝てないっ!みんな、皆殺される!)
……唯一勝てるかもしれないと言った少年も消えた。
自分より現状を理解していた青年も、独り残った。
それでも……本能的な恐怖を感じて尚、立ち上がれるのが彼女、イーシャであり………
(……私だ!私しか居ないんだ!バビロンさんを、シィズ君を助けられるのは、私しか………)
……そして、彼女が唯一持つものは……
「…………うぅ……!…………うぅ!」
(……神様……!)
一体、どうやって助けるというのか。
イーシャに出来る事は、歌う事だけ。
今更教会に戻ったところで、彼女に出来ることは何も無い。
(……どうやって……歌う事しか脳の無い……私が……それすら否定するあの人に……どうやって……!)
「…………お願い、します……!この命、差し上げますから……!」
『───呆れた。貴方、そんな理由で教会に入ったの?』
「……だから……!どうか、神様……!」
こうして泣きじゃくって、居るかも知れぬ神に縋る事しか出来ない。
『───よくそれで聖職者を語れたものね』
親友から詰られるような理由で教会に入った自分の声なんて、神様には届かないかもしれないのに。
歌というアイデンティティすら無くした自分の声なんて……
つまずき転んで、地を這う彼女の声は…………
『───けど、嫌いじゃない。理由はどうあれ、貴方の声はきっと……』
──────雨が止んだ。
そんな気がして、イーシャは顔を上げる。
そこには……
「───やっぱりイーシャか!ふふふ、派手に転んじゃったな」
「…………」
自分に向けて、笑いながら傘を差す、ロイドかいた。
「俺たちもギルドに報告に行く途中で降られてな。待ってろ、あの店でシルファ達が雨具買ってるから……教会まで送らせるよ」
その姿を、何と重ねたのか。
助けを求めていた時に現れたその少年に、何を見たのか。
……ありはしない。そんなはずがない。
分かっている。分かっているのに……
「バビロンさんと、シィズ君を助けてください!!」
……何故かイーシャは、その小さな背中を引き止めて、縋りたくなった。
ごめんなさい……私、何で……
「……何で?私、ロイド君に……こんな事言っても……えへへ、なんでもないんです……ごめんなさい……」
すぐに正気に戻り、泣いて腫れた目元を擦る。
そして、またロイドの方を見ようとして、
「……忘れ……」
そこには、大きな水溜まりの波紋だけが残っていた。
……ほとんど更地になった教会。
そこには何者かが施した『隠遁』の魔術により、誰にも騒ぎは聞きつけられなかった。
雨音だけが聞こえる中、ロイドは更地の中で、一箇所だけ崩壊していない場所を見つめていた。
高速術式展開の準備をしながら、それを見てポツリと呟いた。
「…………フン…………」