転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
和やかなギルドの皆をお出しした後の絶望……
ノッブさんの演技すげぇ……りえりーさんの声が悲壮感すげぇ……
やっぱ動きと声が着くと凄いですね……もう語彙力がサ終してます。
あとシレッとペンタブラック鍋カットされてましたね。尺の都合ですね。
あと今マガポケの方で『第七王子』の人気投票やってますね!皆さんは誰に投票しましたか?投票は今週の金曜までなので、まだの人はお急ぎを!
ちなみに私はタルタロスに投票しました。
そういえば、オレは何で『結界』を極めようと思ったんだったか。
……確か、生まれてすぐの頃だったな。何か一つを極めると決意したはいいものを、何を極めるか、決めあぐねていたんだ。
…………あぁ、思い出した。
……『
今まで、何かと便利で、色んな可能性がありそうって理由で研究してた『結界』。
特に思い入れの無かった、ソレを使った魔術。
アイツはそれを見て、『綺麗だ』と言った。
実際アイツは、『結界』に対してというよりは二重詠唱の方に言ったんだと思うが、それを可能にしたのは紛れもなく『結界』だった。
……そんな理由で研究を始めて、アイツを思わせる弟と一緒に研究して、年単位で引きこもって研究し続けて───
………………それで、このザマか。
「っ…………」
「あ、起きた」
シィズは重い瞼を開けると、ベッドの縁に座るロイドと目が合った。
ゆっくり体を起こすと、背中にズキリと痛みが走る。
「つっ……」
「駄目ですぜ!まだ寝とかないと!昨日背中からグッサリいかれてたんですから!」
「……問題ない。もう塞がってる」
「それでもですシィズ様!一応この私の『浄化』も施したとはいえ、中身はまだ完全には……!」
「ワウゥ……」
グリモとジリエル、ついでにシロに、無理やりベッドに倒される。
それに不服そうにしながらも、シィズは一度息を整えた。
「……バビロンは?」
「ロードストで安静にさせてる。外傷は全部治癒したけど、出血がひどかった。いつ目を覚ますかは分からない。あと、兄さんが無間界廊に隔離してたシスター達も、さっき影狼で王城に避難させといたよ」
「そうか……オレはどのくらい寝てた?」
「ざっと一日半だな。心臓をグッサリいかれてたのに、流石の回復力だな。でもその分、
体内を限界を超えた速度で『結界』がまわったため、今シィズの魔力孔と魔力線は破損状態にある。安静にしていれば二日もあれば元に戻るが、その間は魔術が実質使えなくなる。
厳密に言えば、使えはするが調整が出来なくなる。要は加減が出来ないのだ。
それを聞き、シィズは拳を固く握り……
「………………」
「「っっっ───!!!」」
突如シィズから湧き出た全身が粟立つようなオーラに、グリモとジリエルは鳥肌をたてて離れた。
「……兄さん、出てるぞ。魔力線が破損してるんだから、纏うのも禁止な」
「……悪い。……少し一人にしてくれ」
「あぁ、分かった。行くぞ、二人とも。シロもこっちだ」
そう言って、三人とシロは部屋から出ていく。
付き合いが浅いと言えど、並々でない様子のシィズについて、グリモは一番知っているであろうロイドに聞いた。
「あの……ロイド様?シィズの兄貴がああなんのは、よくあるんですかい?」
「いや?俺も初めて見るよ。兄さんがあんなになるのは」
「あそこまで怒っているとは……シィズ様は責任感が強いのですね」
「あぁ、あのオーラのことか?あれは別に怒ってる訳じゃないよ」
「そ、そうなんですかい?」
「あれは纏っている『界』の出力が高くなった時に生じる、
「歪み?」
「兄さんの『界』は、『魔力障壁』とそもそも原理が違う。それによって起こる現象だよ」
『界』と『魔力障壁』との最大の違いは、空間を隔てる原理の違いだ。
『魔力障壁』は、空間に魔力を固めて構成した壁を作るもの。例えるなら、水槽に入った水の中で氷の箱を作る感じだ。
対して『界』は、箱ではなく
その際、水槽はその中に現れた水風船の体積によって水嵩が上がる。これがロイドの言う歪みである。
ちなみに、シィズが暗殺者ギルド達と初めて会った時感じたアレも、ちょっと巫山戯て出力を上げたからだ。
「……って、兄さんは説明してた」
「いや、俺らに言われても……」
「ちんぷんかんぷんなのですが……」
「それで合ってるよ。俺も理解するのに時間かかったし、何より理屈が分かってても実践できるものじゃない」
魔術はその術式の構成、原理、それにより引き起こされる現象の理解、様々な要素が成立した時、初めて習得したといえる。
ロイドは魔術に関しては、万能ではあるが全能ではない。ノロワレの異能や神聖魔術のように、使用出来ない、あるいは解明出来ないものが少なからず存在する。
その筆頭が、シィズが行使する『結界魔術』であった。
「そんなヤバい結界を使う兄さんが、教会をあんなにしても倒せなかった相手、か………クフッ、ワクワクするな」
「ワクワクなんざこれっぽっちもしませんぜ……」
「現場は見たが、あんな破壊から逃れられる奴など存在するのか……?」
シィズと謎神父との戦い跡、教会は文字通り『半壊』。バビロンが倒れていた建物を残し、ほぼ全てが更地と化していた。恐らくデーン支部の神父が現場を見たら、泡を吹いて卒倒するだろう。むしろそれで済めば良い方かもしれない。
そうこうしていると、ロイド達は慌ただしく働くレンを発見した。
「いたいた。おーい!レン!」
「あっ!ロイド!どうしたの?」
「兄さんが目を覚ました。お粥かなんか作ってくれないか?」
「シィズさん起きたんだ!良かったぁ。じゃあ即回復しちゃう特製お粥作ってくるね!」
「あぁ、頼んだ」
張り切った様子で厨房に走るレンを見送り、ロイドは「さて」と一息ついた。
「じゃ、俺は兄さんのとこ行ってくるから、お前たちはちょっと待機な」
「え、でもシィズの奴、一人にしてくれって……」
「そうだけど、放っとくと『門』開いてどっか行っちゃうからな。俺だったらやるし」
「似た者兄弟故の信頼ですか……」
「そういうことだ。大丈夫そうなら呼ぶよ」
影狼で転移したロイドを見届けた後、ジリエルは「ハァ〜……」と大きいため息をついた。
「どうしたんだよジリエル。お前らしくねえ」
「……少し思うところがあってな。シィズ様のあの様子に」
ジリエルは
あの、元々澄んでいた瞳から、純粋さを失ったあの姿を。
「昔見た、今でも信頼する者の目と、重ねてしまったんだよ……」
人が居なくなった部屋で枕に身体を預けながら、シィズは鉛でも吐くかのように重いため息をついた。
一応ロイドの兄として、今のカッコ悪い姿は見られたくなかった。
(……バビロンは生きてたか……なら、オレは役目を果たせたのか……?
…………いや)
オレが入れ替え僧侶の攻撃を避けていれば。
オレがもっと早く僧侶との決着をつけていれば。
オレが治癒系統魔法に明るければ。
……オレがもっと強ければ。
反省、後悔なんて無限に出てくる。
結果オーライでもない。バビロンはまだ目覚めていないのだから。
(……どの口で守るなんて、ジェイドに誓ったんだ。これじゃ、合わせる顔がないだろ……)
手で顔を抑え、天井を向く。
そこで、シィズは昨日の昼にサリアから言われたことを思い出した。
(───『純粋』、か………)
その言葉でシィズが思い出すのは、前世に見たあの少年の目だ。
あの目があったから、シィズには今があった。
あの目に憧れて、『純粋』に結界を極めようとした。
けど、実際はそれも、ただの真似事に過ぎなかったが。
(どうしたって、オレにはあの目は出来なかった。アイツや、サリア姉さんや……)
ずっと身近にお手本はいた。
アイツと同じ、眩しいくらいに純粋な……
「───ロイドみたいには」
「呼んだか?」
「……
一周まわって半笑いになり、シィズはロイドへと視線を向けた。
「戻ってくるの早くないか?」
「兄さんが割と参ってたからな。それにほっといたらロードストに行きかねないし」
「……まぁ、否定はしないけど」
あのままネガティブを続けていたらと想像すると、行きかねないというのも否定は出来なかった。
そのままロイドは、特に何かを聞くでもなく、ベッドに座った。シィズに教会であったことを聞きたいはずなのに。
ロイドのその様子は、シィズにとっては違和感でしかなかった。
「……どうしたんだ、ロイド。体調悪いのか?」
「え?何で?」
「いつものロイドなら、教会であった事いろいろ聞いてくるだろ」
「んー……いつも通りじゃないって言うなら、それは兄さんの方だろ」
その言葉に、シィズは一瞬胸の内を透かされた気がした。ロイドの異変にシィズが気付いたのだから、その逆もまた然り。と言っても、不思議なことにロイドに言われると、何か読心術的なものに聞こえる。
ちょうどいい機会だと、シィズはロイドに聞いた。
「ロイドは、好きだから魔術を極めるんだよな」
「ああ、そうだよ。昔も聞いたよな、それ」
「そうだったな」
そう、昔も聞いた。
産まれて数年しか経っていない時、二人が一緒に結界についての魔術書を読んでいる時に。
前世のアイツと全く同じ答えで、少し面白かったのを覚えている。
「好き、か……。だから、ロイドは強いんだよな」
「別に俺は、強さとかそういうのはどうでもいいよ。魔術を心置き無く極められればそれでいい」
「そう、だよな。オレとは大違いだ」
「兄さんは違うのか?」
キョトンと首を傾げるロイドに、シィズ自嘲したような笑みを浮かべた。
「オレは、そんな純粋にはなれない。極める事を、目的じゃなくて手段にしてる」
二人は知り得ない事だが、ロイドとシィズは根本の部分が違う。
ロイドは、前世からずっと『魔術が好き』。この一点のみを原動力に生きている。
しかし、今生から結界を極めたシィズは、その原動力を違う場所に持つ。
それは───『恐れ』。
前世で、家族や故郷を失ったことによる、誰かを失う事への『恐れ』。
シィズも今回の件でようやく自覚したそれは、今までずっとシィズを縛っていた。
誰も失わないように、今度は全てを守れるように。
そんな無意識に駆られて、シィズは結界を極めていた。
結局、今も昔も、自分以外のために生きている。
「だから、そんなに純粋になれるお前が羨まし……」
「へ〜、そうなのか〜」
「……うん、そういう反応は予想してたよ」
露骨に興味を失くしてるロイドに、シィズは苦笑する。昔から、魔術にしか興味のない弟だ。こういうとこは純粋とはまた違う気がする。
作画というか、台詞というか、色々崩れていたロイドだが、少ししていつもの作画に戻った。
「ま、純粋とか何だとか、そういうのは俺には分からないよ。俺はただの魔術馬鹿。別に羨ましがられるような事はしてないし」
「……ロイドからしたら、そうだろうな」
ロイドからしたら、特別な事など何もないのだろう。自覚もなく、ガムシャラに進んでいく。
だから『純粋』で、本当に極められるんだ。
…………そう、自覚がないのだ。
自分では気付かない内に、ソレは形作られている。
……だからこそ、
「でも、それは兄さんも同じだろ」
「……え?」
シィズ自身も、
「俺だって羨ましいんだぞ。俺も兄さんに会えてない時、定期的に結界魔術について調べてたし」
「そういう意味じゃなくてな……オレは……」
「どういう意味でも、だ。……なあ、兄さん。俺が何で結界魔術を兄さんに聞いて習得しないと思う?」
突然の問いに、シィズは言葉を詰まらせる。
しかしその実、それはずっと気になっていた事だ。
『界』の術式は、ノロワレの異能や神聖魔術のように、正規の方法で習得可能なものではない。
シィズがほぼ一から術式を作ったとはいえ、術式としてはかなり精確に残っている。引きこもっていた五年で纏めた資料を合わせれば、魔術書くらいの厚さにはなる。
それでも、ロイドはそれを見ようとしない。
一度魔術と見れば、魔族だろうが神の御使いだろうが、吹き飛ばしてでも知ろうとする魔術馬鹿のロイドがだ。
それは───その魔術馬鹿だからこその理由からだ。
「……挑戦したくなったんだ。『魔術を発明した人』なんて、一生のうちに会うことなんかないだろ?そんな凄い人がすぐ近くにいて、分からないとこがあったら聞いて、一緒に研究して………。だから、その人に挑戦したい!なんて、初めて思った」
ロイドは魔術が好きだ。
魔術を見るのも、知るのも、そこに込められた『夢』を見るのも、何もかも。
この世界にある無数の魔術。それを全て極めようとした。
その過程の中、自分の兄が誰も見たことの無い、全く新しい魔術を開発した。
勿論、それを知った直後は、直ぐにでも知りたかった。根掘り葉掘り聞いて、その魔術を解き明かそうとした。
けれどそれ以上に……何を思って兄がその魔術を作ったのか、その魔術にどんな『夢』を込めたのか、知りたくなった。
「兄さんの『界』はスゴい。一つの魔術なのに、その中に無数の魔術の要素が散りばめられている。」
シィズはロイドが羨ましかった。
同時に、ロイドもシィズのことを羨んでいた。
既存の魔術を組み合わせる事は出来ても、全く新しい魔術を一から作るのは、きっと出来ないから。
だから、ロイドは気づいていた。
この、自らが尊敬する兄は、
「こんな凄いモノ───
ロイドは、初めて読む魔術書に向けるような、輝く太陽のような笑みをシィズに向けた。
……まだ、シィズは自分の動機に自身が無い。ロイドに言われて戻るようなら、他人に動機を求めているようなら、まだ純粋とは言えないだろう。
やはり、まだシィズにはロイドは眩しかった。
…………それでも
「───そうか」
その、太陽のような温かい眩しさは、
───シィズの心にかかった雲を晴らすには、十分だった。
「───なら、オレもちょっとは純粋なのかもな」
「あぁ!」
シィズは微笑んで、笑顔を向けるロイドの頭を撫でる。
(……結局、救われてばかりだな。この弟には)
本当に似ている。
ふと、シィズに突拍子もない考えが過ぎった。
シィズだって転生者なのだ。
なら、ロイドだって………
「お粥持ってきたよ!」
「お、シィズの奴、顔色良くなってんじゃねえか」
「ほっ……憑き物はすぐに落ちたようで良かった……」
「ワンッ!」
「みんな良いとこに来たな。丁度呼ぼうと思ってたとこだ」
元気よく開けられた扉によって、シィズの考えは中断された。
(……まあ、どっちでもいいか)
どちらにせよ、ロイドはロイドだ。
シィズを照らし、シィズを追う星。
シィズはそう完結させ、レンが持ってきたお粥に目を向けた。
そして……
「……で、お粥だったか?これは。『門』から見える闇ではなく?」
「おお、いつかに見た『森の幸即席鍋』と同じ色だ!光の吸収率上がってるな!」
「へへーん!ボクもシルファさんに教わってるからね!成長したんだよ!」
「これで成長してるのなら、レンたんはもう匙を投げた方がいいのでは?」
「それでも美味えんだから、もうそういう才能だと思え」
可視光をほぼ100%吸収するペンタブラックお粥を手に取り、『門』を思い出すシィズ。まさか料理(?)を見てソレを連想する日が来るとは思わなかった。
一応グリモは美味いと言うので、一口食べてみる。
マジで普通に美味しいお粥だった。
「す、凄いなこのお粥。味と見た目が全然噛み合わない。なのに普通に美味しい。コクがある」
「この見た目でコクがなかったら寒気がしますよ」
「前もやった気がすんなこのやり取り」
結局、おかわりまで食べてしまった。見た目と味がアンマッチ過ぎて頭が混乱している。
食後の水を飲み干し、シィズは口を開く。
「ロイド。悪いけど、教会の話は後でな。ちょっとロードストに飛ばしてくれ」
「ん、分かったよ。シスター達の色々が終わったら俺も行く。レンも連れてくだろ?」
「ああ、頼む」
「え?ボクも?……いいの?」
「シルファには後で言っておけばいいさ。心配だろ?バビロンの事」
「……うん!」
部屋に入ってきた時点でシィズは気づいていた。
元気に振舞っていても、バビロンのことが心配で仕方がないようだった。
「それじゃ後でな、二人とも」
ロイドに見送られ、二人はロードストに転移した。
ロードスト領主邸。
その客間。バビロンが寝ているのと隣の部屋に、タリア、クロウ、ガリレアはいた。
普段の陽気な様子と違い、三人とも暗い表情をしている。隣の部屋から聞こえる、か細い歌を聴きながら。
すると、少しイラついたように口を開いた。
「………もう、歌い始めて何時間よ。あの娘」
「……もうすぐ18時間……そろそろ寝させないと、本当に倒れちゃう」
「とっくに魔力も尽きてるってのに……」
ロイドがやれるだけやった後、イーシャは皆が看病する部屋にやってきた。
酷く隈のついた顔で、昨日もまともに寝れていないだろうに、今の今までずっと神聖魔術をかけ続けている。
いや、もう神聖魔術も発動していない。ただ歌ってるだけだ。魔力が枯渇して立っているだけでも辛いはずなのに、ずっと歌い続けている。
ガリレアもクロウも、あの健気な様子では止める事も出来ない。
最初はイーシャにキツく当たっていたタリアも、どう対応すればいいのか分からなくなっていた。
このままイーシャが倒れるまで待ってるしかないのかと思っていた時、見慣れた転移門が開かれ、シィズとレンが現れた。
「し、シィズ君!?」
「シィズの兄貴!もう、大丈夫なんですか!?」
「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけたな」
「よかった……」
まだ会ってから一週間程しか経っていないのに、こうも心配してくれる所を見ると、本当に暗殺者ギルドは心優しい者達の集まりなんだと実感する。
そこで、レンは隣の部屋から聞こえてくる歌に気がついた。
「この歌……イーシャさん、まだ歌ってるの!?」
「……あぁ。あれから、ずっと……」
「そんなの……!もう魔術も発動してないよ!魔力だって……!」
「…………」
「………私、止めてくる。あのまま続けさせてたら、あの娘の体の方が……!」
決心がついたように扉へ向かおうとしたタリアを、シィズは手で制した。
「し、シィズの兄貴?」
「───ガリレア。ここ、ピアノあるか?」
「え?えっと……確か、地下の方にあった気が……」
「持ってきてくれ。急ぎだ」
「は、はい!」
ガリレアは急いで部屋を出ていき、ものの数分でアップライトピアノを持ってきた。そこそこ大きいはずなのだが、流石暗殺者ギルドのパワー係だ。
「こっちの部屋でいい。あっちの部屋だと、イーシャの邪魔になる」
「シィズさん、弾けるの?」
「少しだけな。サリア姉さんには遠く及ばないけど」
そうして、シィズはピアノの椅子に着いた。
本当は、イーシャにも今すぐに休んで欲しい。肉体的に、何より精神的に、イーシャは今不安定な状態にある。不眠不休で歌い続けるなど、危険すぎる行動だ。
けれど、シィズはイーシャの気持ちを無碍にしたくなかった。無力を嘆く気持ちは、痛いほど理解できたから。
だから、一度気持ち良く歌ってもらって、その後寝てもらうことにした。
「……さて、弾けるかな」
ピアノなんて、前世で少し齧った程度だ。
上手く弾けるかは分からない。ただ、少しでもイーシャが気持ち良く歌えるように、最善を尽くす。
「……フゥー…………」
イーシャの歌に合わせ、シィズはピアノを奏でる。
そして、ピアノの旋律で詠唱する。シィズ自身初めてやってみたが、やれば案外できるものだ。
発動させるのは、治癒魔術と浄化系神聖魔術。魔力線を極力刺激しないよう、出力はごく最小限にする。
聞いた者を癒す音色が辺りを包み、疲弊しきっていたイーシャも、ほんの少しだけ癒した。
「っ……!」
その温かい音色に、イーシャは少し驚いた様子を浮かべたが、すぐに歌を続けた。
一瞬、サリアかと思った。けど、この際誰が弾いていてもいい。
(私には……
今、イーシャができる事は歌う事だけ。
だからこそ、できる限りの事をしたい。
タリア達四人も、この演奏を聞いて茫然としていた。教会でイーシャとサリアの演奏を聞いたレンも、違った凄みを感じて聞き入っていた。
……そして、演奏すること十数分。
不意にイーシャの歌が止んだ。
シィズも演奏を止め、口を開けて呆けていたガリレアを呼んだ。
「イーシャが寝たみたいだ。寝室に運んでやれ」
「……はっ!わ、分かりやした!」
シィズもピアノから立とうとすると、少しフラついた為クロウに支えられた。
「大丈夫?」
「ハハ、慣れない事はするもんじゃないな。大丈夫、ちょっと集中が解けただけだ」
一応クロウに肩を貸してもらいながら部屋に入る。
イーシャは、バビロンが眠るベッドに身体を預け、スヤスヤ眠っていた。
イーシャを担いだガリレアを見送り、シィズは眠るバビロンを見た。
呼吸はちゃんとしている。魔力の息吹も回復している。
しかし、意識が弱い。
「バビロン……」
「……大丈夫。バビロンは起きるよ」
シィズは心配そうなクロウに声をかける。
バビロンの生命力と、ロイドの治療を信頼しているのもある。
それに…………
(お前たちに、ジェイドの事話さないといけないからな……)
(……だから、早く起きろ。バビロン)