転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます   作:苦闘点

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アニメヤバァイ……
和やかなギルドの皆をお出しした後の絶望……
ノッブさんの演技すげぇ……りえりーさんの声が悲壮感すげぇ……
やっぱ動きと声が着くと凄いですね……もう語彙力がサ終してます。

あとシレッとペンタブラック鍋カットされてましたね。尺の都合ですね。

あと今マガポケの方で『第七王子』の人気投票やってますね!皆さんは誰に投票しましたか?投票は今週の金曜までなので、まだの人はお急ぎを!

ちなみに私はタルタロスに投票しました。


【第12話】純粋に

 

 

 

 そういえば、オレは何で『結界』を極めようと思ったんだったか。

 

 ……確か、生まれてすぐの頃だったな。何か一つを極めると決意したはいいものを、何を極めるか、決めあぐねていたんだ。

 

 

 

 

 …………あぁ、思い出した。

 

 

 ……『()()()』の言ってた事を思い出したんだ。

 

 

 今まで、何かと便利で、色んな可能性がありそうって理由で研究してた『結界』。

 

 特に思い入れの無かった、ソレを使った魔術。

 

 

 アイツはそれを見て、『綺麗だ』と言った。

 

 

 実際アイツは、『結界』に対してというよりは二重詠唱の方に言ったんだと思うが、それを可能にしたのは紛れもなく『結界』だった。

 

 

 ……そんな理由で研究を始めて、アイツを思わせる弟と一緒に研究して、年単位で引きこもって研究し続けて───

 

 

 

 

 

 ………………それで、このザマか。

 

 

 

 

 

□■□■□■□■□■

 

 

 

 

「っ…………」

「あ、起きた」

 

 

 シィズは重い瞼を開けると、ベッドの縁に座るロイドと目が合った。

 ゆっくり体を起こすと、背中にズキリと痛みが走る。

 

 

「つっ……」

「駄目ですぜ!まだ寝とかないと!昨日背中からグッサリいかれてたんですから!」

「……問題ない。もう塞がってる」

「それでもですシィズ様!一応この私の『浄化』も施したとはいえ、中身はまだ完全には……!」

「ワウゥ……」

 

 

 グリモとジリエル、ついでにシロに、無理やりベッドに倒される。

 それに不服そうにしながらも、シィズは一度息を整えた。

 

 

「……バビロンは?」

「ロードストで安静にさせてる。外傷は全部治癒したけど、出血がひどかった。いつ目を覚ますかは分からない。あと、兄さんが無間界廊に隔離してたシスター達も、さっき影狼で王城に避難させといたよ」

「そうか……オレはどのくらい寝てた?」

「ざっと一日半だな。心臓をグッサリいかれてたのに、流石の回復力だな。でもその分、()()の損傷が激しい」

 

 

 体内を限界を超えた速度で『結界』がまわったため、今シィズの魔力孔と魔力線は破損状態にある。安静にしていれば二日もあれば元に戻るが、その間は魔術が実質使えなくなる。

 厳密に言えば、使えはするが調整が出来なくなる。要は加減が出来ないのだ。

 

 それを聞き、シィズは拳を固く握り……

 

 

 

「………………」

 

 

「「っっっ───!!!」」

 

 

 

 突如シィズから湧き出た全身が粟立つようなオーラに、グリモとジリエルは鳥肌をたてて離れた。

 

 

「……兄さん、出てるぞ。魔力線が破損してるんだから、纏うのも禁止な」

 

「……悪い。……少し一人にしてくれ」

「あぁ、分かった。行くぞ、二人とも。シロもこっちだ」

 

 

 そう言って、三人とシロは部屋から出ていく。

 

 付き合いが浅いと言えど、並々でない様子のシィズについて、グリモは一番知っているであろうロイドに聞いた。

 

 

「あの……ロイド様?シィズの兄貴がああなんのは、よくあるんですかい?」

「いや?俺も初めて見るよ。兄さんがあんなになるのは」

「あそこまで怒っているとは……シィズ様は責任感が強いのですね」

「あぁ、あのオーラのことか?あれは別に怒ってる訳じゃないよ」

「そ、そうなんですかい?」

 

「あれは纏っている『界』の出力が高くなった時に生じる、()()だ」

「歪み?」

「兄さんの『界』は、『魔力障壁』とそもそも原理が違う。それによって起こる現象だよ」

 

 

 『界』と『魔力障壁』との最大の違いは、空間を隔てる原理の違いだ。

 

 『魔力障壁』は、空間に魔力を固めて構成した壁を作るもの。例えるなら、水槽に入った水の中で氷の箱を作る感じだ。

 対して『界』は、箱ではなく()()()()()()を配置する。水槽の中にゼロから構成した水風船を出現させた感じに近い。

 

 その際、水槽はその中に現れた水風船の体積によって水嵩が上がる。これがロイドの言う歪みである。

 ちなみに、シィズが暗殺者ギルド達と初めて会った時感じたアレも、ちょっと巫山戯て出力を上げたからだ。

 

 

「……って、兄さんは説明してた」

「いや、俺らに言われても……」

「ちんぷんかんぷんなのですが……」

「それで合ってるよ。俺も理解するのに時間かかったし、何より理屈が分かってても実践できるものじゃない」

 

 

 魔術はその術式の構成、原理、それにより引き起こされる現象の理解、様々な要素が成立した時、初めて習得したといえる。

 ロイドは魔術に関しては、万能ではあるが全能ではない。ノロワレの異能や神聖魔術のように、使用出来ない、あるいは解明出来ないものが少なからず存在する。

 

 その筆頭が、シィズが行使する『結界魔術』であった。

 

 

「そんなヤバい結界を使う兄さんが、教会をあんなにしても倒せなかった相手、か………クフッ、ワクワクするな」

「ワクワクなんざこれっぽっちもしませんぜ……」

「現場は見たが、あんな破壊から逃れられる奴など存在するのか……?」

 

 

 シィズと謎神父との戦い跡、教会は文字通り『半壊』。バビロンが倒れていた建物を残し、ほぼ全てが更地と化していた。恐らくデーン支部の神父が現場を見たら、泡を吹いて卒倒するだろう。むしろそれで済めば良い方かもしれない。

 

 そうこうしていると、ロイド達は慌ただしく働くレンを発見した。

 

 

「いたいた。おーい!レン!」

「あっ!ロイド!どうしたの?」

「兄さんが目を覚ました。お粥かなんか作ってくれないか?」

「シィズさん起きたんだ!良かったぁ。じゃあ即回復しちゃう特製お粥作ってくるね!」

「あぁ、頼んだ」

 

 

 張り切った様子で厨房に走るレンを見送り、ロイドは「さて」と一息ついた。

 

 

「じゃ、俺は兄さんのとこ行ってくるから、お前たちはちょっと待機な」

「え、でもシィズの奴、一人にしてくれって……」

「そうだけど、放っとくと『門』開いてどっか行っちゃうからな。俺だったらやるし」

「似た者兄弟故の信頼ですか……」

「そういうことだ。大丈夫そうなら呼ぶよ」

 

 

 影狼で転移したロイドを見届けた後、ジリエルは「ハァ〜……」と大きいため息をついた。

 

 

「どうしたんだよジリエル。お前らしくねえ」

「……少し思うところがあってな。シィズ様のあの様子に」

 

 

 ジリエルは()()()を知っている。

 

 あの、元々澄んでいた瞳から、純粋さを失ったあの姿を。

 

 

「昔見た、今でも信頼する者の目と、重ねてしまったんだよ……」

 

 

 

 

□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 人が居なくなった部屋で枕に身体を預けながら、シィズは鉛でも吐くかのように重いため息をついた。

 

 一応ロイドの兄として、今のカッコ悪い姿は見られたくなかった。

 

 

(……バビロンは生きてたか……なら、オレは役目を果たせたのか……?

 

 

 …………いや)

 

 

 オレが入れ替え僧侶の攻撃を避けていれば。

 オレがもっと早く僧侶との決着をつけていれば。

 オレが治癒系統魔法に明るければ。

 

 ……オレがもっと強ければ。

 

 

 反省、後悔なんて無限に出てくる。

 結果オーライでもない。バビロンはまだ目覚めていないのだから。

 

 

(……どの口で守るなんて、ジェイドに誓ったんだ。これじゃ、合わせる顔がないだろ……)

 

 

 手で顔を抑え、天井を向く。

 

 そこで、シィズは昨日の昼にサリアから言われたことを思い出した。

 

 

 

貴方は、もう少し純粋になった方がいい

 

 

 

(───『純粋』、か………)

 

 

 その言葉でシィズが思い出すのは、前世に見たあの少年の目だ。

 

 あの目があったから、シィズには今があった。

 あの目に憧れて、『純粋』に結界を極めようとした。

 

 けど、実際はそれも、ただの真似事に過ぎなかったが。

 

 

(どうしたって、オレにはあの目は出来なかった。アイツや、サリア姉さんや……)

 

 

 ずっと身近にお手本はいた。

 アイツと同じ、眩しいくらいに純粋な……

 

 

 

「───ロイドみたいには」

「呼んだか?」

「……()れないな、お前にはホント」

 

 

 一周まわって半笑いになり、シィズはロイドへと視線を向けた。

 

 

「戻ってくるの早くないか?」

「兄さんが割と参ってたからな。それにほっといたらロードストに行きかねないし」

「……まぁ、否定はしないけど」

 

 

 あのままネガティブを続けていたらと想像すると、行きかねないというのも否定は出来なかった。

 

 そのままロイドは、特に何かを聞くでもなく、ベッドに座った。シィズに教会であったことを聞きたいはずなのに。  

 ロイドのその様子は、シィズにとっては違和感でしかなかった。

 

 

「……どうしたんだ、ロイド。体調悪いのか?」

「え?何で?」

「いつものロイドなら、教会であった事いろいろ聞いてくるだろ」

「んー……いつも通りじゃないって言うなら、それは兄さんの方だろ」

 

 

 その言葉に、シィズは一瞬胸の内を透かされた気がした。ロイドの異変にシィズが気付いたのだから、その逆もまた然り。と言っても、不思議なことにロイドに言われると、何か読心術的なものに聞こえる。

 

 ちょうどいい機会だと、シィズはロイドに聞いた。

 

 

「ロイドは、好きだから魔術を極めるんだよな」

「ああ、そうだよ。昔も聞いたよな、それ」

「そうだったな」

 

 

 そう、昔も聞いた。

 産まれて数年しか経っていない時、二人が一緒に結界についての魔術書を読んでいる時に。

 

 前世のアイツと全く同じ答えで、少し面白かったのを覚えている。

 

 

「好き、か……。だから、ロイドは強いんだよな」

「別に俺は、強さとかそういうのはどうでもいいよ。魔術を心置き無く極められればそれでいい」

「そう、だよな。オレとは大違いだ」

「兄さんは違うのか?」

 

 

 キョトンと首を傾げるロイドに、シィズ自嘲したような笑みを浮かべた。

 

 

「オレは、そんな純粋にはなれない。極める事を、目的じゃなくて手段にしてる」

 

 

 二人は知り得ない事だが、ロイドとシィズは根本の部分が違う。

 ロイドは、前世からずっと『魔術が好き』。この一点のみを原動力に生きている。

 

 しかし、今生から結界を極めたシィズは、その原動力を違う場所に持つ。

 

 

 それは───『恐れ』。

 

 

 前世で、家族や故郷を失ったことによる、誰かを失う事への『恐れ』。

 シィズも今回の件でようやく自覚したそれは、今までずっとシィズを縛っていた。

 

 

 誰も失わないように、今度は全てを守れるように。

 そんな無意識に駆られて、シィズは結界を極めていた。

 

 結局、今も昔も、自分以外のために生きている。

 

 

「だから、そんなに純粋になれるお前が羨まし……」

 

「へ〜、そうなのか〜」

 

「……うん、そういう反応は予想してたよ」

 

 

 露骨に興味を失くしてるロイドに、シィズは苦笑する。昔から、魔術にしか興味のない弟だ。こういうとこは純粋とはまた違う気がする。

 

 作画というか、台詞というか、色々崩れていたロイドだが、少ししていつもの作画に戻った。

 

 

「ま、純粋とか何だとか、そういうのは俺には分からないよ。俺はただの魔術馬鹿。別に羨ましがられるような事はしてないし」

「……ロイドからしたら、そうだろうな」

 

 

 ロイドからしたら、特別な事など何もないのだろう。自覚もなく、ガムシャラに進んでいく。

 だから『純粋』で、本当に極められるんだ。

 

 

 …………そう、自覚がないのだ。

 自分では気付かない内に、ソレは形作られている。

 

 ……だからこそ、

 

 

「でも、それは兄さんも同じだろ」

「……え?」

 

 

 シィズ自身も、()()に気付いていない。

 

 

「俺だって羨ましいんだぞ。俺も兄さんに会えてない時、定期的に結界魔術について調べてたし」

「そういう意味じゃなくてな……オレは……」

 

「どういう意味でも、だ。……なあ、兄さん。俺が何で結界魔術を兄さんに聞いて習得しないと思う?」

 

 

 突然の問いに、シィズは言葉を詰まらせる。

 しかしその実、それはずっと気になっていた事だ。

 

 『界』の術式は、ノロワレの異能や神聖魔術のように、正規の方法で習得可能なものではない。

 シィズがほぼ一から術式を作ったとはいえ、術式としてはかなり精確に残っている。引きこもっていた五年で纏めた資料を合わせれば、魔術書くらいの厚さにはなる。

 

 それでも、ロイドはそれを見ようとしない。

 一度魔術と見れば、魔族だろうが神の御使いだろうが、吹き飛ばしてでも知ろうとする魔術馬鹿のロイドがだ。

 

 

 

 それは───その魔術馬鹿だからこその理由からだ。

 

 

 

「……挑戦したくなったんだ。『魔術を発明した人』なんて、一生のうちに会うことなんかないだろ?そんな凄い人がすぐ近くにいて、分からないとこがあったら聞いて、一緒に研究して………。だから、その人に挑戦したい!なんて、初めて思った」

 

 

 ロイドは魔術が好きだ。

 魔術を見るのも、知るのも、そこに込められた『夢』を見るのも、何もかも。

 この世界にある無数の魔術。それを全て極めようとした。 

 

 その過程の中、自分の兄が誰も見たことの無い、全く新しい魔術を開発した。

 勿論、それを知った直後は、直ぐにでも知りたかった。根掘り葉掘り聞いて、その魔術を解き明かそうとした。

 

 

 けれどそれ以上に……何を思って兄がその魔術を作ったのか、その魔術にどんな『夢』を込めたのか、知りたくなった。

 

 

「兄さんの『界』はスゴい。一つの魔術なのに、その中に無数の魔術の要素が散りばめられている。」

 

 

 シィズはロイドが羨ましかった。

 同時に、ロイドもシィズのことを羨んでいた。

 

 既存の魔術を組み合わせる事は出来ても、全く新しい魔術を一から作るのは、きっと出来ないから。

 

 

 だから、ロイドは気づいていた。

 この、自らが尊敬する兄は、()()()()()()()だけだと。

 

 

 

 

 

「こんな凄いモノ───()()()好きじゃなきゃ、作れないだろ?」

 

 

 

 

 

 ロイドは、初めて読む魔術書に向けるような、輝く太陽のような笑みをシィズに向けた。

 

 ……まだ、シィズは自分の動機に自身が無い。ロイドに言われて戻るようなら、他人に動機を求めているようなら、まだ純粋とは言えないだろう。

 

 

 やはり、まだシィズにはロイドは眩しかった。

 

 

 

 …………それでも

 

 

 

「───そうか」

 

 

 

 その、太陽のような温かい眩しさは、

 

 

 ───シィズの心にかかった雲を晴らすには、十分だった。

 

 

 

「───なら、オレもちょっとは純粋なのかもな」

 

「あぁ!」

 

 

 

 シィズは微笑んで、笑顔を向けるロイドの頭を撫でる。

 

 

(……結局、救われてばかりだな。この弟には)

 

 

 本当に似ている。

 

 ふと、シィズに突拍子もない考えが過ぎった。

 

 シィズだって転生者なのだ。

 

 なら、ロイドだって………

 

 

 

「お粥持ってきたよ!」

「お、シィズの奴、顔色良くなってんじゃねえか」

「ほっ……憑き物はすぐに落ちたようで良かった……」

「ワンッ!」

「みんな良いとこに来たな。丁度呼ぼうと思ってたとこだ」

 

 

 元気よく開けられた扉によって、シィズの考えは中断された。

 

 

(……まあ、どっちでもいいか)

 

 

 どちらにせよ、ロイドはロイドだ。

  

 シィズを照らし、シィズを追う星。

 

 

 

 シィズはそう完結させ、レンが持ってきたお粥に目を向けた。

 

 そして……

 

 

 

「……で、お粥だったか?これは。『門』から見える闇ではなく?」

 

「おお、いつかに見た『森の幸即席鍋』と同じ色だ!光の吸収率上がってるな!」

「へへーん!ボクもシルファさんに教わってるからね!成長したんだよ!」

 

「これで成長してるのなら、レンたんはもう匙を投げた方がいいのでは?」

「それでも美味えんだから、もうそういう才能だと思え」

 

 

 可視光をほぼ100%吸収するペンタブラックお粥を手に取り、『門』を思い出すシィズ。まさか料理(?)を見てソレを連想する日が来るとは思わなかった。

 

 一応グリモは美味いと言うので、一口食べてみる。

 マジで普通に美味しいお粥だった。

 

 

「す、凄いなこのお粥。味と見た目が全然噛み合わない。なのに普通に美味しい。コクがある」

「この見た目でコクがなかったら寒気がしますよ」

「前もやった気がすんなこのやり取り」

 

 

 結局、おかわりまで食べてしまった。見た目と味がアンマッチ過ぎて頭が混乱している。

 

 食後の水を飲み干し、シィズは口を開く。

 

 

「ロイド。悪いけど、教会の話は後でな。ちょっとロードストに飛ばしてくれ」

「ん、分かったよ。シスター達の色々が終わったら俺も行く。レンも連れてくだろ?」

「ああ、頼む」

 

「え?ボクも?……いいの?」

「シルファには後で言っておけばいいさ。心配だろ?バビロンの事」

「……うん!」

 

 

 部屋に入ってきた時点でシィズは気づいていた。

 元気に振舞っていても、バビロンのことが心配で仕方がないようだった。

 

 

「それじゃ後でな、二人とも」

 

 

 ロイドに見送られ、二人はロードストに転移した。

 

 

 

 

□■□■□■□■□■

 

 

 

 

 ロードスト領主邸。

 

 その客間。バビロンが寝ているのと隣の部屋に、タリア、クロウ、ガリレアはいた。

 普段の陽気な様子と違い、三人とも暗い表情をしている。隣の部屋から聞こえる、か細い歌を聴きながら。

 

 すると、少しイラついたように口を開いた。

 

 

「………もう、歌い始めて何時間よ。あの娘」

「……もうすぐ18時間……そろそろ寝させないと、本当に倒れちゃう」

「とっくに魔力も尽きてるってのに……」

 

 

 ロイドがやれるだけやった後、イーシャは皆が看病する部屋にやってきた。

 酷く隈のついた顔で、昨日もまともに寝れていないだろうに、今の今までずっと神聖魔術をかけ続けている。

 

 いや、もう神聖魔術も発動していない。ただ歌ってるだけだ。魔力が枯渇して立っているだけでも辛いはずなのに、ずっと歌い続けている。

 

 ガリレアもクロウも、あの健気な様子では止める事も出来ない。

 最初はイーシャにキツく当たっていたタリアも、どう対応すればいいのか分からなくなっていた。

 

 このままイーシャが倒れるまで待ってるしかないのかと思っていた時、見慣れた転移門が開かれ、シィズとレンが現れた。

 

 

「し、シィズ君!?」

「シィズの兄貴!もう、大丈夫なんですか!?」

「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけたな」

「よかった……」

 

 まだ会ってから一週間程しか経っていないのに、こうも心配してくれる所を見ると、本当に暗殺者ギルドは心優しい者達の集まりなんだと実感する。

 

 そこで、レンは隣の部屋から聞こえてくる歌に気がついた。

 

 

「この歌……イーシャさん、まだ歌ってるの!?」

「……あぁ。あれから、ずっと……」

「そんなの……!もう魔術も発動してないよ!魔力だって……!」

「…………」

 

「………私、止めてくる。あのまま続けさせてたら、あの娘の体の方が……!」

 

 

 決心がついたように扉へ向かおうとしたタリアを、シィズは手で制した。

 

 

「し、シィズの兄貴?」

 

「───ガリレア。ここ、ピアノあるか?」

 

「え?えっと……確か、地下の方にあった気が……」

「持ってきてくれ。急ぎだ」

「は、はい!」

 

 

 ガリレアは急いで部屋を出ていき、ものの数分でアップライトピアノを持ってきた。そこそこ大きいはずなのだが、流石暗殺者ギルドのパワー係だ。

 

 

「こっちの部屋でいい。あっちの部屋だと、イーシャの邪魔になる」

「シィズさん、弾けるの?」

「少しだけな。サリア姉さんには遠く及ばないけど」

 

 

 そうして、シィズはピアノの椅子に着いた。

 

 本当は、イーシャにも今すぐに休んで欲しい。肉体的に、何より精神的に、イーシャは今不安定な状態にある。不眠不休で歌い続けるなど、危険すぎる行動だ。

 

 

 けれど、シィズはイーシャの気持ちを無碍にしたくなかった。無力を嘆く気持ちは、痛いほど理解できたから。

 だから、一度気持ち良く歌ってもらって、その後寝てもらうことにした。

 

 

「……さて、弾けるかな」

 

 

 ピアノなんて、前世で少し齧った程度だ。

 上手く弾けるかは分からない。ただ、少しでもイーシャが気持ち良く歌えるように、最善を尽くす。

 

 

「……フゥー…………」

 

 

 

───ポォォン───

 

 

 

□■□■□■

 

~~✤ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ♫ ♩ ♬ ✤~~

 

□■□■□■
 

 

 

 

 イーシャの歌に合わせ、シィズはピアノを奏でる。

 

 そして、ピアノの旋律で詠唱する。シィズ自身初めてやってみたが、やれば案外できるものだ。

 

 発動させるのは、治癒魔術と浄化系神聖魔術。魔力線を極力刺激しないよう、出力はごく最小限にする。

 聞いた者を癒す音色が辺りを包み、疲弊しきっていたイーシャも、ほんの少しだけ癒した。

 

 

「っ……!」

 

 

 その温かい音色に、イーシャは少し驚いた様子を浮かべたが、すぐに歌を続けた。

 一瞬、サリアかと思った。けど、この際誰が弾いていてもいい。

 

 

(私には……コレ()しかないから……!)

 

 

 今、イーシャができる事は歌う事だけ。

 だからこそ、できる限りの事をしたい。

 

 

 

~ □ ■ □ ■ □ ■ ~

 

~ ✤ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ♫ ♩ ♬ ✤ ~

 

~ ■ □ ■ □ ■ ■ □ ~

 

 

 

 タリア達四人も、この演奏を聞いて茫然としていた。教会でイーシャとサリアの演奏を聞いたレンも、違った凄みを感じて聞き入っていた。

 

 

 ……そして、演奏すること十数分。

 不意にイーシャの歌が止んだ。

 シィズも演奏を止め、口を開けて呆けていたガリレアを呼んだ。

 

 

「イーシャが寝たみたいだ。寝室に運んでやれ」

「……はっ!わ、分かりやした!」

 

 

 シィズもピアノから立とうとすると、少しフラついた為クロウに支えられた。

 

 

「大丈夫?」

「ハハ、慣れない事はするもんじゃないな。大丈夫、ちょっと集中が解けただけだ」

 

 

 一応クロウに肩を貸してもらいながら部屋に入る。

 イーシャは、バビロンが眠るベッドに身体を預け、スヤスヤ眠っていた。

 イーシャを担いだガリレアを見送り、シィズは眠るバビロンを見た。

 

 呼吸はちゃんとしている。魔力の息吹も回復している。

 しかし、意識が弱い。

 

 

「バビロン……」

「……大丈夫。バビロンは起きるよ」

 

 

 シィズは心配そうなクロウに声をかける。

 

 バビロンの生命力と、ロイドの治療を信頼しているのもある。

 それに…………

 

 

(お前たちに、ジェイドの事話さないといけないからな……)

 

 

(……だから、早く起きろ。バビロン)




【次回予告】


「全く、こんなに隈を作って……。本当に凄いわね、貴方。ゆっくり休みなさい。それまでバビロンは私たちが看ておくから。……あと、起きたら謝るわ。キツく当たったこと。で、一緒にバビロンが起きるの待ちましょ」

次回 【第13話】気術を習います


君は魔術の深淵を目撃する



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