転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
ではちょっとした裏設定というか、アニメにあやかった豆知識を一つ。
1発でもロイドの糞硬結界を2枚も簡単に貫くギザルムの『魔槍』ですが、シィズの『界』はどうでしょうか?
答えは……100発当てようと割ることは出来ません。いいとこヒビです。
まぁ
上々だ。アンタに会うまで、どの道クソみたいな人生だったし
ボスの要求にも、あの人の期待にも、出来るだけのことはしたと思う
─────、───
は?
…………
あ〜……はいはい、分かったよ
嫌いじゃなかったよ、イーシャの歌。柄じゃないけどな
あぁでも、多分ボス達も好きだぞ。自分からは言わないけど
だからまぁ……良かったよ
てゆーかココ酒とかないの?
──、────────、────
はぁ?
痛い痛い!何なんだお前はさっきから!久々だってのに……
──、────
…………
仕方ない、酒はまた今度な
お前達は……
そうか
───、────────
シズと第七君によろしくね!行ってらっしゃい!バビロン!
「バ」
「バ」
「バ」
「「「「バビロン(さん)が起きたああぁぁ!!!!」」」」
「痛い痛いいったい!!なんか今さっき似たような夢を見てたような気が……!」
目を覚ましたバビロンに、イーシャ、ガリレア、タリア、クロウの4人が飛びかかる。起きたとは言えまだ身体には包帯が巻いてあるため、やられたバビロンは痛みに悶えていた。
「良かった!わらし、バビロンしゃんがホントにぶじで、ホントに……よか、よか……よか……くぷぅzzz」
「寝たァ!?」
ここ3日間の睡眠不足による疲れがバビロンが起きた安心により決壊し、イーシャは電池が切れるようにベッドに頭を落とした。
色々困惑しているバビロンに、ピアノを弾いていたシィズは笑いかける。
「おはよう、バビロン」
「……えぇ、おはようございます。……その、まず色々説明お願いできますか?」
「イーシャちゃんの服は私のよ!」
「いやそれはどうでもいい」
ちなみにイーシャの服はタートルネックノースリーブの縦セーターである。「だから聞いてねえって」
その後、バビロンが寝ていた3日間の各人の動向を説明した。あとバビロンが気絶した後の教会での事も。
「……なるほど。いい奴コンビ以外は大体解った。それでボス……ロイド様は?」
「ロイド様なら、多分もうすぐ来るぞ」
「なになに〜?そんなにボスに会いたいの〜?このボスコンめ!」
「いやホントに良かったな、バビロン。お前このまま寝てたら今頃……」
「? 今頃?」
ヴン
「よーし!今日はバビロンの強制覚醒実験をするぞー!!」
「「「おー!!(ワン!)」」」
(強制覚醒実験……!?)
ロイドが発した恐ろし過ぎるワードに、寝ていたら一体何をされていたのかとバビロンは震え上がる。シィズはバビロンの体がとんでもない事にならなかった事に安堵した。
「あ、あれ〜?バビロン起きたんだぁ〜……ふ〜ん!良かったなぁ!」
「アレなんかちょっと残念そう……!?」
(気合い入れてたもんな〜)
笑ってはいるが口調から残念感が無くしきれていないロイド。心做しかグリモとジリエルも持て余してる感が出ている。
(何されるとこだったんだろ……)
「いやでも本当に良く生きて帰った。ほとんど奇跡だったぞ」
「色々御心配おかけしました。一応、臓器を超軟体で上や下にギュウギュウに詰め込んでましたから……それが功を奏したのかも」
「馬鹿ね!それでも瀕死だったのよ!?ロイド君が10時間以上最上位の治癒系統魔術を打ち続けてくれて、それでも目が覚めなかったんだからね!」
「10時間も!?」
最上位治癒系統魔術と言うと、欠損だろうが魔力欠乏だろうが何だろうが、大体のものは治してしまう魔術である。
しかし、瀕死の更に向こう側。三途の川を彼岸まで渡りかけていたようなバビロンには、それだけしても目が覚めなかった。ロイドの言う通り、目が覚めたのはほとんど奇跡と言っていい。
「そんな事が……本当に御心配おかけして……」
「俺はいい。お礼なら、『シズ兄さん』と『イーシャ』と『ジェイド』にしてくれ」
「え……」
「兄さんが教会に戻るのがあと少し遅れていたら、応急処置が少し遅れてたら、お前は本当に失血で死んでた。
イーシャは、目覚めないお前に休みなく歌い続け浄化を放ち続けてくれた。兄さんも伴奏でそれを支援し続けてくれてた。
……何より、あの時イーシャが助けを求めなかったら……『瞬間転移』がなかったら、お前も、何なら兄さんも死んでた」
「…………」
ロイドにそう言われ少し顔を伏せたシィズ。逆虚無僧をもう少し早く処理していれば、という後悔はあるが、逆にバビロンが転移させられていたら最初の気圧差で既に死んでいる。
それでも多少の責任は感じているシィズと自分の膝の上で寝ているイーシャに、バビロンは仕方ないなという感じで手を置いた。
あとはまぁ、夢で会ってた気のする友人に向けての意味も込め、穏やかに笑った。
「……はい。ありがとうごさいます」
「……オレはいいから、イーシャが起きたら沢山言ってやれ」
「お?シィズ君照れてるー?」
「耳赤い」
「うっさいわタリアにクロウ。それよりバビロン、早速で悪いが、教会であったことを色々擦り合わせるぞ」
そう言うと、ロイドは懐から血塗れのシャツを取り出した。一見ただの遺品みたいだが、よくよく見ると血文字が書かれている。
「俺はこのお前の残したこの遺言が気になって仕方ない!」
「うわあああ自分で書いた遺言を自分に見せられる!!なんて恥辱!」
「あんた字下手過ぎでしょ、辛うじて私への感謝の言葉は分かるけど」
「パッと見て分かったら血文字の意味がないだろうが。あとそんな事書いてねぇよ」
「え?俺への別れの言葉じゃないのか?」
「イーシャへの愛のメッセージ」
「書いてねぇよ」
「俺たちへの、だろ?」
「謎神父の情報、オレが掴めてない物をお前は掴んだんじゃないか?」
「……買い被り過ぎですよ」
そして、バビロンは教会であったことを話した。
概ねは、シィズが見たのと同じ。
身体を魔物のように変化させ、神聖魔術『光武』を使用していた、と。
「それと、これは私の所感なのですが……あの神父、あんまり悪いやつだとは思わなかったんですよ。全然殺気も感じられませんでしたし」
「そうなのか?兄さん」
「あの時はオレも理性働いてなかったからな。あんまり覚えてない。威圧感は確かに無かったけど」
「はい、むしろ惹き込まれる、話してて和む感じでした。私としては気色悪い事この上ありませんでしたが……」
シィズも、あの神父のことを思い出す。
あれだけ化け物のような身体をし、人を2人は殺しかけておいて、一切感じなかった殺意と緊張感。アレと比べれば派手僧侶は遥かに殺意が漲っていた。
アレはまるで……
「殺気が無いって……馬鹿言わないでよ。そいつにアンタとシィズ君が殺されかけてるのよ?」
「それはそうなんだが……あと、だからかは分かりませんが…………アイツに、『浄化』は効きませんでした」
「っ!」
「少なくとも『微光』を30発は当てたと思います。でも、善人になる気配は微塵もありませんでした」
「……確かに、浄化属性も持つ『非天六道』も当てたが、何も変化はなかったな。並の魔人なら一撃で屠れるくらいの浄化の筈なのに」
「それってつまり……」
「───悪気が無いのかもな。人を殺すのに」
ロイドのその結論に、皆の肌に悪寒が走る。
暗殺者ギルドをしていたからこそ、彼らは命に敬意を持っており、命を舐めた事などない。
だからこそ、命を奪って何とも思わないというのに、少なくない忌避感を感じた。
(浄化は悪意を自覚している者にしか効果がない。『無い』感情を産み出すことは出来ないからだ。バビロンの浄化もオレの浄化も届かない程の、真っ暗闇の深淵……いや、突き進む信念か?人殺しに何も感じないとか、見た目だけじゃなく中身まで化け物らしいな)
更に、その化け物が空間入れ替えのノロワレや、反射のノロワレのような強者まで従えてると来た。他に同じようなのがいれば、前代未聞の化物集団だ。
現在、謎神父の似顔絵と神聖魔術等の情報をアルベルトに渡し、教会本部に報告してくれている。昨日はあんな感じだったが、その実聖誕祭直前のこんな事件で胃がキリキリしていたのだった。
その後、ロードストで匿ってるデーン支部の神父にも話を聞いた。何故かシロがプリントされたパジャマを着ていた。クロウが作ったのだろうか。
「そういえば、兄さんとバビロンはどのタイミングで修道女達を逃がしたんだ?」
「ずっと中庭を見張ってたんですよ。で、あの日見張りに行ったらアイツがいました。傍らにレイスと変なの連れてたんで、ヤバいと判断してシィズさんを呼びました」
「なるほどな。あの時イーシャと神父様がいなかったのは、入れ違ったのか」
「それはいいのだが、私はいつ教会に帰れるんだ!?聖誕祭の準備があるのに……」
「(……神父にオレが教会半分消し飛ばした事、言ってない?)」
(え?半分?この人俺が気を失った後何したんだ?)
「(言ってませんよ。言ったら卒倒するでしょ)」
「(ナイス!ガリレア!)」
実際には調度品は八割方お釈迦になったのだが、それも言わない方がいいだろう。どうせ帰ったらバレるが、教会は半分守ったのでチャラということにして欲しい。
そこまで考え、シィズは自分の装いが変わってるのに気付いた。茶色いチェック柄のベレー帽とケープを着させられていた。多分探偵っぽい事してたから、クロウとタリアが着せたんだろう。
よく見ればロイド達も同じ格好をしていた。こっちは気付いていないが。
(教会か……そういえば演奏会の時、中庭にいたシロがやけにビビってたな。一昨日は何も感じなかったが、もしかしたら……)
「「あの中庭、怪しい!」」
(まぁ怪しいから俺は張り込んでたんだけど……あと
瞬間転移で教会に来たロイド達は、早速中庭にいるタオ(と良い奴コンビ)に会いに来た。
「おー!もうこんなに終わってるのか!凄いな!」
「「ロイド様!一昨日シィズ様が手伝ってくれたんで!ハハッ!!」」
「土系統魔術と樹系統魔術は修繕に便利だよな。おかげで3日後の『大聖誕祭』の演奏会も余裕で迎えられそうだ」
(シィズ様が魔術を使って修繕したのか……どんだけ壊れてたんだろ……)
教会はもうほとんど元通りと言って差し支えない程だった。図面さえあれば土系統魔術で大理石でもレンガでも創れるので、シィズからしたら簡単な作業だったが。
ただ、『演奏会』というワードが出た時、イーシャは何か思い詰めるような顔をしていたのが少し気掛かりだった。
ガゼボの上で肉まんを食べていたタオが、ロイドの横に降り立った。
「来たあるか!バビロン無事で良かったあるな!」
「うん。タオも見張りありがとう。そっちは変わり無かったか?」
「何も無かったあるよ。あっ、シィズもいるあるか。……フムフム、気の呼吸も大分板に付いてるようで何よりある!」
「おかげさまでな。あと、一昨日カタリナも来てたけど、何か連絡する来たか?」
一昨日、シィズ達が修繕している所を冒険者ギルド受付のカタリナが尋ねてきた。
デーン支部の神父様はイーシャがギルドまで運び、そこからロードストへ連れてった為、諸々の事情説明をぶん投げていたのだ。あと、傍から見てもマズイ状態だった教会の説明も。
「いや、まだ来て……」
「最っ悪ですよ……!!」
「うわっ、カタリナいたあるか!?」
「えぇもう……冒険者ギルド辞めたろっかなって……!」
「何あったあるか!?」
タオの横には、膨れっ面のカタリナがいつの間にか佇んでいた。あと何故かバチバチにキレていた。
どうやら、カタリナは似顔絵や教会出の事件の情報を、アルベルトと一緒に教会本部に伝令してくれたらしい。
しかし、教会側は『我々の中に教会を襲う悪漢などいるはずがない!』と主張。更には、情報元が元賞金首のバビロンに、殆ど名ばかりで引きこもりの第六王子と来た。神官の中にはそれを貶めるような奴もいたそうだが、そこは教皇ギタンが収めたという。
それで、最終的な教会側の主張はと言うと……
「『教会を疑うなら証拠を持ってこい』って!!私上司に問題起こすなって滅茶苦茶怒られたんですよぉ!!」
「あぁっ!せっかく直した窓がぁ!でもまぁいっか!ハハッ!」
「なんか悪いな。私の信用が無いせいで嫌な思いさせて……」
「オレもごめんな。5年も引きこもってたせいで信用無くて……」
「2人は悪くありませんよ!でも、でもでもぉ!これじゃぁ命懸けでイーシャさん達を守ったバビロンさん達が報われないじゃないですかぁ!!」
教会の協力どころか、そんなスタンスなら冒険者ギルドは手配書も出せない。教会関係者が犯人『かもしれない』などと曖昧な理由で手配書を出したら、教会のメンツに関わるから。
ギャン泣きするカタリナの後ろで、ロードスト組がそうだそうだと声を上げる。タリアは「バビロンの無駄死にだぁ!」とか言ってたが、「生きてるけどな」とバビロンがツッコンでいた。複雑な立場の神父様はいたたまれなさそうだった。
「……ロイド、お前が教会に来た時、どんな様子だった?」
「兄さんの思ってる通り、わざとらしく光武の残滓が残ってたよ。これで犯人に近づくきっかけは潰れた……まるで最初からこうなる事が分かってたみたいじゃないか?」
「あぁ。教会側は否定しているが、アイツは少なくとも教会関係者で間違いなさそうだな」
どういう意図かは分からないが、あの謎神父は自分が教会にいるという情報はこちらに与えたいようだ。それが罠なのか別の意図かは定かじゃないが、今はそこを考えてる暇は無さそうだ。
ほら、激昂したガリレアが中庭をスコップで掘り始めた。いい奴コンビはそろそろ怒れ。
(中庭に何かあるのは間違いない。ただタオの『気配察知』に引っかからないとなると、余程高度な『隠遁者』なのか。……多分シロは気付いてるな。気付いてるけどビビって気付かないフリをしてるなアレは)
さっきから花壇を押したりしてるシロは、今も目を合わせようとしない。「何も気付いてないワン」と言外に伝えているようだがバレバレである。
どうしたものかと唸っているところに、クロウが前に出た。
「かぁっ」
カーァ カー カーァ
「かぁっ、かぁ」
「へぇ、そんな事も出来るのか」
呪言の応用。言葉に魔力を乗せるのを利用して、烏に意識共有をしたらしい。これなら庭を荒らさない鼻のきく仲間が増えるわけだ。
シロはそれに悩ましげな視線を送っていた。自らのアイデンティティを奪われて気になったのだろうか。けれど頑なに捜索には参加しようとしない。
烏が中庭を調査している所に、走ってきたのか息が荒れているサリアと、護衛のシルファとレンが現れた。
レンはバビロンを見るなり飛びつき、サリアはイーシャの胸に飛び込んだ。
「あ、サリア!どうしてここに……」
「……良かった……無事で」
「サリア……!はうっ!?」
「でも、無断でずっと練習サボった罰……!」
「やっ、んっ、はう、やぁ!」
「す、凄い!弾きこなしてる!」
「人を弾くって何よ」
イーシャの胸をポヨンポヨンと弾くサリア。それに反応してイーシャが鳴くから本当に楽器のようだ。
ひとしきり弾き終わると、サリアは真剣な目をイーシャに向ける。
「それで、大丈夫そうなの?演奏会」
「っ……!」
「あぁ、それなんだがな、サリア姉さん」
「あ、シズに早めのパブ〇ンさん。イーシャを助けてくれてありがとね。きいたよね?」
「何がだ。大して早くねぇし。バビロンだ。聞いての通り、イーシャは悪漢に襲われた。もしかしたら、また襲われるかもしれない。だからその……演奏会は中止した方が……」
「……そう」
バビロンの言う通り、あの化け物が演奏会に来ないと限らないし、仮にやって来て暴れたらその被害はイーシャだけに及ばない。
そして何より、今のイーシャの精神状態では人前で歌うことすら危ういだろう。
謎神父との出来事が余程のトラウマだったのか、それともあの時神父に『その女の歌には常々吐き気を……』と言われたことを気にしているのか。
今も下を向いて少し震えている。
「……なら、演奏会は私1人でやる」
(まぁ、サリア姉さんならそう言うよな)
「駄目ですよサリアさん!1人で勝手に出歩いたら!」
「あっ……サリ……」
「皆!来て!」
サリアがイーシャに背を向け歩き出し、それを引き止める前にクロウが声を上げた。どうやら、烏が何か見つけたようだ。
数匹の烏は、ガゼボの段差のすぐ下を突いていた。
シルファがそこの石畳を押すと、ガコンと下がり取っ手のようなものができた。
そこを開けると……得体の知れない、瘴気のような臭いが飛び出してきた。
「な、何だこの地下室は!?」
「ぜ、全然気付かなかったある」
「……なるほどな。この扉、魔力も気も遮断する特殊な合金で作られてる。そりゃタオが気付かないわけだ」
「オレがここで戦った時も、地面を這うように結界を張ってたから気付かなかったのか」
「ふふ、俄然興味が湧いてきた。行ってみよう!」
ロイドが地下室探索チームを発表しているところ、イーシャが気になったのか近付いてきた。
それを、シィズは手で遮るように止めた。
「し、シィズ君?」
「イーシャ、君は見ない方がいい」
「っ……!!」
「……当然だ。私たちが行くから、イーシャはここで留守番。神父様と待ってろ」
普段のイーシャの精神状態であろうと、この地下はまともな人間は見ない方がいい。
そう思わせる程の臭いがするのだ。あの謎神父への恐怖が拭えていないイーシャには、絶対に見せるわけには……
「……待ってください」
「?」
「お願いします!連れてってください!ご迷惑はおかけしませんので!」
「いや……」
「シィズ様、大丈夫」
「クロウ?」
覚悟を決めた目をするイーシャに、シィズの肩に手を置いたクロウが手招きする。それにシィズは少し逡巡した後、「仕方ないか」と言って後をついて行った。
「いや、駄目に決まってるだろ。イーシャは狙われてるかも……グエッ!?」
「はいはい、アンタこそ怪我人なんだから神父様と留守番ね」
そのイーシャを止めようとしたバビロンは、タリアに首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られていった。
「馬鹿!何言ってんだ解らないのか!?あの地下絶対ヤバいだろ!」
「それでも、よ」
「?」
「……負けてほしくないの。私、あの子のファンになったから♡」
そう言ってウィンクし、タリアは階段を降りていくイーシャを見る。
(……ごめんなさい、サリア、バビロンさん……。ここで目を背けたら、また逃げたら……私はきっともう、真っ直ぐ歌えないから……)
あの時からイーシャを蝕む、謎神父への恐怖。奥底に根付くそれの一部が、きっとこの地下に眠っている。
それにさえ屈してしまえば、もう自分はダメなのだと、イーシャは解っていた。
(絶対、この恐怖に打ち勝って帰ってきます。……だから、そのときは……)
イーシャ達は、瘴気漂う地下へと潜っていった。