転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます   作:苦闘点

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誰か、絵心を前世に置いてきた私のかわりに、シィズの絵を描いてくれる人いないかなぁ……


【第16話】教会の地下に行きます

 

 

 思いの外短い階段を降りた先、大きな空間が広がっていた。

 

 その光景に、皆が言葉を失っていた。意を決して飛び降りてきたシロ。その中にいたグリモとジリエルが、額に青筋を浮かばせた。

 

 

「何という……冒涜!」

「こりゃ、シロがビビる訳だぜ……」

 

 

 その地下は、研究施設のようだった。

 緑色の液体が入った無数のカプセル。その中には、一見すると魔物のように見えるものが浮かんでいた。サルーム王国がある大陸の外にいる種や、グールのような人型もいる。

 

 階段が短かったことから察しはついたが、地上の音は結構響く。イーシャの歌をいつも聴いていたというのは本当らしい。

 

 

「どうやら、ここが例の男のアジトで間違いなさそうですね」

「ああ、けどもう帰ってこねえだろうな。上であれだけ暴れりゃ、ココがバレんのも想定内だろ」

「シルファさん!この人型……ボク達が下水道で戦ったグール達と縫い目がそっくりです!」

「! ……まさか……」

 

 

 レンの言ったことから、シルファは目の前にあったカプセルを見た。

 そこには、カマキリの手が()()()()()()()()ような、真新しいグールがいた。

 

 

「「 『合成』 」」

 

 

 皆と少し遠い場所で、ロイドとシィズは同時に言った。その手には、乱雑に広げられたたくさんの研究資料らしき紙が持たれている。

 

 

「ココの研究テーマは、『合成』『量産』あとは『複製』だな」

「生物の細胞から色んな部位を培養量産し、パズルみたいに組み合わせていたようだ。上手くいったらその複製もな」

 

 

 見た限り、魔物+魔物、人+魔物、人+人の基本3パターン。教会でドーン支部の神父様の肉体に定着しようとしていたレイスも、合成術の一環だろう。

 

 2人の言葉により、シルファは結論に思い至る。

 

 

「私達が戦ったあのグールの群れも、実際には純粋なグールであったかも怪しい……。『使える部位をツギハギして造った生物』……即ち……」

 

「『合成獣(キメラ)』、だな」

 

 

 シロがビビっていたのも、合成獣(キメラ)になったグール特有の臭い、人でも魔物でもない得体の知れない腐敗臭が原因だろう。

 

 その事実に、レンは憤りを隠せないでいた。ガリレアも額に血管が浮いている。

 

 

「こんなヒドイ……命を弄ぶなんて、許せない……!」

「……問題は、こんなもんを作って何をしようとしてたのか、だが」

「ろくでもない事なのは間違いないでしょうね」

 

「……あぁ、本当に……なんて……なんて……」

 

 

 この研究施設に怒りを見せる面々に、ロイドは同調するように声を震わせている。シィズ以外の皆はそんなに怒ってるのかとロイドに視線が集まる、が……。

 

 

 

「けしかりゃんっ!!」

 

(((……りゃん?)))

(うん、まぁそうだよな)

 

 

 こんな『面白そうな』研究資料を見て、魔術馬鹿なロイドが興奮しないわけなかった。表面上は否定的にしている気らしいが、「んふ、んふふ」と笑いが堪えきれていない。

 

 

(……でも実際、凄く興味深い研究ではあるんだよな。使い方さえ間違わなければ医療に転用出来そうだし)

 

 

 ロイドと気質が似通ってるシィズも割と好意的である。こんな禁忌に足どころか頭から全身突っ込んでる研究などする気はないが。シィズもロイドもこれ以上禁忌を犯したら、流石に神罰が下る。

 

 

(本当にヤバいなコイツ。こんな事ロイドでもしないぞ。バレたら絶対怒られるから……ん?これは……)

 

 

 シィズは研究資料の置いてあったベッドの下に、もう1枚資料を見つけた。

 そこに書いてあったのは、『魔人の合成』。そして、資料に描かれたその対象は……。

 

 

(……成程。あの派手僧侶、魔人に憑かれたんじゃなくて、魔人を取り込んだのか。フフ、常軌を逸してるな)

 

 

 書かれている分には、捕らえた10級の魔人を人間に定着させる実験。それによるノロワレの能力の制御だ。

 魔人数匹を自我消失状態にまで弱らせて、それをグールに合成。更にそのグールの脳みそや臓器をノロワレに移植し、能力を制御させることを試みたらしい。

 

 おおよそ、マトモな考えではない。この方法なら普通は適応前にノロワレの自我が崩壊する。それをどういう理屈か、あの僧侶は克服してみせた。

 体質的な問題か、あの並々ならぬ覚悟と精神性からか……。

 

 

(どちらにせよ、面白い事が知れ……)

 

「ぶっ壊しましょう。この研究室」

「当然だ!胸糞悪ぃ!」

 

「「!?」」

 

 

 ロイドとシィズは信じられないような顔をしているが、シルファ達の意見は至って当然である。というか、マトモな神経をしていればこんな場所を残そうとは思わない。

 下唇を噛んだ微妙な顔をした2人にグリモからジト目が飛ぶ。

 

 

 ……不意に、その2人目掛けて魔力の斬撃が飛ぶ。

 

 

「墜ちろ」

 

 

 それは2人に届く前にクロウの呪言により墜された。

 

 その奥には、桃色の髪と蛇の下半身を持った女性……所謂ラミアがいた。

 だが、何やら錯乱したように息が荒い。魔物ならそれも当然なのだが、何か様子がおかしい。

 

 ロイドはそれを感じたのか、クロウに1つ命令を出す。

 

 

「殺すな」

 

 

 クロウはそれにOKサインを出すと、レンと一緒にラミアに駆ける。

 

 ラミアは風系統中位魔術『嵐牙』により、風の斬撃を飛ばす。イーシャに危険が無いよう、ガリレアは『蜘蛛繭』で粘液の壁を作った。

 

 『嵐牙』はクロウの呪言により進路を曲げられ、その隙にレンが速攻をかける。

 しかし、レンの手が届く直前でラミアの『魔力障壁』によって弾かれた。

 

 

「なっ!」

「あれは『魔力障壁』!ラミアは知能が高いと聞きますが、ここまでとは」

「ありゃ相当気合いの入った障壁だな、こりゃ長期戦になるかも……」

「いや、もう終わるよ」

 

 

 確かに、シィズから見てもあのラミアの『魔力障壁』は練度がそこそこ高い。Bランク上位の冒険者くらいだ。

 

 だが……

 

 

(……確か、ロイドもギザルムにやられたそうだな。オレの場合はどうだろうな?)

 

 

 呪言は、障壁を素通りできる。

 

 

『魔力集中』

 

『跪け』          『跪け』

── 呪言連呼 ──

『跪け』          『跪け』

 

 

 一点の魔力孔から出力された呪言が、ラミアの身体を地面に縫い付けた。

 

 

「ま、まさか一撃とは……」

「味方とはいえ末恐ろしい能力だな、ホント」

「操れるようになってからますますヤバくなったよね」

 

「それも凄いが……皆、見てみろ」

「うん、思った通りだ……生きた人間だよ、半分は魔物だがな」

 

 

 本来のラミアなら、上半身の人間の方にも鱗等の蛇の特徴が少ないながらも現れる。何より、上半身と下半身で、流れる魔力が僅かに違う。

 この研究所を見た時点であるとは思っていたが、生きた人間まで合成に使ってると知り、今まで以上の怒りを見せる面々。

 

 ラミアは蛇の尻尾を暴れさせるが、その様子は魔物の本能というより、何かに怯えているように見えた。

 皆の目に戸惑いが出る。彼女をどうすれば救ってやれるのか。

 

 誰も動けないでいる中、ラミアの前にイーシャがしゃがみ込んだ。

 

 

「……大丈夫です……何も怖くありませんよ!皆味方です!」

「危ねぇイーシャさん!近付いたら……ぬおっ!?」

「いい、ガリレア。イーシャの邪魔をするな」

「し、シィズさん?」

 

 

 シィズは止めようとしたガリレアを止める。ロイドは背を向けて奥の方に行った。

 

 これは、イーシャの戦いだから。

 

 イーシャの頬を、ラミアの尾が叩く。

 白い頬に痛々しい痣ができ、口から血が流れるがシィズは動かない。

 痛くとも怖くとも、その感情は一人で乗り越えなくてはならない。

 

 

(……そうですよね、ごめんなさい……)

 

 

 イーシャは、目の前の涙を流す彼女に自分を重ねていた。自分があの男に抱く、得体の知れない存在への恐怖。

 今でも、目を閉じればあの笑顔が浮かぶ。

 

 

(怖くないわけないですよね……私もずっと、怖いんです。怖くて怖くて……どうしようもなくて……)

 

 

 怖いのに、何もすることが出来なくて……

 大切な人を傷つけるのを見ているしかなくて……

 

 

(……そんな私に……私が、一体……何を……)

 

 

 そうして、失意に沈むイーシャに……

 

 

 

 

~✤ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ✤~

 

 

 

 

 天上から、福音が降りてきた。

 

 その音を追うように、イーシャは顔を上に向ける。

 

 

「この旋律は……」

「サリアさんの演奏!」

 

 

 恐らく、ちょうど真上でサリアがピアノを弾いているのだろう。

 その音色に、暴れていたラミアも大人しくなる。

 

 そして、指を畳んで手を合わせたイーシャは……

 

 

 

~✤ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ♫ ♩ ♬ ♪ ✤~

 

 

 

 旋律に乗せ、ゆっくりと歌い始めた。

 

 

 イーシャは、決して魔力の多い方ではない。

 歌うことで神聖魔術を発動させたとしても、その効果は微々たるもの。本来ならば、正気を失った魔物を鎮圧するなどできるはずもない。

 

 しかし……イーシャの『歌』は、魔力が篭っていなくとも、天にも人の心にも届く、魔法の声。

 

 

 その歌は、魔物に飲まれそうな彼女の心も、人間に繋ぎ止めていた。

 

 

「……ごめんなさい……私…………人間なんれす……ごめんなさい……」

 

 

 ポロポロと先ほどとは違う涙を流し、ラミアだった彼女は人間の目を向けイーシャに謝罪した。

 

 

「こちらこそ、ごめんなさい……こんなに近くにいたのに、気付いてあげられなくて」

 

 

 

 

□■□■□■□■□■ 

 

 

 

 

 地下の調査が終わり中庭に戻ると、タオが連れてきたアルベルトが到着していた。

 確認のうえ、禁忌を犯さないものでサルームの発展に繋がるものは残し、あとは破壊するらしい。ロイドとシィズはまた微妙な顔をしていた。

 

 ただ、破壊するだけでこれが犯人の証拠にはならない。ものはあるが、指紋は綺麗さっぱり消されていた。おそらくは、浄化系神聖魔術を使ったのだろう。

 

 そして、生き証人であるラミアの彼女だが、彼女は人間だった頃の記憶も研究所にいた頃の記憶も曖昧らしい。魔物を合成されたことで精神を蝕まれ、自分の名前も思い出せないそうだ。

 

 

「冒険者がグール退治の依頼に出てそのまま行方不明になった事例があるらしい。カタリナは見覚えがないらしいけど、もしかしたら別支部の冒険者だったのかもな」

「確かに!魔術も使えたし、その冒険者かも」

 

「で、でも……過去の事が分かっても、この体じゃもう普通の生活は……」

「安心しろ!俺らのロードストはそんな奴らが笑って暮らせるどこだ!ドンと来い!」

「長いスカートも作る!」

「皆さん……ありがとうございます!」

 

 

 毎度の事であるが、暗殺者ギルドの面々は本当に暗殺稼業なんかやってたのか?と思うほどに良い奴しかいない。これもジェイドの人徳の為せた事だろうか。

 

 それはさておき、記憶が無いのでは謎神父の情報はまた闇の中になってしまった。

 

 

「謎神父……そうだ!これ、研究所で拾ったんですけど、何か手掛かりになりますか?」

「ロザリオ?随分年季が入ってるな……」

 

 

 取り出したのは、錆の隙間から金色が覗く、教会のロザリオ。

 更に聞くと、かの謎神父は教会と神をとても嫌っていたと言う。

 

 

(……これは、思ったよりデカイ手掛かりが手に入ったな)

 

 

 ロイドもシィズと同じように何かに気付いたような顔をした後、シロの中からある物を取り出した。

 

 

「こ、これって……」

「あぁ、研究所にあったデータだ」

(さっき奥の方行ったのはコレかぁ……)

(破壊されそうなヤバいデータだけ盗み出したんだなぁ……)

 

 

 それは、研究所に残されていた合成獣(キメラ)に関するデータ。彼女からしてみれば、自分の身体を化け物に変えた、恐怖の象徴とも言えるものだ。

 

 

「燃やしたいなら、そうすればいい。けどこれは、お前を人間に戻す唯一の手掛かりだ。……生憎と、俺も兄さんもこんな複雑な合成術は完全には読み解けない。そのデータを照らし合わせて、身体を元に戻せるのはお前だけだ」

「……どういう結果になろうと、誰も咎めはしない。燃やして楽になるか、恐怖と向き合って前に進むかは……君が決めろ」

 

 

 2人の言葉は厳しいものだ。

 けれど、彼女の事を思えばどうするのが最善なのか、ガリレア達も、彼女自身も、それを聞いて確信した。

 

 

「……っ……ありがとうございます!私、頑張ります!」

 

 

 彼女はデータを手に取り、気丈にそう言った。ロイド達はそれに満足そうに頷く。ちなみにロイドは(これで合成術の研究も捗るな……!)としか思っていない。

 そんな彼女の様子を見て、イーシャは教会の中へ走って行った。表情を見るに、もう心配はいらないだろうとシィズは判断した。

 

 

「絶対に人間に戻ろうぜ!俺達で良けりゃいくらでも力になるぜ!」

「そうと決まれば、名前も付けよう!」

「そうだ!じゃあロイド様が付けてやってくれ!何か景気のいい名前!」

「いつか人間に戻れる……希望に満ちた名前!」

「ぜ、是非!」

「おい、それロイドに任せて大丈夫……」

 

 

「じゃぁラミィで。ラミアっぽいし

 

「ほら言わんこっちゃない」

 

 

 豆知識 : ロイドは魔術関連以外に関するネーミングセンスはからっきしである。

 ガリレアとクロウはドン引きした目、ラミィは微妙な顔、シィズとシロは同情した顔を浮かべていたとさ。

 

 

 

 

 同時刻、教会を走るイーシャはと言うと。

 

 

「サリアぁ!もうお城帰っちゃったかなぁ……」

「何?」

「うわぁサリア!まだ教会いたんだ……」

「マカロンさんのバビロン食べてた」

「イーシャも食うか?バビロンさんのマカロン」

「美味しいわよ。マカロンさんのマカロン」

「お前はせめて俺の要素を入れろ」

 

 

 もっもっとマカロンを頬張っていたサリア。演奏会の練習の休憩だという。

 そのいつもブレない友人に、イーシャは微笑みながらも謝罪した。

 

 

「ごめんなさい、サリア、バビロンさん……やっぱり歌います。歌いたいんです!……私、歌うことしか能がありませんので!!」

 

 

 その顔には、もう迷いも恐怖も無かった。

 いつも通りの、力強い笑顔がそこにはあった。

 それに応え、サリアも口に弧を描く。

 

 

「……いいね、それでこそ。……派手にやろう、大聖誕祭!」

 

 

 斯して、2人はそのまま演奏会に向けて練習した。

 

 

 

 

 ……そして、その夜教会にて…………

 

 

 

「中止だ……大聖誕祭」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

 顔色が悪いアルベルトにそう言われ、2人はそう声を上げることになった。




次回予告


「吹っ切れたらなんかイライラしてきました!『ゲロゲ〜ロですよ……!』とか言ってたあの神父さんをギャフンと言わせます!感動してあの怖いお顔を涙だらけにしてやりますよォ!」

次回 【第17話】大聖誕祭の準備をします


君は魔術の深淵を目撃する



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