転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
国立魔術学園。
サルーム王国の魔術師が集う場所。
魔術師として重要なもの……家柄、才能、努力。
学園に通う、弱冠二十歳の青年は、その内2つを持っていた。
限りなく、完璧な形で。
『流石は『ーーー』!』
『庶民の出だというのに、その才は目を見張るものがある!』
『宮廷魔術師も夢では無いのではないか!?』
普通の魔術師が一生をかけても成功するかしないかという、上位魔術を在籍1年目で習得。
それに加え青年は努力を怠らず、学園に3年在籍した頃には、2つの系統で上位魔術、更に2つの系統で最上位魔術を習得するに至った。
間違いなく、魔術においては100年、いや、1000年に一度の天才であろう。
魔術学園と言えど、貴族が通い、将来王に仕える人材を育てる場として、多少の剣は習わなければならない。
そこでも、青年は才を示した。
『馬鹿な!? 王国騎士団のNo.3だぞ!?』
『それを剣を握って半年にも満たない彼が……』
『やはり『ーーー』は天才だ!』
始めから剣の才を持っていた訳ではない。
ただ、優秀な成績を収めるため、数ヶ月に渡り努力を重ねた結果である。
才能の下地があったのだろう。それが努力により開花した。
その他にも、錬金術、馬術、戦術指揮、その他様々な分野で、青年は才を示した。不得意ならば努力を重ね、得意にした。
皆が、彼を賞賛した。
彼が過剰な程に才を示し、努力を重ねたのは、偏に家族と故郷の為だった。
彼の生まれた村は魔物の
魔術学園で優秀な成績を収めた平民は、宮廷魔術師や騎士として王城に仕える事を許される。
更に出世すれば給料も上がる。繰り返せば、村の皆を十分に食わせてやることだって出来る程の金を得られる。
村の中で唯一魔術を使えた青年は、一縷の希望に賭けて送り出された。
必ず、家族を、友達を、村の皆を救う。その一心で、青年は苦しい努力に耐え、あまり得意ではない過度な賞賛も受け入れた。
それが、それだけが、青年が生きる意味だった。
それに依存していたからこそ……それが壊れた時、
『……………え?』
月に一度の、親からの手紙。
それが急に途絶えた。何かあったのかと、青年は直ぐさま『飛翔』で急行した。
着いた先には、彼が知る村はなかった。
正確には、何もなかった。
後日、冒険者ギルドの調査によると、青年の村は
その群れも、騎士団によって討伐が済んでいるそうだ。
全て、終わっていた。終わったのだ。
青年の故郷も、それを為した魔物の敵討ちも……青年が今まで積み上げてきた全ても、何もかも。
「…………」
そこからの彼は、酷いものだった。
自室に篭もり、飯も水も取らずに、無為に日々を過ごした。
学園に足を運ぶこともない。もはやあの場所は、青年にとってなんの意味もない。
もう青年は、何にも意味を見出せなくなっていた。
あと三日もすれば、魔力があると言えど衰弱死する……という時だった。
『ここで合ってるかな!?』
部屋の扉が勢いよく開かれ、真っ暗だった部屋に光が差し込む。
青年は数日ぶりに寝床から起き、死ぬだけだったのを邪魔した者を見た。
『………誰だ』
『キミだね!? キミが『
『…………』
言葉を無理やり遮ったその少年。ぼろ雑巾のような外套を被ったその少年に、青年は眉を顰める。
確かに、少し前まではそう呼ばれていた。
だが、もうその小っ恥ずかしい二つ名に意味はない。
故郷が無くなった時点で、それを冠する意味は消えたのだ。
青年は少し黙った後、再び寝床に戻って吐き捨てた。
『……違う。そんな奴は知らん』
『いや、寮に確認は取ったし、顔写真はあるし、何よりその魔力は間違いなく『
『…………』
なんなんだコイツは、と青年は心の中で毒づいた。
その才と家の事情から友人がおらず、周りにいるのもその才能目当ての物だった。
こんな騒がしい奴も、律儀に入手した個人情報を床の上に並べるような馬鹿も、青年は会った事がなかった。
何より……少年のその真っ直ぐな目を、見た事がなかった。
生きる意味を失った青年の中に、探求者として、魔術師として、一つの好奇心が芽生えた。少年のその
心中の絶望に比べれば豆粒のようなそれは、ほんの少しだけ青年を動かした。
『……オレがそうなら、何なんだ』
『魔術を見せて欲しいんだ!上位魔術!出来れば最上位魔術も!本では何度も読んだけど、実物を是非この目で見たいんだ!!』
『……それだけ?』
『え、他にも見ていいのか!?それなら是非頼む! 出来れば誰にも出来ないようなやつが見たい!』
疑問は深まるばかりだった。
そんな事の為に、わざわざ人にここの場所を聞いてまわり、押し掛けてきたのか。
まあ、いい。
青年にとっては好都合だった。こんな衰弱した状態で高位の魔術を使用すれば、死期も早まるというもの。
早くこの無意味な生を終わらせたい青年からすれば、願ったり叶ったりだ。
青年はふらつく足で立ち上がる。寝床から上がるの自体数日ぶりなのでよろめいてしまったが、少年が支えてくれた。
『だ、大丈夫か?』
『……問題ない。それより、見たいんだろ? 広いところに行くぞ』
『っ!! あぁ!! ありがとう!!』
青年は少年に肩を借りながら、ひと気のない草原までたどり着いた。曇天に吹く生温い風が、ひどく気持ち悪い。
実際、青年はこの時点で満身創痍であった。
今最上位魔術を撃てば、間違いなく魔力欠乏によって死ぬだろう。
なら、少しくらい、サービスしてやろう。
未だ意味が分からない、キラキラとした目を向ける少年に、青年は声をかける。
『……この魔術は、オレが村の事を知る前に開発した魔術だ』
『? なんの事だ?』
『空間系統の魔術、『魔力障壁』。俗に言う結界は、優れた魔術師ならば他の魔術と併用できる』
青年は右手に六角形をパズルのように組み合わせた球体、『魔力障壁』を展開する。
『魔力障壁内で発動した魔術は、術者の意思でそれを外に出すか内に留まらせるかを決められる。 だからこうやって……結界の強度が高ければ、最上位魔術でも内に留める事ができる』
青年は結界内に、炎系統最上位魔術『焦熱炎牙』を発動させる。
一度発動した『焦熱炎牙』は、術式に込めた魔力が続く限り持続する。
故に、ここからはスピード勝負だ。
『この結界は、自身の魔力の影響を一切受けないように構築した。持続する『焦熱炎牙』の影響を受けることは無い。そして今オレが発動しているのは結界の強度維持のみ。だから……もう一つ、魔術を発動できる』
中で炎が荒れ狂う結界を空に掲げ、青年はもう一つ魔術を唱える。
風系統最上位魔術『裂空嵐牙』。
頭程の大きさの結界の中で、2つの最上位魔術が存在するこの状況。本来なら、同レベルの魔術がぶつかれば対消滅する。
その現象を、無理やり止める。
結界を小指の爪程度にまで縮小。急激に密度が上がった2つの魔術は、予想もしない反応を引き起こす。
対消滅するはずの2つのエネルギーは、結界により押し潰され、強制的に織り込まれる。
擬似的な
解放された魔術は、爆風と轟音をたてて上空に解き放たれる。幾重の光線が不規則に屈折し、そして収束する。
空を覆う雲まで届いた光は、術者の制御を失い暴発し…………曇天を吹き飛ばした。
『……上出来、だな』
青年はそう呟いて、日が差した草原へ大の字に身を投げ出した。
コレが成功するかは賭けであった。実際コレを開発したのも偶然の産物であり、原理もほとんど分かっていない。
ここで成功したのも、完全な運、偶然だ。諦めたとは言え魔術師である青年としては、こんな不完全なもの、魔術とは言えないかもしれない。
満足してくれたかと、青年が顔を傾けると、少年は空を仰いでいた。
一瞬ダメかと思ったが、その疑念もすぐに晴れた。
───少年の頬を伝うものが見えたからだ。
『………………綺麗だ』
少年は一言そう呟くと、堰を切ったようにように青年の元へ膝を着いた。
『凄い!! 素晴らしい!! 美しい!! あんな魔術見た事がない!! もっと! もっと見たい!! 魅せてくれ!!』
出会った時以上の熱量で詰め寄る少年に、青年は言葉を失った。
……まただ。なんなんだその目は。
魔術により晴れた空のように、少年の瞳は青年の魔術を見て、空以上に晴れ渡っていた。
何故、そこまで輝ける。どうすれば、そこまで真っ直ぐになれる。
知りたい。その目の正体を。
『なぁ!もっと……』
『───教えて、くれ……』
『え?』
魔力欠乏により意識が朦朧とする中、青年は少年に問い掛ける。
『何で、そんなに輝ける。何で、そんなに、お前の目は真っ直ぐなんだ……?』
青年の問いに、少年は首を傾げる。
うーんと少し考え、少年は笑顔で応えた。
『輝くとかは分かんないけど……ただ、大好きなんだ!!魔術が!!どうしようもないほどに!!』
一層晴れやかになって答えるその姿に、青年の目がひきつる。
分からない。魔術なんて、使えたって何の意味もないだろう。
そう、何の意味も無いんだ。
村も家族も救えない。何もかも無駄に終わるこの世界じゃ、魔術も剣術も錬金術も、全部、全部……。
『…………何がだ。こんなもの、何の意味も……』
『とんでもない!! 魔術に意味が無いなんて、そんな悲しい事言わないでくれ! 』
『───人は夢、夢は魔術!!そして、人は魔術の可能性そのものだ! 』
『俺は魔力が無いけど、魔術が好きだ!大っ好きだ!! けどこれは無意味なんかじゃない!! きっと意味がある!どこかで魔術に繋がる意味が!』
『だから……君も、意味が無いなんて事はない!!』
……風が吹いた気がした。
本当に吹いたのか、少年の興奮が勢いとして伝わったのかは、定かでは無いが。
その風は……青年の心の闇を、吹き飛ばした気がしたのだ。
『……ハハッ』
気付いたら青年は笑っていた。少し自嘲を含んだ、けれど絶望の気配は感じられない笑みだった。
『そうだな。そう、かもしれないな』
『あぁ!! だから早く次の魔術を……』
『───『風球』───』
『えっ?のわああああぁぁぁ!!!???』
出涸らしの魔術で、少年を学園の方へ吹き飛ばす。
彼をこの場に残したら、下手すれば犯人として扱われかねない。それに、期待を裏切りたくなかった。
多少の怪我はあるだろうが、鑑賞料と思って欲しい。
辛うじて残っていた魔力さえ使い切って、もはや青年は指先一つ動かせなかった。
『……そうか。『好き』か……』
少年の言葉を反芻する。
思えば青年は、学園に入ったころから、家族と故郷の事ばかり考えていた。
優秀な成績も、それを勝ち取るための努力も、全て自分以外の為のもの。
無論、自分の意思でそれらを行っていたが、辛いと思うことも確かにあった。
自分の『好き』なんて、何年考えてこなかっただろうか。
『……羨ましいな』
少年はずっと魔術のことしか考えていなかった。部屋の扉をこじ開けた時から、ずっと。
その『好き』の輝きが、あの目だった。
少年は純粋に、真っ直ぐに、ただひたすらに魔術が好きだった。例え魔力が無くても、満足に魔術が撃てなくても、周りが無意味だと罵ろうと、魔術を、一つの物を極めんとした。
『……オレには、眩しいな』
きっと少年は、これからも魔術を極め続けるだろう。
そう思うと、この世に未練など無かった青年の心に、一つのわだかまりが生まれた。
『オレも……アイツ、みたいに……』
動かないはずの右腕を、晴れ渡った空へと伸ばす。
青年はここで死ぬ。それはもう変えられぬ事だ。
だから、願わくば………
もし、生まれ変わりなんて物があるのなら………
『……一つの事を、極めたい……』
自分も、あの少年のように。
純粋に、真っ直ぐに。
『全』を制するのでは無く、『一』を極めたい。
何か一つを、自分の思うままに、とことん。
(極め……たかった……)
青年の意識はそこで沈み……生涯を終える。
……
…………眩しい。
「あー!目が開きました!」
声が聞こえる。
……死に損なったのか。
「可愛いー!」
「こっち向いてー!」
……まあ、万々歳か。
幸運に思おう。もう一度チャンスが出来たのだ。
イヤに視界がぼやけるな。長く眠ってたのか?
早く起きないと……。
……あれ、力が上手く入らん。栄養失調のせいか?
それにしては力の入り方というか……腕そのものが短い気が……。
「キャー!私に手ぇ振ったよ!」
「何言ってんの!私に振ったのよ!」
にしても、さっきからこの声は何だ?やけに興奮してるが。
早く、状況を…………
………………あれ??
「ほらー!こっち向いてー!」
「こっちよー!シィズ様ー!」
………あれ??????
あれぇぇぇぇぇぇ!!!???
…………サルーム王国、城下。
「号外だよー!!サルーム王国に第六王子!!