転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます   作:苦闘点

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ここの個人戦パートを丁寧にやるとどうなる?

知らんのか
私の筆が超重くなる……!


【第20話】秒速5cmの幻想

 

 

 

 街の南西。レンの護衛する支部の近く。

 

 カチリという音を鳴らし、神官ダンテは住民が避難を終えた路地でタバコを吸っていた。

 

 

「ちょっとダンテさん! 手伝ってください! キメラ来てますよ!」

「ヤニ休憩の時間だ。ちょっと待ちな」

「今じゃなきゃ駄目ですかそれ!?」

 

 

 現在レンはほぼ一人でキメラを凌いでいる。ダンテが何かとやる気がない様子なのと、もう一人の神官であるヤタロウをつい勢いで毒パンチで沈めたからだ。

 

 だがレンはその事より、ダンテの事が気になっていた。

 ダンテは左目に縫い痕がある。それがキメラっぽいということで、もしや教皇の仲間なのでは?と睨んでいたのだ。

 ヤタロウの方は? それは……

 

 

「ごめんねぇ、ハァ……僕も手伝ってあげたいんだけど、レンたんの愛が、ハァ……重く体にのしかかって動けなくて……ハァ、ハァ」

「それ愛じゃないです毒です! キツイなら喋んないでください!」

「ヤダヤダもっとレンたんとお話したい〜」

「どくパンチ!」

 

 

 ずっとこんな様子なので、もう喋れないくらい毒をぶち込んでやろうかと思い始めている。とにかくこっちは気にしなくていい。

 

 毒パンチ2発により動けなくなったヤタロウを引き摺っていると、ダンテの方からレンに声がかけられた。

 

 

「……お嬢ちゃん、キミはこの暴動の主犯が誰なのか知っているのかい?」

「えっ!?」

「どうなんだい?」

「っ……!」

 

 

 急に投げられたその質問に、レンはどう答えるべきか頭を悩ませる。

 教皇の仲間の疑いがあるダンテに言ってもいいものか、仮に白だった場合混乱を生むんじゃないか……色々悩んだ末、「もうなるようになれ!」と真実を話すことにした。

 

 

「……知ってますよ。この暴動を起こした犯人は……」

「…………」

 

「……教皇、です」

 

 

 そのレンの言葉に、ダンテは一瞬だけ目を見開いた後、下を向いて沈黙した。

 その反応にレンが身構えていると、低い呟きが聞こえた。

 

 

「…………そうか……解った」

 

 

 

─── 光武 ───

 

 

『 ニ ケ 』

 

 

 

 ダンテの背後に現れた、全長3mを超える極大剣の光武。柄はなく、その鍔の部分は女神の彫刻のような女性の上半身と大きな翼がある。

 

 ダンテの光武『ニケ』。詳細不明。

 

 その極大剣は、レンの背後にいたキメラの大群を一瞬で肉塊に変えた。

 

 

「えっ……」

「付いてこい嬢ちゃん。デーン支部に行く」

「なっ、えっ、どうしてですか……?」

「そこにギタンの兄貴……教皇がいる。……身内の不始末は、身内でつける」

「わ、分かりました……」

 

 

 ひとまず味方という事でいい、とレンは区切りをつけ、背を向けたダンテに付いて行った。

 

 

「ほら行きますよヤタロウさん!」

「ちょっと無理かも……ゴフッ」

「嬢ちゃん、ソイツはそこら辺に捨てといていい。ほっとけ」

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

『アンタ、百華拳に負けたんだろ?』

『看板降ろせよ、おっさん』

 

 

 憎い……

 

 

『シャクラ……たった一回の負けで諦めるでないぞ……』

 

 

 不条理なり……

 

 

『一回やって駄目なら百回、百回やって駄目なら百万回じゃ』

 

 

 不合理なり……!

 

 

『共に行きましょう……良い肉体を用意します』

 

 

 欲しい……

 

 

 一撃必殺……一度で命を狩り落とす力が……!

 

 

 

 

 

 

 ───── 瞬間。

 

 

 タオの目に映る雨粒は、舞い散る花弁が如く緩やかに流れた。

 

 逆さの視界の中、その情景は彼女に生涯を振り返る猶予を与えた。

 

 

 

 ─── 秒速5cmの幻想……その真相は……

 

 

─── 落華拳 ───

 

 

散華落椿(さんげおちつばき)

 

 

 受け身も許さぬ亜音速の垂直落華。

 

 

 

 地面に垂直にねじ込まれたタオの体。

 

 これが、タオとシャクラの一瞬の攻防。その決着であった。

 

 

「堪能したか? 散りぬる桜が如き、儚き己が半生を……」

 

 

 沈黙したタオに背を向け、シャクラは扇を広げ言い放つ。

 

 これが……これこそが。

 

 自重・気力・回転力、その全てを敵に乗せ地に落とす、完成されし神技。

 果てに得た力。辿り着いた極地……!

 

 

「我が落華拳は、一撃必殺 なり!!」

 

 

 

 二人の攻防は一瞬だった。

 一直線に突っ込んだタオの乱打。その無数の拳をシャクラは六腕で全て封殺。

 そして次の瞬間。タオは地面に突き刺さっていた。

 

 その一連を見ていたアカマキ、アオマキは、二人揃ってその光景に愕然としていた。

 

 

「「だ、大丈夫かぁ!? おい、団子頭ぁ!」」

「無駄じゃ。言ったじゃろ、我が落華拳は一撃必殺と……貴様ら、わしに同じ事を二度言わせたな?」

 

 

 二人に六眼を向け睨みつけるシャクラ。

 病的なまでの合理主義者であるシャクラは、大の二度手間嫌いだ。同じ事を二度言われるのも、言うのも我慢ならぬ程に。

 なんなら、双子であるアカマキアオマキも二度手間判定である。

 

 

「貴様ら……一遍に死ね」

 

 

「───あ〜〜。イッテぇあるな、ったく」

 

「…………あ゙?」

 

 

 二人に構えたシャクラは、後ろから起こったその声に惚けた声をあげる。

 振り返るとそこには頭から血をながしながらも、確かに立ち上がったタオがいた。

 

 

「馬鹿な! 死んだ筈じゃ! 受け身も取れず脳ミソをぶち撒け……」

「受け身なら取ったあるよ。ほれ」

 

 

 そう言ってタオがシャクラに投げたのは、灰青色の肌の人の右腕。

 痛みに鈍感なキメラの身故に気付けなかった、もぎ取られたシャクラの真ん中の右腕だ。

 

 

「ギリギリだったあるが……モロそうな腕が丁度あったから、ぶっ千切ってクッションにしてやったある」

「貴様っ……!」

 

 

 地面にめり込む直前、掴まれていた腕を逆に掴んでねじり切った。これにより致命傷だけは避けられたが、それでも数秒意識が吹っ飛ぶ程の威力。

 

 タオはこの技を、口頭でのみだが知っていた。

 

 

「大人しく走馬燈に馳せてればよいものを……」

「ちゃんと見れたあるよ、走馬燈……おかげで、昔爺ちゃんに言われた事思い出したある。『落華拳』……門弟ができず一代で途絶えた拳法……」

「っ〜〜……!!」

「てことは、そのキメラの中に居るのは落華拳当主……『シャクラ』の悪霊レイスあるか」

 

 

「我が落華拳はキメラの肉体を得て、遂に完成したのじゃ! 六眼による超反応! 六手による絶対拘束! 人間の肉体では到底叶わぬ即死投げ! 門弟なぞ、端から不要だったに過ぎん!!」

 

 

 タオの言葉に、シャクラは目を全てかっ開き激昂する。

 それをタオは冷たく憐れむような目を向ける。

 

 

「貴様はわしに最も屈辱的な『二度手間』をさせる事になる! その罪、その身に……」

「シャクラ、あんた何で強くなりたかったあるか?」

「あ?」

 

 

 ……強さを求める理由。それは人それぞれだ。

 地位の為、己が興味の為、約束の為、高みへと至る為……人の数だけ理由はある。

 

 では、タオはどうだろうか。

 

 

「……百万回」

「?」

 

「私は来る日も来る日も、撃って撃って泣きじゃくって鍛えまくった……誰が為? 何が為?」

 

 

 タオは5歳の頃より、毎日鍛錬を続けてきた。

 雨の日も、雪の日も、嵐の日も、脇目も振らず彼氏も作らず、毎日毎日……。

 

 それは、何が為に?

 

 

 

イケメンの(モテる)為ある」

 

 

 

 

「……………………笑止」

 

 

 

 溜めに溜められてのその解答に、シャクラは短く吐き飛ばす。

 

 

「貴様、そんな下らん理由でこの神聖な戦いの場に首を……」

「お前はどうあるか?」

 

 

 悪霊に堕ち、キメラに堕ち、異形の姿に成り果ててまで……

 

 

「そんなブサイクになってまで……何で強くなりたかったあるか?」

 

 

 何が為?

 

 

「……まぁ何にせよ……人の道から外れたお前には……負ける訳にはいかないある」

 

 

 そう言って、髪飾りを外して構えるタオ。

 それを見て、シャクラはかつての怨敵ライバルの姿を幻視する。

 

 

(その思想、その気、その構え……やはりな)

 

 

 『百華拳』。かつてシャクラがその当主に挑み、敗れ全てを失った憎むべき敵。

 神を呪うべきか……いや、今は主に感謝すべきであろう。再び、相まみえることが出来たのだから。

 

 

キメラ>人間! 老いぬ強靭な肉体! どう考えても合理的!)

 

 

『───百回やって駄目なら百万回じゃ』

 

 

 何が百万回。それは弱者の思考だ。

 一度でも負ければ、全てが終わるというのに。

 人の道などドブに捨てた、貪欲な強さの探求こそ合理!

 

 

(たかだか十数年生きただけの小娘が……)

 

 

 目の前の腰を低く落とした者を凝視する。

 来るのはド正面……馬鹿が。

 

 

(この眼で反応出来ぬとでも……馬鹿が、絶対捕らえる。絶対に殺す。この餓鬼だけは……絶対に……)

 

 

 

 

 

 

─── 百華拳 ───

 

 

 

 

 

 

 ───── 意趣返し。

 

 

 シャクラに迫るタオの膝蹴りは、舞い散る桜の如く緩やかに流れた。

 

 垣間見える走馬燈に映るのは、嘗ての己。

 

 

『チェン! この看板貰い受けに来たぞ!』

『ししし……来たかシャクラ。じゃが、門下のかわい子ちゃんはワシの物じゃ! 貴様などに渡さんわ!』

『そんなものの為に来たのでは無いわ!』

 

 

 嘗ては高めあっていた筈の、好敵手(ライバル)

 

 ただの一度として勝てなかった。

 それ故に、誰も門を叩かなかった。老いにも勝てず、門を畳むしかなくなった。

 

 

『何が……何が百万回じゃ!! 一度の合理こそ、全てだったんじゃ!!』

 

 

 全てに絶望した。

 自分を認めなかった世界にも、自分が勝てなかった怨敵ライバルにも……何も為せなかった自分にも。

 

 崖から身を投げ果てた後も、結局悪霊となり苦しみは続いた。

 

 

『貴方の苦しみ、無念、絶望……内に燻らせるには惜しい……共に行きましょう……良い肉体を用意します』

 

 

 あの男に着いていくのに、迷いはなかった。生前には為せなかった窮極を、ようやく叶えてくれる存在だったのだから。

 そして老いる事もなく、己の考えうる最強の技を放つ身体を手に入れた。

 

 

 誰が為?

 

 

 この小娘などより、余程長く、濃く、貪欲に強さを、技を求めていたはずだ。

 

 

『モテる為ある』

 

 

 こんなふざけた理由じゃない。

 わしが強さを求める理由。

 

 全ては、全ては…………

 

 

 何が為?

 

 

 

 

一点突破の型 !!

 

 

 

 

  秒速5cmの幻想から解き放たれたその花弁は

 

 重力(運命)に逆らい……

 落華を拒み……

 

 

 

 

✿   ✿   ✿   ✿

 

── 乱 万(らんまん) 桜 華 閃(おうかせん) ──

 

✿   ✿   ✿   ✿

 

 

 

 

 横殴りの桜旋風(超乱打)となって、シャクラの命を吹き抜けた。

 

 

 

 2人の攻防は、一瞬だった。

 タオは両の足で立ち、シャクラは地に伏している。

 

 タオの勝利であった。

 

 されど、それは見ている側のみの感想だ。

 

 

「よくやった団子頭あぁぁ!!」

「終わってみれば一瞬の……っ!」

 

 

 実際の戦渦にいた2人がどう感じていたのかは、タオの様子を見れば瞭然であった。

 

 両手両足、首を摑んでいる千切れた腕。今も尚、力を込め続け血を吹き出されている手。

 

 楽勝な筈がない。

 タオの猛攻の最中も、シャクラはずっと諦めなかった。

 それをタオは、摑まれては断ち切り、摑まれては断ち切り、摑まれては……

 

 正に捥ぎ取った勝利、辛勝だった。

 

 

「……どうだ……見た、か……我が……落華拳……」

「……あぁ、見たあるよ」

 

 

 シャクラの消え入る言葉に、タオはその場に座り込んで応える。

 

 レイスの霊体は、憑依した体のダメージも受ける。

 タオの猛攻を受けたシャクラに、もはや立ち上がる力は残っていない。もうキメラの肉体と共に消えるのみだ。

 なのに、タオを摑んだシャクラの腕は、未だタオを投げようと力を込めていた。

 

 

「……悔しいけど、お前の勝ちあるよ。凄い投げだったある」

 

 

 それは、シャクラが身体が千切れても覚えている程、その技をこなした証であり。

 泥臭く、百回も百万回鍛錬を続けた証であった。

 

 

「何度も何度も……諦めずに。凄く人間臭くて……」

 

 

 故にこそ、武人として敬意を表し、タオは自分なりの最高の賛辞を送った。

 

 

「イケメンだったある!」

 

 

 

「……そうか……」

 

 

 ようやく、シャクラは気付いた。

 

 誰が為、何が為、自分が強さを求めたのかを……。

 

 

(わしも……こやつとそう変わらんではないか……

 

 わしもただ……誰かに認めてもらいたかっただけだったんじゃ…………)

 

 

 それを最期に、シャクラの体は散った桜が舞うように、塵となって吹かれて消えた。

 

 

 それを見届け、タオは朦朧とする意識の中立ち上がった。

 

 

「「団子頭ぁ! お前良い奴だなぁ……!」」

「……はぁ? お前らからモテても微妙ある! 顔イマイチあるし……それより他の地区の応援行くあr(バターン)」

「うわあぁ! やっぱ限界だったんじゃないか!」

「浄化! 浄化ぁ!」

 

 

 頭から血を噴水のように吹き出して倒れたタオの治療により、応援に行くのは後回しになった。

 

 




次回予告


「我らの出番ほぼなかったなぁアオマキ」
「セリフあるだけマシなんじゃないかアカマキ」
「他の神官はセリフどころか名前出てない奴もいるしなアオマキ」
「それに比べれば我ら全然出番あるよなアカマキ」

次回 【第21話】転生したら食用オーク(以下略

君は魔術の深淵を目撃する



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