転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
錬金大祭編を書くまでは死ねねんだ私ゃぁ!!
「はぁっ、はぁっ! 一体……何がどうなってるんだ!」
「それはこっちのセリフだ……バビロン君」
息を切らすバビロンに、ロゼリスは震え声で返す。
3人とも、目の前の自分たちが量産した豚肉を見ながら。
……それを乗り越える、もう何度も見た豚の巨漢を見ながら。
「我々は一体……あと何回あの豚を殺せばいいのだ……!」
文句を言いながらも、この豚が進行しないようロゼリスは大鎌型の光武を振るう。
「ぐっ! こいつ、
「そのまま押さえてろよ! ロゼリス!」
首に引っ掛けた大鎌に、バビロンとトールは同時にドロップキックを加え、豚の首を断ち切る。
ただ3人はそこで油断せず、すぐに豚の残骸に目を向ける。
「おぉい! 僕より目立つような事するなぁ!」
「どうでもいい事言ってないで、集中しろロゼリス!」
「また再生するぞ! 次はどの部位から始まるんだ!?」
地面に散らばる無数の肉塊に意識を散らし、近くにあった豚足(後ろ足)がメキメキと形を変え始めた。
「そこだ!!」
いち早くそれを見つけたバビロンが叫び、3人はその豚足を念入りにすり潰す。これ以上再生されてはもう勝ち筋がなくなるからだ。
……ただ、この作業も既に2桁を超えている。3度目の正直などとうに超え、2度ある事は3度も4度も10度もある。
そして今回も、現実は無情である。
───メキメキメキメキ……
3人の後ろで、肉が膨れ上がる音が響く。螺旋を描きながら質量保存を無視するその豚は、一瞬で肉片から五体満足の元通りになった。右耳についた『∞-6』と書かれたタグも何故か一緒である。
「……またかよ……」
「待て、一旦状況を整理させてくれ……」
「嫌だやめろトール聞きたくない。僕は聞きたくないぞトール!」
3人の眼前に広がるのは、大小様々な豚肉の原っぱ。豚頭も豚肩も豚足も、(食えればであるが)食べきれない程の豚肉が辺り一面に広がっている。全て3人が斬り落とし、再生しなかった部位の残骸である。
「まずこの豚は『死なない』。首を斬ろうが心臓を潰そうがどう殺そうが、どの部位からでも再生する。しかも、再生する度に『強くなる』!」
「やだああぁぁ!! 聞きたくなあぁぁぁい!!」
「間違いないだろうな。最初は鎌の一撃で首チョンパ出来たのに、今はもう私たち3人がかりでやっとだ。……それももう今の再生で難しくなったろうけど……」
「どうするバビロン君んん! このままじゃ僕のサルームどころか、この世界さえあの豚に呑み込まれかねないぞおお!!?」
ロゼリスにそう言われるが、暗殺者稼業で色々な仕事をこなしてきたバビロンでさえ、目の前の巨大豚をどうにかする手段は何一つ思い浮かばない。あちらから目立った攻撃をしてこないのが唯一の救いだが、再生を重ねて強くなるのを待っているのであれば、そろそろ攻勢に出てこられてもおかしくない。そうなると増々勝つ見込みがなくなる。
少なくとも今いる3人で倒す事は不可能と判断したバビロンは、仲間の戦力に意識を割く。そして、1人目ぼしい奴を思いついた。
「ガリレアだ! コイツを引き付けながらガリレアって奴を探す! ソイツならこの豚を殺さずに拘束できるかもしれない!」
「拘束……それしかないか!」
「こんの糞豚が! 僕より目立つな! 本当に何なんだコイツは……!」
「……俺の事は、俺でもよく分からん。……『主様』ですら、完全に解明出来なかったからな……」
(主様ですら解明出来なかったって……コイツ教皇が作ったキメラじゃないのか!?)
「何はともあれ……」
完全食は拳を高く掲げる。初めての明らかな攻撃動作。3人は咄嗟に身構えるが、その拳が降り立ったのは豚の真下の地面だった。
めこ、という音と共に、地盤が揺さぶられたかのような地鳴りが起き、ここら一帯の建物が傾き始めた。バビロン達は建物の倒壊に巻き込まれないよう、屋根に避難した。
再生能力に加えこの威力の攻撃能力。バビロンは早々にガリレアで拘束する路線を諦めた。
「バビロン君んん! これホントにそのガリレア君て人で止められるのおお!?」
(いや無理だろコレは……)
「住民の避難は住んでいるからまだ良いものの……このままじゃ本当にあの豚1匹で国が滅びかねんぞ!」
ガリレアだけで拘束するのは無理。あとレンの毒やクロウの呪言……色々考えつくが、街にいる面子だとどうしても力不足だ。
(これはもう
「先ずは、お前だ」
「!? しまっ……!」
思考の海に潜り過ぎたせいで、目と鼻の先にまで近づいていた完全食にバビロンは気づけず、パンチをもろに食らった。
家3棟を貫通するほどの威力を持つ拳を受け、無事でいられたのは超軟体体質のおかげであろう。
(……なんか、教会の時とデジャブるな。またこんなんか……)
「理由はどうあれ、俺はこの世に生まれ落ちた。俺はその理由を、今までお前たち人間が殺してきた家畜たちの
「「バビロン君っ!!」」
「だからまぁ……………死ね」
椅子に転がったバビロンへ最後の拳を向けようとする完全食。しかし、直撃する寸前で出されたバビロンの「待った」の右手に、動きが止まった。
「殺す前に聞かせてくれ。……何で、お前はそうも人間を憎むんだ? 怨念とか意思とかじゃなくて、お前の気持ちが知りたい(時間稼ぎ、になればいい。せめて体力が戻るまで……)」
「…………聞きたいか、俺の
「いや別に興味無ブッ!?「あぁ是非聞かせてくれ! 我々神官は、迷える者を導くのも仕事なのだぞ!」
話の腰を折ろうとしたロゼリスはトールが沈め、完全食に話を促す。
「いいだろう。そこまで聞きたいのであれば……「いや別にそこまでグハッ!」……数年前、俺はとある魔術師によって造られた……」
以下、完全食の回想。
『できた! 食べても食べても無くならない豚肉が!!』
とある国の研究所で、この子豚、
この世紀の大成功を成し遂げた魔術師の名は、『うろ覚えのウロボロ』。天才魔術師として名を馳せるが、自分の発明の作り方を忘れる
『よーし早速試食だ!』
『ブウウウ!?』
人工物とはいえ仮にも自分が造った命に対する配慮とかはこの魔術師にはなかったため、完全食が生まれて始めて感じた痛みは『豚足切断』であった。家畜で再生するとはいえ、この時点で中々に悲惨である。
『おお凄い! 切ってもちゃんと再生するぞ! 大成功だ! よく分かんないけどちょっと体も大きくなってる! オークをベースにドラゴンのゲノムをアレして他にも色んな魔獣をアレコレして最終的に雷であーだこーだなった成果だな! ハハッ! 作り方忘れた!』
うろ覚えの名に恥じず、ちゃんとこのウロボロNo.6の作り方も忘れている。けれど作ろうと思った物は作れているので何も問題は無い。どうせこんな些細な悩みはすぐ忘れる。故にうろ覚えのウロボロである。
そんなウロボロをNo.6は憎々しげに見ながらも、不意に頭を撫でた手はやけに温かかった。
『
(
あまりに自然過ぎて忘れていたが、本来完全食に人間のような知性は無いはずだった。しかし、転生かなんなのか、
唐突に
そう、彼は嬉しかったのだ。我が身を刻まれようと、その身が人の糧になる事が。
今まさに自分を食べようとしている生みの親が、自分を食べて笑ってくれるのが何より嬉しいと、そう感じたのだ。
咀嚼するウロボロがどんな反応をするのかワクワクしながらも、そう考えていた……。
『アッハハハ駄目だこれっ!
食えたもんじゃねえぇ!!』
この時までは(この間5秒)
早々に生みの親への愛など失せた完全食は、研究所に火をつけて逃亡した。
それからというもの、彼は夜な夜な街を出歩く人に声をかけ、
『おい』
『え? き、キャァァ! オーク!?』
『食え』
『誰k……え?』
『食え』
『え???』
『食え』
自分を食わせて回った。控えめに言ってただの恐怖である。
更に言うと、彼を食べた全員がその不味さに吐いた。控えめに言ってクソほど迷惑である。
100人目が吐いた。もう子犬サイズだった体も人間の子供くらいの大きさになっていた。
そして『妖怪豚男』の都市伝説が街で囁かれるようになり、彼はようやく己の真実に気がついた。
(───俺って、不味いんだ)
と。
今更過ぎである。
ただ、不味いにしても限度があろう。彼の肉にはウジも湧かない。雑菌すら彼の肉で繁殖したがらないので腐敗も起こらなかった。どれだけ不味いんだ。彼も気になったが、草食ゆえそれを知ることは出来なかった。
食べられる事が生きる意義として生まれたにも関わらず、菌すら湧かないゲロマズ食品だと……絶望的過ぎる現実に打ちひしがれているところで、彼は運命の出会いを果たした。
『───噂はかねがね……』
『アンタは……』
『お話、聞かせてくれませんか?』
今の完全食が主様と呼ぶ存在、ギタンとの邂逅である。
ギタンは完全食の話を真摯に聞いた。すると、その味に興味を持ったギタンは仲間に食べるかと聞いてみた。
『成程、興味深いお話ですね……。誰か、食べてみます?』
『…………誰がいきます?』
『不味いと言われて食う奴がおるか。シビルウォー、お主がいけ』
『何でだよ』
『お主の肉体は屍人じゃろ。味覚も鈍いじゃろ』
『それはお前にも当てはまるだろうシャクラよ。それはそうとシビルウォー、頼んだ』
『誰が人柱になるかよ。いくら生前で変なもん食い慣れてるとは言ってもなぁ』
『……誰も、食べないのか……そうかやっぱり俺は不味いのか……』
『『『『…………』』』』
『……僕が、食べるよ』
結果、シビルウォー
残り3名、
(クソがっ!!)
完全食は内心そう毒づいた。
しかし、その時ギタンがおもむろに手に空いた口で完全食の豚足を咀嚼した。
それを飲み込み、ギタンはその目を強く見開いた。
『素晴らしい……!!』
『『『『え……』』』』
(
『キミの肉からは様々な魔物の『旨味』を感じます。……私ですらその全容を見通せない程に……。それらが相互作用を起こし、その
((((えぇ……))))
ギタンの理論に、部下4人は珍しくドン引いた。実際に食べたシビルウォーなんて、なぜ吐かないでいられるのかと本気で主の味覚を心配した。
『……しかし種類が多い故に、同時に『雑味』も感じます』
『!』
『その力は、人の為にあらず。むしろ逆、己を家畜扱いした人間へ差し向ける牙です。その身に渦巻く色濃き魔物の血統を人間のエゴで汚しては……少なくとも、私好みの後味にはなりません』
言われてみれば、そんな気がしてきた。
ギタンの人の芯に響く話術もそうだが、完全食自身かなりチョロい質なので、ギタンの影響は受けやすかった。
(家畜に生まれた挙句、目の前で吐かれて不味いなんて言われ……俺は、俺は……!!)
「───そして俺は、まぁ……今に至る感じだ」
以上、回想終了。
それを聞いたロゼリスとトールはと言うと……
((う〜ん……ちょっとかける言葉が見当たらないな〜〜……))
これに尽きる。だってどうしようもない。
美味しく頂ければそれでいいのだが、100人が食って100人が吐くならもうそれは無理だろう。
家畜じゃなくて別の生き方を勧めるにしても、もう『人間を滅ぼす』という形で実行してしまっている。
迷える者を導くにしても、ここまでどうしようもないと打つ手無しである。
「フン……俺の気持ちなぞ、貴様ら人間には解るまい……。俺は復讐するのだ! 俺を不味いと言った全ての人間に!!」
黙って話を聞いていたバビロンは、下を向いて表情が伺い知れない。
体力が回復仕切っていないのか、トールたちは焦りを隠せずにいた。
再び完全食が攻勢に出ようとした、その時…………
「転職したらギルドがホントに貧乏だったので、切実に困ってます!!」
((( 何言ってんだアイツ )))
「という時期が……私にもあったんだ」
かつての暗殺者ギルドは、決して儲かってるとは言えなかった。元々不安定な職な事に加え、札つきの者たちに仕事を頼む人も少なかったからだ。
それだけならまだ何とかなった。しかし、面子が面子である。
以前シィズが言ったように、毒を振りまくから食材が色々大変なことになるレン、無口なので要望とかが通りにくいクロウ、酒乱故に問題を起こしまくるタリア、大柄故に大食いのガリレア。極めつけにそういう問題児をすぐに引き取って仲間にするジェイド。
この愛すべき問題児たちを抱えながら、料理担当のバビロンはせっせかどう食事をまともな物にするのか日々考えていた。
「毎日切羽詰まっていた。食べ物や働き口を探して森や街を練り歩いた。……たまに食えるかわかんない草を味見して本気で死にかけた事もあった。……あの頃、もしお前に出会えていたら……お前を抱き締めていただろうな」
(
食べても食べても減らない豚肉? 何だそれ最高じゃないか、と語るバビロンに、このチョロい豚は本話3度目の
しかし、それも正気に戻った。
「馬鹿を言うな! お前は俺の不味さを知らないからそんな事を言えるんだ!」
そう、バビロンは話を聞いただけでこの豚の破滅的な不味さを知らない。1口食えば、すぐに吐くだろうと完全食も思っていた。
しかし、それは間違いだ。バビロンは話を聞いて、1つの可能性を見出した。完全食を殺さず、無力化する方法を……。
故に、バビロンは完全食の豚足(前足)をそっと握り、目を合わせ宣言した。
「俺が作ってやる……お前が世界中の人間に愛される……そんな豚料理を!!」
(
((はい?))
暗殺者ギルドの料理人バビロンの実力、とくと見よ!!