転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
大体こんな! と私のイメージってだけなので、閲覧は自己責任でお願いします!
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使用したメーカー様:よっこら少年少女
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街のとある一室。本日は避難した住人のいない部屋のキッチンをお借りし、バビロンクッキングをお送りします。
「トール、何かなコレ……。何かなこの展開……。余りの絶望で幻覚が見えてきたのかな……」
「残念だが現実だ。なぜこんな料理番組みたいになってるんだ……」
本日のバビロンクッキング、解説は
「待って試食!? 今試食って聞こえたよトール!!」
「クソっ! やっぱり俺たちなのか!! つーか豚は食わねえのかよ!」
「悪いが俺は草食なんでな……」
「そのナリでか糞豚ァ!」
さぁバビロンさん、今日はどんな料理をお見せしてくれるのでしょうか。
「さっきから何なんだこのモノローグ」
「何にせよ、正攻法で倒すことが出来ない以上、バビロンに美味しく調理してもらい改心させる他ない!」
「改心ったってトール……」
本日の食材はこちら! 豚肉 です!
「何で小説なのにあんな不気味なのかなぁ!? なんか震えてるよトールゥ!あんなのどう美味しくすんのさぁ!」
「馬鹿ヤロー! こんなので特殊文字使わなくていいんだ!」
調理前から波乱の予感ですが、これをどう見ましょうか解説の完全食さん。
「クク……所詮人間などこんなモノだ。さっきは不覚にも
相当の自信ですね。さて、キッチンの様子はどうでしょうか。
バビロンさん、肉叩きを持ってますね。これで肉を柔らかくするのでしょうか。
コ ン
「コンって言ったよトール! アレ肉だよねぇ!? 肉叩きは木製だよねぇ!?」
「いちいち騒がないでくれロゼリス! 俺まで怖くなってくる!」
叩いたら肉叩きの方が叩き折れそうな音ですねー。解説の完全食さん。
「そうさ、俺の肉はまず硬い。ひとつ教えてやろうバビロン。俺はサルームのあらゆるシェフにも我が肉を食わせている。そのほぼ全てが、この『硬さ』の前に挫折した……」
「クッ、なんて迷惑な……」
「負けるなバビロン君! 叩き続けるんだ!」
「無駄無駄……俺の肉の硬度は料理人の歯と心を圧し折る。お前程度の料理人に打つ手などない……」
この肉の硬度、バビロンさんはどのようにして攻略するのでしょうか……。
「……くく。安心しろ、この硬さの攻略法はもう分かっている」
「ナニ……?」
おおっと不敵な笑みだぁ! さてどのようにしてこの肉の硬さを突破するのでしょうか。
「叩いちゃ駄目なんだ。むしろ逆……優しく、そっと、
「「「何ぃ!!?」」」
「そんな事で肉が柔らかくなるわけが……」
「いや見ろ! 肉が……ヘロヘロになってる!」
「馬鹿な!」
「何でぇ!?」
なんとバビロンさん! 赤ちゃんに接するかの如く肉を優しく撫でたァ! 意外も意外! そしてまさかの肉がヘロヘロになったァ! どういうことだぁ!?
「思った通りだ……。完全食、お前は殺せば殺す程、強く硬く進化した。ならば今度は、逆に退化を促してやればいい。悪かったな、無闇に攻撃して……悪かったな……」
先の戦闘で苦戦した完全食さんの強みを逆手に取った
バビロンさんが肉を優しく撫でるごとに、みるみる柔らかくなっていきます! なんてチョロイんだ!
「屈したと言うのか……! あの男の優しさに! こんなすぐ! 我ながらなんてチョロイんだ!」
柔らかい肉は一旦置いておき、流れるようにパン粉と溶き卵を別のバットに用意したバビロンさん。何を作るんだ……?
肉を卵にくぐらせ、パン粉をまぶしました。そして……油で揚げたァ! 揚げ物の心地よい音がキッチンに響くゥ!
「衣をつけて揚げた!? なんだこの料理は!?」
「フッ……成程そう来たか……」
「どういうことだ……?」
「よくぞ我が肉の硬度を突破したと褒めてやりたかったが……それはまだ序の口、その先に待つのは絶望の臭み!」
聞いたことがありますね。とあるシェフがある肉の臭み取りの下処理をした際、その『アク』の量が多過ぎて店が埋め尽くされ潰されたと。アレ完全食さんだったんですね。
「クッソ迷惑じゃないか……」
「あれは本当に悪いことをしたと思っている……いや悪くない、全て人間が悪いのだ」
「お前割と善人じゃないか?」
「……くく。それ、あながち間違いじゃないかもな」
「何……?」
そうこうしている間に、豚がカラッと揚がったそうですね。千切りキャベツとレモンを添え、最後にソースをかければ…………
「『
「誰に勝つと……?」
「こ、これは……なんか悔しいが、美味しそうだぞ!」
「ああ、文字だけだから伝わりにくいが、すごくカラッと揚がっていて美味しそうだ!」
「カラーだけに?」
「うるさい。そのくらいしか表現方法が無かったんだよ」
作者の語彙力の無さには言及しないでください。
さあ、ロゼリスさんトールさん、試食をお願いします。これで美味しく頂けたら、人類殲滅は考え直してくれるのでしょうか……!?
「美味しく食えるものならな……。吐かずに食いきれたなら、考えてやらんでもない」
「いいかロゼリス! あんまり噛まずに呑み込むんだ!」
「し、しかし、これ結構身が大きくてな……」
(無駄さ、臭みを衣で封じ込めたつもりか? 馬鹿め。我が肉の臭みは胃袋で爆発する。細かい調理は背に隠れて見えなかったが……)
さあ……実食です!!
(吐け!)
「───噛め」
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ
「「……こ、コレは!!」」
2人の脳内には無邪気に子供のように衣の原っぱを走り回る情景が浮かんでいた。
ザクザクと音を立てる衣の草を
(噛んだ瞬間に分かるザクザク感! 噛むのを止められない楽しい食感! 十二神官たる我々が、この口内の破壊衝動のままに肉を咀嚼してしまう!!)
(無意味に水溜まりで泥まみれになり笑っていた、あのワンパク時代に回帰したかの如く……コレは止められない!
飛び込まざるを得ない! )
その坂の下、川を流れる肉汁の源泉。
2人はもはや、飛び込みその身を委ねるしかない……この肉汁の、旨味に!
……これが、2人の脳内に肉汁と共に溢れ出した、存在しない記憶である。
「「美味ああぁぁぁい!!!」」
「!? バカな! 俺の肉が美味いなど、そんな訳ないだろう!」
「いや本当に美味い! 噛めば噛むほど肉汁の旨味が溢れ出てくる!」
「おかわりだバビロン君!」
「あいよ」
コレは大好評! バビロンさんが作ったトンカツ、大成功です! この状況に完全食さんも混乱を隠せない!
(た、食べてる……俺の肉を……美味しいって……)
「───何をしたんだ、バビロン!」
コレは私も気になりますね。一体あの生物兵器が如き禍々しい肉をどうやって調理したのでしょうか。
「……下処理にな。───『微光』をひと振り」
おおお! バビロンさんの指先から放たれた浄化系神聖魔術『微光』により、豚肉の禍々しいオーラが見る見るうちに浄化されていく! プルっとした美味しそうな豚ロースの出来上がりだぁ!
「その手があったか! 何故思い付かなかったんだ!」
「グールやレイスではないオークに、浄化系は効果がないと無意識にそう思っていた……!」
浄化系神聖魔術はグールやレイスに特効、という性質もあるが、本来の効果は浄化。洗練された浄化は泥水でも清水に清める。
実際、かの第七王子の浄化によって下水道の腐った水は清い天然水に、淀んだ空気は高原のように澄んだものに変わった。これは些か極端な例ではあるが。
「あれほどの瘴気を1発で浄化するとは……!」
「バビロン君! 君は天才神聖魔術師だ! そして天才料理人だ!」
「天才なんて過ぎた評価だよ。ホントに文字通り微量の光だ。……あとこれでハッキリした。完全食お前、本当に良い奴なんだな」
「!」
「家畜の運命を受け入れ、人の為に生きようとしたお前に立ちはだかった数々の絶望。それがお前の『
バビロンの神聖魔術の腕は人並みの域を出ない。如何せん今までに撃ったのが、あの
その身に宿る憎悪と裏腹に、ひと振りの『微光』で浄化されたのは何故か。
それはひとえに、完全食の生来の気質故だ。
「どこまでもお人好しの善人……いや善豚か。その志、魔物どころか聖獣にさえ劣らない。どっかの迷子の親玉さんとは大違いだな」
未だ揚げられるトンカツの匂いに、近くの避難所にいた人たちが建物に集まってきた。その人たちに、バビロンは窓を開け放ち言った。
「上がってこい、良い肉がある。避難所の奴らにも持って行ってやれ!」
そうして上がってきた人達にもロゼリスとトールと一緒にトンカツを振る舞い、皆は最初は恐る恐るといった感じであったが……
「お前の生き方は、お前が決めればいいさ。……だが、忘れるなよ」
「「「美味しいいぃぃ〜〜!!」」」
「人間は、お前のことが大好きだ!」
すぐにその顔を喜色に変え、楽しそうにトンカツを頬張っていった。
その光景に思わず涙を流す完全食。その隣で、バビロンは昔の日常を思い出していた。
「……どれだけ腹が立ってもさ、これを見せられると……」
『美味しかったぁ! ご馳走様!!』
「……やれやれってなるんだよな、いつも」
あの愛すべき
その2人を他所に、ロゼリスは完全食の肉にがめつく信者獲得の匂いを感じていた。
「本当に凄いぞこの肉は……! 本来は不味過ぎて菌も湧かず腐らないから永久に保存が可能! 食べる時は浄化で下処理! 本当に永久に食せるまさに完全食! この肉があれば僕はまた教皇に近づく! グヘヘ……!」
『ロゼリス印の完全食』計画を脳内で妄想するロゼリス。どさくさに紛れて完全食を引き取ろうと思い立ったが、そこに完全食が待ったをかけた。
「バビロン……俺に浄化を撃ってくれ」
そう言って、バビロンの前に膝をついた。
それにロゼリスは驚愕し完全食を引き止めた。
「いや待て完全食! お前のその再生能力は君の怒りや怨みに起因している! 本体を浄化したらただの豚になってしまうぞ! もったいない!!」
「お前は黙っとけ」
究極の善豚である完全食だ。巨体であろうとも、バビロンの『微光』で完全に浄化されるだろう。
そうなれば、恐らく彼の内の『
けれど……それでも、たった1度きりだとしても、アクの無い1番美味しい自分を食べて欲しいと、完全食は願った。
「それでも俺は……君に食べて欲しい。俺を救ってくれた、バビロン。君に……」
「……分かった」
バビロンの手のひらから光が発される。
その光を当てられた完全食の体から、溜まりに溜まった
(ごめんなさい、主様、ウロボロ博士……。もう俺に人は害せない。もう俺に、世界の飢餓は救えない。けど俺はやっぱり、人の為に生きたい……。俺を理解してくれた……美味しく調理してくれた、たった1人の為に…… 僕は……)
晴れた瘴気の中から出てきたのは、もう怪奇豚男では無かった。
「ブゥッ!」
生まれた時と同じ、仔犬サイズの子豚だった。
子豚となった完全食は、近くにある暖炉の火へと飛び込み…………
ガシッと、バビロンに抱きかかえられた。
「って!! 食えるわけねえだろぉがあぁぁ!!!」
「人ってのは……」
「どこまでも、エゴよのぉ……」
本日のバビロンクッキングはここまで! 次回もお楽しみに!
「「「お前は結局何なんだよ!!!」」」
所は変わり、ガリレア・タリア班。
「『炎烈火球』!」
「「「「わああああぁぁぁ!!!」」」」
現在、『禁書のグリモワール』を名乗る魔人らしき山羊頭を相手に苦戦を強いられていた。
山羊頭が放つ高威力の魔術から逃げながら、タリアは涙目で叫んだ。
「ガリレアぁ! アイツら私の『百傷』が全然効かないんだけどぉ!」
「だろうな! グールは端から死んでるし、あの山羊頭も体はグール。痛みに鈍感な肉人形だ! しかも、アイツは魔力ゴリ押しで無理やり回復してくる最っ高に面倒なタイプだ!」
「ホント最っ高に苦手なタイプよ! 私この章良いとこ無いんだけどぉ!?」
「俺もだよクソッタレ!」
「GREYY……」
タリアの異能『百傷』は、性質上相手に致命傷を与えることは出来ない。細かな傷のスリップダメージを与え続ければ勝ち筋はあるが、今回のように自己治癒力の高い相手だとほとんど無力に近しい。おかげでタリアも無傷である。
ガリレアの糸で拘束しようにも、撃ってくる魔術がいちいち強力ですぐに抜けられるのがオチだ。
「どう戦う!? このままじゃジリ貧になって負けるのはこっちじゃぞ!」
「神官のお2人は教会を守っててくれ! タリアは浄化で援護! 俺が糸で拘束して時間を稼ぐ!」
「クク……拘束か。やれるものならやってみるがいいさ! この、禁書のグリモワールになぁ!!
GREYYYYY!!」
「うっさいわぁ! 偽物のくせに!」
「……いや待て、タリア。無いとは思うが……
『アッチ』……と言うと、言わずもがないつもロイドと一緒にいる方である。
その可能性に、タリアは咄嗟に否定の言葉を並べようとし……
「何言ってるのよ! グリモの方がよっぽど……よっぽど…………」
思い返してみる。普段のグリモの様子を。
『おーい、お前らの分のパンケーキ貰ってきたぞ〜』
ふよふよ飛びながら、ロードストまでパンケーキを持ってきてくれた心優しいグリモ。
『zzz……』
『寝た〜』
『寝たね〜』
クッションの上で「プゥ〜」と寝息を立てるモチモチとした可愛いグリモ。
目の前のおどろおどろしい見た目のコイツよりも、よっぽど、よっぽど……
(よっぽどラブリーでキュートね)
(だよな〜)
思い返すごとにグリモのマスコット感が際立って、目の前のコイツが
そして、実際にこの山羊頭が本物なのだとしたら、勝てる可能性は無いに等しい。『禁書の魔人』グリモワールとは、大昔にたった1体でサルームを滅亡寸前にまで追い込んだ大魔人である。
数多の魔術師を相手に封印するのがやっとだったのに、ガリレアとタリアだけではどうする事も出来ないだろう。
「ククク……今更怖気付いたところでもう遅い……! とくと見るがいい! この禁書のグリモワールの、伝説の古代魔術の力を
山羊頭が言い終わる前に、その頭はサッカーボールのように蹴り飛ばされた。
シュートしたのは……オレンジ色の山羊の角を生やした、少年だった。
山羊頭はクルクル回転しながらグールの方へ飛び、状況を理解出来ずにいた。ガリレアとタリアも同様である。
「「!?」」
「???」
「え」
「え?」
「え???」
頭を失った頭部からは血が噴き出し、3人の困惑の声と血の虹だけがこの場に残る。グールも心做しか茫然としていた。
しかし、理解しだした山羊頭……の中にいるレイスは、徐々に頬を赤くし出した。
「ま、まさか……あな
問答は届かず、山羊頭とグールたちは黒の奔流に呑み込まれた。ガリレアとタリアの悲鳴も、その轟音に掻き消された。
後に残ったのは、何故か笑顔を浮かべた風呂敷を纏ったレイスだけであった。
「───なんだ、中身は魔人ですらねぇじゃねえか。ほれ、お前らソイツ片付けとけよ」
「え、あ、はい……」
ぞんざいにレイスを掴みガリレアに投げた少年は、『飛翔』により空に飛び上がった。
そのまま顔も見せず、「穴を塞ぐことに専念しろ」とだけ言って、どこかに行ってしまった。
「今のって……」
「まさか……」
「……で、結局アンタは何だったの?」
「あ、自分生前は古代魔術の研究をしていたグリモワールさんのファンで……今までエミュしてたんですよ」
「「「…………」」」
「「『微光』」」
「あぁっ……!」
心残りがなくなってたのか、グリモワール(ファン)はアッサリと天に召された。