転生したら第六王子だったので、一つの魔術を極めます 作:苦闘点
なんか日間ルーキー総合で1位になってぶったまげました。
評価バーも3個目まで赤くなって、近いうちに闇討ちされるのでしょうか、私。
シィズとアリーゼは双子であるが、それは誕生日が同じというだけで一卵性という訳では無い。
母親も違うし、生まれた日付は同じでもアリーゼは深夜1時、シィズは深夜11時と、約1日違い。
生まれた時から一緒にいるものの、二人とも興味の対象は全く異なる。しかも王位継承権がない身として、二人には相当の自由が与えられている。
動物好きで魔術には全く学がないアリーゼ、それに対し結界魔術の研究の為に年単位で引きこもるようなシィズ。
そんな2人なら、関係は結構乾いたものに……
……ならなかったんだよなぁ、コレが。
「……行かなきゃダメ、だよなぁ」
シィズが辿り着いた城の端にある建物。
巨大な樹木が絡みついた砦のような塔。
アリーゼが所有する、『箱庭の塔』だ。
名前の通り、アリーゼが趣味で飼育している動物を住まわせている箱庭。
中に入ると、外周を覆うような螺旋階段に、大小様々な植物が生い茂っている。鳥のさえずりや小動物の鳴き声も聞こえてくる。
余談だが、『無間界廊』の内装はこの『箱庭の庭』のデザインを参考にしている。螺旋階段を作る暇はなかったから、シィズの方はエレベーター式にしたが。
閑話休題、シィズもこの空間は嫌いでは無い。動物が特別好きという訳でも無いが、この場所にいるだけなら心が安らぐ。
早々に集まってきた動物達と草むらの影で戯れていると、奥に黒い短髪のメイドが見えた。
それに手をブンブン振って所在を伝えると、そのメイドは慌てた様子で走ってくる。
「し、シィズ様!?」
「(しー!悪いが少し声量を抑えてくれ!)」
「(も、申し訳ございません……。しかし、やっと部屋から出てきてくれたのですね……!)」
律儀にヒソヒソ声で話してくれているこのメイドは、アリーゼの専属メイドのエリスである。
この箱庭内のほぼ全ての動物を一人で管理しており、いつも大変そうにどうぶつの森の住人を世話している。
実際のところ、動物の世話よりもアリーゼの世話の方が大変らしいが。
「(引きこもりを脱却して、挨拶に来たんだが……)」
「(……あー、なるほど。それで、アリーゼ様が落ち着いてるタイミングを、見測ろうと……)」
「(そういうことだ。で、アリーゼは今どこに?)」
「……そういう事でしたら、申し訳ありませんが、もう手遅れです」
「…………え?」
シィズが困惑の声を上げるのも束の間。
いつの間にやら背後に忍び込んでいた猿型の小さな魔獣、
この時点で色々諦めたシィズは、空中を舞っている中、上空から落ちてくる影の襲撃を黙って受け入れる。
「シ、ィ、ズゥウウウゥゥー!!」
顔面ダイブしてきたやけに柔らかい物体をキャッチし、そのまま自分の体が下になるように着弾する。
ダイブしてきた柔らかい物体、アリーゼその人は落下を気にすることなくシィズを撫でくりまわす。
「シズゥー!!シズシズシズシズシズウゥー!!やっと会いに来てくれたのね!」
「あ、あぁ……。その、歓迎してくれるのは分かったし、嬉しいから、そろそろ離れ……」
チュッ
「ダーメ!何年も顔見せないで!お姉ちゃん心配したんだからね!」
「それは悪かったから!じゃあもう離れるのはいいから、キスはやめ……」
チゥー……
「やぁだ!やめない!今まで出来なかった分、たくさん可愛がって……」
「アリーゼ様ぁ!シィズ様もう目が死んでおられますから!嬉しいのは分かりますが、一旦離れてください!」
「エリスまでぇ!エリスだってシズの事心配してたじゃない!」
「今現在のシィズ様の容態の方が心配なんですよ!」
その後、アリーゼはエリスに無理やり引き剥がされるまで、シィズに計10回はキスした。
シィズは復活に30分かかった。
「───……はっ!」
「あ!目が覚めたわね!」
「肝が冷えます……」
「あぁ……気ぃ失ってたのか……」
「もう!せっかく来てくれたのに、一緒にいる時間が減っちゃうじゃないの!」
「誰のせいですか」
プンプンと擬音が付きそうな顔で怒っているのが、第六王女、アリーゼ・ディ・サルーム。
フワフワでグラデーションがかかった桃色の髪におデコ出しヘア、髪と同じくフワフワした雰囲気のドレス、そして本人の性格も見た目に違わずフワフワである。
シィズは意識が回復してくると、自分が何かモコモコしたものに横たわっている事に気がついた。
顔を上にあげてみると、その正体が分かった。
「……お前も久しぶりだな、リル」
「フフフ♪リルも喜んでるみたいね」
顔を近づけ、ペロペロと舐めてくる巨大な魔獣。
荘厳な白銀一色の体毛に、流線型の体。人間のような知性を感じさせる瞳。
アリーゼのペットの一体、レッサーフェンリルの『リル』だ。
何よりリルに特筆しているのは、その人間並かそれ以上の知性の高さである。
「5年も会ってないのに、覚えてくれてたんだな」
「勿論よ!リルもシズの事心配してたんだからね」
「そうなのか。ごめんな、リル」
「エリスゥ!私の時と反応が違ぁう!」
「キスしまくるからですよ」
シィズがアリーゼをすこーし苦手にしているのは、その過剰なスキンシップが一つ。ロイドもこれが理由で苦手にしていた。
ハグはまだいい。すぐやめてくれれば。
しかし、会う度会う度キスしてくるのはごめん
そして、あともう一つは……
「いいじゃないの。お姉ちゃんが弟にキスするのは当然でしょ?」
「別に当然じゃないし、歳は同じじゃないか……」
「それでも私がお姉ちゃんである事に変わりないの!ほらギュ〜」
「もぅいいもぅいいもぅいい」
アリーゼは、何かとお姉ちゃん風を吹かせたがるのだ。約20時間の歳の差なのに。
アリーゼに物心がついてから、シィズが引きこもるまでの約5年間、ほぼ毎日のようにお姉ちゃんお姉ちゃんと言われ、ハグにキスに曝されまくったのだ。
(子供の頃はまだよかったが、オレももう肉体的には思春期だ。流石に精神的にキツイものがある……)
アリーゼ自身の事は割と好意的に見ているだけに、こちらの気が狂いそうな距離感さえ自重してもらえば、どんなに素晴らしい事だろうか。
ハグしようとしてくるアリーゼを引き剥がし、シィズは安寧を求めてリルに突っ伏した。いい土台を見つけたとばかりに背中に小動物が集まるが、アリーゼに後ろからのしかかられるよりはマシである。
「あ〜ズルいわシズ!」
「はりーへひもひっふぁいはふまっへるはろ(アリーゼにもいっぱい集まってるだろ)」
「ここの子達、何かとシィズ様に懐いてましたからね……」
そう言うエリスも、鳥だのリスだのに集られている。「エサよこせ」という吹き出しと共に。
アリーゼが魔獣問わず動物に懐かれるのは、『イメージの共有』という魔獣使いの業を無意識に出来てしまう天性の才からだ。
対してシィズはと言うと、今まで魔獣を飼った事など無く、シロを飼っているロイドにもその技術は劣る。
ただ単に、業も経験も関係なく、動物に好かれやすい体質なのだ。
まあ、ロイドも似たような事があるので、王族皆がそうなのかもしれない。
そこから十数分思う存分リルをモフり、そろそろシィズも塔を出ようとした。
「……それじゃ、オレはそろそろ行くよ。邪魔したな」
「え〜!もう行っちゃうの?せっかく久しぶりに会えたのに〜」
「これからはちゃんと部屋から出るし、予定が合えば顔をだすよ」
「私としても、シィズ様がいらっしゃると嬉しいのですが……」
「エリスのそれは、仕事が減るからだろう」
「そんな事ございませんよ(プイッ)」
アリーゼが未練がましく袖を引っ張るが、そろそろロイドのところに行きたい。まだ一日目だそうだが、それでも何しでかすか分かったものじゃない。
しかしここを出るには、梃子でも動かなそうなアリーゼを何とかするしかない。
(気は進まないが……アレを使うか)
一瞬でもアリーゼの気を逸らして手を離させれば、『門』を開いて逃げ出せる。
その為の秘策。シィズの普段のキャラだからこそ出来る最終手段。
「……はぁ、分かったよ。また近いうちに来るから」
「やぁだ!もっと一緒にいた……」
「だから、今は我慢してくれ………
「………………ふぇ?」
「じゃ!またなアリーゼ!」
「あっ……っ〜〜〜! もう!シズの馬鹿ぁ!」
「……シィズ様もやるようになりましたね……」
颯爽と去っていくシィズの後ろ姿を眺め、アリーゼはプク〜と頬を膨らませる。
けれど、その口は次第に綻んでいく。
「……姉さん……姉さん、かぁ〜……ウフフ♡」
それが聞けただけでも、今急に帰ったのも、5年前に何も言わず引きこもってしまった事も、アリーゼにとっては全て許せるくらいの至福の一言であった。
シィズは『箱庭の塔』から脱出し、『門』を通して王都の教会までの道のりを歩いていた。
街を歩くのも久しぶり過ぎて、少々寄り道してしまっていた。街の住人もアチコチを物珍しそうに見ている子どもが、まさか第六王子だとは思うまい。
出店で買った肉串をムシャリながらも、シィズは教会の前まで到着した。
すると、何やらゴロツキのテンプレのような2人が、教会の礼服を着た子どもに襲いかかっていた。
一瞬魔術を構えたが、よく見るとその子どもはロイドだった。
(ロイドの奴、巻き起こし体質だけでなく、巻き込まれ体質まで身につけたのか……)
何はともあれ、ロイドなら問題ないだろう。適当な魔術を使ってゴロツキ共を退散させるはず。
ゴロツキ共が抱えている女性2人が気掛かりだが、万が一はフォローすればいい。
シィズはそう冷静に判断したが、その平静は直ぐに崩される。
ロイドの中指と親指が合わされる。
───その軽快な音と共に、ゴロツキ二人のみがその場から消えた。
黒い斑点で描かれた円を残し、抱えていた女性達が落下していく。
その光景に、ロイドの後ろにいたレン、バビロン、そして物陰から見ていたシィズが瞠目する。
その後はロイド達は教会に入っていったが、シィズはそれを追わずに物陰で口を押さえていた。
……今はとても、人に見せられる顔ではなかった。
「……ハハハ。やっぱり、スゴイな。ロイドは」
押さえた口の下は口角が上がりっぱなしで、大声をあげて笑わないだけ理性が働いていた。
ロイドが見せた
シィズは一度深呼吸して、空を仰ぎ見る。
「そうか……。お前の意思は、ホントに繋がったんだな」
─────なあ、
もう一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、シィズは教会へと入っていった