戦犯勇者の弟妹   作:アニッキーブラッザー

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第13話 ケジメ

 アルナとヴァジナの親父がベラベラと喋った。

 その話を王都中が聞くことになった。

 商会の経営を維持することを条件に、アルナとヴァジナをビトレイと結婚させること。そして商会の人間を総動員して兄さんを中傷して世論を……

 

 

「そんな……じゃあ、エルセとジェニに対して皆をああいうふうにするように扇動したのは……お父さんなの?」

 

「それを……ビトレイ様とトワレット王女に指示され……」

 

 

 アルナとヴァジナは衝撃を受けたように震え、話を聞いていた街の連中も戸惑い始めている。

 アレは誘導されて起こされたことなのか? と。

 

「そうだ……ワシだって本当はあんなことしたくなかった! テラも、エルセもジェニも、あやつの両親だってワシはよく知っていた……可愛がってやっていたんだ! しかし、テラが敗れ、国が傾きかけ……そうなってしまえば、ワシが抱える何百もの従業員と家族が路頭に迷う! それだけは……それだけは避けねばならんかったのだ!」

 

 涙ながらにオッサンが叫ぶ。

 そしてその言葉に戸惑っていた民衆も徐々にハッとし始める。

 

「そ、そういえば、アレは……商会長から言われていたよな?」

「ああ……商会の連中が大騒ぎして……俺らも『そうしなきゃ』って……なぁ?」

「そうよ……よくよく考えたら……私たちは焚きつけられて!」

「じゃあ、あの時のことは全部――――」

 

 するとどうだ?

 民衆共が急に怒りの込み上げた表情を浮かべ……

 

「じゃあ、俺たちはまんまとこいつらにハメられたってことかよ!」

「何てことなの!? それを知らずに私たちは、まだ子供のエルセ君とジェニちゃんまで……」

「それに姫様まで……」

 

 至る所で怒号が飛び……

 

「「「「「何ていう腐った奴らだ!!!!」」」」」

 

 一斉にその怒りの炎が燃え上がったようだ。

 だが、俺はむしろ怒り狂うよりも冷静になり……

 

 

「おい、クソ野郎どもが何をショック受けたように驚いたり怒ったりしてんだ? どこまで都合の良い奴らなんだよ」

 

「「「「「ッッ!!??」」」」」

 

 

 俺はただ淡々と目の前の奴らに言葉を浴びせていた。

 

「誘導されたのはキッカケであって、その後のことは全部テメエらの意志だろうが……兄さんに罵詈雑言を浴びせたのは、全部テメエらの本心だろうが。俺たちの家を燃やし、俺たちを断罪しようとし……アルナ……ヴァジナ……テメエらが俺に見切りをつけたのもな」

 

 そう、アルナとヴァジナの親父がやったことは、ただのキッカケ。

 

 

「ま、待って、エルセ! 私たちは……私たちだって本当はあんなことは……ビトレイ様にだって……本当は……」

 

「…………………………エルセくん……」

 

 

 今更なんだよ。

 

「口を閉じろクソ女どもが。もうテメエらと話すことなんてねぇよ」

 

 アレは作られた言葉ではなく、背中を押されて出た本音に過ぎない。

 だから、アルナとヴァジナも含めて視界に映る全てが腹立たしかった。

 すると……

 

 

「そうだ、その通りだよ、エルセ! 全てお前の兄が大敗したという事実……そこに何も間違いはないのだ!」

 

「そういうことですわ。さぁ、ノコノコと戻って逆恨みをするこの駄犬を、早く取り抑えてくださいませ♪」

 

 

 周囲を取り囲む民衆の輪が二つに分かれる。

 するとその奥から、数十人の騎士たちに護衛されながら、ビトレイとトワレット王女がノコノコと俺の目の前まで来やがった。

 そして、ビトレイが一人更に前に出てきた。

 

 

「ビトレイ……またそっちから現れてくれるとは……手間が省けたぜ。今度はもう到達するぜ?」

 

 

 周囲を騎士団の中でも精鋭の連中に護衛されているから余裕なのか、もはやそんなことは関係ねぇ。

 すると、ビトレイとトワレットの余裕の態度はそれだけではないようで……

 

 

「ふふふふ、先日はうまく逃げてくれたなぁ、エルセ。流石は腐っても勇者の弟……まぁ、兄自体も腐っているが……もう、逃がさん! お前も運が悪い。丁度今日……単独任務で遠征していたあの男がようやく帰ってきたところなのだ!」

 

「あ?」

 

「テラが死んで空席となった八勇将の座……テラやその側近の将校たちが死んだ今……まぎれもなく王国最強の男!」

 

 

 そして、ビトレイとトワレットの切り札なのか、誇らしげに手を上げて叫ぶ。

 

 

「来い、新時代の英雄!」

 

「応!」

 

 

 すると、その合図とともに、俺の頭上が陰で覆われた。

 

 

「くくくく、はーっはっはっは! あの忌々しいテラの弟か……せいぜい、いたぶって殺してくれよう!」

 

 

 見上げるとそこには、巨大なグリフォンに跨った黒い騎士が……

 

 

「驚け、エルセ! かつて戦場での凄惨な行いが問題視されたために八勇将の選考から漏れたが、その実力は王国でも最強クラス! 暗黒怪鳥騎士―――」

 

「知るか」

 

「ふぇ?」

 

「大火拳砲ッ!!」

 

 

 なんか、兄さんが昔アレについて話していたような話していないような……どうでもいい奴。

 

「え、ちょまっ、ぶぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

 

 その暗黒の鎧を炎で溶かして燃やし尽くす。

 

「……え?」

 

 容赦はしねえ。灰にはならねえが虫の息になるまで燃やしてどこかの誰かさんが落下した。

 そして、これにはビトレイとトワレット王女も目が点になったようだ。だが、すぐに慌てたようにビトレイが叫ぶ。

 

 

「お、おい……な、何をやっているんだ、我が国の新たなる英雄、暗黒怪鳥騎士よ! い、今はそのような悪ふざけは必要ないぞ?」

 

「かっ、が……あ……あ……」

 

「な……何をしている! さあ、さっさとお前の力をこの次期国王と女王、そして民たちに見せつけるのだ! かつて、魔王軍の部隊百人を一人で殲滅した、最強の力を……お、おい!」

 

「が……たしゅ、け……あ……あ」

 

「相手はテラの弟とはいえ戦の経験もないド素人だぞ! 何の実績もない素人に、お、おい、おい!」

 

 

 だが、いくら叫んでも誰かさんは起き上がらないようだ。

 まぁ、今の一瞬の攻撃だけで分った。こうなることぐらい。

 

「おい……全然話にならねえぞ? 兄さんの力の足元にも及ばねえ」

「ひっ!?」

「そして……兄さんを討った六煉獄将のキハクは、今の俺では逆立ちしたって勝てねえ……兄さんが戦に負けた責任があることは事実だけど、相手はそんだけとんでもねえバケモノなんだってことは分かっとけよ、クソ野郎がぁ!」

「ぽぎょれろ!?」

 

 何の魔力も纏っていない素の拳をビトレイの顔面にぶち込んでやった。

 顔面陥没するほど無残な一撃を。

 

「ぷっぎゃあああ、ば、びゃがやああ、ぎゃば、があああ!?」

「ビ、ビトレイッ!」

 

 苦しめ。のたうち回れ。これがケジメだ。

 

「な、何をしていますの、騎士団! い、今すぐその男を……あ……」

 

 顔を青くしてトワレット王女が周囲を見渡すが、既に俺を捕まえようとした騎士団とか、護衛の連中は、今の俺の秒殺に完全にビビった様子。

 街の男たちも腰を抜かしてやがる。

 じゃあ、誰が?

 

「そ、そう……ストレイア! あ、あなたも騎士の端くれなら、さ、さっさとこの男を!」

「……あ?」

 

 ストレイア。その名を呼ばれて民衆の奥からあの女

 そこには、いつもの凛々しい女騎士見習いのストレイアではなく、アルナとヴァジナと同じようにドレスを纏って顔を青くしているストレイアが居た。

 

「エルセ殿……」

「いいぜ、かかって来いよ、ストレイア。次期国王様と女王様を守るために、騎士らしく、戦犯勇者のクソ弟を討ち取ってみろよ」

「……っ……う……うぅ……」

「あ? 何だよ、今更ビビったか! それとも後悔でもしてんのか! ざけんなよな! あの時ただ見ているだけだったお前らが、何を……何を! だけど、あの人は……!」

 

 ストレイアも戦意が無いようで、どうやらビトレイたちの仕組んだことにショックを受けているようだが、それがどうした。

 そうだ。

 お前たちは見ているだけだった。

 だけど……

 

 

「そう……兄さんのこと……それだけじゃねえぞ、ビトレイ。トワレット王女……そして国王も。この国の誰もが……幼馴染たちですら俺たちを見捨てた中で、唯一俺たちのために……その命を……」

 

 

 あの人だけは違った。

 

 

「な、ちょ、待ちなさい! し、シスを殺したのは、わ、私では、そ、そうよ! 暴走した民が勝手に、い、いいえ、あの子が勝手に飛び出して……」

 

「お前ら全員————」

 

「ひい、ゆ、た、たしゅけ、ちょ、誰か私を守りなさい! 誰か、誰か―!」

 

 

 もう、誰も守らない。

 いつも傲慢で派手な王女様が、涙と鼻水垂らして失禁してやがる。

 ふざけるな。こんな奴にどうして姉さんがバカにされなければ?

 許さねえ。

 そう決めて踏み出そうとした、その時だった。

 

「ま、まってくれ、エルセェ!」

 

 のたうち回っていたビトレイが大声で叫び……

 

 

「こ、今回のことは全部……全部……帝国の所為なんだぁああああああああ!!」

 

「……は?」

 

「わ、悪いのは……悪いのは俺たちじゃない! 全て、帝国の仕組んだことなのだ!」

 

 

 まさか、また俺の足がここで止まることになるとは思わなかった。

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