戦犯勇者の弟妹   作:アニッキーブラッザー

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第29話 幕間・帝国2(三人称)

 帝国最強のボーギャック。

 新兵の頃より戦場で数多の戦果を上げて一気に八勇将に上り詰めた。

 八勇将になってからも人類最強の守護者として、六煉獄将を始めとする魔王軍と激戦を繰り広げてきた。

 明るく戦と酒と女好きな豪快な将として多くの人類や兵たちから慕われる将であり、紛れもなく人類の希望の筆頭であった。

 表向きは……

 

「ふぅ……今回ばかりは随分と命がけの任であるからな……高ぶっていたものも少しは発散しようと思ったが……」

 

 薄暗い地下深くの空間。

 そこには首輪を嵌められた多様な獣耳を生やした多数の獣人や魔族の娘たちが、衣服一切与えられずに幽閉されていた。

 その中でボーギャックは全裸で立ち上がり、つい先ほどまで交わっていた娘の一人をそこら辺に放り投げた。

 娘はただ目を開けたまま無表情で光や生気を一切帯びない絶望の瞳で涙を流していた。

 

 

「もうピクリとも反応せん人形相手ではやはりつまらんな……萎えるわい。この高ぶりを抑えるにはやはり……大偉業を成すしかないか」

 

 

 満ち足りずにつまらなそうに溜息を吐きながらも、すぐにボーギャックの口角が吊り上がる。

 滾る熱き想いをどうしても抑えきれない様子だ。

 すると……

 

 

「げふっ?!」

 

「人形を捨てるのなら、ちゃんとトドメを刺してからお願いします」

 

 

 誰かの息の根を止める音と女の声がそこに響き渡った。

 

 

「ぬ? おお、ギャンザよ……人が厠に籠って精神集中しているところに入ってくるとは、礼儀がなっとらんぞォ?」

 

「では、出した排泄物はちゃんと処理しませんと」

 

 

 ボーギャックが振り返るとそこには、寸前までボーギャックが交わっていた獣人の娘の首を刃で跳ね、その肉を涼しい顔で踏みつける女が立っていた。

 美しく若く、凛とした雰囲気を発しながら、一人の娘の命を奪ったというのに一切の揺らぎもない。

 そしてその者こそ、テラと並んで十代の若さで八勇将の一人に選ばれた、帝国が誇る天才女将軍・ギャンザ。

 

 

「ぐわはははは、許せ。ゲウロのとんでもない作戦に心と体を抑えきれんのでな」

 

「確かに大胆な手ですね……ガウルと大魔王を私たちで討てというのは……」

 

「ふん。大魔王がただの為政者なのか……それとも力で魔界を統べている者なのか、これまで長年謎だったが、それも私たちの手で解明できよう。仮に討てずとも、最低でもガウルぐらいならばどうにかなるであろう。ガウルとクローナ……ふ、生け捕りにして私がもらうというのもよいな」

 

「確かに、大魔王の娘の二人……どちらかを生け捕りにすれば、我々にとって大きな意味を持ちます」

 

「うむ……でだ、ギャンザよ。私と話しながら私の所有物の首を刎ねていくのはやめよ……床が血だらけではないか」

 

「ああ……すみません。私も血の滾りが抑えられなかったもので……」

 

「ふっ、まあよい。どっちにしろそろそろ捨てようと思っていた者たちだ。それならいっそ、残らぬように燃やしてくれた方が良い。新しいものは現地調達といこう」

 

「そうですか……分かりました」

 

 

 二人とも、もはや長年の戦の果てに魔族という存在をヒトとして認識していなかった。

 部屋の中で害虫が居れば踏みつぶすような感覚で、殺すことにも弄ぶことにも心が揺らぐことは無かった。

 

 

「では、焼却を――――」

 

「「「「――――――――ッッ!!??」」」」

 

 

 その地下空間に居た全ての娘たちが、この一瞬だけ目を大きく見開いて生気が宿り、そして何の前触れもなく唐突にその全身を炎に包まれて断末魔を上げ、それを一瞥もせずにボーギャックとギャンザは地下から外へと出ていった。

 

「ふふん、戦の度に故郷から離れるのは慣れておるが……今度ばかりは感慨深いのぅ」

「ええ。ですが、必ず帰ってきましょう……私たちの故郷に」

 

 地下空間から出て地上に出た二人に眩い陽の光が注ぎ込む。

 帝都の最奥に位置する大宮殿の中庭。

 すると……

 

 

「先生! ギャンザ姉ぇ!」

 

 

 一人の少年が二人の姿を見つけて満面の笑みで目を輝かせながら駆け寄った。

 

「おぉ、『ラストノ王子』~ちゃんと鍛錬はされておるか?」

「お久しゅうございます、ラストノ王子。それと、私なんぞを姉呼びはおやめください」

 

 駆け寄った少年に二人は温かい笑みを浮かべる。

 少年の名はラストノ。

 王位継承権を持つ帝国の王子。

 

「はい先生、今日も素振り千回は終えました! それと、ギャンザ姉ぇに今更他の呼び方なんてできないし……寂しいよ……」

「ほぉ、ちゃんと課題もこなして感心じゃなァ、我らが王子は! そうれ!」

「わ、わァ、先生!」

 

 まるで孫でも相手するかのように豪快に笑ってボーギャックはラストノを肩車する。

 その様子にギャンザも慌てた様子を見せる。

 

「将軍! 王子になんという……無礼ですよ?」

「かーっ、おぬしこそ王子が寂しがっておるんじゃ。周囲に私たちしかおらんときぐらい、昔のように接すれば良かろうて。頭の固い」

「そ、それはなりません。王子は次期皇帝……いえ、その前に……その才能は紛れもなく次期八勇将となることでしょう」

「がーっはっはっは、そうじゃのう。まだ13歳ながらにして、魔力500……エヴォリューションによる身体強化を50倍まで可能……まさに神に選ばれし神童だからのう!」

 

 ギャンザが注意するも、ボーギャックは聞かずにラストノを肩車したままグルグルと回る。

 ラストノも恥ずかしそうにしながらも、満更でもない様子でハニかんでいる。

 

「先生、もしお時間宜しければ久しぶりに稽古をつけて頂けませんか?」

「…………」

「ギャンザ姉ぇにも……ちょっと話が……今晩、いいかな?」

「……王子……」

 

 するとその時、ラストノの言葉に笑っていた二人は急に真剣な顔つきになった。

 ボーギャックがラストノを地面に降ろし、そしてラストノに二人は片膝付いて頭を下げる。

 

「申し訳ありませぬ、王子。私とギャンザはすぐにでも出陣します」

「ええ。少し大きな戦になります」

 

 その言葉にラストノは寂しそうな表情を浮かべて顔を落とした。

 

「そんな……もう……戦に……そうか……」

 

 だが、寂しいもののラストノはそこでワガママを言わない。

 二人の役割や責務を知っているからこそ、仕方のないことだと割り切る。

 

 

「分かった。でも、二人とも気を付けて。魔王軍は強大だ……あの……太陽勇者テラまで討たれてしまって……」

 

「「……………」」

 

「未だに信じられない。あの強く、そして素晴らしい方が……これからも色々と教えてもらいたかった……僕と歳の近い弟さんと妹さんともいつか会わせて下さるとも……」

 

 

 テラの戦死に他国の人間でありながらも悼むラストノ。

 その姿に、ボーギャックとギャンザはただ無言であった。

 そして……

 

 

「だから二人とも、くれぐれも気を付けて。必ず生きて帰って、これからも僕を……先生には僕が八勇将になる姿を見せたいですし!」

 

「……はっはっは、そうですな! それまでは死ねませぬ!」

 

「そして、ギャンザ姉ぇ……は……そ、その……」

 

「王子?」

 

 

 すると、ラストノは顔を赤くしてモジモジしながらも、やがて決心をしたように顔を上げて……

 

「僕は勇者としても皇帝としても自分が成すべき役割をちゃんと認識しています。でも、その……そこには……ギャンザ姉ぇも傍に居て欲しくて……」

「ええ、もちろん臣下として支え―――」

「臣下としてではなく! その……あの……その―――――」

「ッ!?」

 

 その言葉と表情に込められた想い。どのような鈍い人間でも容易に分かるというもの。

 

 

「王子……こんな所を、隣国の姫様や幼馴染のあの娘たちに見られたら殴られますよ?」

 

「はう、わ、分かっているとも! で、でも、僕は……僕は女の子たち皆を幸せにしてみせる!」

 

「ふふふ」

 

 

 

 そして、これが――――

 

 

「ぐわーはっはっはっは、甘酸っぱいのぉ! 王子ぃ~、ギャンザ~」

 

「んもう、先生……僕は真剣で……」

 

「さてさて、私はどうしましょうか♪」

 

 

 

 最も慕う師と――――

 

 

「では、お二人とも。どうか御武運を! そして正義のために!」

 

 

 少年のほのかな初恋の――――

 

 

「「ありがたく! 王子の言葉と正義の心をこの胸に!」」

 

 

 最期の思い出になる――――

 

 

 

 

 次に少年が彼らと再会するときは――――――

 

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