戦犯勇者の弟妹   作:アニッキーブラッザー

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第42話 今日も殴れ

 さて、朝ご飯を食べ終わった。

 もう大魔王や六煉獄将の許可も貰ってるし、俺たちはこの魔界で過ごす。

 そして、いつか人類の、そして勇者どもと戦うときは一緒に……ただ、それまでの間は何をするか?

 王国に住んでいた時のように修行してもいいんだが、とりあえずしばらくは……

 

 

「オラァ、今日も来たぞぉ! 俺を殴り殺したい奴ら、出てこいィ~!」

 

 

 この魔王都での約束を果たす。

 

「んもぉ~、エルセ~! もう少し自重するのですぅ!」

「お兄ちゃん、元気」

「おぉ~、親分は今日も民衆の想いをその身で受け止めると……天晴でござる!」

 

 王都に降り立って、街の中心で大声を張り上げた瞬間、民たちが一斉に殺気立って俺を睨みつけて空気が変わる。

 クローナも渋々今日も俺がコレをやることを納得はしたが、最悪の状況になった場合を想定して自分も必ず立ち会うと譲らなかった。

 そして、ジェニも、更には今日はプシィも同行する中……

 

「この……本当に今日も来やがったぞ……このクソガキィ!」

「あのテラの弟がァ……」

「へっ、今日こそぶっ殺してやらァ!」

 

 ヤル気満々の魔族たちがゾロゾロと俺の周りに集結してきた。

 

「ヲイ、クソ人間! 昨日とルールは同じだよなァ? テメエは一切反撃しねえ。そして俺たちがどれだけテメエをボコボコにしても、姫様は一切俺らを罪に問わない……だよなァ?」

 

 小柄なチンピラ風のゴブリンや、巨漢のオークやミノタウロスなど様々に。

 昨日見た奴らをチラホラ。それと、昨日はいなかった、明らかに腕力に自信のありそうなガタイの奴らまでこっちに来てる。

 

 

「けっ、そんなにビビるんじゃねえよ。別に俺は何があろうとクローナに泣きついたりしねーからよ。つーか、俺を憎んでるんなら、そういう後先のことなんて考えないで、どうなったっていいみてーな気持ちでかかってこいよぉ! それとも、テメエらの俺への憎悪はそんなもんかァ?」

 

「「「「「ッッッ!!??」」」」」

 

 

 もともと殺気立っていた奴らがさらにカチンときた様子で怒りの形相を浮かべている。

 クローナは頭を抱え、ジェニはマイペースで、そしてプシィは俺に目を輝かせてとソレゾレだ。

 

「じゃあ、死んでも文句言うんじゃねえぞ、クソがァ! 上等だ、死ぬまで殴って謝らせてぶっ殺してやるッ!」

「ああ、やってるぞ! この悪魔の種族め!」

 

 そして、一人が言い出したら次々と声を荒げ、一斉に俺に襲い掛かってきた。

 拳で殴り、蹴り、中には今日は本物の武器を準備している奴らも居て、斬り、叩きつけ、罵詈雑言を俺に浴びせながらぶつかってきた。

 

「あぅ……エルセ……」

「クロおねーちゃん、エルお兄ちゃんは大丈夫」

「うむ、親分の耐久力と技の前には、群衆の攻撃などまるで刃が立たぬでござるよ」

 

 そう、ここに集まっているのは、普通の人間よりは力は強くても、それでもほとんどが素人同然だ。

 

「動かざること山の如し! 不動峰ッ!!」

 

 殴られても、斬られても、俺は血の一滴すらも流さねえ。ガツンって響きはするが、芯まで届くこともない。

 隠すこともない王都の民たちの怒りの感情を、俺は今日も避けずに受けてやっていた。

 だが、この中に俺の「山」を切り崩すパワーを持っているやつも、「林」を引き裂く技術を持っている奴はいない。

 

「うぎゃああ、こ、拳が潰れるぅ!」

「う、腕が、痺れ……」

「やろぉ、なんて硬さなんだよ、このガキ!」

「ハンマーが砕けちまった……」

「くそがぁ……」

 

 たいていは「山」を殴って、自分の腕が痺れて痛めて、後は捨て台詞を吐いて睨みつけて終わりだ。

 だけど……

 

「どいてろ、お前ら! 俺だ! 俺がぶっ殺してやる!」 

 

 それでも臆せず、「怪我しようが構わない」という気持ちで俺に殴り掛かる奴もいる。

 

「おやっさん!」

「オヤジ!」

「おっちゃん! ああ、やっちまえ!」

 

 民衆をかき分けて出てきたのは、大柄のゴブリン……ホブゴブリンの男だ。

昨日もいたけど、プシィの登場でなんか有耶無耶になってたが……

 

 

「俺の息子は……テラとの戦争で死んだ」

 

 

 その目は、「単なる憂さ晴らし」で俺を殴ってくるだけで「人間は嫌い」だけど「復讐したいほどの恨み」があるわけじゃない半端な連中とは違い、「人類や兄さんに関して本当に憎しみ」を抱いている奴なんだってことが痛々しいほどに伝わってきた。

 

 

「ああ。じゃあ、好きなだけ殴れよ」

 

「ッ、このクソがぁぁぁあ!!!!」

 

 

 だけど変わらない。

 常人よりも強い腕力を持っていようとも、その程度の力では俺に傷を負わせることもできない。

 

「がっ、つっ、うう……」

 

 思いっきり俺を殴り、そして逆に拳を痛めてホブゴブリンのオッサンはすぐに蹲る。

 だけど……

 

「このォ! この野郎! 畜生!」

 

 オッサンは拳を真っ赤に腫らしながらもそれでも殴り続けきた。

 顔からも、瞳に溜まっている涙からも、痛々しいほどに伝わってくる。

 たとえ拳が砕けても止まらない……

 

「……おい、おやっさん……なあ、今日はそれぐらいにしといた方が……」

「ああ。見てみろよ、手を。もう真っ赤だ……な? これ以上は、おやっさんの手が壊れちまう」

「そうそう、料理屋の親父が手を怪我しちまったら困るだろうが。手ぇ治して明日またこいつをぶっ殺そうぜ?」

「そうだ。なんだったら、魔王軍に依頼してよぉ~」

 

 そして、いい加減見るに堪えないと思ったのか、他の民たちが止めに入った。

 だが、オッサンは鼻息荒いまま、一切揺らがない目で俺を睨み続けてくる。

 

「うるせえ! どうなったって構うかよ! 昨日もできなくて、今日もできなくて、また明日だ? 今日も目の前に仇の弟が居たけど殺せなかったからまた明日……息子にそう報告しろってのかよ? 今日もお姫様たちとヘラヘラと過ごしてるけど、明日こそッてか? 明日殺せなかったら、またその次の日? 冗談じゃねえ!」

 

 まさに「どうなってもいい」という気持ちで俺に憎しみをぶつける。

 それが本当の憎しみであり、そしてそれだけ失ったものがこのオッサンにとって大切だったかを示している。

 

 

「テラに殺された……そんなテラの弟を目の前にして、しかも姫様が保護するだぁ? ふざけんじゃねえ! クソみたいな人間、憎きテラの血縁、生かせるかよ! いま殺してやるんだ!」

 

 

 そう、それはまさに俺と同じ……

 

「だから好きなだけ殴らせてやってんだろうが。さっさとぶっ殺してみろよ」

「ッ、こ、テメエッ!」

 

 そう、だから俺は―――

 

「エルセ! だから! なぜ! 煽る! のですか?!」 

「あれだけの攻撃を受けながらもそれでもなお更に受けきる……親分流石でござる!」

 

 案の定、クローナには怒られ……プシィはなんか目を輝かせてるけど……それでも俺は……

 

「そこ、何を騒いでいる! そろそろ城壁前に集まりなさい!」

 

 と、その時だった。

 

「まもなく此度の戦に出陣する英雄たちが通る!」

「さア、盛大に見送っ……なっ、こ、これはクローナ姫ッ!」

 

 人垣できるこの中央をかき分けて、甲冑に身を纏った魔王軍の兵士たちが入って来た。

 奴らは俺たちを諫めるように声を荒げ、民衆を左右に分けようとしたところ、クローナの存在に気づいて慌てて片膝付いた。

 

「あなたたち……そうでしたね。そろそろ……」

 

 クローナもハッとしたように頷き、俺は何が何だか分からなかった。

 すると、王都を囲む城壁の上で、旗を掲げた兵たちが姿を見せた。

 その姿を見た王都の至る所から民衆の声が上がる。

 

「うおおおお、トワイライト様ぁぁああ!」

「参謀~、また外道な殺戮おなしゃーす!」

「魔王軍バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」

 

 その声を高いところから手を上げて応えるクローナの姉さんや、魔王城で会った奴らとかが居る。

 これから戦場へ赴く英雄たちと、それに歓声を上げる民衆たちという光景が、俺とジェニがかつて王国で見てきたものと何も大差なかった。

 そんな中……

 

「へ……結局こうなんだよ……どいつもこいつも分かってねえ……何がバンザイだ……ばかばかしい……」

 

 パレードのようにこれから出征する軍に大歓声を上げる民衆たちの声にかき消されるように、しかし俺にはハッキリと聞こえた。

 目の前のゴブリンのオッサンが投げやりになったかのように呟いた言葉を。

 

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