クローナには恨みをぶつけず、ただバイバイするはずだったのに、俺たちの心は勝手なものだ。
でも、どうしても抑えきれなかったんだ。
俺たちの兄さんをその手で討ったという……
「テメエは許さねえぇ!」
「ユルサナイ!」
俺とジェニは目の前のオーガに飛び掛かった。
「風林火山! 侵掠すること火の如く!」
「人間? ……ぬっ!?」
エボリューションによって肉体活性。そのために全身に纏う魔力に炎を付加。
俺の怒りのまま、焼き尽くす!
「オルアアアッ! 火拳(ひけん)突き!」
「ふんぬっ!」
だが、俺の拳は素手で軽々と受け止められた。
「ほう……炎化か……まだ荒いがな」
纏った炎ごと潰されるかのように。
だが、それがどうした。
「火連脚(かれんきゃく)!」
拳を掴まれた状態のまま、両足使っての連続蹴り。片腕塞がっている今のこいつなら……
「ふん、元気なものだな……安定もしない態勢で腰の入っていない蹴りでは速さも鋭さもイマイチだがな」
「ッ!?」
この至近距離で上体反らしだけで俺の蹴りを全て回避しやがった!?
「やめるのです! キハクも彼をすぐに離すのです!」
「ぬ? 姫様……一体……」
クローナは止めようとしているが、止まれるか!
「エルお兄ちゃんを離せ! ふわふわ竜巻(ツイスター)!」
「ぬっ、なに!? 吾輩の腕が……おお!」
そのとき、ジェニが念力魔法でキハクの腕を捩じる。
その瞬間、俺の拳を掴んでいたキハクの力が緩んだ。
「そうらァ!」
「おっ!」
ジェニのサポートでキハクの拘束から回避。
キハクから一旦距離を取り、拳を突き出して炎を纏い……
「火拳銃(ひけんじゅう)!!」
「ッ!?」
火球の塊を飛ばす。
これには少し驚いたようだ。
兄さんにも初めて見せた時には驚いてたんだ。
俺の放った火がキハクに直撃して全身を包み込み……
「ツブレチャエ! ふわふわ隕石(メテオ)!」
ここでジェニもカーヌたちから没収していた剣や武器を全て全部上空にまとめて固めて、刃の出た球体を回転させながら勢いよくキハクに向けて振り下ろし……
「無詠唱とは思えん火力と、強烈な念力魔法……人類連合の兵士では無さそうだが……流石にこれだけやられると、子供のおふざけでは済まされんぞ?」
「「ッッ!?」」
「活ッ!!!!」
爆発!? 違う! 気合い? 恐ろしいほどの気迫を込めたプレッシャーを解放したことで、キハクを包み込んだ火も、ジェニの攻撃も全て四散しやがった。
「こ……こいつ……」
「あ、わ……」
強い……いや、当たり前だ。相手は兄さんを討った奴だぞ!
認めたくねえが兄さんよりも強いってことに……だけど……
「おやめなさい! エルセ! ジェニも! キハクも、彼らは……彼らはテラの弟と妹です!」
「え……なっ!? テラの……ですと?」
だけど、兄さんの仇を前にして、臆するわけにはいかねえ。
「なるほど……確かに面影が―――」
「疾きこと風の如く! 風手刀!」
「むっ!?」
火で焼き尽くせないなら、風の刃で刻む。
こいつが捉えきれない風の高速戦闘で死角から死角へと飛び回り……斬る!
「……速い!」
斬った! ちょっと薄皮だが、こいつの頬から青い血が流れやがった。
「このまま斬り刻んでやらァ! 風渦乱れ斬り!」
「ぬっ、お、お、おお!」
高速移動しながら四方八方から斬り刻む。
「吾輩の肉体を傷つけるだけでなく……これほどの……驚いた。これほどの若造が…………テラの弟妹か……」
想像以上にこいつの肉体は固くて一撃では致命傷を与えられねえ。
このままじゃ先にこっちが倒れちまう……手も痛くなってきたし……一気に決める!
「その首もらったァ!」
「残念だ」
「ッ!?」
俺の手刀がキハクの首に直撃。鮮血飛び散りそのまま首を刎ねられる……と思った瞬間、俺の手刀はキハクの首の薄皮斬ったところで止まって、両断できなかった。
「な、なん……」
こいつ、俺の狙いを察したのか、首に力を込めてあえて受けやがった。
そして、分かる。
こいつが力を入れた首の筋肉に触れただけで、こいつの底すら知れねえ、圧倒的な――――
「狙いがバレバレだぞ? それに、まだ戦いに慣れていないようだ……まぁ、そんじょそこらの連合軍よりも圧倒的な強さと才であることは認めるがな!」
次の瞬間、俺は胸倉を掴まれ、そのまま勢いよく背中から地面に叩きつけられていた。
「が、はっ!?」
痛みを通り越して、麻痺しているみたいに全身に力が入らねえ。呼吸がうまくできねえ。
「こ、こいつ……」
強い。
これが、兄さんたち八勇将の宿敵、六煉獄将!
ヤバい……!
「エルお兄ちゃんを離せぇえええええ!」
「が、やめ、ろ、じぇに、にげ……」
ダメだ! 殺される! ジェニ、逃げろ! 逃げ――――
「そして、小娘……お前もテラの妹か……まったく、末恐ろしい弟妹だ。惜しいが……数年後には間違いなく八勇将たちと肩を並べ、魔王軍の最大の脅威になるであろう……なら、今――――」
ヤバい、このままでは――――
「ちっ……なら……」
「ぬっ?」
アレをやってやる……まだ未完成だけど……ジェニを守り……兄さんの仇を討つために!
「ぶち破ってやる……」
「……なんだ? 空気が……」
俺の秘技・風林火山のその一つ上のランクの奥義。
「動くこと雷霆の――――」
「ッ!? なんだ? 吾輩が……鳥肌が……まずい! 小僧―――!」
まだ未完成ではあるが、こいつを倒すにはもう―――
「やめなさ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!!!」
「「「ッッ!!??」」」
「それまでです、キハク! ジェニも、エルセも、もう収まりなさい! これ以上の戦いは、もうやめるのです!」
「「「ッ!?」」」
ただ、その時だった。
ずっと俺たちを止めようとしていたクローナが、俺とジェニとキハクの間に割って入り、あやうく両者の攻撃を受けそうになるような危険を冒してまで、この場を止めた。
「あぅ……あ……」
「……姫様……何を……」
ジェニも狼狽え、そしてキハクもこれには手を引っ込めた。
「エルセ、ジェニ……あなたたちがキハクや私たちに憎しみを抱く気持ちは理解できます。しかし、今のお二人ではキハクを倒すことはできません。無駄に死に急いではなりません」
その状況下でクローナは俺とジェニを交互に見て告げ、
「そして、キハク。足元をごらんなさい。人類連合軍の兵士たちを。私は罠に嵌り、自軍と逸れ、ロイヤルガードたちを失い、孤立無援な状況下でこの者たちに見つかり、我が身をこの者たちに穢される寸前に、私はこのお二人に救われました。種族は違えど、このお二人は私の恩人なのです」
「……な……なんと……。それは一体どういうことです? なぜ、テラの弟妹が人類連合軍たちから姫様を?」
ハクキはクローナの話に驚きながら、その辺に転がっているカーヌたちを見渡した。
そしてその疑問に対しクローナは……
「ええ。先ほど人類連合軍たち彼らの会話なのですが―――――――」
「————ッ!?」
そして……俺は再び胸が苦しくなった。
クローナの話を聞きながら、兄さんをその手で殺した張本人であるキハクは……俺とジェニをアッサリと取り押さえるぐらい強いやつが……
「あのテラが……戦犯勇者と……故郷で誹謗中傷を」
クローナと同じように、胸が張り裂けそうなぐらい悲痛な顔を浮かべやがった。