ミカとエメトセルク   作:へんどり

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 少し時間は戻って、夜のアリウス自治区。

 

 ご機嫌なミカを見送って、サオリたちアリウススクワッドはアジトの修復をしていた。小規模とはいえ、あの聖園ミカと戦闘があった以上、破損しているものがあったからだ。

 雨風をしのぐために打ちつけてあった木の板は、叶わなかった脱出のために破壊してしまったし、壁や床にはミカが弾いた銃弾がつけたと思われる弾痕が幾つもあった。雨漏りの穴は増え、それを受けるための器は割れたり穴が空いたりして減ってしまった。

 雨水が溜まっていた器が倒れて、水浸しになってしまったところもあった。

 

 ミカは申し訳なさそうに手伝いを申し出てくれたが、流石に夜も遅い。サオリは申し出を断り、むしろ怪しまれないように早く帰るべきだと告げていたのだった。

 

 サオリは慣れない頭脳労働で疲れており、掃除という単純作業はむしろ心地よい感じがしていた。

 

 一区切りついたところで、サオリはみんなの様子を見た。

 

 ミサキは黙々と片付けをしている。いつも通りの顔だ。不満も、満足も、見られない。先ほどの、ミカに……トリニティ側につくという自分の判断にも異論を唱えなかった。どう転ぶかはまだわからないが、自分への信頼を感じて、サオリは言葉に出さず感謝していた。

 ヒヨリは、水浸しになってしまった床を拭いてくれている。ウトウトしているようで、時折動きが止まるが、時間帯を考えれば仕方ないことだ。

 

 そして、アツコは。

 

 本を読んでいた。ミカがどこからか取り出した、少し古めかしい装丁の本だった。タイトルは、『エーテル学入門』というらしい。らしい、というのは、サオリにはその文字が読めないからだ。アツコはマダムの元で、古語の勉強をしていたから読めるのだという。エーテル学、という学問はサオリには初耳だったが、元々スクワッドは学のある身分でもない。

 

 だから、それがどれほど奇妙なことなのかは知る由もなかった。

 

 アツコには、センスがあるらしい。ミカがそう言った。ミカはまた、次に来るときには杖も持ってくると言っていた。杖? と疑問に思ったのはサオリだけではなかったが、全員口に出さなかった。

 

 サオリは今になって、ようやく思い出した。ミカは、いつもの短機関銃の他に、片手に杖を持っていた。

 

 (あれは、まさか、魔法……なのか? )

 (突然眠らされたのも)

 (不自然に銃弾が弾かれたのも? )

 

 アツコは、熱心に本を読んでいる。ホントはちゃんと先生ができれば良かったんだけど、とミカが言っていた。

 

 ミカは、アツコをどうするつもりなのだろう。サオリの脳裡に一抹の不安がよぎったが、裏切りについての話をした以上、一蓮托生だ。

 それに、ミカがしていたように銃弾を弾いたり対象を眠らせたりできるようになれば、チームとしてはパワーアップになる。

 

 サオリには、エーテルとやらが恐ろしげなものでないことを祈るしかなかった。

 

 ☆☆☆

 

 ミカがアツコに渡したのは、エーテルの初歩について書かれた本だった。これは以前、ミカがエメトセルクからエーテル学の座学について学ぶ際にエメトセルクが持ち出した本で、初学者には十分な内容であるらしい。エメトセルクも執筆者のうちの1人だということで、大層自慢げだった。

 

「エメトセルクから見てどう? アツコちゃんは」

『白魔法の適性があるかどうかは未知数だが……、黒魔道士として成長しているお前の扱う星極性に偏ったエーテルに、ひどく怯えていたところから考えるに、可能性は低くないだろう』

 

 雨の中、2人はトリニティへ向かって歩いていた。カタコンベを再び通らなければならないが、来る前に過去視で見た通路が使えそうだった。

 サオリに使って良いか聞いておけばよかったかとも思ったが、どうやって知ったのだ、と聞かれては都合が悪いと思い、ミカは黙っていた。

 

 日付も跨いでしまっている。ナギサへの報告は明日起きてからにしよう、とミカは考えていた。掃除で泥も被ったし、少し戦闘になって運動もしたし、早くシャワーでも浴びてベッドに倒れ込みたかった。

 

 そんなふうに先のことを考えていて、反応は少し遅れたが、ミカとエメトセルクは同時に「それ」に気がついた。2人は顔を見合わせた。

 

「エメトセルク! 今の!」

『ああ、強力なエーテル放射だ! 術式になるようなものではない……純粋なエネルギーとして放出されたようだが……これは……』

「アツコちゃんが心配! 戻ろう!」

 

 考え込みそうになるエメトセルクを、ミカは強い口調で現実に引き戻した。

 発生源は遠い。そして、地下のようだった。つまり、カタコンベの中。ミカとエメトセルクだけでは辿り着くのは不可能だろう。

 

 それに、そのエーテル放射は真っ黒だった。

 そう感じるほど、星極性に偏っていた。

 

 ミカにとっては、自らの黒魔法によるエーテル傾向の変化に対応できる白魔法の使い手になりうるアツコは、もはやただの生徒ではない。

 自分の威圧で過呼吸になっていたアツコが、あれを浴びて無事であるはずがない。

 

 即座にそれらを考慮し、ミカはアリウススクワッドのアジトへとんぼ返りすることを決断した。

 

『メーティオン単体ではこれほどのエーテルを持たない筈だ……。何が起きている……?』

「今は後!」

『クソッ。恨むぞ、ヘルメス……!』

 

 走り始めたミカに引っ張られるようにして、エメトセルクも宙を浮きながら移動し始めた。

 

 ☆☆☆

 

 ばんっ!

 勢いよくアジトの扉を開いたミカ。音に釣られて三つの銃口がミカに向いた。言うまでもなく、ミサキ、ヒヨリ、そしてサオリのものである。アツコは部屋の中央あたりに倒れている。

 

「アツコちゃんは無事!?」

「動くな、聖園ミカ」

 

 サオリの冷たい言葉がミカに刺さった。ミカも、サオリも、サオリがミカに決して敵わないことは理解している。

 

 だがミカはサオリの言葉に従うしかなかった。

 

 あれほどの強力なエーテル放射であれば、サオリたちも気づいただろう。ミカの放っていた威圧感と、それがよく似ていたことに。また、アツコの様子を見れば、誰がそれを為したのかは瞭然に思えるだろう。

 そしてそれは、ミカの裏切りだと考えるに十分な筈だった。

 厳しい叱責と糾弾の声を予見して、ミカは両手を上げたままきつく目を閉じた。

 

 しかし、ミカの予想に反して、サオリは力なく銃口を下ろした。

 

「結局、私たちは、」

 

 サオリは銃を落として、膝をついた。俯いて、帽子が顔を隠した。

 

「仲間ひとり、満足に守ることもできない……!」

 

 雨ではない雫が、床を濡らしていた。

 噛み殺した嗚咽が、雨音の中でも消えずにミカの耳に届いている。

 

 

 ミカの与えた無力感は、サオリにとって大き過ぎた。

 

 

 もともとサオリは、ミカを心から信用していたわけではなかった。そんなこと、わかっていた筈だった。サオリは、自身の仲間を守るために、仕方なくミカの手を取っただけだった。

 

 分かっていたが、分かっていなかった。

 

 (ああ)

 

 (私はまた、)

 

 (間違えたんだ)

 

 

『ミカ! 馬鹿者! 落ち込んでいる場合ではない!』

 

 

 だが1人ではない。

 

 

『まずは……クソ、まどろっこしい。少し借りる(・・・)ぞ』

『え、わ?!』

 

 

 聖園ミカ(エメトセルク)は上げていた手を下ろし、感覚を確かめるように、数度、握って開いてを繰り返した。

 サオリがああなっている以上、ヒヨリもミサキも発砲はできず、ミカとサオリを繰り返し見て、困惑していた。

 ミサキはまた、ミカの頭上にあるはずのものがないことに気づいた。

 

「聖園ミカ、あなた、ヘイローが……」

「キャリブレーション終了……。ほう、そうなるのか」

 

「こんな形だったか? ほら」

 

 ミカの口から発せられたのは、男の声だった。ミサキが驚いている間に、エメトセルクは指を鳴らし、魔法でミカのヘイローに似せたものを頭上に浮かべた。しかしそれは、ヘイローが見えるものにとっては、明らかにただ異様な紛い物が浮いているだけだった。

 

「ふむ、よく分からないな。やめておくか」

 

 ミサキの表情から、ヘイローの偽装が上手くいっていないことを察したエメトセルクは、手を軽く振ってそれを消した。

 

 ミサキもヒヨリも、怯え切っている。

 

 幸か不幸か、サオリはその様子を見ていなかった。エメトセルクはサオリに近づき、両手を肩に乗せた。

 

「よく聞け、錠前サオリ。あれは、私たちの敵だ。私たちの罪だ。そのせいで、お前や秤アツコや聖園ミカに、苦労をさせてしまっている。その点は私の咎だ。ことが済んだらいくらでも糾弾してくれて構わない」

「お前は、……誰だ」

「私は、エメトセルク。……アシエン・エメトセルクだ。故あって、一時的に聖園ミカの体を借りている」

 

 サオリはここでようやく、ちらりとだけエメトセルクのほうを見た。そしてすぐに、アツコに目を向けた。

 

「姫に、……アツコに、何が起きているんだ」

 

 あの時。

 あの異常なエーテル放射を浴びた時。

 サオリたちも奇妙な不快感を感じたが、アツコだけは絶叫して倒れ込み、そのまま意識を失ったのだった。

 

「少し長くなるが、お前たちには聞く権利がある。エーテルと、デュナミス。そして、私が持ち込んでしまった強大な敵について」

 

 ☆☆☆

 

 エメトセルクの冷静な語りが功を奏したのか、サオリたちは少しばかり冷静さを取り戻していた。アツコはまだ、意識を失ったままだ。

 

「エーテル……まさか魔法なんてものが本当に実在していたとは……。ではあの時、不自然に眠らされたのも魔法なのか?」

「そうだ。ミカはすでに黒魔道士として一人前で、その扱う魔法の一つにスリプル……睡眠の魔法がある」

 

 ふう、とサオリはため息をついた。そして、弱々しく言葉を発した。

 

「聖園ミカが急に力を増したのはお前のせいか、エメトセルク」

「そうだろうな。お前は私から見ても勘が鋭い。私はミカが下手を打ってバレやしないかとヒヤヒヤしていた」

『なにそれー! そんなことなかったでしょ!』

 

 エメトセルクにしか見えない状態で、ミカが不名誉な指摘に抗議した。すっかり元気を取り戻したらしい。

 サオリは改めて、ヘイローの浮いていないミカの姿を見た。

 

「……その、ミカは大丈夫なのか?」

「元気すぎるほどだ。今も下手を打つと言ったら怒ってわめいている。元々、魂に干渉して肉体の主導権を取るのは我々アシエンのお家芸でもある。問題は起こらない。……とはいえ、お前たちはヘイローがない人の姿を見慣れていないのだな。適当に光る輪を浮かべておけばいいのかと思ったらそうでもないようだし、控えた方がいいだろうな」

 

 エメトセルクは一度言葉を切って、改めてアツコの様子を見た。エメトセルクの眼には、エーテルの色がついて見えた。

 

「まあ、先ほど話した私たち(アーテリス)の敵は私……と協力者の聖園ミカでなんとかするとして、錠前が気にしている秤アツコだが……」

「! ああ、無事なのか?!」

「少しエーテルバランス調整してやれば意識が戻るはずだ。おそらく、星極性のエーテル放射に強く感応して、エーテルバランスが崩れたのだろう。霊極性で少し調整してやれば……」

 

 言いながら、手をかざしてエーテルを操作するエメトセルク。アツコの顔に血色が戻ってきた。

 

「こんなところか。意識が回復するまでは少しかかるかもしれないが……」

「ん、んん……」

「アツコ!」

 

 エメトセルクの言葉を待たずに、アツコは目を開いた。サオリたちスクワッドの3人がアツコに駆け寄った。

 

「わあ、みんな。……と、聖園ミカ?」

「エメトセルクだ」

 

 エメトセルクは頭上を指さした。ヘイローがないのにアツコも気づいたらしい。怪訝そうな顔をした。

 

「アツコ、回復してよかった……。この人が魔法で治してくれた。聖園ミカの体を借りている魔法使いらしい」

「魔法使いって……。ふふ、サッちゃんも冗談を言うようになったんだね」

 

 サオリの言葉は正確だったが、アツコはそれを冗談だと思った。ニコニコ笑っているアツコに、エメトセルクは口を開いた。

 

「冗談ではなく、私は魔法使いだ。そして、お前にもその素質がある、秤アツコ」

「……え?」

「『え?』じゃあない。入門書を渡しておいただろうが……」

「あ、聖園ミカにもらったあの本。まだ途中だけど、結構楽しめてるよ」

 

 エメトセルクからミカを通して渡した魔導書を、アツコはただの読み物として読んでいたらしい。そのような文面で書いているわけではないはずだが、とエメトセルクはため息をついた。

 

「娯楽のために出したわけじゃないんだがな。まあいい。状況が変わった。この私が直々に教授してやろう。緻密で繊細なエーテルの技についてな。そうしなければ、また今のようにエーテルバランスを崩して昏睡しかねん」

 

 それを聞いて、アツコは少し真剣な顔をした。状況を改善するための提案だと気がついたのだ。エメトセルクは魔法で木人と、アツコのための杖を生み出した。ミカの持っているものとほとんど同じだが、材質は少し異なるようだった。

 

「ほら、杖を持ってみろ。お前には白魔法の適性があると見た。初めはエアロとストーンの幻術系からでいいだろう。杖の振りと詠唱は……」

 

 

 

 ミカと同様、アツコも素晴らしい速さで魔法を習得していったが、ここではホーリーまでしか覚えることができなかった。

 アツコのホーリーにより粉々になった木人が、木人にかけられた魔法により元通りに修復されていくのを見ながらエメトセルクが言った。

 

「これ以上にも白魔法はあるが、お前の持つエーテル量では足りないな。オーパーツのエーテルを見つけたら確保しておけ。触れれば、自ずと使い方は分かるはずだ」

 

 アツコが取り扱えるエーテル量は、現在はそれほど多くなかったのだ。これ以上の魔法、例えば対象を全回復するベネディクションや範囲回復魔法のアサイラムなどは次の機会を待つことになった。

 

 アツコは自身の杖を見て、続いてサオリを見た。

 

「魔法、使い……。ふふ、なんか、変な感じ」

「姫には元々ドローンで医薬品の補給の支援をしてもらっていたし、その感覚に近いかもしれないな」

「あ、ドローンの操縦……。杖、どうしようかな」

 

 アツコは射撃の際、両手で銃を保持しており、ドローンの操縦をする時だけ一時的に銃を手放し、これまた両手でドローンのコントローラを操作している。つまり、杖を保持する別の手段が必要になるのだ。

 

「なんか、指輪とかで代用できない?」

 

 ファンタジーといえば、魔法の杖や本の他に魔法の指輪も定番だ。触媒として杖でないものが使えれば手が空くと思ったアツコだったが、杖の振りも魔法の起動に組み込まれている今回の場合、そうもいかない。

 

「そもそも、我々のような強いエーテルの持ち主なら、詠唱も杖も必要ないんだがな……。お前はまだ初学者だろう? 今日初めて包丁を持った人間が、いきなりフルコースの料理を作ろうとするようなものだ。しばらくは面倒でも杖を使え」

 

 エメトセルクの言葉に、むう……と唸りながら杖を振るアツコ。適当に振っても、何も起こらない。

 

「しかし、ある程度習熟すれば、杖や詠唱を簡略化することもできるだろう。ミカもそうだったが、お前たちはなかなか習得が早い。しっかりその本を読んでおけば、そう時間はかからないはずだ」

 

 エメトセルクの言葉に納得して、『エーテル学入門』の本を再び開こうとしたアツコは、音にならない声を聞いた。

 

『えっ、私も? ていうか、魔法なのにまた座学!?』

「あれ……聖園ミカの声が聞こえる?」

『え、そうなの?』

「ふむ、完全にエーテルに感応した場合、エーテル波を利用した念話は聞こえるのか……」

 

 今後は秘匿性の高い方法について検討するか……? と頭を捻り始めたエメトセルクを尻目に、ミカとアツコは念話と音声という、少し歪な会話を始めた。

 

「聖園ミカは黒魔法なんだって?」

『そうなの! 炎とか雷とかでちょっと悪者って感じでさ〜。せっかくなら、アツコちゃんみたいに風とか癒しとか、可愛い感じが良かったなー』

「ふふ。私は普段、もっと火力が欲しいと思ってたから……。ミカの感じが羨ましいかも」

『えー! そうなの? でもスクワッドのみんなもいるしさ、火力と癒し手で役割分担できていいんじゃない?』

「確かにそうだけど。普段、私はみんなに守られてばかりだから。この力で、今度は私がみんなを守りたいな……」

 

 その後も1人で会話しているように見えるアツコを見て、サオリは頭を抱えた。アツコとミカの会話はサオリからすると飛び飛びで、理解できないものだったからだ。状況からしてミカと会話しているのだろうとは理解できたが、そこまでだ。

 

「頭が痛くなってきた……! アツコ、済まないが、分かる形で会話してくれないか?」

「あっ……そうだよね。ふふ。ごめん。なんか方法あるかな」

『なんか、エーテルの感じでえいっ! ってやったらアツコちゃんも使えるんじゃない?』

『……こう?』

『あっ! 聞こえたよ。出来てる出来てる!』

 

 ミカの言葉を聞いて、いきなり念話を使い始めたアツコに、エメトセルクは再びため息をついた。

 

「はあ……聖園ミカもいきなり使っていたが、念話の方法についてはその本の4章に記載している。後で確認しておけ。それと……ここからトリニティくらいの距離ならば、うまく出力を調整すれば念話が届くはずだ。何か分からないことがあれば私に聞けばいい」

「わかった。ありがとう、エメトセルク」

『エメちゃん、私の時よりなんか優しくない!? 不公平なんですけど! ぶーぶー!』

「ああもう、喧しいな! そろそろ返すぞ!」

 

 ミカの不平にウンザリしたエメトセルクがそう言ってすぐ、聖園ミカの頭上にヘイローが浮かんだ。体がびくんと震え、何もしていないのにミカはつんのめった。

 

「ふわあ!?」

 

 うまく羽と両腕でバランスを取り、体勢を整えたミカ。その様子を見ていたスクワッドの面々は、いつものミカが戻ってきたことを悟った。

 

「いっつも急なんだから! ……それはそうと、アツコちゃん、今回は急にごめんね。みんなも。驚かせちゃったよね。こんなに早く話すことになるとは思わなかったけど……これが私の秘密」

 

 ミカはナギサに明かすよりも先にアリウススクワッドに明かすことになるとは思っていなかったが、状況のこともある。

 アツコが何かを言うかと思っていたミカだったが、サオリが口を開いた。

 

「いや……お前も色々と抱えていることが分かって、なんだか納得がいったよ。アツコを通してになるかもしれないが、こちらもできる限り協力すると約束しよう」

「サオリ……。ありがとう」

 

 ミカはサオリに頭を下げた。一首長として、その価値が分からぬミカではない。

 それでも、下げるべきだと思った。

 これからの局面は複雑なものになる。特にスクワッドは、ことによってはアリウスを……というよりはマダムを裏切ることになる。その結果、危険にさらされることになるかもしれない。それを理解した上で、自分たちに協力してくれたのだ。

 

 (私には、まだ、この礼くらいしか返せるものがない)

 (でも、いつか……)

 

 サオリもミカの内心を悟っているのか、ミカの一礼に大袈裟だとは言わなかった。ただ、受け入れてくれた。

 ミカにはそのことが心強かった。

 

 

「すっかり明るくなってしまったな。まだ雨は降っているようだが……、トリニティへ帰るんだろう? カタコンベを通るなら案内するが、どうする?」

「通った方が近道だよね? じゃあ、お願いしようかな」

 

 サオリは一瞬考える様子を見せて、その後スクワッドに向かって告げた。

 

「さっきのような万一のこともある。一応、全員で向かうことにする」

「分かったよ、サッちゃん」

 

 自分のためだということを察したアツコが返事をして、サオリは一度頷いた。

 遠征というわけでもないから大した装備を持っていくわけでもないが、それでも雨中の行軍ということで準備をし始めたスクワッドの皆にミカは少し申し訳なく思った。

 

「なんか、悪いね」

「そういう時は、ありがとう、だよ。聖園ミカ」

「う、……ありがとう、みんな」

 

 アツコは自分の準備をしながら、ミカへにこりと笑った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「少し待て。なにか、妙だ……」

 

 雨でも使用可能な番外出口からカタコンベに進入して、しばらく歩いたところでそう口に出したのはサオリだ。

 この先は曲がり角になっている。

 

「どうしたの?」

 

 ミカの疑問に答えず、サオリは曲がり角の先を覗き込んだ。特に何もなかったのか、サオリは難しい顔をしたままみんなの方へ振り返った。

 

「皆気づいているかもしれないが、人の気配がない」

「確かに、そうだね」

「どうかしたんでしょうか……?」

 

 ミサキは答えなかったが、真っ先に頷いてサオリに同意を示した。ミカは普段との違いがわからず、少し困惑顔だ。

 

「えっと、普段はもっと賑やかなの?」

「賑やかという表現はしないが……。カタコンベは地下だから、作戦の準備だったり訓練だったりの声や物音がよく響くんだ。それに今日は雨だろう? 外に出払っているということもないはずなんだが……」

「まだみんな寝てるとか?」

「トリニティではどうか知らないが、アリウスでは早朝教練もあるからな。この時間に全員寝ているということはない」

 

 ミカはスマホを開き、時計を見た。1時間目の授業には間に合いそうもない。アリウスに来るのはあとから公務扱いにできるし、BDをあとで見ておけば問題はない。

 

「あ、ナギちゃんに連絡するの忘れてた! ……圏外じゃん」

「地下だからな。急がないなら、トリニティ側に出てからにしろ」

「それでいっか。うー、怒られるかな」

 

 ミカは日頃の行いを思い返して、内心でナギサに謝った。

 

 会話が途切れたからだろう。

 そこにいた全員が、近づいてくる足音に気がついた。複数だ。サオリは自然と一歩前に出た。

 曲がり角の先から姿を見せたのは、果たして数人のアリウス生だった。サオリは先立って声をかけた。

 

「ブラボーチームか? 今日はやけに静かだが、——」

 

 ガスマスク姿の……というよりは完全装備姿のアリウス生はサオリとの会話に興じるつもりはないようだった。銃を構えてこそいないが、その態度はいかにも敵意に満ちており、歓迎されている雰囲気ではなかった。

 

「錠前サオリ、およびスクワッドメンバー。"マダム"からの指示を伝達する。聖園ミカを連れ、直ちに出頭せよ」

 

 サオリはチラリとミカを見た。ミカは小さく頷いた。

 

「……復唱する。スクワッドは聖園ミカを連れ、直ちにマダムの元へ出頭する」

 

 アリウス生は頷き、すれ違って去って行った。その後を追うようにして、狭い通路を何人もの完全装備姿のアリウスが通っていく。

 全員の足音が去ると、静寂が戻ってきた。

 

「……何が起きてるの?」

 

 物々しい様子に困惑したミカがサオリに尋ねたが、サオリも当然、回答を持っていなかった。

 

「分からない……。マダムからの命令では拘束しろとは言われなかったから、このまま連れていく。マダムの元に行けば何か分かるだろう」

『さっきのエーテル放射といい、面倒ごとになりそうな予感がするな。だが目的に近づくという意味では好都合か……』

 

 エメトセルクはため息をついた。

 ミカはそれをちらりと見てから、スクワッドに続いて歩き始めた。

 

 




そのうちサブタイちゃんとつけるかもしれません
数字だとわけわからなくなってきたので
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