砂利まじりの欠けた通路は、ある時を境にきちんと整備されたものになった。カタコンベ内部の、管理された区画に入ったのだろう。電灯も、ミカからすればやや古めかしいものだが、ちゃんと灯っている。
しばらく、スクワッドとミカの足音のみが通路に響く。
結局、他のアリウス生たちに出会ったのはあの時が最初で最後だった。物音もしない。
生徒たちは出払っているのだろうか。
少し不気味なものを感じているのは、ミカだけではないようだ。ミカがチラリと振り返れば、ヒヨリはキョロキョロと心配そうに見回していたし、アツコもどこか不安げだ。
前にいるサオリはリーダーとしての意地があるのか、それとも道を確認しながら歩いているからか、あまりそんな様子はない。
サオリたちの拠点へ向かう時と異なり、カタコンベの中心部へ向かうための通路は複雑だった。何回か通路を曲がったあとで曲がる前とほとんど同じ景色に遭遇し、ミカは記憶を諦めた。
少しずつ異なっていたり、小さく案内が出たりしているようだが、完璧に覚えていなければ目的地にたどり着くのは困難だろう。
(この複雑な経路は、外敵から身を守るためなのかな? )
(それとも秘密を守るためか、——)
そこまで考えて、ミカは思考を中断した。ミカの気付きと同時に、エメトセルクが言葉を発した。
『エーテルだ。奇妙な流れ方だな……。デュナミスの影響か?』
ミカはエーテルの有無を感じられるくらいで、流れや術式の解析まではできない。だが、キヴォトスでエーテルを扱うことの異常さは理解している。
昨日感じたような強力なものではないが、エメトセルクにも、ミカにも、そしておそらく、アツコにも感じられたであろう。
『警戒しろ』
『……うん』
これまでも気を抜いていたわけではないが、さらに気を引き締めるのに十分な状況である。ミカは小さく固唾を呑んだ。
☆☆☆
「ここだ」
サオリが立ち止まったのは、一見するとなんということはない扉の前だった。古めかしい、木製の重そうな扉だが、このあたりの回廊は全て似たような扉である。それもあって、そうだと言われなければ見逃してしまいそうだ、とミカは思った。
サオリはミカをじっと見た。扉を開けるのを躊躇っているようだった。あるいは、ミカに覚悟を促しているのかもしれなかった。中にいるのが、サオリが苦手な悪い大人だからかもしれなかった。
「サオリ、私は大丈夫。だから、開けて」
「……分かった」
重い扉が、ゆっくりと開く。
☆☆☆
中は、想像より広い空間になっていた。まず、天井が高い。入った場所は地下だったはずだが、ステンドグラスや窓もあり、彩光は十分取れている。
古くは教会やチャペルのような建物だったのだろうか。撤去されてしまっているが、ミカはステンドグラスに向けて長椅子が並べられた景色を想像した。かつて、人々が祈りを捧げたのだろう。
しかし今は、小さなパイプ椅子が一つ置かれているばかりで、寒々しい空間になっていた。
ステンドグラスの下には講演台が一つ残っていて、その近くに1人の人間がいる。
「アリウススクワッド以下4名、指示に従い、聖園ミカを連行しました」
「……来ましたか、聖園ミカ」
サオリの言葉には答えず、マダム——ベアトリーチェはミカを見た。顔とも髪ともつかない位置にある幾つもの瞳がギョロリと動き、ミカと目があったのだ。
(気色わる……)
と思ったミカだったが、かつてのアーテリスでの終末を擬似体験しており、そこでもっと気色悪い怪物を見ていたため、それ以上の反応はしなかった。
「ふむ、ふむ、ふむ……」
不躾にミカをジロジロと見るベアトリーチェ。手には何か機械のようなものを持っている。機械からはビー……と低い音が鳴っている。
いつまでそうしているのか、痺れを切らしたミカがエメトセルクと念話しようとした時、視界にエメトセルクが映った。
口元に指を当てている。話すなということらしい。
普段は横か後ろからついてくるエメトセルクがわざわざ視界に回り込んで伝えているということは、重要なことなのだろう。ミカは念話を断念した。代わりに、口を開いた。
「あなたがマダムって人でしょ? それで、私に何の用なの?」
「……なかなか、尻尾を掴ませないわね。聖園ミカ、口の聞き方に気を付けなさい」
小さく、しかしミカに聞こえるように舌打ちをしたベアトリーチェに、ミカは閉口した。今となっては分かっていたことだが、友好的な接触とはいかないらしい。
「……数週間前、アリウス自治区内で不自然なエネルギーの高まりを検知したのよ」
「なに? 急に」
「尤も、それに気付いたのは黒服だった……。忌々しいことに」
ベアトリーチェの目はミカから離れ、あたりを見回している。何かを探しているようだった。
「その後しばらくして、トリニティ自治区内で何度か同様のエネルギー反応が見られて……、紆余曲折はあったけれど、私たちはこの未知の脅威については協力して当たることになったわ。この検出器をマエストロに作らせたのもその頃ね」
私は自分の空間を他人に荒らされるのは嫌だったけど、と続けるベアトリーチェ。アリウス自治区のことは、もう自分のものだという認識らしい。
何を言っているのか分かり始めたミカは警戒を高めた。
検出器から鳴っていた低い音が、わずかに高くなった。
「"これ"は不思議なエネルギーね、聖園ミカ。色彩とも、恐怖とも、知性とも、情熱とも違う……しかしそれでいて、それらの要素を同時に含んでいるようでもある……」
あなたの方が詳しいのでしょう、と語るようなベアトリーチェの目つきはミカを少し苛立たせた。しかし、依然として語られない目的は不気味でもあり、苛立ちと同時にミカを強く困惑させていた。
「本当は解析にもう少しかかるかと思っていたけれど、思いがけない幸運がありました」
ベアトリーチェがそう言いながら手元の機械を操作すると、講演台が動き、下から玉座のような仰々しい椅子が迫り上がってきた。誰かが座っている……いや、縛り付けられて座らされている。意識は無いようだ。
それは、少女のようだった。
黒い髪と濃い灰色の服を着ていて、
——ミカはとてつもなく不吉な予感がした。
検出器が高い音になり、それが耳障りだったのかベアトリーチェは検出器の電源を消した。
それを見逃さず、エメトセルクが話し始めた。
『やはり、ここにもいたか……!』
『エメトセルク! あの子って、まさか』
『そうだ、アレが私たちの世界を滅ぼしかけた、諸悪の根源……。メーティオンと、私たちは呼んでいる』
「彼女は博識だった。でもこのパワー自体は、あまり持っていないそうです。だからどうしても、聖園ミカ、あなたから話を聞く必要があるのよ——」
ベアトリーチェは振り返ってミカを見た。
「——この、エーテルの
ミカは直感的に、話すわけにはいかない、と強く思った。これまでのベアトリーチェの悪行をサオリたちから聞いていたからかもしれないし、自分に対しての態度が無礼だったからかもしれないが、とにかくそう思った。
だが同時に、興味もあった。
目の前の人物が、エーテルを使って何をしようとしているのか。それは、実現可能なのか。この場にはちょうどエメトセルクもいるから、どのくらいのことが可能なのかも分かるだろう。とりあえず、探りを入れてみるのもいいかもしれない。
「へえ? 私、結構詳しいつもりだけど……何について聞きたいの?」
後ろでサオリたちが身じろぎしたのがわかった。ミカは、自分が裏切るかもしれないと動揺しているのだろうと思った。
「ああ、聖園ミカ。少し誤解しているようですね」
『聖園ミカ、囲まれてる……!』
意外にも、状況を知らせてくれたのはアツコだった。サオリたちにも勘付かれないように慎重に生徒たちを配備していたらしい。
「これから行うのは質問ではなく、尋問よ」
ミカはあくまで上から目線のベアトリーチェを睨みつけ、ごく軽く、エーテル放射した。周囲のあちこちで、緊張感から体勢を変えたのだろう布擦れの音や足音がした。中隊規模……、多くても20人ほどだろう。
「この程度の人数で?」
「フフ……。役に立たない兵士にはお仕置きをするとして……。あなたを囲んでいるのは何人いるかしら? アリウスの全員だと思って?」
ミカはそれほど賢い方ではない。だが、派閥の長として、あるいはトリニティの首長として、交渉の場に出ることも少なくはない。こういった場での化かし合いもこなしてきた。
つまり、相手がタネ明かしをする時というのは、そうしても問題ない時だということを十分理解している。
そして、自分の弱点はトリニティ全体だということが、相手に伝わっているだろう、とも理解している。
「まさか、もうトリニティに、」
「ここに来るまで、兵士が少ないとは思いませんでしたか? ここの十数人を倒しても、あなたが守りたいものは守れない。だから、私の質問に答えるしか無いのよ、バカなお姫様」
『エメトセルク! 瞬間移動みたいな魔法ってないの!?』
『あるが、ここでは無理だ!』
『なんで!』
『地脈がないからだ! テレポは言わば船のようなもので、川がないと目的地には着けない!』
「フフ、話をしたくなってきたでしょう?」
ミカはぎりりと歯噛みした。
交渉次第では、トリニティとアリウスの全面戦争になるかもしれない。そうなれば、いつか懸念したとおりだ。最終的にはトリニティが余裕で勝つだろう。アリウスを殲滅して、文化を破壊し尽くして。
しかし、トリニティが攻撃的な態度を見せれば他の学区も警戒を強めるかもしれない。ゲヘナは言うに及ばない。新興のミレニアムだっていい顔はしないだろう。中堅クラスの多くの学校がどちらかに傾けば、奇妙に保たれている学校間の力関係は脆く崩れ去り、キヴォトス全体を巻き込んだ大戦争になるかもしれない。
そうなれば、多くの絶望がキヴォトスに蔓延るだろう。そして、絶望は人を魔物へと変えてしまう。災厄の種はもう、キヴォトスに飛来しつつあるのだから。
キヴォトスをあの災厄から守ると決めたミカにとって、アリウスの負けはミカの負けなのだ。
ミカは短く息を吸って、ゆっくりと吐いた。身に纏っていた緊張感が解かれていくように感じる。
「……分かった。従う。だから、侵攻するのはやめて」
「あら、トリニティが本気を出せばあの程度の兵力なんて一捻りでしょう?」
「分かってるんでしょ。無駄話はやめよう、お互いのためにならない」
「フン、可愛げのない小娘ね。……銃はその場において、そっちの椅子に座りなさい」
内心で杖を取られなくて良かったと思いながら、言われたとおりにするミカ。それを心配そうに見るアリウススクワッド。
ベアトリーチェはここで改めてスクワッドの存在に気付いたようだった。
「ああ、スクワッド。こちらに来て待機し……、聖園ミカが暴れたら制圧しなさい。聖園ミカとて銃がなければ袋のネズミでしょう」
ベアトリーチェはまだ、ミカとスクワッドが対等だと思っているのだろう。腑に落ちない思いを抱えながら、サオリは短く応えた。
「了解」
スクワッドも続いた。まるで玉座に座っているかのように悠然とした態度のミカは、味方だと思うと頼もしかった。
☆☆☆
ミカと……というよりは、ミカを通したエメトセルクとベアトリーチェの議論は、意外にもそれほど険悪でない雰囲気で進行した。エメトセルクにとってはキヴォトスの神秘が、ベアトリーチェにとってはエーテルが、これまでに経験していないエネルギーだっただけに興味深く、またお互い単純に知識を深めることが好きではあったようだ。
「ふむ……。ではつまりエーテルとやらは、神秘とは異なりかなり厳密な理論に従う、数学に近い性質を示すものである、と?」
「それで合ってるってさ」
エメトセルクはあえて迂遠な方法で議論していた。魂へ干渉して他人に憑依するのはアシエンとして可能だが、エメトセルクは長らく
エメトセルクはこれまでの経験から、目的のためにいくつものプランを用意するのが常となっていた。そのために、切るべきカードを吟味しているのだ。
それに、これまでの会話ですでに、エメトセルクはベアトリーチェからかなりきな臭いものを感じ取っていた。
エメトセルクにとっては、どこか知らない遠くの惑星の小さな文明が滅ぼうが栄えようが構わないが、メーティオンは違う。
メーティオンは自らの同胞が生み出してしまった、ある種の病だ。必ず取り除かなければならない。そのためにここキヴォトスに留まっている。
それを、メーティオンを、利用するつもりらしいのだ、この女は。
具体的な話をしてはいないが、エメトセルクには分かっていた。
メーティオン。
頭に羽を持つ、少女のような外見に作られた生命体。その目的は、外宇宙への興味だった。外宇宙の、生命と、その生きる意味についての興味だった。
メーティオンを作った者は、そういった創造生物たちの管理・実験をする庭園、"エルピス"の所長だった。彼は温厚で優しく、魔法生物たちのことが大好きだった。
好き過ぎたのだろう。
だから彼は、時に魔法生物たちを処理……つまり、殺して
自分達が生み出した生物を、傲慢にも自分達が処理することを、生物たちがどう思っているか、思いを馳せてしまった。
その疑問は自らの生に対する疑問へと至り……、星々の、外宇宙の他の生命体への疑問となった。
しかし、アーテリスは孤独な惑星だった。
残念なことに、アーテリス以外の惑星はすでに滅んでいるか、まさに滅びの最中にあるかのどちらかだった。そんな世界で「生命とは?」などと問えば、答えは死や滅び、殺戮を含んだ暗いものになる。
その答えを持ち帰ってきてしまったメーティオンを、アーテリスは受け容れざるを得なかった。
その結果が、アーテリスを襲った終末の災厄なのだ。
(待てよ……。アーテリスの終末の時点で、メーティオンは
エメトセルクは自由に……というほどではないが、
当初の目的であったエーテル集めも、アーテリスに残してきた布石が機能しているのをエーテル界から確認できたから、重要ではなくなった。いざとなれば向こうから召喚される手筈になっている。
そのことを考えれば、エーテル界とアーテリスには時間の齟齬がないはずなのだ。
そして、エメトセルクが生きていた過去の時点で、メーティオンは放たれた全てがアーテリスに帰還している。
では、ここキヴォトスは、アーテリスから見て
エメトセルクは、エーテル学や生き死にについては第一人者だ。自分が知らないことを知っている人間は、極めて少ないと考えている。
しかし、宇宙や時間のこととなれば別だ。
(水晶公が、時間遡行の魔法を使っていたな。アレももう少し詳しく解析できていれば……いや、そんな余裕はなかったか)
光の戦士との対決の際には、水晶公と呼ばれた人物が未来から戻ってきたことが明らかになった。運命の巡り合わせから彼らと敵対することになったエメトセルクは、水晶公を拉致し、その強力な魔法を解析しようとしてはいたのだが、様々な状況が重なり、それも叶わなかった。
(キヴォトスに……いや、
(それを調べるためにも、メーティオンの確保は必須か)
『エメトセルク、どうしたの?』
しばし黙り込んで考えていたエメトセルクは、ミカの声で現実に帰ってきた。黙っていた時間はごくわずかで、ベアトリーチェは特に疑問に思っていないようだ。
『少し、気になることができた。メーティオンを引き渡してもらおう』
『ええ? そんなこと言っても素直にはくれなそうだけど……』
『目的を聞き出して、ひとまずの妥協点を探るとしよう』
(無理そうなら、この女は始末してしまうか)
ミカには言わず、エメトセルクは冷静に思考した。
☆☆☆
「それでさあ、」
会話の途中で、聖園ミカが不躾に口を開いた。ミカはアツコと、エメトセルクと念話で何事か話していたようだ。少しずつ表情が変わっていった。
何か自分に分からない重要なことが起きたのかもしれない。サオリはそう考えて、密かに銃の安全装置を外した。
ベアトリーチェは少し気分を害したようだった。
「聖園ミカ? 今、私は貴方に取り憑いている方と話をしているのよ。黙りなさい」
「その人からの質問でもあるんだけど」
舌打ちをして黙り、続きを促すベアトリーチェ。
「あなたの目的は何なの? ベアトリーチェ?」
「フン……お前如きが理解できるとは思いませんが——」
「私は、"崇高"に触れたいのです」
陶然とした表情で告げるベアトリーチェを、それ以外の全員は冷ややかに見ていた。ベアトリーチェが続ける。
「不思議だとは思いませんか? なぜ、子どもだけがヘイローを持つのか。なぜ、神秘などというモノがあるのか。あるいはもっと根源的に、人はなぜ生き、死ぬのか。人はどこから来たのか。そしてどこへ行くのか……。その問いの答えは、忘れられた"名もなき神"が持っている。私は、これまでの研究の結果、そう結論付けたのよ」
サオリはベアトリーチェの言葉を聞いて、生まれて初めてそういった疑問について考えた。アリウスで教えられた教義の中では、そういったことは神の領分だったからだ。
神は人を作り、人は神に従う。
これ自体、ベアトリーチェに歪められたものだったのだろう。
なぜ生き、なぜ死ぬのか。
なるほど、簡単に答えが出そうな話ではない。サオリはスクワッドのみんなをチラリと見た。やはりみな、少し考えるところがあるらしい。
ベアトリーチェは、さらに続けた。
「"名もなき神"の力は人々に解釈され、あるいは忘れ去られ、あるいは書き足され、その過程で様々に分裂していった、と私たちは考えているわ。私は十数年前、いくつかの条件を満たせば、そのうちの一つである『色彩』にアクセスできると考えた……。そのために色々と準備してきた」
ミカは表情なくベアトリーチェを見ている。時おり、虚空をちらちらと見ているから、エメトセルクとかいう存在となにか話をしているのかもしれない。
念話を使えないサオリには分からないが、彼らの話を聞いていたところで何ができるだろうか。
(いや、卑屈になるな、サオリ……)
サオリはかぶりを振って自分に言い聞かせた。それは、間違った教えなのだ。
アズサが正しかったのだ。たとえ全てが無駄だとしても、それは、力を尽くさない理由にはならない。
ベアトリーチェの演説が続く。
「アリウスもそう。ロイヤルブラッドもそう。エデン条約は狙っていたわけではなかったけれど、幸運だった。全ては順調だったのよ。いえ、今もなお順調よ。あとは、色彩にヘイローが反転されたときに生じるであろう、莫大なエネルギー……。儀式が成立すれば、それが手に入るはずなの。そのエネルギーがあれば、私の祈りが届く……」
ベアトリーチェは恍惚とした表情を隠しもしない。ミカは対照的にどんどん辟易した顔になっていった。
「ところが、これがやってきたのよ。私は驚いたわ。まさに願おうとしていた
ミカが口を開こうとしていたが、それよりも先にサオリが小さくつぶやいた。
「そんなことの、ために」
サオリは自らがまだこれほどの怒りを抱くことができたのだ、と冷静に考えた。
そんなことのために、アリウスは。姫は。そして、用がなくなれば吐き捨てるみたいに捨てられるのか。その程度のものだったのか。
サオリの言葉を聞いたベアトリーチェがサオリの顔を見て、ため息をついた。
「サオリ……あなたは優秀な兵士なのだけど、少し学がないのが欠点ね。また
「分かった。では、エーテルをお前に授けよう」
男の声がして、ミカがベアトリーチェに手を翳した。ベアトリーチェはサオリの方を向いていて、ミカの動きに気付かなかった。サオリが、エメトセルクと入れ替わったのか、と思う間もなく、ベアトリーチェは苦しみだした。
「グ……ガ、アああ! お、お前は……グウッ! だれだ、聖園ミカ、がああっ、や、やめろ"おっ!」
ミカは……エメトセルクは無言で、無表情で手を翳し続けている。ベアトリーチェは頭を抱え、膝をつき、叫び始めた。
「あああああっ!!! がああああああああああっっっ!!!!」
「見えるか? 神が」
「グアアああああああああ!!! やめろっっ!!!! やめ、ああああああああーーーーーッ!!!」
「まだ足りないか? ほら」
「アアアアアアぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
次第にミカの顔前には、赤黒い複雑な紋様が浮かび始めていた。大きな三角形に複数の縦の線が組み合わさったような形状で、サオリにはどこか仮面のように思われた。そして、なぜか、
(ヘイローのようだ)
と思った。
「アアアアアアあああああああ!!! そ、んなっ!! み、見えるっ! あああ!! 神がこちらにぃ! ぐああああああ!!!! 頭が痛いぃ!!! もういいぃ!!! もう見せないでくれ!!! あがああアアアア!!!」
「フン」
エメトセルクが手を翳すのをやめると、仮面も消えた。ベアトリーチェは意識を失ったようで、ばたりとその場に倒れた。
「なり損ないの分際で……。メーティオンを回収する。錠前サオリ、手を貸してくれ」
「あ、ああ……」
サオリは言われた通りにした。
玉座に縛り付けられた少女は、メーティオンと呼ばれているらしい。
スルスルと紐をほどき、メーティオンを肩に抱えるようにしてエメトセルクが抱えたところで、サオリは尋ねた。
「その、マダムは……どうなったんだ?」
「神が見たいというから、見せてやった。エーテルの流れ、私の視界の一端をな。だがこの感覚を強制的に流し込むのはかなり面倒だと分かった。2度とやりたくない」
「無事、なのか……?」
「ハァ……錠前、お前は善い人間だな。自分を苦しめていた奴が罰せられているのを見て無事かと問うとは。無事かどうかだが……奴次第だな。体は無事でも、心の方はどうだか分からん。分かる気もない」
「そうか……」
意外にも、サオリの心は晴れなかった。それがなぜなのか、サオリにも分からなかった。
「では我々はトリニティに戻る。錠前、秤、戒野、槌永、お前たちもアリウスから離れておけ。どうせ奴の目が覚めたら面倒なことになる。行く宛がないなら着いてこい。少しの間ならなんとかできると聖園ミカが言っている」
サオリはメンバーを見た。みな、サオリの言葉を待っているようだ。サオリは少し考え、アツコに尋ねた。
「アツコ、ゲヘナにいても聖園ミカと連絡が取れるか?」
「……うん、多分」
「では我々はゲヘナのセーフハウスに潜伏する。聖園ミカ、お前のことを信用していないわけじゃないが、我々はあまり近づきすぎない方がいい。お前の立場は、まだ互いのために役に立つはずだ。不審者を近くに置くべきじゃない」
「……なるほど。では我々はこれで。道案内は心配いらない。もう覚えた」
扉を開け、去っていく聖園ミカ……エメトセルクを見送ってから、スクワッドは反対の扉から出ていった。
静かになった旧教会に、ベアトリーチェは1人、倒れ伏したまま残された。
ノースティリスに行ったり、転職活動したりでなかなか時間が取れなかったところに、思うように筆が進まず、、でした。
あと作中でエメトセルクがなんでこいつここにいるの、と言っていますが、あれは私のセリフでもあります。普通に設定ミスってました。なんとかリカバリーします。まあチラ裏二次創作にそんな完璧さ求めてないですよね。
完結だけは絶対にします。頑張ります。