ミカとエメトセルク   作:へんどり

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 結局、トリニティに戻ってきたのは午後になってからだった。崩れかけた出入口から外に出て、ミカはやっと呼吸ができるようになった気がした。

 雨は止んでいたが、まだ空は雲に覆われている。地面も乾いていない。

 

 色々なことがあった。良かったことは、サオリたちと少し歪ではあるが協力体制を築けたこと。諸悪の根源がマダムことベアトリーチェと分かったこと。それと、メーティオンを回収できたこと。

 悪かったことは、メーティオンがやって来ていることが分かったこと。ベアトリーチェと完全に決別してしまったこと。サオリたちの考えたプランも、まるきりそのままというわけにはいかなくなったかもしれない。

 そして、ベアトリーチェが言っていた黒服とかマエストロとかいう人物も気になる。ベアトリーチェも目的のために利用しているだけのようではあったが、協力者がいるとは思わなかった。

 

 だが、状況は悪くない。ベアトリーチェの目的が分かったのもそうだし、こうしてメーティオンも回収できた。ミカは行動の成果を感じていた。

 

 しかし、結局徹夜になってしまったのは良くなかった。ミカは達成感と、それを上回る疲労を感じていた。

 

「あー、疲れた。もう今日は登校しなくていいかなー。本館まで戻ったら夕方になっちゃうし」

『少し休むか? 私がお前の肉体に入っていれば、少なくとも精神的には休息が取れるはずだ』

「うーん、誰にも見つからないならいいけど」

『私は魔導士だぞ? 魔法を使えば造作もない』

「なら……お願いしようかな」

 

 ミカは最後にあくびをしてから、ゆっくりと意識を手放した。エメトセルクがミカの体に入り込み、一つ指を鳴らしてから歩き始めた。メーティオンは魔法で拘束して浮かせているらしい。まだ目を覚さない。

 

 ミカは疲労から、またしてもナギサに連絡を入れるのを忘れていた。

 

 ☆☆☆

 

『ミカさん』

『裏切り者は、全員でした』

『補習授業部は、全員黒です』

『……これを読んでいるあなたが、裏切り者でないことを祈ります』

『"Prv18:10"』

 

 ☆☆☆

 

 アリウスの生徒たちの蜂起を受け、混乱に陥るトリニティで、ナギサの身柄を確保しに来た補習授業部一行と先生。

 アズサが言うにはティーパーティーの3人のうちミカがアリウスについていて、次の標的はナギサであるらしい。ミカに先んじて、ナギサと接触する必要がある。

 

 ハナコの先導でアリウス生たちと戦いながらナギサのセーフハウスの一つにたどり着いた。ハナコ曰く、緊急時に採用されるセーフハウスはごく限られていて、今回の場合ではここの可能性が高いらしい。

 

 護衛のトリニティ生は意外にもそれほど多くない。隠蔽のためだろう。襲撃しているアリウスも同程度しかおらず、膠着状態となっていた。アリウス側ではセーフハウスの数も、場所も、どれにナギサがいるかも正確には分からないため、戦力を分散せざるを得なかったのだろうか。

 だが、平均的に練度が高いアリウス生は一般のトリニティ生よりも強く、連携も巧みだ。彼らは全体では数が劣るのにも関わらず、いくつかの戦場ではすでにセーフハウスを制圧していた。無論、制圧できた理由はそこにナギサがおらず、早々に護衛の生徒が撤退したためでもある。

 

「……数が多いな。配置も……、やりにくい」

 

 アズサが物陰から睨み合う双方の生徒を確認しつつ小さな声で呟いた。ナギサに無理やり接触せんとする補習授業部一行としては、トリニティ側とも、アリウス側とも戦闘になる。

 

「さ、さっきの話……ミカ様がアリウスについてるって、ホントなの……?」

 

 震える小声で尋ねたのはコハルだ。物陰に座り込むコハルは、自身のライフルを抱きしめるように持っている。コハルの問いに答えたのはアズサではなく、ハナコだった。

 

「私は……あり得ると思っています。アズサちゃんが話してくれたこともそうですが、一度だけ先生と話しているのを見た時も……普段とは違う様子でしたし……」

 

「! アリウスの増援だ!」

 

 ハナコが深く考えながら話しているのを遮って、アズサが声を出した。

 補習授業部がまだ息を顰めているうちに、銃撃戦が始まった。瞬く間にアリウスが優勢になった。

 

「先生!」

 "……うん。みんな、行こう! "

 

 ☆☆☆

 

 先生の指揮のおかげで、その場は補習授業部が制圧することになった。アリウス生の多くは不利を悟ってか、撤退してしまった。他のセーフハウスに向かったのだろう。

 先生は倒れている生徒たちのために救護騎士団を呼ぼうとしたが、連絡がつながらない。トリニティ中で戦闘が起きている今、救護騎士団や正義実現委員会は連絡が通じるような状況ではないかもしれない。

 連絡を諦め、改めてセーフハウスに向き直ったところで、アロナが叫んだ。

 

『先生!!』

 

 

 星が落ちてきた。

 

 そう錯覚するほどの、圧迫感があった。

 それは十分な減速をして、ふわりと着地したのにもかかわらず。

 結果的には、アロナのバリアは必要なかった。物質的な攻撃はなかったから。

 

「間に合ったのかな?」

 

 アズサは指が震えて撃てなかった。それが良かった。発砲していたら敵対を避けられなかっただろうから。

 

 "ミカ! "

「うん、ミカだよ。先生。——」

 

 

「——ナギちゃんに用事?」

 

 

 じろり。

 

 ミカと先生の目が合う。

 

 ぶわり。

 

 ミカから放たれた強烈な圧力が補習授業部の皆を襲った。

 ハナコとアズサは比較的耐えられているが、ヒフミとコハルは顔を青くして震えている。先生が矢面に立っていてこれなので、先生が近くにいなければ失神くらいはしていたかもしれない。

 

「あーあ、」

 

 ミカは慣れた手つきで銃の安全装置を外した。

 

「どうして上手く行かないんだろう!」

 

 ハナコに向けて放たれた弾丸はアズサに庇われ、ハナコはすぐさまミカに撃ち返した。ミカは一部をマバリアを纏わせた羽で弾きながら近くの瓦礫に身を隠し、さらにアズサに向けて無造作に発砲した。いくつかはアズサに当たり、有効打となったようだ。

 

「くっ……、遮蔽!」

 

 アズサは気絶しそうな痛みに耐えつつ、ヒフミとコハルが遮蔽に入るだけの時間を稼いだ。ヒフミが言う。

 

「せ、先生! 指揮をお願いします!」

 "……誤解があるみたいだけど、"

 "話を聞いてくれなさそうだし、仕方ないね。"

 

 シッテムの箱の戦術機能を起動しつつ、先生が補習授業部の皆に声をかけた。

 

 "みんな。もう一度、行こう! "

「先生のお手並み拝見、だね」

 

 ☆☆☆

 

 ミカさんは攻撃的な「アストラルファイア」状態と防御的な「アンブラルブリザード」状態を切り替えながら戦ってくるようです!

 また、ミカさんは通常攻撃の他に、魔法を詠唱して撃ってきます!

 詠唱中にCC(クラウドコントロール)効果のあるスキルを使って、詠唱を中断させましょう! (ヒフミのペロロ様のEXスキルの絵)

「フレア」は強力な魔法ですが、詠唱が完了するとMPが枯渇するようです。チャンスになるかもしれません!

 難易度INSANE以上では、フレアの直後にマナフォントを詠唱し、完了するとMPが回復してしまうようです。マナフォントの詠唱を止めれば、しばらく魔法を使えなくさせることができそうです!

 攻撃的なアストラルファイア状態の時にMPを0にできれば、大きなダメージを受けることなく一方的にダメージを与えられそうですよ!

 

 ☆☆☆

 

 (やりにくい! )

 ミカは先生が指揮する補習授業部の面々と戦いつつ、そう思った。普通に撃ってもみんな遮蔽に入っているし、ペロロのデコイで上手くいなされることもある。かといって魔法をバンバン撃つわけにもいかない。エーテル傾向の懸念もある。それに、詠唱途中でうるさく騒ぐデコイを投げられると集中が途切れてしまう。

 ハナコとコハルは回復も得意なようだ。特にコハルは、開幕に気絶寸前まで削ったアズサを万全に近い状態まで回復させてしまった。何とかコハルから倒したいところだが、コハルに火力を向けようとすると、すぐさまアズサから神秘のこもった高威力の弾丸が飛んでくる。あれに当たれば流石に痛そうだ。遮蔽に隠れざるを得ない。

 

『エメトセルク、ちょっと起きてよ〜』

 

 エメトセルクは眠ってしまっている。ミカと入れ替わりだ。エメトセルクは、あまり他人の肉体に入るのが得意でないらしい。初めはそうではなかったのだが、長らく一人の人間を肉体としていたために、苦手になってしまったようだと話していた。曰く、腕や足の長さはもちろんのこと、エーテル波長が異なるために、"酔う"のだそうだ。

 ミカの休眠のために少し長い時間ミカの肉体に入り、同時にメーティオンの運搬や隠蔽の魔法も使っていたことで、疲労が溜まったようだ。

 

 遮蔽物から顔を出したミカの頬を銃弾が掠めた。

 ミカが強力な魔法を使っていないおかげで、少しずつ、状況は補習授業部に傾いていた。

 

「ちょっと考えよう……」

 

 ミカは遮蔽に引っ込んでじっくり考え始めた。

 

 (ナギちゃんからのメッセージを見て飛んできちゃったけど、完全に頭に血が昇ってた。良くなかったな)

 (先生は思ってたよりずっと強い。でも、そのおかげで、みんなを制圧せずに済んでるし、ちょっと冷静になれた)

 (手加減ナシでフレアみたいな魔法を使いまくればみんな倒せそうだけど……、先生はヘイローがないから死んじゃうかもしれないし、制圧してからじゃちゃんと話し合いできないよね……)

 

 ミカは一つ、ため息をついた。そして、意を決して声を出した。

 

「わかった、降参! いきなり攻撃したのは謝るからさ、ちょっと話を聞かせてくれない?! こっちもアリウスから戻ってきたばかりなのと、ナギちゃんから救援要請が来たのとでちょっと混乱してたの!」

 

 少し間をおいて、先生の声が答えた。

 

 "願ってもないことだよ、ミカ"

 "いまの状況について、色々と相談したいのは私たちも同じなんだ"

 

 ミカが遮蔽物から顔を出すと、先生が先頭に、その後ろに補習授業部のみんなが立っている。先生は大人だからか、実際に攻撃を受けたわけでないからか、穏やかな表情をしているが、ハナコなどは明確にこちらを嫌っているようだ。あくまで、指揮官である先生の指示に従っている、という様子。

 

 (嫌われちゃったな。そりゃあそうだよね)

 (ていうか、元から好かれてないか)

 

 アズサへは攻撃の機会が多かったが、意外にも無表情だ。好かれてはいないが、嫌われるほどでもないらしい。あるいは、表情のコントロールが上手いのかもしれない。表情から感情を読み取る力にそれほど長けていないミカには、アズサが自分をどう思っているかよく分からなかった。

 

 ヒフミは、やや不安そうだ。しかしそれは、ミカに対してというよりは現在のトリニティを取り巻く状況に対してのようだ。ミカ自身より周囲をよく見ているし、時折遠くの喧騒に目を向ける点から、ミカはそう判断した。困惑のほうが大きいのかもしれない。

 

 コハルは、じっとミカを見ている。その視線からは警戒と怯え、そしてほんの少し、信頼が読み取れる。まだ完全に敵対したわけではない、希望は失われていない、とミカは感じた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 口火を切ったのは先生だった。

 

 "混乱してるところ、ごめんね。ちょっと、ミカからも話を聞きたいんだ。アリウスに行ってたんだよね? "

 

 先生がそう言うと、ミカの表情はきょとんとしたものにかわり、戦闘の余韻で僅かに放っていた威圧感も完全に失われた。

 

「え? ……もしかして、ナギちゃんとは話したあと?」

 "いや、まだだよ。ナギサは、その奥にいるんだね"

「あっ。えっと……さ、さあ〜? どこだろうな〜?」

 

 ミカは先生に鎌かけをされて、それまでの調子を崩した……、というよりは、毒気を抜かれたようだった。小さくため息をついた。

 

「まあ、あの状態(・・・・)のナギちゃんだけ信じるわけにもいかないか」

 

 ミカは周囲を見渡した。自分たちのこの戦闘で破壊した瓦礫もあるが、そうでない部分も多い。かつての立派で荘厳な建物は見る影もない。

 時折、遠雷のように響いてくる爆発音が、トリニティ各地で戦闘状態にあることをミカに実感させていた。

 

「……結構ひどいね。アリウスの子たちはいつから?」

 "夕方くらいかな。各地で一斉にね。今は救護騎士団と正義実現委員会のみんなでなんとか抑え込んでるみたい"

「そっか。あのおばさん、確かに攻撃をやめるとは言ってなかったな」

 "何か知ってるの? "

「あ〜……どうしようかな……」

 

 ミカは明らかに何か知っている風だったが、それを明かすかどうかは迷っている。ただ、揶揄うような感じではなく、本当に先々のことを考えて、迷っているようだ。

 

 どこか虚空を見ているような。先生はチラリとそちらに目をやった。

 何もない、いや……何かいる?

 

「先生? ……まさか、ね」

 

 先生はミカの声で意識を戻したが、違和感は拭いきれなかった。

 

「うん、まあ、言っちゃうとね。私が、補習授業部のみんなが探してる裏切り者。……わ、待って待って。最後まで聞いて。それは、みんなを試すためにナギちゃんが言い出したことなの。私は、二重スパイ。アリウスに内通してるフリをしてるの」

 "二重スパイ!? "

 

「私たちはなぜ、試されるほど、疑われているのでしょうか?」

「浦和ハナコ……。ハナコちゃんは、胸に手を当てて考えてくれないかな?」

「こんな場所で胸でしろ(・・)だなんて……!? しかし、それがミカ様のご命令なら……♡」

 

 はあ、とため息をついてミカは無視した。

 ハナコは無視は傷つきますよ? と言った。

 2人は目を合わせて、無言で会話した。お互い、今の点だけが理由でないことは分かっている。ハナコがトリニティに対して本気になれるかどうかは、この後にかかっている。

 ミカはそれを承知してはいないが、どんな理由であれ治安を乱すつもりがあるなら、それ相応の扱いを受け入れるべきだ、と考えていた。

 2人はほとんど同時に目を逸らした。ミカは続けた。

 

「みんな、テストの点が良くないっていうのは前提としてあるからね」

 

 アズサとコハルはう、と唸った。ヒフミとハナコは、意図的に点数を低くしていたり、テストの日程を勘違いしていたりと学力に問題があるわけではないので苦笑いしていた。

 

「まずアズサちゃんは、書類を通した私が言うのも変だけど、アリウスからの転校生だから。疑わしいっていうのもそうだけど、ナギちゃんは私とは別の情報の引き出し口が欲しかったんだと思うよ。情報局のときからそういう感じだし。あと、なんかちょっと暴れたでしょ? 次にヒフミちゃんは、ブラックマーケットへの出入りの疑い。まああんなとこ行くわけないし、ナギちゃんの勘違いだと思うけど、」

 

 ヒフミと先生は目を合わせて、ミカから顔を逸らした。

 

「え、ウソでしょ。なんのために……。モモフレンズのグッズ!?」

「……私にとって、それは全てに優先されるのです」

 

 ヒフミの澄んだ瞳にミカは気圧された。揶揄えば何をしでかしてくるか分からない。ミカは追及を控えた。

 

「……まあ、仕方ない状況があったのかな。それで、コハルちゃんは、……うーん、正直なところ、よく分からないんだよね。証拠品の横領の疑いとか、禁制品所持の疑いとか言ってたけど、実際のところは正実への牽制じゃないかなって。……え? コハルちゃん?」

 

 青ざめたコハルがミカから顔を逸らしている。

 

「み、ミカ様! 違うんです! あれはその……横領とかじゃなくて……。ち、チェックが必要なもので! だから、仕方なく! 中を改めてたの!」

 

 ミカはきゅっと目を閉じ、天を仰いだ。

 深呼吸。

 

「……テストでは、ちゃんと点取ってよね。それがなければ補習授業部なんて大義名分がなくて無理なんだから」

「うう……」

「すまない……」

「はい……」

「……」

 

「……もとの話に戻すね。そもそもの始まりは、私がアリウスに唆されたところからだった」

 

 ミカはエメトセルクとの一件、そしてメーティオンのことをうまく隠しながら、これまでの経緯を話した。少し長い話になったが、皆は静かに聞いていた。

 

「まあ、そんな感じかな。今もちょっと、アリウス側の協力者と話をしてきたんだけど、その途中で"マダム"……向こうのリーダーに捕まってね。もっと早く戻ってこられるはずだったのに、こんな時間になっちゃうし、色々やってるうちにアリウスの子たちがこっちに攻めてくるし、忙しいったら」

「アリウスとの、和解ですか……」

「ハナコちゃんも思うところがある?」

「いえ、……ふむ。それを、ナギサさんはご存じなのですか?」

「え? ナギちゃん? まあ、ざっくりとは話してるけど……。いや、あんまり伝わってないかな? どうだろ」

 

 ハナコはしばし瞑目し、何事か考え始めた。

 

「それならば……。でも……いや、…………」

 

 その沈黙に耐えかねてか、コハルがおずおずとミカに尋ねた。

 

「み、ミカ様はトリニティの裏切り者ってわけじゃないんですよね……?」

「もちろん。私はトリニティとキヴォトスのために行動してる。……まあ、裏切り者に『裏切り者じゃないんですよね』って聞いても、『いえ、私は裏切り者です!』とは言わないと思うけどね」

「うぅ、それは、そうですけど……」

 

 コハルは後半のミカの言葉に少し思うところはあったが、前半のトリニティとキヴォトスのために、というセリフを信じることにした。ハナコはその点についても何か考えているようで、鋭い視線をミカに向けている。ミカはそれに気づいていたが、全てを話すわけにはいかない。

 口を開いたのはアズサだった。

 

「聖園ミカ。みんなはどうしているのか、教えてほしい。定期連絡はサオリのはずだったのに、途中から別の一般隊員に変わっていた」

「サオリたちは、トリニティ側に協力してくれることになってね。それで動いてたり、あと私がアリウスに行った時に出迎えしてもらってたりで忙しくなっちゃってね、仕方なく代わってもらったって言ってたよ。今はまだアリウス自治区にいるんじゃないかな? ……ちょっとマダムとトラブっちゃったけど、多分大丈夫……だと思うよ」

「……マダムと?」

「まあ、正確に言うと、トラブったのは私なんだけど……。もしかしたらそのせいで折檻されるかも? でもアツコちゃんは何かあったらすぐ連絡もらえるようにしてるし、私も飛んでいけるから大丈夫だと思う……」

 

 ミカはしばし瞑目した。エーテルを介したアツコとの会話

 がこの距離でうまくいくか試すことにしたのだ。

 

『アツコちゃん? 聴こえる? 今トリニティだけど、距離に問題ないかなって』

『わっ、ミカ。びっくりした。感度良好。そっちは大丈夫?』

『うん、よく聴こえるよ。大丈夫みたい。もうアリウスから移動している?』

『ううん、まだ。一応マダムの様子を見てからの方がいいって、サオリが。だから、そうするつもり』

『……分かった。もし折檻されそうになったら、助けに行くから教えてね』

『ふふ、ありがとう。その時はよろしくね、ミカ』

 

 折檻、という言葉に少し警戒感を引き上げた様子のアズサだったが、ミカの様子を見て、先に話を聞くことにしたようだ。

 

「……? 聖園ミカ? どうかしたのか?」

「あっ。ううん、なんでもない。とにかく、今は大丈夫。というか、今マダムは昏睡しちゃってるし」

「昏睡?」

 

 マダムについて少々詳しいアズサはもちろんだが、それ以外の面々も少し困惑しているようだ。

 

 昏睡なんて、穏やかではない。

 

「ちょっとトラブったんだってば。それで、まあ……」

「撃ったのか?」

「……いや、銃は撃ってないよ。こう、えいっ! って」

 

 ミカが握りこぶしを作って顔の横まで持ち上げる様子を見て、アズサは小さく息をついた。少し毒気を抜かれたようだった。

 

「……マダムの支配は連帯責任と相互監視による部分が大きかった。だから、外部からやってきた人物には効果的ではなかっただろう。その意味では、殴ってでもマダムを止めてくれたミカには感謝すべきかもしれない。だが、」

 

 アズサはそこまで話して、言葉を切った。考え込むアズサを見て、口を開いたのはハナコだった。一切ふざけていない、至って真面目な様子だった。

 

「そのマダムがいつ目を覚ますかが問題、ですね。目を覚ませば、確実に激怒するでしょうし、ミカさんを追撃するように部隊を動かすでしょう。連帯責任の話を参考にするなら、アズサちゃんのお友達にも危害を加えるかもしれません。今トリニティに出てきている部隊をアリウスまで追い返せば、ひとまずトリニティ側での騒動は決着します。まずは、それまでに目を覚ましているかどうか……それで、……しかし……」

 

 ハナコの脳内では、幾つものパターンとその対応が浮かんでは消えているのだろう。周囲に話しているようで、その実自分の中で考えを整理するために口から出ていただけのようだった。ハナコの言葉は途中から途切れ途切れになり、ついには途絶えた。

 

 比較的頭の切れる2人が考え込むと、その場を一時の沈黙が支配した。とはいえ完全な静寂とはいかず、遠くからは銃声と爆発音が散発的に響いていた。

 

 少し経って、先生が口を開いた。

 

 "とりあえず、一度ナギサと話そうよ"

 

 ナギサのいるセーフハウスは目の前だ。先生はその扉に向かって指をさし、皆を促した。全員それに賛成の意を示し、ミカが扉を開いた。

 




遅くなってしまいました。
ミカとエメトセルクの対立など描きたいシーンはいくつもあるのですが、それらシーンを繋ぐ展開に悩んでおり、今後も数ヶ月単位で時間がかかるかもしれません。
気長にやっていきますので、気長にお待ちください。
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