ミカとエメトセルク   作:へんどり

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「……どうにもならなかったんだよね」

 

 結局、ミカが再び口を開くまでには一晩かかった。今は翌朝、登校の途中である。

 エメトセルクは、ミカの言葉から省略された言葉を、正確に読み取っていた。すなわち、人が魔物に変じることを、である。

 

『ならなかった。……いや、それよりも遥かに悪い。ああなると私たちは……、エーテルに還ることすらできない』

「エーテルに還る……って?」

『私たちはもともと、不死に近い。病や事故などの怪我で命を落とすこともあるが、そうでなければ、生きたいだけ生きていられる。だが、よく育った後進を見た時、自分の役割を終えたと満足した時、私たちはエーテルに還る選択をする。自らを構成していたエーテルを自然に、惑星に、星海に、還す。そうして星に還ったエーテルは自然のエーテルに合流して、大地に宿り、大気を動かして、新たな生命を紡ぐ。大いなる星の一部となるのだ』

 

 エメトセルクが懐かしそうに語る様は、ミカにはどこか眩しく映った。失われたかつての栄光、同胞……。エメトセルクにも友人や、家族がいたのだろう。

 

 (それを、殺した……)

 

 ミカが体験したものは、エメトセルクが作り出した幻影であることは理解している。だが、実際にあったことなのだ。それを思うと、ミカは苦しかった。

 

『お前たち定命の者には理解が及ばないかもしれないが……、エーテルに還り星の一部となることは、私たちにとっては特別なことなんだ。一生に満足したという証だからな。決して悲しい出来事じゃない。誕生とか、結婚とか、それと同じような、偉大なことだ。感謝とか、ねぎらいとか、激励の言葉なんかを掛け合って、互いの旅路の幸運を祈る。そういうふうにして、私たちは生命を終える』

 

 不死の存在の死。大いなる自然に還る。弱冠17才のミカにはピンとこない部分も多かったが、エメトセルクの様子から自分たちの死とは大きく異なっていることは理解できた。

 自分の為すべきことを全てこなして、後進の育成も終え、友人や知人に挨拶をして、生命を辞す。……それは人の身には、あまりにも時間がかかりすぎる。為すべきことが何かすら、一生のうちに見つけることは難しいのに。

 

 そんな生命に思いを馳せていると、どこか満足げだったエメトセルクの表情が曇った。

 

『だが……。だが、終末の災害が起こってしばらくして、絶望に襲われ魔物に変じるのは、自らの中にあるエーテルを消費することで、エーテルバランスが大きく崩れるためだ、とわかった。エーテルは活性状態と不活性状態を移動するだけで、本来消滅はしない。……エーテルの消滅は、私たちが大いなる循環の輪から逸脱することを意味していた』

 

 エメトセルクはあの時の動揺を上手く説明できない、と思ったし、ミカも、エメトセルクの暗い表情から自分には想像もつかないような衝撃を受けたに違いない、と感じた。

 

『生命に対する冒涜だ、と私たちは思った。理不尽で、不可逆で……。同胞を手にかけたことよりも、その逸脱こそが私たちの心に重くのしかかった。終末の脅威と戦いながら手を尽くしたが……、結局、元に戻す方法は見つからなかった。そんな状況も手伝って、"ゾディアーク"を生み出すことができたのかもしれないな』

 

 ゾディアークについては、以前の話で聞いていた。生き残った人たちの半分をエーテルに還すことで生み出された超存在。それによって、一時的に天を流れるエーテルの流れを再構築したのだという話だった。

 

「死ぬよりはマシだから、ってこと?」

『死か……たしかに、私たちにとっては、あの形がお前たちの死と近いかもしれないな』

 

 死について。ミカの頭にあるのは、セイアのことである。直接手にかけた訳ではないが、似たようなものだ。

 

 (もし、セイアちゃんが死んじゃってたら……)

 (やっぱり、恐ろしい)

 

 友人や仲間が死ぬのは耐えられない。あるいは、敵でさえも、今では死なないでほしい、殺すことはない、と思う。

 

 (アビドスやミレニアムの子たちだって、ううん、ゲヘナの子たちだって)

 (友達がいて、仲間がいて)

 (死は、共通の敵……なのかもしれない)

 

 だから、手を取り合えるはずだと思った。エデン条約を成立させる必要がある。来たる終末に備えるためにも。

 

 (……セイアちゃんを本当に殺そうとしたのは——)

 (——アリウス)

 

 

「確かめなくちゃ」

 

 

 ミカの瞳は、決意に燃えていた。

 空はどんよりと暗く曇り、今にも雨が降りそうだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 降り始めた雨は次第に強くなり、路面を、植木を、校舎を容赦なく叩いている。ナギサは窓の外を見て少し眉を下げた。執務への集中を妨げないために効果的に防音されているナギサの執務室においてすら、ざあざあという雨音が聞こえるかのようであった。

 

 この雨のため、課外活動のほとんどは中止か変更を余儀なくされている。体育館や視聴覚室などの一時利用申請も多数届いており、数枚は目を通したが、キリがないので今回に限り不認可の使用を黙認することとした。銃撃戦が始まって建物が破壊されては困るので、利用者同士で平和的に使用順や使用箇所を決定すること、とアナウンスはしたが、どこまで守られるやら。

 

 窓際まで行って外を見やれば、軒下で雨宿りをしている生徒や、傘をささずにどこかへ走っている生徒も散見された。

 天気予報ではこれほどの雨になるとは報じられていなかったから、傘を持っていない生徒も多いようだ。

 ナギサはデスクに戻り、いつものように騒がしくない部屋を、少しばかり心寒く思った。

 

「ミカさん……」

 

 よりによって今日、ミカはアリウスの方へ行ったらしい。朝、短くメッセージがあった。

 

『今日はアリウスに行くから』

 

 普段と異なる端的で有無を言わせぬ文体は、ナギサに少々の緊迫感をもたらしたが、色々と聞いてミカに負担を与えるのも憚られた。結局、ナギサは、

 

『何か緊急の案件ですか? お気をつけて』

 

 としか返すことができなかった。既読はついたが、それ以降の返信はない。

 

 天気の悪さも気になる。アリウス自治区は、過去の内紛の影響でインフラが整っていない。そう報告したのは他ならぬミカだ。そんな場所でこんな大雨があれば、最悪の場合、河川の氾濫や土砂災害なども想定される。

 巻き込まれて——、

 

 (——いえ、だからこそ(・・・・・)なのでしょうか)

 ("もしもの時の友こそ真の友"と言いますし、)

 (被災したときに側にいるのは信頼を稼ぐ手段として一考の価値があります)

 

 ナギサは知らず知らずのうちに眉間に深い皺を作っていた。音を立てずに紅茶を啜り、ふう、と息をついた。

 

 (連絡が来た朝の段階では曇りでした。大雨になると分かってはいなかったはず。それに、ミカさんが突然、それほどの政治的手腕を身につけたとは思えません……)

 

 (信じていて、良いのですよね、ミカさん……。)

 

 ナギサの悪癖が、ちくりと心を刺した。

 土に落ちていた枯れたはずの種が、雨のたっぷりの水を受けて、静かに子葉を芽吹かせていた。

 

 ☆☆☆

 

「クソ、ひどい雨だな! E3番〜7番までとC系の出入口の封鎖状況どうだ!」

「土嚢は足りているようですが補強用の材木が不足していると連絡入ってます!」

「6番倉庫に入ってるやつはもう全部出せ! どうせ足りなくなる!」

 

 カタコンベ内で、アリウス生たちは流入してくる雨水との戦いを余儀なくされていた。

 カタコンベは構造上、雨に弱い。地下にある以上仕方ないことだが、当然その点を考慮して排水機能は整備してある。

 しかしそれにも限界がある。限度を超えた雨が降り続けば排水ポンプの機能は飽和し、水が溢れることになる。このような事態は数年に一度はあることで、自治区にいたアリウス生たちは、それがたまたま今日であった不運を呪った。

 

 訓練された動きで土嚢を積み上げ、崩れないよう木材で補強する。泥まみれになりながら土嚢を運んでいたアリウス生の1人が、不意に足を止めた。後ろからついてきていた別の生徒がぶつかりそうになり、声を上げた。

 

「おい、止まるな。どうしたんだ?」

「……誰か来る」

 

 ぱしゃり、ぱしゃり。

 雨音に混じって、足音がする。

 この出入口は今日は閉鎖されているはずだった。大雨で土砂が堆積するとその後開けるのが非常に難しくなるので、開けて土嚢を積んでいるのだ。

 だから、ここに外から人が来るはずはないのだ。

 

「まさか……、聞き間違いだろ?」

 

 後ろの生徒が言うや否や、そいつは現れた。

 

「ッ! 聖園ミカ!」

「銃を持ってる!」

 

「ご挨拶だね☆ そりゃ持ってるでしょ」

 

 持っていた土嚢を放り捨て、咄嗟に銃を構える2人。自分たちでは相手にならないことは分かっている。後方にいた方の生徒が即座に通信機を起動した。

 

「こ、こちらE5番出入口! 聖園ミカが現れた! 至急対応指示願う!」

 

 ミカは焦った様子の2人を見て苦笑いした。どうやら彼女たちは後方勤務のようで、自分のことは名前とパワーくらいしか知らないらしい。こちらが申し訳なくなるようなへっぴり腰と震えた銃口を一瞥して、一歩、歩み寄った。

 

「わ、わあ、く、来るな、それ以上近付いたら、う、撃つぞ!」

 

 ミカはため息をついた。彼女らの銃弾など何千発食らっても痛くも痒くもないだろうが、事を荒らげても仕方ないので言葉に従って立ち止まった。手も上げておく。

 

「嫌われたねぇ……。ねえ、手伝うよ。土嚢。だから銃、下ろしてくれない?」

「な、なに……?」

「今日はこの雨でしょ。アリウスって地下だから、困ってないかなと思って来たの。私ってほら、力にはちょっと自信あるし」

 

 おずおずと銃を下ろす生徒。そのとき、カタコンベの奥の方からもう1人のアリウス生が走ってきた。急報を受けて、取るものもとりあえずやってきたのだろう。息を切らしていた。

 

「はあ、はあ、聖園ミカ、今日は来る予定があるとは聞いていないぞ!」

「うん。そもそも私、あなたたちへの連絡手段持ってないし。さっきこの子たちにも話したけど、急にこの大雨でしょ? 心配ってほどじゃないけど、様子見てあげようかなって思って」

 

 上げた手の一方で髪を弄びながらなんでもなさそうに言うミカを見て、声を荒げたのは通信機を持っている生徒だった。

 

憐れみ(mercy)のつもりか? お前の助けなどなくても私たちは——」

 

 奥からやってきたリーダー格の生徒が片手で静止して、頭を下げた。

 

「頼む。聖園ミカ。実際のところ、手を貸して欲しい」

「リーダー!? 何故ですか!?」

「意地を張るのはやめろ。私たちには、使えるものは全て使う意地汚さが必要だ」

「し、しかし、マダムに知られたら……」

「ふん。あの怪しげなババアがここのような末端のことなど気にするものか。それに聖園ミカは、"こちら側"の人間だ。一時的に協力してもそれほど不自然ではない」

 

 ミカは照れたように目を逸らした。へっぴり腰だったアリウス生が目に入ったが、彼女はすでに自然体に戻っていた。

 ミカはそれとなく周囲を観察した。ミカが立っているのは出入口からの階段が終わり、地上から数メートルほど地下になった場所だろう。道幅は2メートルくらいで、余裕を持ってすれ違うことができそうだ。ミカは地下にしては案外広いな、と思った。奥はすぐ曲がり角になっているので、この辺りだけかもしれない。荷物の集積や人員の出入口のためだろうか。

 天井には蛍光灯が付いており、視界に不足はない。

 足元は濡れているが、水が溜まるほどではない。階段の脇に側溝が作ってあるのも見えるため、今はまだそちらに流れているのだろう。

 

「リーダーがそういうなら、まあ……」

 

 その声で、ミカは2人に意識を戻した。多少の葛藤はあったのだろう、しぶしぶと言った様子で俯いて自然と一歩下がる通信機のアリウス生。

 

「話はまとまったみたいだね。じゃあ、指示をもらえる? リーダーさん?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ミカはリーダーの指示に従い、複数の箇所で土嚢を積んで木材を組み上げる作業を終わらせた。外の雨は変わらず降り続いている。いや、それどころか勢いを増しているような気さえする。滝のような大雨である。

 幸い、これまでの浸水対策が奏功しているようで、地下施設のこのカタコンベ内が水で溢れるということにはなっていない。

 一息ついたところで、リーダーが口を開いた。

 

「助かったよ、聖園ミカ。その……こちらにも色々と思惑があるし、お前にもあるんだと思うが……、こういう時だけでも手を取り合えるのは正直、ありがたいな」

 

 はにかんだ表情からは、達成感と充実感が伺える。ミカもにこやかに返した。

 

「ううん、私も、手伝えてよかったよ」

 

 ミカは少し逡巡した。彼女が指摘した"思惑"について、彼女に伝えるべきかを。それほど大した内容ではない。まずは、スクワッドがどうしているか聞くだけだ。

 

「えっと、これって、どこから出ればいいのかな。この辺りはもう閉めちゃうんでしょ?」

「閉めるということはないが……あたりが水浸しでは歩きにくいだろうな。案内しよう。地下は入り組んでいるが、地上に施設がある出口も多い」

 

 ミカの話を聞いたアリウス生は歩き始めて、すぐに立ち止まった。

 

「出るのはトリニティ方面でいいのか?」

「あっ、そうだよね。……うーん、せっかくだし、スクワッドのみんなと話しておこうかな。どうしてるか、分かる?」

「スクワッドはマダムのお気に入りで、あちこち出向いているからなあ。今どうしているかはまでは……」

 

 チラリとリーダー格の生徒がミカを見た。何か知っているらしい。

 

 その瞬間、ミカの脳裡にヴィジョンが走った。

 鋭い頭痛に手で頭を押さえる。

 

『"超える力"……いや、"過去視"か。その感覚に身を委ねろ。多少頭痛はあるらしいが……』

 

 エメトセルクの言葉を聞くや否や、意識が薄れていくのを感じる……。

 

 

 ★★★

 

 

 サオリだ。ミサキと話をしているらしい。薄暗い洞窟のような場所を歩いている。カタコンベ内のようだが、ミカがいるあたりと比べて明らかに整備されていない。

 

 2人のすぐ後ろには外が見える。カタコンベに戻ってきたところだろうか。

 

「リーダー? ここは?」

「カタコンベの番外出口の一つだ。お前も知っている通り、カタコンベは管理されていない出口がいくつもある。元々密教の集会所だったからな」

 

 ある場所は密教の集会所、ある場所は墓地、ある場所は防空壕……。今でこそ大きくひとまとめにして『カタコンベ』と呼ばれているそれは、長い年月のなかで様々な目的で作られた地下施設が複雑に融合して出来上がった、さながら迷宮である。内部構造はおろか、出入口でさえも、幾つあるのか、どこにあるのか、全て把握している者はいない。

 泥沼の内戦が終わってから、出口に管理番号を振って周辺を整備し、利便性を高める努力をしているが、主要な箇所にしか対応できていない。

 番号のない出口は俗に番外出口と呼ばれており、中には天井の崩落や土砂崩れなど塞がってしまっているものや、逆に地盤沈下や地質調査のための掘削などで新たに見つかるものもあった。

 今や上層部も、末端の兵士も、誰がどの出口を知っているか把握していない。

 

 そして、サオリは。

 幼い頃から兵士としての教練を受けつつ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ、アズサを率いてきたリーダーである。自然、出口を知る機会は多かった。さらに、ゲリラ戦にも生かされる地理把握能力や記憶力を含めた高い能力と豊富な経験で、他人より、上層部より多くの番外出口を把握している。

 

 一見、天井が崩落した行き止まりに見えたそこだが、サオリがいくつかの瓦礫を動かすと人が1人ギリギリ通れる程度の隙間ができた。

 

「この奥からアリウス側にすぐ出られる。行くぞ。雨が降る前にアツコと合流しておきたい。マダムの動向も……少し、気になる」

 

 チラリとミサキを見やってからサオリが隙間に進むと、ミサキも続いた。狭まっているのは瓦礫のあたりだけで、少し進めば2人で並んで歩けるくらいはありそうだ。ミサキが完全に中に入ったところで、サオリは再び瓦礫で巧妙に隠蔽した。

 

「よし。行くぞ。整備されていないから足元に注意しろ」

 

 2人は無言で道を進んだ。電気は来ていないエリアらしく、サオリのもつ懐中電灯が頼りである。人が来ることはほとんどないようだが、そのせいでと言うべきか、足跡はよく保存されている。サオリのものは真新しいが、そうでない古そうな足跡もいくつか残っている。

 

 (もしここ通るなら、足跡は上手く隠す必要があるかな……)

 (……何考えてんだろ? )

 

 ミカは自分の考えに少し困惑したが、サオリたちが見覚えのある……つまり、ミカが今いる辺りまで歩いてきたのでそちらに意識を向けた。サオリたちがここを歩いていたのは雨が降る前のことだから、今は既に彼女たちのアジトにいるはずだ。この雨で遠出はしていないだろう。

 

 (少なくとも、アリウス内にはいる)

 

 

 ★★★

 

 

 耳鳴りと共に、ミカの意識が現実に戻ってきた。思い出したかのように現れた頭痛が引いていき、心配そうに様子を伺うアリウス生と目があった。

 

「どうした? 体調が悪いのか?」

「いや、……ううん、大丈夫。今思い出したけど、スクワッドの皆はやっぱりアリウスにいるはずだから、ちょっと行ってみるね」

「そうなのか? なら、カタコンベの出口まで案内しよう。その先は……悪いが、彼女たちの拠点は知らないから手伝えない。知っていそうな知り合いもいないし……」

「ううん、大丈夫。1人でなんとかするよ」

 

 アリウス生は怪訝そうだったが、ミカの強い口調に負けて、追及を控えた。本当は監視をつけるべきなのだろうが、スクワッドが聖園ミカを知っているならそれ以上の監視はないだろう、とも思った。

 

 

 しばらく歩くと、水平な出口があらわれた。この辺りは地形の関係なのか、元々の建造物の目的が違うのか、地上に建てられた建物が多いようだ。

 そして、アリウス自治区の中心部に近い場所でもある。

 

「ここなら、この雨でも出られるはずだ」

「ここまで、ありがとね」

「いや、私たちとしても助かった。フフ、お嬢様があんなふうに泥に塗れて力仕事をするとはな」

 

 アリウス生の指摘通り、ミカの靴も指先も泥で汚れてしまっている。

 しかし、ミカの服は綺麗なままだった。全身泥まみれなアリウス生たちと比較して、裾すら一切汚れていないのは少し不自然な感じもしたが、わざわざ指摘するほどのことでもないか、とアリウス生は思い直した。

 

「まあ、たまにはね。……じゃあね」

 

 扉を開き軽く手を降るミカに、アリウス生は手を上げて返し、ミカが扉を閉じるまで見送っていた。

 

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