たとえ翼を落とされても   作:ミスブルー

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神里綾華が私達が住む世界、地球で過ごします。

オリジナルの登場人物が出てきます。
この登場人物達の物語は小説家になろうにて語られています。

巫凪龍太
桜カオル
余語志郎
パトリシア・ユピテル

この4人が神里綾華の案内人です。

お楽しみいただけたら幸いです。


青の世界と呼ばれる場所

とても暑い夏の日俺は生徒会の雑務の為に森宮の外へ来ていた。

暑い。

ただ暑い。

 

「ちょっと龍太、真面目にやらないと終わらないわよ」

 

彼女はパトリシア・ユピテル。

こことは違う世界出身で結構偉い立場にいる人だ。

 

「俺より遊んでいる人がいるのはいいのか!」

 

俺が今まさに遊んでる人に目を向ける。

「呼んだー?」と大きい声が返ってきた。

彼女は桜カオル。

俺の恋人であり森宮学校の生徒会のトップにして魔法使い最強と言われてる人だ。

彼女の周りは溢れでる魔力と風と光が乱反射し夏を楽しんでるのがよく分かる。

 

「でも森宮の外だから俺も遊びたいよ」

 

そう口するのは余語志郎。

パトリシアとは恋人同志であり錬金の魔法を使う。

俺達は生徒会でありそしてチームのメンバーだ。

 

チーム名はチーム巫凪。こんな名前でいいのかと思いたくなる。

 

俺達は今夏は暑く冬は寒いというそんな地域の場所にいる。

 

「少し休憩するか」

 

俺の言葉に三人は喜ぶ。どんだけ嫌だったのか…。

実際雑用というのは陣屋の蔵の整理であり地味かつ暑いだった。

みんなは休憩と言うことで観光に足を運ぶ。

 

「久しぶりにみんなと遊べるな」

 

俺はそう呟く。

 

「すみません」

唐突に陣屋の人に声を掛けられた。

整理した荷物の運んでほしいものと分けてほしい物と次の雑務だった。

少し長くなりそうだったので三人に俺は「すぐに行くよ!」と声を掛けた。

 

「「早く来てね!」なさいね!」とカオルとパトリシアに言われる。

 

話が終わり俺も向かおうと思った時…空気が冷えていた。

ここは観光客も大勢訪れる場所となっている。

江戸時代に郡代・代官が治政を行った場所で300年前まで実際に使われていた場所でもあった。

今は俺たちの雑務の為に臨時閉館となっているが重要な文化財であることは間違いない。

俺は冷えた空気を辿る。

ここから先立ち入り禁止の立て札を見つけた。

この先から強い冷気が流れてきていた。

夏なのに。

何かが起きているかもしれない。

それを考えて…感じて力になるのが魔法使いだ。

 

俺は失礼を承知してその先を行くことにした。

 

雪が降っていた。

「夏…なのに雪?」

 

枯山水の庭の真ん中に女の子が横たわっていた。

薄い服に降ろした長い白い雪のような髪。

白い肌…一目で美人だと思った。

彼女は満身創痍でとても疲弊しているように見えた。

 

俺は駆け寄り身体を起こすと彼女は目を覚まし俺を殴った。

 

女の子は悲鳴を上げた。

こわい、いやだ、こないで、さわらないで、たすけて、そんな悲鳴のような声で女の子の瞳は恐怖で染まっていた。

ころさないで、ころさないで…と俺を見て叫んだ。

この大声に陣屋の人達もやって来た。

女の子は不意に電源が切れたように気を失った。

俺は陣屋の人達に何があったかを話しチームの三人にも連絡を入れる「陣屋で人が現れた」と。

 

こんな変な連絡だが理解してくれるのも不思議なものだ。

真っ先に駆けつけたのがカオルだった。

 

「龍太くん!って顔!大丈夫…?」

 

結構強く殴られたらしい。

俺は頷く。

 

後から戻ってきた余語とパトリシアも事情を聞いて倒れていた女の子を病院へ連れていくかと話が出たが彼女の怯えようを陣屋のみんなは思い出したらしい。

ひとまず客間で休んでもらっている。

 

「蔵の整理さっさと終わらせないとね」とパトリシアは話すとそこから一気に仕事モードに変わり余語を連れて行った。

 

俺もカオルも蔵の整理を急ぐことにした。

その間に森宮学校の教員へ連絡すると迎えを手配してくれる事になった。

蔵の整理の途中、女の子が目を覚ましたらしい。

俺とカオルが行くことにした。

部屋の前に立ちノックをするも返事はない。

襖を開けると布団から身体を起こしていた彼女がいた。

 

湯呑みが空っぽになっているところを見ると喉が渇いていたらしい。

俺とカオルを見て湯呑みに視線を映す。

 

「ごめんなさい…勝手に飲んでしまって」

 

いきなり謝られた。

その目にはやっぱり恐怖があった。

 

「…それは君のだから謝らなくていい」

 

最初の事もあり俺は遠慮がちにそう言うと彼女は「ごめんなさい」と言った。

近づかれるのは嫌だろうか…と考えていた時カオルは彼女の前まで歩きゆっくり座った。

 

「こんにちは、はじめまして」

 

カオルは自己紹介から始めた。

自分の名前と着てる服で学校に通っている事を伝えそしてはっきり「ここにあなたの敵はいない」と。

何かあればカオルはこの子を守るつもりの意思を示した。

 

「わたしの隣にいる人は――」

 

俺の紹介もしてくれた。

気も遣ってくれたらしい。

話終わるとカオルは俺を見た。

何か言わないと!と目で言われる。

 

「改めて…はじめまして。巫凪龍太です。

こんにちは。さっきはごめん」

 

彼女は謝られたことに驚いたのか首を強く横に振った。

 

「名前は…あるのか?」

 

「綾華…です」

 

「苗字は…?ってまあいいか…どうして陣屋に倒れていたんだ?」

 

「……。陣屋…?」

 

綾華は部屋を見渡す。

 

「知ってる場所?」

カオルはそう聞くと綾華は頭を少し抑えるように首を左右に振った。

 

「私は……」

 

綾華は口を開いたがそのまま布団を握り締めて何も言わなくなってしまった。

代わりに俺が口を開いた。

 

「ここは高ノ岾陣屋って言って夏は暑くて冬場は雪が沢山積もってめちゃくちゃ寒い場所なんだ」

 

「??」

「??」

 

綾華もカオルも突然の言葉に何を言い出す?ってそんな表情だ。

 

「…話してくれた方が嬉しいけど話せないことがあるなら何も言わなくていい何も話さなくてもいい。でもこの世界の事を…せっかくここに来たんだ。何か縁があるかもしれないし知っていってほしいんだ」

 

「……」

 

カオルは綾華の様子を窺う。

彼女は俺の言葉を考えているようだった。

ゆっくりと小さく頷いてくれた。

 

「それじゃ…綾華ちゃんは着替えないとだね。その格好は異世界の服だろうけどなんかみすぼらし…なんかそれ外で着る服ってより…」

 

カオルは思ったことを口にすることが多いが最後まで口にはしなかった。

ちょっと言葉を考えたらしい。

俺も同じことを思っていた。

 

「和服は…似合いそうだけどなんか違うし目立つし買いに行く…ちょっと遠いかな?パティちゃんのお洋服は…サイズ合わなさそうだし」

 

「カオルの服しかないな…」

 

カオルは「そうだよねー」って言う。

 

実際和服は綾華には似合うだろうが目立ちそうだ。陣屋の者奉行に異世界のお嬢様が来たなんて言えば信じられてしまうだろう。

 

「…いいんですか?…私はこれでもいいですけど…」

 

俺とカオルは彼女の言葉に思わず顔を見合わせた。

彼女はいったいどこから来たんだろうか…。

 

「ダメ!絶対ダメ!そんな奴隷みたいな格好!だめ!」

 

カオルは言った。

というか最後まで口にしなかった言葉を言った。

我慢できなかったらしい。

 

そんな言葉に綾華は驚いた。

 

「で…でも私は…」

 

綾華も思わず何かを言おうとしたがカオルは言わせなかった。

 

「ダメ!女の子はオシャレするんです!龍太くんも綾華がキレイなお洋服着た姿がいいよね!」

 

捲し立てるように言うので俺は首を縦に振った。

実際にそう思った。

 

綾華も「そこまで言うのでしたら…」と納得してくれた。

 

戻ってきたパトリシアと余語もそうしよう!って話になりパトリシアは自分の洋服とにらめっこして四苦八苦してタメ息を吐いていた。

ぁぁ…なるほど。

そうしてカオルの服を着た綾華が出てきた。

 

「おぉーキレイだー」

 

余語がそんな感想を言った。

 

「そうだな。似合うな」

 

俺もそんな感想を言う。

蔵の整理は済んだので森宮からの迎えを待つだけだ。

 

パトリシア曰く、綾華という女の子は魔法国異世界にはいないらしい。

東の国っぽい名前らしくもあるがその国にもそんな外見をしている人はいないそうだ。

パトリシアは異世界の出身であり俺達の暮らす森宮という場所に異世界に繋がる空間があるのだ。

そのおかげで俺達は別の世界の人というのに慣れている。

 

 

「綾華ちゃん気をつけていってらっしゃい」

 

「…え?…あ、その…はい」

 

陣屋の人に見送られ俺達は商店街の方へ足を運ぶ。

彼女は街並みを珍しそうに見ていて俺達の話しに相槌を打ち気になることがあると「あれはなんですか…」と申し訳なさそうに尋ね俺達4人はそれに答えていく。

 

彼女の興味を引くものは機械的な物が多かった。

歩き方やその仕草の所作は丁寧だ。

いったいどんな場所にいたのか綾華は何も話さない。

でもそれでもいいと俺は思う。

 

「あ、ラムネだ。俺ちょうど喉乾いてたんだよね」

 

余語が外に売られているラムネに目を付けた。

ラムネは冷やされている水に浸けられており小さな噴水のオブジェのようなオシャレな売り方をされている。

太陽の光に照らされてキラキラ光っている。

 

「一本400円だって」

「ガラスって貴重だから」

 

カオルとパトリシアが話す。

綾華はそれをじっと見つめていた。

 

「気になるか?」

 

「え?…まぁはい。私のところでは……」

 

「??」

 

「私のところでは…あれ…?」

 

「綾華?」

 

「思い出せないんです……思い出そうとすると怖いことばかり思い出して…」

 

綾華がそんな話をした時、ラムネが沈んでいる水の中が光っていた。その光は俺の目へ入ってきた。

 

「イッ……て」

 

その目を抑えるような行動に4人は心配の声を挙げた。

見たことない星空と七人の人影、そして和風の建築物が並ぶ国が見えて俺は誰かの視界を見ていた。

両親を幼い日に亡くし刀を懸命に振るう姿を見た。

 

「…………」

 

目から痛みが引いた。

 

「龍太くん…?大丈夫?」

 

「ラムネ…」

 

「へ?」

 

「ラムネ5本お願いします」

 

「え?」

 

「はいよ5本ね」

と4人はいつの間にか目の前にいたおばあちゃんにびっくりしていた。

ガラスの捨てる場所がないからということでその場で飲むことにした俺達。

 

「龍太くん目は大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとうカオル」

 

「あなたがいきなりそのなに…なんとか病に目覚めたんじゃないかと思ったわよ」

 

「パトリシア、龍太は中二病だと思う」

 

「おぃ志郎」

 

「龍太さん、本当に大丈夫ですか…?」

 

「大丈夫だよ、はい綾華の分だ。開けれるか?」

 

「え?…ありがとうございます」

 

「ビー玉固いよー!」

 

カオルが風を使ってビー玉を押し込もうとしたので開けてやる。

 

「えっへへありがとう!」

 

余語もパトリシアも綾華も普通に押し込めて開けていた。

余語やパトリシアはともかく綾華は慣れた動きだった。

似たようなものを飲んだことがあるのかもしれない。

飲みながら考える。

この話はきっと共有していく必要がある。

でももう少し落ち着いたら話そう。

俺はみんなを見る。

楽しそうだ。

綾華も楽しそうだった。

 

服屋にやってきた。

これから先しばらく入り用になるとの予想をしてだ。

 

「でも私お金もありませんし…」

 

「私達四人で出すから気にしないでいいわよ」

 

パトリシアが言う。

 

「…わかりました」

 

綾華は素直に言った。

 

「ねぇ龍太、私ちょっと怖がられてる?」

 

こそこそと俺に聞くパトリシア。

 

「…自己紹介に問題があったんじゃないか…?」

 

「なんでよ至って普通でしょ」

 

「…『私はパトリシア・ユピテル、魔法国次期魔女王よ。これでもかなり偉い立場にいるんだから』」

 

「事実じゃないの…」

 

「何で拗ねるんだ…事実だが今の肩書きは魔女だけでよかっただろうに」

 

「その方がカッコよかった?」

 

「あー…」

 

「ふん、次はそうしてみるわ」

 

カッコよさは置いておいてシンプルでいいと。余語なんて『余語志郎です、錬金術師だよ』のこれだけだったからな。

そうこうしてる間にも余語とカオル、綾華は服をあれやこれやとやっていた。

 

綾華はパトリシアに対しては敬う姿勢のような態度だった。

パトリシアから見ても余語やカオルに俺への対応の差を感じたのだろう。

 

「綾華ちゃん装飾って付けたりするの?髪飾りとかは?」

 

カオルの言葉に綾華は「多分ですけど…」と答えたりしていた。

服はどうした。

いつの間にか2人はアクセサリーを見ていた。

 

「あ、これ似合うかもっ」

 

髪留として使う赤桜色の編み紐だった。

その2つをカオルは綾華に付けるように合わせてた。

 

「どう綾華、鏡見てみて!」

 

「…はい…。……!」

 

綾華本人が何かに驚いていた。

 

「……あの私…これを私は…私…」

 

鏡に反射した蛍光灯がキラキラして俺の目がまた痛んだ。

 

見たことない星空、知らない七人の人影…そして…。

 

顔は見えない、口元だけだ。

だが綾華と同じ髪色した男の人が話ている。綾華を大事に思っていることが分かる。

 

目の見えない不自由な人と話してる景色に変わった。

綾華は自分が街娘だということにしてその人と話しているようだった。

 

景色が変わり今度は妙なアクセサリーが俺の目に映った。

真ん中には宝石のようなガラス玉が埋め込まれている。

綾華の持ち物だろうか…?

 

『神の目』

 

頭にそう文字が流れてきた。

 

見たことも聞いたこともない。

 

でもきっと大事な物。

「――じゃあこれもあれも買うよ!前にも似たようなの持ってたならきっと何か分かるかもだし綾華ちゃん!」

「服とか決まったら会計済ませておくわね」

とカオルとパトリシア。

 

カオルは何かを聞いたのだろうか。

そんな口振りだった。

痛みが引くと目の前の景色はカオルが綾華に髪留を買おうとしているところだった。

 

俺はスマホを開く――

 

「もしもし巫凪です。先生今いいですか?」

 

ーーーーー

 

 

 

買い物が終わると俺はみんなに声をかけた。

陣屋に戻ろうと。

当然だがもうお迎えが来たーみたいなノリだった。

ただカオルは違っていた。

 

「ごめん、みんなわたしからも話したいことがあるんだ」

 

なんとなくカオルと俺の話す事は似ているような気がした。

陣屋に戻ると森宮学校の先生、浅井安津子先生、もといグラサン女がいた。

 

「今回も色々背負ってきたみたいだな」

開口一番それだった。

 

俺とカオルは「「森宮にはまだ帰れません」」だった。

 

「…理由はお前達と一緒にいる君か?」

 

「…!」

 

グラサン女が言うと綾華は反応した。

 

「わ、私は…」

 

「綾華と言うのだろう。事情はそこの巫凪から連絡を聞いている」

 

「…そうなんですか」

 

「あぁ自己紹介を先にさせてもらおう。私は浅井安津子、森宮学校という場所で教員をしている」

 

「教員…学校、寺小屋の先生ですか?」

 

寺小屋…?

思わず俺の頭が反応した。

 

「そうだ。…それで帰れない理由とは?」

 

グラサン女は俺とカオルを見た。

「…まずは俺から話します」

 

綾華といる時、水や鏡が光でキラキラした時に目が痛んだこと。知らない星空と7人の人影、俺のじゃない別の誰かの記憶が流れ入ってきたこと。記憶の内容、そしてその記憶の持ち主が綾華であること。そして神の目という宝石らしき物が最後に映ったこと。

 

「神の目…」

話し終わると綾華は小さく呟いた。

俺は綾華に向き直り頭を下げた。

 

「綾華、黙っててごめん。みんなと楽しむ姿を見ていたらこの話を言うのは今は良くないかもしれないって思ったんだ。ごめん」

 

「そんな…頭を上げてください。…ありがとう…ございます…楽しそうでしたか…私」

 

「うん、とても」

 

「………良かったです」

 

少し綾華と仲良くなれた気がした。

 

「すまない、いい空気のところ悪いがその話だけでは些か信憑性が薄いな。ましてや神の目なんて聞いたこともない」

 

「それなら先生!綾華ちゃんが話してくれたんです!」

 

「…何をだ?」

 

「私はたしかにこの編み紐に似たような物を髪に着けていた気がしますって。その時、龍太くんは目を抑えてました。水の時も綾華ちゃんは水を凝視してました。その時も龍太くんは」

 

「目を抑えたということか」

 

「はい!!!」

 

「…………」

グラサン女は少し黙考した。

 

「疑念はある、情報もまだ少ない証拠もない」

「「「「先生!」」」」

チーム巫凪の声が重なった。

 

「あぁわかっている、話は最後まで聞け」

 

「つまり?」と余語。

「気になることは沢山あるがまずはその話を信じよう」

 

俺達はやったぁー!と喜んだ。

 

「綾華」

 

「は、はい」

 

「君はどれだけのことを覚えている」

 

「…………」

 

何かを思い出そうとしたのだろう。

だがその瞳は一瞬で恐怖に変わったのだ。

自分の身体を抱きしめ部屋を飛び出した。

 

「巫凪何をボサッとしている!追いかけろ!」

 

「はい!!」

 

飛び出した瞬間にグラサン女は鋭い声を発した。

俺は直ぐ様立ち上がり部屋を後にした。

 

信号や歩道は覚えたのか事故にはあっていなかった事に安心した。

赤い橋の下に彼女はいた。

あそこから降りたのか。

 

「みんな心配してるぞ」

声をかけた。

 

「…私の心配なんてしなくてもいいんですよ…帰るところもわからないのに覚えてるのは…一つだけ」

 

「…一つ…?」

 

「その場所で私に何かあったのか想像付きます…?」

 

「…最初に見た服装からなんとなく」

 

「………」

 

「俺の頭の中に綾華のことが入ってきたんだ」

 

「………」

返事はないから喋る。

 

「小さい頃の記憶、幼くに両親を亡くしてあれはきっとお兄さんだろうか、妹を守るために自分の家を建て直すために頑張っていた背中を見ていたことを」

 

「………」

 

「華道や勉強、所作、踊りも綾華は一生懸命にやってた。中でも刀を一心不乱に毎日振っていた」

 

「刀…?」

 

ようやく綾華は口を開いた。

 

「うん、多分戦うためなのかな」

 

俺は綾華の手を取ってその左手を開いてみせた。

 

「覚えてなくても…経験はそれを覚えるんだ。綾華、自分の手を見るんだ」

 

「……」

 

彼女は手を見た。

「これがなんですか…」

 

「左手の薬指と小指の付け根にできるマメは、柄頭を意識して刀が握れているという意味になるんだ」

 

「……………………本当ですか…?」

 

「本当に。最初に綾華がいたあの陣屋は奉行所でもあったんだ。俺の見た光景もそんな景色だった」

 

しかもこのマメはカオルにもあるからな…。カオルの場合は刀じゃないけど風と光で作った剣らしいけど。

 

「時々、ふと思い出せそうなことがあるんです…なのに思い出そうとすると私はここに来る前の記憶しか覚えてないんです…私は自分の身体を…」

 

「綾華、言わなくてもいいよ」

 

「…すみません…」

 

「あの時陣屋では言わなかったあそこは綾華の家でもあったのかな?表札も見えたんだ」

 

「………それは…いったい」

 

「神里綾華」

 

「……………」

 

「神里綾華、それが君の名前だ」

 

「…旅…人さん…」

 

「…?って綾華?」

 

顔を挙げた綾華の顔は涙でいっぱいだった。

そして彼女は大声で泣いた。

たくさん泣き終わってた頃には夜になっていた。

 

「私は…神里綾華。この名前だけは思い出せました。それでも恐怖が私を縛ります…忘れろと言うように」

 

「服に名札でも付けるようにお願いしようか」

 

「…それは少々お恥ずかしいですね」

 

「そうか」

 

「私を覚えてくれる人がいるなら今はいいと思っています」

 

「わかった」

 

恐怖が私を縛る、頭を弄くられた可能性もあるかもしれないな…。

「とりあえず陣屋に戻ろうって言っても閉まってるから連絡だな」

 

「そうですね…そういえばその連絡というの便利ですね」

 

「…これはスマホって言うやつだ」

 

綾華が興味を示していた。そのうちに必要になることもあるかな?

連絡をすると『お宿もらったー!華扇までー!』と楽しそうなカオルの声が聞こえてきた。もらったとは…?とりあえず向かう旨を伝えた。

最近カオルとは生徒会で忙しくなり会話も少し減ってしまったような気がする。

二人の時間も増やせたらいいな…

頑張らないとな…。

 

「華扇…ここ結構高いところだよな……よくもまぁ何泊も許可が…」

 

「龍太さん私達も向かいましょう。お宿楽しみですね」

 

宿に到着したらみんなが出迎えてくれた。

食事と温泉を堪能した後、話し合いだ。

食事は賑やかだった。

特に綾華は何を考えたのか締めである鍋をご飯とデザートを混ぜていた。

もしかしたら意外と味覚音痴みたいなところもあるのかもしれない。

 

 

俺は温泉へ。

余語もいた。

 

「やぁ龍太!来たね!」

「男二人きりってのもちょっと久しぶりかもな」

「そうだね、最近行くとこ行くとこ事件が絡むし今回みたいに出会いもある」

「魔法使いの運命みたいなものらしいな…」

「ちゃんとあの子にもフルネームがあって良かった。帰る場所があって待ってる人がいるんだ」

余語がそんなことを言う。

 

「そうだな。やっぱり俺達の知ってる異世界の出身じゃなかった。全然知らない遠い所だ」

「でも何でそんなところから来たんだろう」

 

余語が足をバシャバシャさせた。

 

「…普通に暮らしてたらそんなことにはならないだろうから誘拐されて来たとか…」

「あぁありそう!桜ちゃん拐った人達とかもいたくらいだし」

「結局あれはこっちの手が早かったおかげでどうにかなったけど上の連中は捕まえれなかったらしいし…」

 

拐ったか。

綾華の世界に干渉できるほどの力か…。

大量の魔力で溢れた今のこの世界ならそれも難しくはないのかもしれない。

 

温泉から出た後、俺達はタピオカを飲みながら話し合いを行う。

「この味、私覚えてるような…」

と綾華は言った。

そのうちワカメとか怪しい魚介類とか突っ込んだ異形な味をしたタピオカを出すなんてこと…ないな。

絶対不味そう。

 

「方針は任せるってグラサン女は言ってたわよ。大まかには綾華の記憶探しをメインに行うってことでいいのね?」

 

「そうだね。その記憶って言うのがどのくらいなのかだけどさ」

パトリシアと余語が話す。

 

「私自身、どこまで覚えてるか…自信がありません」

 

「パトリシア、綾華の頭の内部って見れるか?」

 

「!そ…それは私の頭を弄るってことですか?龍太さん…」

綾華は怯えるように反応した。

 

「遠回しに言うとそうだな…ここに来る前に何かをされたかもしれない…綾華は今も恐怖と向き合ってるはずだ」

 

「それは……」

 

「何よりパトリシアの腕は本物だ」

 

「私失敗しないの…ってこれは違うでしょ…ああもうとにかく綾華は横になってるだけでいいから」

 

「何もなければそれが一番だしな」

 

「……」

綾華は悩んでいた。

「綾華ちゃん」

それまで静観していたカオルが口を開いた。

「ここにあなたの敵はいないから」

 

初めて会った時もカオルはそう言った。

 

「…………わかりました。お願いします…」

 

綾華は横になった。

「始める前に何か今したいことあるかしら?綾華」

「…今ですか?横になりながらですよね?」

「そうよ」

「では龍太さん…その…手を握っててくれませんか…?」

俺はカオルを見ると頷いた。

 

「わかった、いいよ」

 

左手を握る。

 

「さて…じゃあおやすみ綾華」

 

パトリシアの魔術で彼女は深い眠りへ落ちていった。

 

「カオル、龍太、志郎。ここから沢山の魔力がいるわ。魔力寄越しなさい」

 

俺達は2つ返事でオーケーした。

 

「油水のように使っていいから!」

余語はそんなことを言う。

 

「お前そんなこと言ったらパトリシアはマジで使うぞ?」

「使うわよ」

「わたしのもいいよ」

「あなたは余裕がありすぎるのよね。供給より魔力の回復が勝るって相当よ」

 

そう言ってパトリシアは一呼吸した。

 

「さぁ、これより術式を始めるわよ」

 

始めてから二時間、綾華の脳には妖力を帯びた長虫がいることがわかった。脳の神経回路を破壊してその虫が神経回路に成り代わり新たな記憶を植え付けて侵食させているようだった。

 

「虫が一匹で良かったわ…そもそも廃人にさせる気はなく意識は持ってもらう必要があったってやつね」

パトリシアは呟く。

 

「かかりそうか?」

「かかるわ。志郎余裕よね?」

「うぷ…。大丈夫だよ…」

 

虫を殺して壊れた神経回路を魔力で太らせた回路に変える。

 

「問題は…この虫の記憶が本人に定着しているからそれは消せないってことだけどね」

「綾華ちゃんが消したくなったら消せばいいとわたしは思う」

「カオル…」

それは俺達のことを忘れるということだ。

 

「…まぁそうだな。俺達が覚えていればいい。それでいいんだ」

「うん、そうだよ」

俺とカオルは頷き合う。

 

「あなた達覚悟はあるみたいね」

「俺だってあるから!あるからね!」

「わかってるわ志郎」

 

さらに一時間が経った。

 

「あと少し…!!いけない虫が逃げるわ!」

 

パトリシアが叫んだ。

 

「逃げるってどこに…」と俺。

「外!外!龍太!志郎!捕まえて!」

 

「いやまだ出てきてないよ…って出てきたぁぁあ!!」と余語。

綾華の耳の中からムカデみたいな形状をした虫が飛び出し部屋を駆け回る。

パトリシアは魔力がいると言った。

カオルには魔力補助として手を出させたくないんだろう。

パトリシアは術式に集中だ。

結果、俺と志郎とムカデを捕まえることになるわけだ。

ムカデは窓を見た。空いていた。気付いた俺は窓を閉めた。

ムカデは一瞬立ち止まり恨めしそうに俺を見た。

 

「妙に賢いコイツ…そういや妖力がどうのってまさかこのムカデ…妖か」

 

ムカデの首が2つに増えて襲いかかってきた。

俺は重力の防壁で防ぐ。

杖を取り出し壁を作って動きを止めた。

 

「つ…捕まえたぞ」

「こっちも終わったわよ」

「良かったー…」

 

俺は座り込む。

パトリシアはムカデを素手で掴んだ。

 

「大丈夫なのか?」

「私はね?真似しちゃダメよ?」

 

ムカデはパトリシアの腕や手に身体を伸ばして噛んだり刺したり抵抗していたが全然肌に通らないでいた。

 

「妖ね。間違いなく。結構面白い力を受けているみたいだけど、こんなものあっても酷よね」

 

パトリシアはムカデをちょっとずつ握り潰し手のひらに集めながらぺしゃんこにして最後は灰に変えた。

 

「終わったわよ」

 

 

ーーーーー

 

夜中になると綾華は頭を抑えながら身体を起こした。

自分はどうなったのでしょうか。

頭が軽くなった感じがするということは上手く行ったのか。

見渡すと四人とも爆睡していた。

パトリシアだけはきっちりお布団に入って寝ているのは奇妙だ。

龍太は私の手を握ったまま寝ていた。

隣を見ると寄りかかるように寝ているカオルの姿があった。

志郎は枕と頭が反対になって寝ていた。なぜ…。

 

「…ありがとうございます」

 

誰にともなく私はお礼を述べた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

じゃああとは休もうとなり俺は綾華のそばに行き手を握ることにした。

 

カオルがとてとてやって来て俺の隣で寝てくれた。嬉しい。

 

俺は予感のような物があった。

 

こういう時、決まって俺は夢を見る。

 

『……な。』

『よ………な』

 

大きな屋敷に誰かがいた。

それは俺を見つけていた。

何かを言っている。

聞き取れない。

 

一人のシルエットが浮かんだ。

人の姿を真似た大きい怪物。

 

屋敷はまるで生きているようだった。

俺は前見るとそこにシルエットはなかった。

 

『よくもやってくれたな』

 

背後から男の声がはっきり聞こえた。

 

 

ーーーーー

 

「起きたら目からこれが出てきた」

 

俺はみんなに話した。

「なによこれ?」

 

「神の目」

 

「いや実物を私達が知るわけないでしょ」

 

パトリシアの言葉はもっともだ。

 

「これは間違いないと思います。でもどうして龍太さんの目から…?」

「きっとこれが記憶なんだと思う」

 

俺はそう答えた。

 

「けどこの神の目、真っ二つだよ」

 

「あと半分ってことだろうか」

カオルと俺は「うーん」と唸る。

「これが私の記憶…」

半分になった神の目を手に取り見つめる。

 

「この神の目って何が出来るの?」

 

余語の言葉に俺達は「うーん」と唸る。

 

「そこまで俺も見えたわけじゃないからな」

 

「…すみません私…覚えてなくて」

 

当の持ち主はこれだからな。

神の目は俺の目に戻って行った。

 

「便利ね。なるようになるわよ」

 

「今まで見つけたのは水や鏡だよね。光でキラキラしてた場所」

 

「じゃあキラキラしてるところとかに行けば見つかるかも。龍太くん行こう!」

 

「この街でそういう場所に行けばってことか」

 

観光目当てで行っても全然良さそうだ。

「それじゃ行きますかね」

 

俺達は今日もみんなと外に出る。

 




たまに書き手じゃなくキャラが勝手に喋ります。
そういう時は好きにさせています。
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