ありふれていた一般人、されど逸般人 作:リン・オルタナティブ
...え?実装されていない鯖もいるって?
さ、さぁ?なぜでしょうね?
目を覚ますと真っ白な空間に居た時の心境を答えなさいって問題が出てきたら、間違いなく答えられるだろうと私は思った。
辺りをぐるっと見回したところ、人っ子1人どころか建物の1つもない異常事態だ。まるで白紙化した地球に1人ポツンと取り残されたような、そんな感じだ。
何故こんなところに立っているのか、己の記憶を思い出そうとしてみたが、どうしてもこの空間に来る前後の記憶がない...否、正確には朧気すぎて全く思い出せないようだ。一応、自分自身はきちんと覚えているということは、記憶喪失の類ではないと革新した。
私の名前は
特に熱中していたのはFate/Grand Orde────通称FGO、そして原神の2作品だ。この2つとなると、言葉が止められなくなってしまうのが自分の短所といったところか。
仮に個人的に良いストーリーはと問いかけられると、もう私は語るしかない。FGOはやはり
ミクトランに関しては、オルト・シバルバー戦でほぼ単騎で殴り勝ってくれた絆10のティアマトマッマに感謝しかないですね。バレンタインイベントも、マッマらしくて解釈一致だったし──────。
......バレンタインイベント?
そこで私の記憶が、完全に復活した。そう、新ストーリーたる奏章Ⅱで実装された新たなサーヴァント、モンテ・クリストの為、「課金ゴー」をしにコンビニへ向かったはずだ。
「コンビニでカードは買ってない?いや、確かに到着して買ったはず...」
『...コホン。整理がつきましたか?』
考え込んでいたところに、私の声とは別の声で咳払いと私へ問いかけが聞こえてきた。その方向へ顔を向けると、そこには、雑に言うなら
私はその浮遊物に思い当たりがある。いや、知っていると言ったほうが早いぐらいだ。
彼女は恐らく、現雷神の雷電影の姉である雷電眞。魔神名は、バアル。
「う〜んと...一応、名前を伺っても?」
『あら、失礼ね。
なんと、こちらの読み通りとは言え、少々想定外だ。明らかに今の発言は、間違いなく彼女は私が何者なのかを把握していないと出てこないものだ。
だが問題は、その
「保険をかけておきたくて、ね」
『ふふ、そんなに警戒しなくてもいいわ。私は
「...へぇ」
私の口から、息と共に小さな驚きの言葉が漏れ出る。どちらかだと思っていた私の想像の斜め上を飛び越していったのだ。
「それなら安心して呼べますね...眞さん」
『私はそっち側の名前で呼ぶわね?旅人...いえ、菫さん?』
やはり、プレイヤー側の私もご存知のようだ。一体どうやって知ったのかが気になるが、今はそんなことを気にしている暇はない。私自身の現状を把握しなければ。
『聞きたいことが沢山あると思うけれど、時間がないから手短に説明するわね────』
そして、生死の狭間を漂っていた私の魂を
「さらっと言ってますけど、なんてことしてるんですか!?」
『あら、偶然にも1人分の魔力が残ってたのよね。ただただ浪費するより、未来ある若者に託したほうが実りはあるんじゃないかしら?』
ある意味、私は
「チキンレースってことですか」
『そう、かしら?内心は焦っているのかもしれないわね...私も』
そう言うと、
『さぁ、用意ができたわ。後は、貴方の覚悟だけよ。さっきも言ったけれど、時間はあまり残ってないわ』
ピシリと、ゲート付近の白い空間に黒い線でヒビ割れが入る。四方の端は既にガラスのように割れ、漆黒の瘴気らしきものが漏れ出し、徐々にだが私達の方へとにじり寄ってきていた。
その瘴気はまるで、生命のスープ...ケイオスタイドとアビス。そして忘れもしない、あの
「...私でも知っている世界に当たりますように!」
そう言って、私は目の前にある(恐らく)神櫻の花びらでできたゲートに飛び込んだ。通り抜ける直前、仄かに甘い、桜の匂いを鼻腔をくすぐった。
その記憶を最後に、一時的に私の意識はシャットアウトすることになった。
「...とまぁ、これが私の覚えてる限りの経緯だね」
私は備え付けられているリクライニングチェアに背を預けながら、自身の前にあるデスクの対面で同じ代物に恐る恐る座っている少年へと言葉を締める。
今私がいる場所は、今世の自宅。その2階にある自室内だ。狭くなく、だが無駄に広くもない。あるのはゲーム機とそれを接続しているテレビ。二組一セットのリクライニングチェアと飲食用のデスク。そして申し訳程度で壁際に備え付けられているベッドぐらいだろうか。
「えっと、つまり...菫さんは異世界転生してきたってこと?」
「ん〜...まぁ、大まかにはそんな感じかな」
目を輝かせながら問いかけてくる少年へ、私は言葉を濁しつつそう答える。何故濁したかと言うと、私はこの世界を
目の前の少年は、ありふれた容姿と形容することしかできない姿の人物。名を
なぜハジメと話しているのかというと、それは、私が今のこの家へやってきた時まで遡ることになる。
◇◆◇◆◇
この世界の私は、どうやら養子として今の家族の一員になったようだ。断言しないのは、記憶が安定していないからである。正確には、4歳以前の記憶がないのだ。だから、本当の親が誰かも知らないし、気にしたこともない。
私にとって、今の家族が本当の家族みたいなものだ。両親の職業は聞けなかったが普通よりもちょっと裕福なだけで、他はどこにでもいるごく普通の家庭だ。
しかし、因果は恐ろしいというべきか、私は前世と同じ苗字と名前を貰うこととなった。
そして、丁度この家族は南雲家のご近所で、付き合いもそこそこ長かったそうな。運がいいと言えば良いのか何なのか、私は偶然にもハジメの近くで過ごすことになったのだ。
馴れ初めは私が小学校に入って早々の事だ。両親の主催で南雲一家と共に私とハジメの入学祝いをしていた頃に、初めて顔をあわせた。
そうして私はハジメと大好きなもので意気投合したり、勉強を一緒にしたり、順風満帆な日常を送っていたが、小学4年生になった頃だけ一波乱あり、ハジメと私、そして新しく加わった
そのもう一人はと言うと───────。
◇◆◇◆◇
「お姉ちゃん。ハジメくんと何を話してたの?」
夕暮れ時になって外が暗くなり、、ハジメが自宅へきたした頃。キィ、と私の部屋の扉が開き、ひょこっと丁寧に顔だけを出してそう声をかけてくる女の子が1人。
髪を肩ほどまで伸ばし、フレームが細く黒縁のダテメガネをつけた、まだ幼さが抜けきっていない少女だ。
髪型が違うが、察しのいい人はもうおわかりだろう。そう、小学4年生の一波乱とは、
恵里自身の母親はどうしたのか等々、私にとって気になることが山ほどあるのだが、私ができたのは精々、恵里の自殺を止め、殆ど衰弱状態に近かった彼女を私の自宅へなんとか運び込む事のみで、疲労からぐっすりだった当時の私が起きた頃には、もう全てに片が付いていた。
あの1件から、私は両親の仕事について、絶対に触れてはいけないことなんだろうと確信した。表社会では絶対に口に出せないような──────。
「お!ね!え!ちゃ!ん!」
「むぐっ、聞こえているとも
「う!そ!絶対考え事していた!」
「こらこらやめたまえ。私の肩をポカポカ叩かないでほしいな」
「話してくれるまでやめないもん!」
恵里が私の自室に入ってきて、文字通り私の両肩をポカポカ叩いてそう言ってくるのを見ると、とても心がほっこりする。簡潔に言って、とても癒やしだ。
小学4年生当時の彼女はとても細く、折れてしまいそうなほど儚かったが、高校生になった現在、色白な肌はそのままに、気づけば平均的な体型に戻ってきていた。
性格も温和で大人しいのはそのままに、そこへ更に程よい元気が含まれているのを見ると、原作よりも健康的で、きちんと育ってくれたようだ。
「仕方ない、話はお風呂の中でしよう。長くなるし、その方が有意義に時間は使えるでしょう?」
「むぅ〜...わかった」
「よしよし、良い子だね」
私は恵里の頭を優しく撫でると、リクライニングチェアから立ち上がる。身体を一通り伸ばしてから、部屋のハンガーに掛けられていたバスタオルを取ると、恵里と一緒にお風呂場へと向かった。
全身を洗い、2人揃って湯船に浸かっている時、私はハジメと一緒の内容を丁寧に恵里へと話した。最悪冗談だと流す気でいたが、恵里は私の予想と反し何か納得したような様子だった。
彼女曰く、私はどうやら他の女子よりも大人びており、尚且つ安心して頼ることができるのだとか。ふと私は恵里の方へと顔を向けると、彼女は体育座りで湯船をジッと見つめていた。というよりも、こちらへ顔を向けてくれない。これは────。
「
「ボ、ボクは先にあがってるね!」
私が声を掛けると、恵里はそう言って慌てた様子で湯船から出ると、手短に身体を拭いて早々に風呂場から出ていってしまった。
「やれやれ。あの様子、やはり脈ありか...?」
私はひとりそう息を吐くと、浴槽の縁に背を預けて湯船に方まで浸かり、ゆっくりと脱力する。湯けむりに満ちた風呂場の天井を見つめながら、私は今後に向けて思案する。
ひとまずは、転移の当日まで体力をつけるための筋トレは続行するとして、あとはそれとなく誘導しつつ、両親のために手紙を用意してそれから───。
手短に今後の方針をまとめると、長風呂にならないよう風呂場から撤退する。恵里はと言うと、足早に2階へと向かったのを目撃した両親が、なにかあったのかいと心配して聞いてきたが、彼女のためにも、私は適当に白を切って乗り切った。
こうして、今日という一日は過ぎ去っていく。明日が訪れ、また何も変わらない日常が始まる。日常が終わる事を知っている私からしたら、今がとても貴重な時間だということを感謝すると共に、これから訪れる非日常への覚悟を固め、私は眠りについた。
──────皮肉にも、覚悟を固めた数日後、その時は来てしまったのだった。
ベットの左側、隣の部屋に繋がっている壁越しから静かな寝息が微かに聞こえてきたのを確認すると、ボクは布団の中から顔を出した。
「...ふぅ」
ボクは布団から顔を出したまま、日が落ちて暗くなった部屋の中で、ただただ1人ベッドの上で悶々とシていた。
ボクには、好きな人がいる。かっこよくて、頼りになって。ちょっぴりおっちょこちょいだけど、それでも大人っぽい。そんな人だ。
「伝えたかったぁ...なんで出て行っちゃったの...ボクの大馬鹿ぁ...!」
布団の中でモゾモゾと身体を左右に揺らしながら、ボクは自身へ怒った。あそこで告白できていれば、返事も聞けたのに...!
そう、ボクの好きな人は、今の血が繋がっていないお姉ちゃん────綾村菫だ。もちろん、家族としても尊敬しているけれど、ボクは
この話をするならば、あの時の頃まで時間を遡らなければならなくなる─────。
◇◆◇◆◇
ボクの本当のお父さんは、6歳の頃に交通事故で亡くなったが、その時から、ボクはお母さんから暴力を振るわれるようになった。
11歳の時、お母さんは男の人を連れてきた。その男の人から、ボクは邪な目で見られていたのは知っていた。だから、一時は髪を短くして男子のような口調にまで変えて自衛した。一人称の「ボク」は、この時から引きずっているものだ。
だけど、その変化に当時の友達は受け入れられなく、段々と離れていき、最終的にボクは孤立してしまった。
生きる事に意味を見出せなくなったボクは、橋上から飛び降り、自殺しようとした。分厚い雲が広がり、大雨が降っていた日だった。
「こんな大雨に、何しているの?」
意を決して飛び降りようとした時、ボクの背後から声が聞こえてきた。それも同年代の、幼さが抜けきっていない少女の声。
後ろへ振り返ると、そこに居たのが今のお姉ちゃんだった。同じ女の子なのに言い方が変だけど、当時の私からしたら、天使と言ってもおかしくはないほど綺麗だった。
人形のように真っ白な肌、大雨なのにキラキラと反射している白銀の髪。そして、全てを見通しているような淡い緑────翡翠の瞳。
「何か、
最初は適当にはぐらかして切り抜けようとしたけれど、彼女に事情の核心を突かれたため、ボクは諦めて何をしていたのか、どうしてこうなったのかを包み隠さず話した。
話している途中、ボクは涙が止まらなくなって、彼女の前で座り込んで泣いてしまった。すると彼女は、ボクの目の前にしゃがみ込むと、無言でボクを抱きしめて、こう言ってくれた。
「大変だったんだね。辛かったよね。...もう、大丈夫だからね」
◇◆◇◆◇
その後、泣き疲れて眠ってしまったボクは、目を覚ますと彼女の隣の部屋に寝かされていた。元々空き部屋だったのをボクのためにわざわざ簡易的な寝具を用意してくれたらしい。
ボクの母の行方は、今もわかっていない。というか、わかりたくもない。ただひとつわかることは、こんなボクを温かく迎えてくれた今のお父さんとお母さん、そして今も大切に接してくれているお姉ちゃんが家族で、ボクは幸せ者だということだった。
「...ふぅ。さて、と」
菫がありふれ世界へと転生した直後まで、時間は遡る。転生の際に使用したゲートを閉じた眞は、一息(?)つく。にじり寄ってきていた黒炎は、いつの間にか消え失せ、代わりに2人の人影があった。
片方は全体的に漆黒のコートと服に身を包み、左腕に甲冑のような義手を装着し、
もう片方は赤い長髪に一対の翼、SFチックな装甲がついた黒い服を着て、右目が黄金、左目が漆黒のオッドアイになっている少女だ。
『今回の助力、ありがとうございました』
「気にすることはない。オレとしては共に赴きたかったが、こうして
「...ふん」
『ふふ。貴方はともかく、彼女は溢れた断片から再生しましたが、霊基...でしたか?それが成立するということは、余程、記憶に残っていたようですね?』
浮遊している
─────
─────
『それで、他にも乗り込んでいる者はいるんですか?』
「ふむ、そうだな...」
「乗り込める実力のある奴らは、乗り込んでくるだろうな。あの娘を心から信頼している者たちは特に、な」
そう言うと、巌窟王は漆黒の炎に包まれ、炎が霧散した時にはそこに彼はいなかった。どうやら、彼も心から彼女を信頼している者の一人だったようだ。
というわけで、早くも原作が崩壊しました。
RTA更新ですね!これが最速かと思います(?)
個人的には時系列が崩壊しないよう調整したつもりでしたが、ユルチテ...ユルチテ...。