ヘイロー持ち男子アリウス脱走生に憑依した男、ばにたすに中指を立てる 作:シャケナベイベー
「悪い先生、遅れた!」
アビドス砂漠を土煙を上げながら一台のバイクが走り抜ける。バイクに乗った『観測者』はやがて前方を走る車に追い付くと窓を叩いて自身の存在を知らせた。
「『観測者』、良かった追い付いたんだ! 今対策委員会の皆とトラックを追ってるところでね、良ければ『観測者』には先行して貰いたいんだけど……」
「先回りして撹乱すれば良いんだな? 任せろ」
「うん、お願いするよ」
窓から顔を出した先生はバイクに乗る『観測者』に情報を伝え、その意図を察した『観測者』が力強く頷いた。
ギアを上げ、一気に加速したバイクは瞬く間にセリカを誘拐したトラックに追い付く。そして『観測者』から見て左側──助手席の横に付くと背負っていたアサルトライフルを引き抜いて照準を合わせ、そのまま問答無用とばかりに弾丸を発射した。
「ぎゃあああ!?!?」
「な、何だ!?」
助手席に座っていたヘルメット団の一人が弾丸の一斉射撃を受けて悲鳴を上げる。そして突然の出来事に運転手がハンドル操作を誤り、突然のことで急ブレーキを踏んだ。
「好都合だな」
一人呟いた『観測者』は割れた助手席側の窓から強引に体を侵入させ、持っていたアサルトライフルで運転手を気絶させる。そしてそのままエンジンを停止させると、乗っていたヘルメット団二人をトラックから引き摺り出して手持ちのロープで頑丈に縛り上げる。
そしてトラックの足止めを完了した『観測者』はバイクから降りると荷台を覆っていた布を引き剥がす。そこにはやはり、ロープで体を縛られたセリカが居た。
「大丈夫かセリカ?」
「え? げ、『観測者』……? なんで、アンタが……」
「助けに来たに決まってるだろ。他の皆も来てる──待ってろ、すぐ助けてやる」
言うやいなや『観測者』はすぐさま荷台に乗り込み、セリカを縛っていたロープを解くとそのままトラックから降ろす。
長時間ロープに縛られていたからか、足取りが覚束ないセリカを支えていると、一台のドローンとシロコが駆け寄ってきた。
『セリカちゃんと『観測者』さんを発見! 二人とも大した怪我は無さそうです!』
「ん、泣いてるセリカを発見」
「ア、アヤネちゃんとシロコ先輩!? い、いや、別に泣いてないから!!」
「予定より早いな。それに皆も追い付いたか」
『観測者』の言葉通り、遠くの方から先生やアビドス高校の面々が駆け寄ってくるのが見えた。
「うへぇ〜。セリカちゃ〜ん無事で良かったよ〜」
「はい☆安心しました!」
「ホシノ先輩にノノミ先輩も……」
「本当に良かった。ありがとう『観測者』」
「やるべき事をやっただけさ」
真っ先にセリカに駆け寄った対策委員会の面々が再会を喜び合い、先生と『観測者』が穏やかに言葉を交わす。
だが悠長にしている暇もない。すぐに敵がまたやってくるだろうと『観測者』は読んでいた。
「アヤネ。近くに敵性反応は?」
『え? は、はい、敵性反応は……ッ! 確認できました! 前方にヘルメット団兵力、多数! さらに巨大な重火器も確認しました!!』
「相当送り込んできたな……皆、どうする?」
「当然、包囲網を突破するでしょ〜」
「ん。このまま帰ったら余計に被害が大きくなる」
アヤネの言葉通り、遠くから無数の戦車やら何やらがこちらに向かってやって来ている。負けることはないだろうが別に無理に戦う必要もない。そう思って『観測者』は他のメンバーに問い掛けるが返ってきたのは抗戦の言葉だった。
それに小さく笑みを浮かべ、攫われた当事者であるセリカもやる気に満ちている事を確認した『観測者』は、頼れる『大人』である先生へ顔を向ける。
「て訳で先生、悪いが指揮を頼めるか?」
「勿論。任せてよ」
「よ〜し、それじゃ皆行こうか」
先生が力強く頷き、そしてホシノののんびりした合図と共に全員が駆け出す。
ノノミがミニガンで薙ぎ払うように銃弾をばら撒き、シロコがドローンによるミサイル攻撃、アヤネによる火力支援で戦車などの足止め、そしてセリカとホシノがあぶれたヘルメット団を的確に倒していく。
「お、お前ら怯むなっ! 敵は少数だ、数で押し切れば──」
「いや、それは無理だな」
「へ──ぷぎゃっ」
アビドスの活躍を見たヘルメット団の一人が指示を飛ばすが、そこに距離を詰めてきた『観測者』が前蹴りで体を突き飛ばすとその勢いのまま銃弾を数発撃ち込んで気絶させる。
しかし、そんな無防備な『観測者』の背中をヘルメット団の一人が撃ち抜こうとして───
「させないよ〜」
追い付いたホシノにあっさりと気絶させられる。しかし依然として彼らの周りには兵力がワラワラと集まっている。自然と二人は背中合わせになった。
「お前、おじさんおじさん言う割には力落ちてなくない?」
「え〜? そんなことないよ〜。おじさんってば少し動くだけで腰が痛くなるんだからさ〜」
「(だったらその神秘の量はなんなんだか……)まぁいいさ、とっとと片付けるぞ」
「オッケー」
それを合図に二人が同時に駆け出す。ホシノは手に持った盾で押し潰しつつゼロ距離射撃を喰らわせ、『観測者』は手榴弾や煙幕による撹乱で惑わせつつ的確に処理していく。
「ん、これで終わり」
「お仕置きの時間ですよ〜☆」
「これでも喰らいなさい!」
そして残っていた戦車もシロコ達の銃弾を浴びて爆発。セリカ誘拐に端を発したヘルメット団との抗争はアビドス組の完全勝利で幕を下ろした。
◆
ヘルメット団の包囲網を抜けアビドスの部室へと戻ってきた『観測者』達は、まずセリカを休ませるために彼女を保健室へ送り届けることにした。
そしてゆっくり休ませようとホシノ達と一緒に出ていこうとした先生と『観測者』をセリカが呼び止める。
彼女はしばらく『あー……』とか『うー……』などと唸っていたが、やがてバッ!と勢い良く頭を下げた。
「その、助けてくれてありがとう……私、こんな性格だからこれからもキツイ態度取っちゃうかもしれないけど、二人のこと信じてみる……その、これからよろしくね!」
最後は顔を赤くしながら叫ぶように告げたセリカを二人は暖かい眼差しで見つめたあと、「勿論」と当然のように応えた。
「主力戦車まで使っておいてこのザマとは……やはりチンピラごときでは相手にならんか」
とある高層ビルの一室で、全身機械の体に黒いスーツを着た男──カイザーPMC理事は頬杖を突きながら吐き捨てた。
彼のパソコンにはセリカ誘拐の後に勃発したヘルメット団とアビドス高等学校のメンバーたちの戦闘が映し出されていた。
「それにしてもこの男、ヘイローを持っていないというのにこれほどの戦闘力とは……私の兵に欲しいな」
やがてカイザー理事の目が一人の人物──『観測者』に止まる。このキヴォトスにおいてヘイローを持つ人間とそうでない人間の基礎スペックには大きな開きがある。
しかし映像に映るこの男はヘイローを持っていないはずなのにヘイロー持ちのヘルメット団を圧倒し、傷一つ負わず生還している。それは実に彼の興味を引き寄せた───実のところカイザーの子会社のいくつかが『観測者』によって壊滅しているのだが、それはPMC理事たる彼には関係のないことだ。
「だが、とりあえず今は奴らと手を切るとしよう」
その言葉と共にカイザー理事はとある場所へ電話を掛ける。数コールの後、ガチャッと言う音が響き通話相手の声が聞こえた。
『はい、こちら便利屋68です』
「仕事を頼みたい、便利屋」
『手始めにカタカタヘルメット団を制圧しろ──結果次第では報酬のさらなる上乗せも検討する』……そんな感じのことも付け加えてカイザー理事は電話を切る。
そして場所は変わってヘルメット団アジト。ここを根城としていたカタカタヘルメット団は今、とある者たちの襲撃を受けていた。
「う、ぐ……貴様ら、一体何者だ……!?」
仲間は悉くやられ、自分一人となったヘルメット団のリーダーはせめて襲撃者の素性を記憶しておこうと痛む体にムチを打って問い掛ける。
「まさか、アビドスの!? よくも我々を……!」
「はぁ……こんな不潔で変な匂いのする場所がアジトだなんて貴方達も冴えないわね」
視線の先、コートをはためかせた女がため息と共に呟く。
「私達は便利屋68。金さえ貰えば何でもする……」
コートの女の周りに三人、新しい少女達が現れる。その姿は月明かりに照らされ、危険な香りを漂わせていた。
「何でも屋よ」