【完結】西千夏は東春秋を倒したい   作:Tohka.A

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【幕間】ボーダーというところ
迅悠一(19)---実力派エリート


 

景公の時、熒惑(けいこく)の星天空に留まり、期年去らぬことあり。公これを訝しみ、晏子(あんし)を召して問ふ。曰く「吾れ聞く、善行の人、天はこれを賞める。この天は不善行を映すものなり。熒惑は天罰なり。今近きに留まるは、如何にすべきか?」

晏子答えて曰く、「(もと)より富んで(つよ)きは、それを善のために用いざれば、自ら凶兆を願うに通ず。いかに死に赴くを悼まん。招きし星は去らすこと能ふ。招き得ぬ星は去らすこと能はず。君よ冤罪の徒を放ち、百官の財を施すべし。すすんで孤寡の者を助け、年長者を敬うべし。若し是れを行わば、百悪は去るべし。何爲れぞ我らに災いの下らん」

公対えて「善し」とする。三月これを行ふところ、熒惑の星遷りぬ。

 

『晏子春秋 上』

景公異熒惑守虡而不去晏子諫 第二十一

 

 

 

 

 

 

 

実力派エリートの迅悠一は、現戦闘員最古参の一人である。未来視のサイドエフェクトを持つ迅は、14のときに師匠を亡くした。16で生意気を拗らせて、忍田から西隊へとぶちこまれた。同じ頃ブイブイいわせていた二宮も、忍田によって東隊へとぶちこまれた。どちらも既に三人いたチームで、隊長たちは少し扱いに悩んだ。

 

 

「 …まずは挨拶ができるか? 」

 

 

などと、今の東春秋は絶対に高校生を威圧しない。

 

だが、当時は東も若かったので、結構二宮をボコボコにした。エリート気取りの二宮のことを、東は「弾バカ」と呼んだ。当時の二宮匡貴は、火力があるからって他を全員雑魚だと舐め腐っており、“東さんによるご指導”がなかったら、今頃はもっと残念になっていたことだろう。

 

当然、既にエリートを名乗っていた迅も、若かった西に結構やられた。

 

 

「 わぁ!未来視のできる迅くんね?うちに入ってくれるの、凄く嬉しい!これで東隊を倒せる!―――ねえねえちょっとジャンケンしてみよう。わたしが何を出すつもりか、わかるでしょ?えへへ全勝してみて。すごいサイドエフェクト、ちょっと体験してみていい? 」

 

 

迅は完全に舐めていた。未来視の能力によって、迅は西隊の作戦室で、陰気なチビをよそに自分だけ女子に囲まれて、ニコニコと笑いかけられる図を予見していた。今は緊張気味に立っている沢村さん(さっき自己紹介された)も、すぐに自分のことが好きになるに違いなかった。

いきなり始まった西とのモーションなし両手ジャンケンに、迅はたったの五回目で負けた。

 

 

「 遅い 」

 

 

西は迅の足を蹴った。

 

 

「 トロい!―――あらかじめ視えているのに、なんで?判断して、これくらい全部避けて勝ちなさいよ。響子ちゃんも参戦して~!いい?響子ちゃんの両手とは口で対決してね。自分から見て左・右の順で言うのよ。四手同時に勝ちなさい―――そうじゃないとあんた使えない。何ビビってんの?『東隊を相手にして勝つ』って、こういうことだから 」

 

 

見かねた風間に止められるまでに、迅は5・6回舌を噛んだ。

 

せっかく“未来視”を持っているのに、当時の迅は日本語が残念だった。いつどこの話か確定か不確定かわからないことを、「主語なし順序無茶苦茶」の状態で、「ヤバい!」という心のままに伝えようとして、理解されなければ相手のせいにして、自身は特別だという思いを一層強くして、そのぶん孤独感を深めた。また、反射神経は良かったが、複数の攻撃に同時に対処できなかった。個人(ソロ)の孤月ばかりを相手にしていると、この能力は育つものではない。

 

迅(16)は絶望させられた。めちゃくちゃモテモテだと思っていた未来は、怖~いお姉さんたちに群がられて、「あはは弱すぎ。しごき甲斐がある」と笑われる未来だった。「エリート」の前に「実力派」がつくまでには、相応の辛苦の歴史があるのだ。

 

と、いうわけで現在に至っても迅と二宮は、元隊長たちに頭が上がらない。

 

彼らは、元隊長たちのことを慕っているが、安易に頼ってはいけないと考えており、常に実力を高める努力をして、「出来る自分」を見せたいと願っている―――で、結果的にまとも(?)にやっている。

 

すべては、忍田真史の狙い通りだ。

 

忍田は、自身が大概なやんちゃ小僧だったので、「クソガキへの首輪のつけかた」というものを知っている。彼はみずから太刀川慶の手綱を握り、まるで北面の武士にして南家の雀士のように、太刀川慶に比肩する戦力持ちたちを、牌として東西へと振った―――「あれはそういう人事だったな」と、25になるとわかるものはある。

 

 

 

 

 

白、白、白。トリオンで出来ている本部基地内は、いつだって清浄な空間だ。

 

 

西千夏は、進行方向にぼんち揚げの欠片が落ちているのを見つけた場合、やろうとしていたことを一旦棚上げして、一応までに欠片を辿ることにしている。本日のことを言うならば、一本バスを逃す覚悟をして、退勤者の身で施設を歩いた。

 

そうやって迅を探すものの、西は「どうせ逸れたら迎えにくるでしょ?」という態度でもあった。案の定迅の姿を見つけたとき、西はとりあえず小言を言ってやった。ぼんち揚げは欠片が大きいので、本気で営繕班を悩ませる「精密機器の敵」ではないのだが、我が子を不気味がったであろう人の代わりに、「あんたいい加減にしなさい」と言う人は必要らしい―――へらへらっと弓なりに目を細められて、西は今日もそれを確認した。こんな奇妙な子を見ていると、こっちまで奇妙な感覚に憑かれるのだった。

 

 

「 まあまあ、西さん、本日もお美しい。実力派エリート迅、現着しました! 」

 

 

迅はカジュアルに敬礼をした。笑顔だが、ちょっと輝きが足りなくて、頑張って元気を出している顔つきだった。

西はその顔をじっと見上げた。すぐには、何も言うことができなかった。6名の死をうけて…―――迅、「頑張ったけど、力が及ばなかったんです」みたいな顔は、もっと偉い人たちに見せるべきじゃないの?と、思ったけれど言ったら拒絶したみたいになる…。

 

一時期迅を預かったものの、西は迅の力を生かしきれなかったと思っている。東くんに手腕の差を見せつけられ、自分の限界を教えられた、と。

 

西は四方へと目を巡らせた。西の見下ろして知るところ、本日のB級ランク戦用の観覧室は、ちょっと心配になるくらいガラガラだ。スクリーンにハイライトが映っているのに、ちゃんと見ていそうな者は数名しかいない。これは響子ちゃんが文句を言うわけだな…。

 

この二階席に至っては、無人だ。

ここには、迅とわたしの二人しかいない。

 

二人っきりだけれど、実質一人同士。迅のような“幹部の子飼い”は、さっさとわたしのことなんか卒業すればいいのに…―――そんなふうに西は感じており、迅は鋭くそれに気がついた。迅は目を細めて唇を尖らせて、頭の後ろで手を組んだ。

 

 

「 あっ、ひどいこと思ってます?おれ、宇宙と交信とかしてないですよ。さっきまでは唐沢さんがいました 」

 

 

西は灰皿へと目を落とした。

 

 

「 意外 」

 

 

西は小さく呟いた。誰の銘柄が何であるかまで、非喫煙者は把握しているものではない。迅が「落ち込んでないで、切り替えろって言われたんです」とぼやく前に、西は悪気なく思ったことを言った。前を向いて後輩を応援してやる前に、迅は先輩に一発やられた。

 

 

「 てっきり玉狛の林藤さんがいたんだと思ってた。あなたたち密談が好きだから 」

 

 

迅は表情を引きつらせた。

 

 

「 その言い方、棘があるなあ…?西さん、怒ってる?おれ、あの件で風間さんと本気でぶつかったわけじゃないですよ 」

 

「 そうだったらいいなと思ってるんだけどね。別に、もうどうしようもないから責めてないわ 」

 

「 本当ですよ。それで、結局風刃は本部のものになったじゃないですか。論功褒賞の内訳、見てないんですか? 」

 

 

迅は急いで話を進めた。

西はスクリーンに気をとられた。

ちょうど玉狛第二の空閑遊真が、中学生離れした動きを見せたからだ。西が空閑に釘づけになっているうちに、迅は望む未来に向けて舵取りをした。

 

 

「 特級戦功、万能手(オールラウンダー)・三輪修次。凄くないですか?あいつ、実戦でいきなり風刃を使いこなした 」

 

「 驚くことではないと思う。あの子、自分を潰す装備(レッドパレット)を逆に一番使いこなしているもの 」

 

「 さすが“東さんが育てた虎”ってやつですよね 」

 

 

迅はわざとそう表現した。

西はしばらくのあいだ沈黙してから、迅に「あんたこそ良く出来る子です」と告げた。そのままめいっぱい労われて褒められて、迅はへらへらと笑った。見え透いた“誘い”に乗ってもらえたことで、ああ愛されているなあと感じたのだ。

迅はもっと続いても良かったが、西はこういうのは恥ずかしかった。

 

 

「 ねえところで、あの子ゴリゴリの城戸司令派でしょう?あんたとは微塵も合わないと思ってたのに―――どうして推薦を?随分、警戒されたんじゃない? 」

 

 

西はキビキビと訊いた。

迅はいつもの言い方をした。

 

 

「 そこはいろいろあるんですけど…まあ一つは、みんなからわかりやすいからかなあ?三輪だって、『どうして自分に?』って、他の適合者の顔を思い浮かべたはずです。『どうして三輪に?』と、他の面子だってその逆をしているはずです―――それで気づいてもらえるといいなあって 」

 

 

西は「まどろっこしい」と目で語った。

西さんがヘビーな一発を寄越してくる前に、迅は急いで続きを話した。

 

 

「 えっとおれは、いずれ師匠のトリガーを使いこなせるようになるために、あの頃西隊で修行させてもらいました!あの頃の西さんは、いつもおれのサイドエフェクトを使って、東さんの策を読もうとしていた。かなり、勉強になったと思ってます。一方で三輪(あいつ)は、東さんのもとで西さんの手を逆に強みにした奴だ。つまり、派閥とか性格とかは違うけど、おれと同じように育ってきてるんです。だからおれにはわかります―――三輪が、根っこではボーダーのことどう思ってるか。風刃に適合する隊員は、これからももっと増えますよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる―――びっくりじゃないですか?なんと今回のこいつは、“おれだけに視えている未来”じゃない。三輪も、わかってるから風刃を返したんだと思うんです。『あんたらにはわからないだろ』なんて、あはは、もうおれはキレなくていい! 」

 

 

迅は機嫌良く締めくくった。

スクリーンを見て迅は笑った。ああこの嬉しさ、早く遊真にも味合わせてやりたい!―――「どこにも自分と同じ人はいない」は、祝福的事実ではあるけれど、どうしようもなく寂しくなる原因にもなる。過去がそう思わせるし、サイドエフェクトはそれを際立たせる。“副作用”だから、キツいのが当たり前だ。

でも、ボーダーに入れば大丈夫!

ここで過ごせば仲間ができる。ここには西さんと東さんがいて、じっくりとおれたちを育ててくれる。厚いシールドもぶち抜いて、めいっぱい遊んでくれるんだ。

 

とても嬉しそうな迅に、西は複雑な思いに駆られた。

 

 

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