【完結】西千夏は東春秋を倒したい   作:Tohka.A

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【FINAL ROUND】市街地C(晴)、観戦室
西VS東---マッチアップ、タイマン


 

 

最終ラウンドの始まりです。

利き手を持って行かれるとおとなしくなるなんて、この銃手(ガンナー)はゲーム脳が過ぎますね。「生身であるだけで恥ずかしい」なんて、不意のオフ会じゃないんですから。

リーチの長さを生かして、ここは東春秋の先制です。

 

 

「 西さんだ。また飛び出して行く気だったな? 」

 

 

西は、前科があるぶん言い返せなかった。迅とは90°違う向きにある赤信号を、西はちょっと恨んだ。

迅が手を振って去っていく姿は、東からもはっきりと見えた。迅に手を掲げて挨拶を返しながら、東は周囲に風間と沢村の姿も期待した。

 

 

「 ちっちゃいものクラブの会合か? 」

 

 

東は平然と煽った。

今日の西は元気そうに見えたので、東は遠慮なくちょっかいを出した。昨晩「意外と性格がいい」と評されたほど、東はこれを積年の習慣にしている。

顎でも撃ち飛ばすかのような角度で、西は東を睨みあげて言った。

 

 

「 うるさい面食い。あんたとこの隊の頭身がおかしいの 」

 

 

西はとうとう腕を振り払った。

東はさも真面目そうに返した。

 

 

「 あの頃西さんがいじってきすぎて、うちの子たちは迷走している 」

 

 

西に責任を感じさせる作戦である。

西は、「乗れば東くんの術中だ」と感じながらも、無視できずに短く言った。

 

 

「 どこが? 」

 

「 たとえば、自分からグッドルッキングガイの格好をしたり、“腕に芋虫”の隊服にしてカッコつけてないアピールをしたり、イニシャルKを集めたりしている 」

 

「 最後のは東くんが悪いよ。わたしへの嫌がらせをするのに、後輩を巻き込むことはなかったのに。加古ちゃんだって女子チームに入りたかったんでしょ 」

 

「 本人は『奪い合われて嬉しかった』と言っている。後輩にひどいといえば、『じゃあ』で風間を選んだそっちだろう?『ちびっこいほうのK』、良い人選だったとは思うが 」

 

「 東隊員はまだ隠密(ステルス)攻撃をくらい足りないらしいって、よく伝えておきます 」

 

「 よろしく。楽しみにしておく 」

 

 

東はニヤッとして言った。

西は苦い顔つきをした。

ああ誰か、この男の頭を撃ち抜いて頂戴!―――今のは、謂わば宣戦布告であったが、東は「楽しい遊びの始まりだ」という顔である。“付き添いの保護者”みたいな風を吹かせているけれど、彼は“砂場を占有するガキ大将”なのだ。ちょっと洒落にならないほど獰猛で、彼の遊び相手の務まる人間は少ない…。

 

そのうえで、遊びを持ちかけられるのは嬉しかった。よかった、自分はまだライバルだと思われている―――西は気を引き締めて言った。

 

 

「 明日はよろしく 」

 

 

「さよなら」という意味だった。

ちょうど渡りたい信号が青になったので、西は横断歩道を渡った。西はすいすいと人を掻い潜り、簡単に東を置き去りにした。

 

東は穏やかに笑っていた―――西さんは、このあとバス停に行くに違いないけれども、追いかけたら気持ち悪いと思われそうだな。キリッとした「よろしく」宣言、可愛かったな―――などと、東は考えるだけ考えて、また今日も深追いを避けそうになった。不意に“迅だけがいた意味”が気にかかり、西を追いかけることにするまでは。

 

 

さあ、こんな局面は初めてです。

東さんが攻めに転じましたね。

しかし近距離は西さんの独壇場なので、“追いかけて”は完全に無謀です。「え、なんで来たの?」と言い放たれて、東さんの心は木っ端微塵です。

 

 

折角バス停までついていったのに、東はただ動揺を見せるだけになった。西は本気で意図がわからなくて、次なる東のちょっかいに身構えた。

東は、これまでの素行を後悔した。そして、瞬間的に山ほど考えた―――ああ、どうか西さんにとっても迅なんて、「こないだまで高校生だった子」でありますように!西さんもそう思っているからこそ、迅には膝枕ぐらい許しそうで怖いのだが…。

西は東の表情から勘づいた。

 

 

「 何か変なこと聞いた?太刀川ってほんと馬鹿よね 」

 

 

その件については苦笑するしかない。西は伏し目がちになった。

一瞬だけ見えた恥じらいに、東には“勝てる未来”が視えた。磯釣りで謂えば、竿先が揺れる興奮だ―――落ち着け、終局は明日だ早まるな!糸を切られないよう、一定のペースでリールを巻くように、今は淡々と“仕事”をするべきだ…。

傍目には飄々としているように見えたが、東は懸命に言った。

 

 

「 俺は構わないぞ?西さんと付き合ってると思われても 」

 

 

その言葉を最後に、蜂の巣にされながら東が獲得したものは、「西さんは照れると火力が上がる」という情報だった。「しかも射撃精度も上がって、ヤバいことこのうえない」も追加だ。見せていない部分まで見切って当ててくるのは、一体どういう技術なのやら…―――まさかサイドエフェクトか?―――恥らいながら西にかけられた言葉を、東は一切否定できなかった。

西は唇を尖らせて言った。

 

 

「 東くんって、モテるでしょう? 」

 

 

西はズバズバと言い当てた。

 

 

「 東くんって、コンパのたびに女の子たちに手を並べられて、『大きいですね~』って毎回言われてそう。それされるの、当たり前だと思ってそう。今年の追いコンでそれやってくる子、もうわかっていそう。で、後で揉めないかどうかだけを基準にして、絡んでくる女子に連絡先を教えてそう。釣った魚に餌を与えなさそう―――そのうち生身で刺されちゃえばいいのよ 」

 

 

東は立ったまま砂と化した。

言葉は声にならなかった。

それはその通りなのだが、どうあれ一般人の女性となんて、自分は本気でやっていけるわけがない。そういったものはすべて清算するから、少しは慈悲をくれよと思った。

 

それを言えるまでトリオンが回復するのに、東春秋は約半日を要した。

 

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