「決戦予定地への誘導は済んだ」と、東春秋は自分を褒めている。
2月5日夜の部のB級ランク戦用観覧室は、まずA級隊員たちが席を埋めた。訓練や防衛シフトを終えて帰ろうとしていたB・C級も、そうとあらば背筋を伸ばして集まった。その一員である茶野真は、解説席に“東さん”の姿を見つけて喜んだ。その隣にいる人物が誰かまで、茶野隊は誰も知らなかった。B級低位であるから、技術職員には縁がないのだ。
その黒い作業服の女性と話したことがないのは、A級の木虎藍も同じだった。木虎は、毅然としてA級らしく座る一方で、ちらちらと解説席を見やり続けた。だが、「知らない中高生」として雑に括られて、定時上がりの“西さん”からとことん無視されてしまった。もしここで換装をOFFにしたら、「母校の制服だ」と気づいて目を留めてもらえそうだけれど…。それよりも、実力を通して私を知ってもらいたい!と、木虎はひそかに鼻息を荒くした。隣席から意気込みを感じて、嵐山准はやんわりと苦笑した。
嵐山は、「あの人は凄かったぞ」と陰で木虎に教えているものの、引退した西に不用意に話しかけないことにしている。木虎の成長を信じて、この場で木虎を西に紹介してやらなかった。嵐山は、上手く説明しづらいが、西さんは“さん付け”でしか呼んではいけない女性で、関わると狂ってしまうんだと思っている。だって実例が身近にいる。すっかりワンワンと舎弟をやっている迅と弓場に、今日はなんだか怖い東さん―――みんな心から立派だと思っているぶん、「俺の場合は、どうなっちゃうんだ?」と、怯えるような期待するような…。
さて、15才の武富桜子は、B級18位海老名隊のオペレーターである。まだツインテールが似合うような顔立ちの彼女は、怖れ知らずの解説者紹介をした。定められた時間になったので、武富は「ボーダーの皆さんこんにちは!」と切り出した。この時点で、西は「この子放送部なのかな」と、武富の生き生きとした声に感心した。
「 B級ランク戦新シーズン!まもなく二日目・夜の部が始まります!実況は本日もスケジュールがうまいこと空いたわたくし武富桜子!解説席には先日の大規模侵攻で一級戦功をあげられた、東隊の東隊長!と、草壁隊の緑川くんにお越しいただく予定でした…が!急遽技術部から東さんのお知り合いが来てくださったので、緑川くんには観客席にいてもらっています!どうも!今日はA級の方々が多いですね!今回の注目はなんといっても玉狛第二!前回完全試合で8点をあげた新チームに、熱心な視線が集まっています! 」
二宮が低く呻いた。
「 舐めた紹介しやがって… 」
犬飼は目を細めて微笑んだ。
隊員歴の浅い実況者に代わって、東が西の紹介をおこなった。「尊敬している同期です」と言われて、西は悪い気はしなかった―――しかし「東くんほどの人に言われると、ただのエンジニアとしては恥ずかしい」と感じた。そのまま東までもが流暢に喋ったので、西は少し俯きがちになった。思ったよりイベント的な雰囲気なので、「わたしたちの時はこんなのなかったのに」と、年寄りじみたことを言いたくなってきたのだ。
急に、東はニコッとして隣を向いた。そしていそいそと西へと話しかけた。心臓に近い側の隣に座って、東は西の緊張を解いた。
「 西さんはゲーム実況などは聞かれますか? 」
その手管は、傍目には「堂々とした雑談」でしかない。
いきなり“東さん”らしくないことを始めた東さんに、オーディエンスはさざめいた。
「 ホラゲ実況ならたまに 」
西はあっけらかんと答えた。
このとき、解説者二名は加古から飲み物を差し入れられているせいで、まるでカフェにでもいるみたいになっていた。“まずは地形で有利をとる”って、こういうことなのか?―――東さんは一旦マイクを切って、隣の西さんに何かを囁いた。簡単に肩を寄せられる場所に陣取って、パッと西さんを笑せるとは…―――東さんの“戦い慣れ”を感じて、風間は口が半開きになった。
「 俺たちは何を見せられているんだ…? 」
歌川と菊地原は返事に困った。
ここで「参考になりますね」とか言うタイプだったら、彼らは風間隊にスカウトされていない。
「 うちの作戦室はホラー映画が豊富ですよ 」
東はマイクを入れ直して言った。
東は余裕を持っていた。たとえ「なに作戦室で遊んでるのよ」などと西さんに責められても、うまく趣味の話に繋げられたら“良い展開”だ。さっき「諏訪が出る。いじってやろう」と持ち掛けて笑顔を引き出した手前、これくらいは“必要経費”だと―――キラッと西の目が挑戦的に光っても、東は意に介さなかった。
西は悪戯っぽく言った。
「 日頃は東隊長が叫んでるってことですか? 」
「 いきなりだと当然ビビります 」
「 情けないとこ、見たいわ 」
「 これ以上見たいのか。やめてくれ 」
西は
東は小さく左右に首を振った。
さあ武富桜子は、進行役としての手腕を試されることになった。ここで25才児たちをキッチリ働かせたら、彼女は未来の真木理佐である。武富は玉狛第二・諏訪隊・荒船隊の特徴を述べて、玉狛第二が選んだステージを発表した。そして「市街地C!」と叫ぶだけでなく、自分なりの分析を語って、東さんへと講評を求めた。これを聞きたい隊員たちによって、本日の観戦室は満員なのだ。
数拍の沈黙の後、東は冷静なコメントをした。
「 …狙撃手有利ですね。市街地Cは、道路を間にはさんで階段状の宅地が斜面に沿って続く地形です。登るにはどこかで道路を横切る必要があるので、狙撃手が高い位置を取るとかなり有利です。逆に下からは、建物が邪魔になるので、身を隠しながら相手を狙うのが難しい 」
西が「うわー…」と小さく呟いた。
西はオンマイクのまま言った。
「 塾の先生だ 」
誰も否定するところではなかった。
だって東さんって、“東さん”だもん。
王子一彰は、“西さん”とやらを面白いと感じた―――あの人はひとりで驚いているけれど、ふざけて言っているわけではなさそうだから。
西は感服していた。
西には、東が小学生に対して喋っているように見えた。だが淡々としているから、「これは大人でも抵抗なく聞ける注釈だ」とも思った。「市街地Cの特徴なんて、見ればわかる」と、スルーしてはいけないんだと今ので学んだ。
「 西さんはこのMAPをどう思う? 」
東は小さくスクリーンを指さした。
王子は期待したが、武富は少し身構えた。
何を言い出すかわからない西さんは、東さんに間髪入れず答えた。
「 はい先生。この動画を見る人は、改良型ラッドによってイレギュラーな
息を吸う音が響き渡った。
木虎は、「これが幹部の視点…!」と、いっそう手足をピンとさせた。
米屋と緑川は「うひゃあ」と声を洩らして、こうして良い席がとれていることを喜んだ。古寺は何回も瞬きをした。まったく動じてない様子で、東はドリンクカップを取って答えた。
「 残念。この会話は記録に残らないんですよ―――残せるか武富? 」
「 あっはい!わたしのほうでは、音声も保管しています! 」
「 よし。ところで基地は平地にある 」
「 そう。つまり実戦に落とし込んでいくと、こういった地形では、わたしたちは必ず下から攻めのぼることになります。 “高いところの取り方”よりも、“下からの足掻き方”を考えて観るべきだと思います 」
「 A級の隊員はそれでいい。だが、言わせてもらうと、“射程持ち”に有利をとられた時の移動の仕方というものがある―――諏訪や荒船がうまくやるでしょうから、『
東は穏やかに言った。
下位隊員たちがどよめいているうちに、三隊の転送は終わった。
まさか本当に実践を想定して(?)敢えて“下の位置”をとる隊が現れるとは思わなかったので、西は初めのうち黙り込んでいた。西は、じっとスクリーンに目を凝らして、低い位置で合流する玉狛第二隊員たちを見つめた。
東はひっきりなしに武富から話を振られて、立場上何も言わないわけにはいかなかった。
「 転送直後は最も無防備な時間帯ですからね。合流を優先するのはアリです 」
と、いうのはあくまで一般論である。
西は、ちょうど中心部に転送された穂刈狙撃手を見て、「あれが東くんだったらウザいな~」と思うなどした。初めから高い位置にいる半崎狙撃手、急いでのぼる荒船狙撃手と違って、“真ん中の長射程”って掻き回せるからウザいよね。バッグワームをONにされると、「さあ悪さをしますよ」と言われた気分になる。
ほら、案の定だ。
「 笹森隊員、間一髪! 」
武富はスポーツキャスターのように叫んだ。
お手本のような移動法(市民の助け方まで!)を見せたのは、流石の年長隊員だった。諏訪は壁に張りついて、斜行して走り、広いところに飛び出す笹森を止めた。
東は淡々と言った。
「 穂刈の牽制ですね。躱されましたが諏訪隊は進みづらくなった。いい仕事です 」
西はむっすりとした。今のは、諏訪くんのほうが自力で良い判断をしたのに、東くんは、自分に似ている隊員を褒めてる…と思ったのだ。
西は低い声で言った。
「 ああいうの、オペレーターが相手の位置を教えてくれたらとりあえず壁ギリに撃っとけばいいんですよ。的は壁からしか出てこないんだから。しっかり狙う必要はありません 」
「 はい。明日からできる嫌がらせマニュアル、おすすめです 」
「 ああもう!…穂刈隊員はバッグワームつけてるから、諏訪くん側にオペレーターの援護はありません。良いよ今の良かったよ諏訪くん! 」
「 流石にキューブにされて懲りたんでしょうね。彼も経験から学んだのかと 」
東は目を細めて言った。
風間は笑って噎せこんでしまった。
そうこうしているうちに荒船狙撃手も坂をのぼりきり、住宅地の高部に荒船隊が揃った。
西は気が立ってきて呻いた。
「 遅い! 」
「 諏訪隊の隠れ方が上手いです。三方向からの狙撃が荒船隊のスタイルですが、射線を切られているので“釣りだし”が必要です。三つ巴でなければ膠着です 」
東は言葉を切った。彼だって少々悩んだのだ。
…玉狛第二は、ここから動き出すのだろうか?
たしかに西さんの言う通り、“引っくり返し”を狙うような隊にしては、練度が低くて、遅かった―――もたもたとした素人の動きで、玉狛第二の雨取隊員はアイビスを撃った。彼女は、狙撃手というよりも砲撃手であり、ある日基地の壁に穴を開けてエンジニアを絶望させたテンサイである。天才にして、天災。どう使うべきかが面白い駒だが、果たして“三雲隊長の戦術のレベル”は―――…?
考え込んだ東をよそに、西は気楽な声色で言った。
「 シールドじゃなくて、レイガストなんですね 」
三雲隊長の
東はチラッと隣を見た。固まって荒船隊の三狙撃に耐える玉狛第二に、西さんは捕食者の目を向けている―――「トリオンが少なくて鈍足っぽい!」と、“初めに潰す駒”を選んだ微笑だ。東はそれに見惚れて、横から“獲物”を掻っ攫いたくなった。
武富が大声を張った。
「 この威力もはや砲撃!玉狛第二意外にも撃ちあいを挑んだ!東隊長!この展開をどう思われますか!? 」
東は先生役に引きずり戻された。
「 玉狛第二の分が悪いですね。威力はあっても下からでは荒船隊の動きが見えない。そのうえ撃つたびに自分の居場所がばれる。逆に上にいる荒船隊からは的がよく見える。
武富はわかっているようでわかっていなかった。
彼女は意を得たように頷いた。
「 東隊長の解説のとおり、玉狛第二が一方的にダメージを受けていく!本職相手に狙撃勝負は無謀だったか!? 」
西がスパッと言った。
「 そのことは諏訪隊にもわかってると思います 」
東は諏訪隊長を褒めた。
「 『荒船隊の意識の先』もそうですが、『玉狛第二が崩れないうちに』を見定めるのは勝負勘ですね。彼らはデータが少ないですから 」
「 え!? 」
武富が目を丸くするのと、加賀美が警告を発するのは同時だった。
『 ―――荒船くん!! 』
既に、遅かった。
バッグワームが外れたときには、
玉狛第二の“仕向け”に乗って、諏訪隊が荒船隊に喰いついた。
荒船が何を思って逃げていくのか、西には正直わからなかった―――「荒船くんはまだ青い子だ」ということは、詳しく知らないけれど察せられた。
「 形勢逆転!これは完全に
武富はとことん無邪気である。
西は、「あの距離で本当に仕留められないわけない」という確信のもと、「こわーい」と揶揄うように言った。足を削ってから走らせるなんて、ちょっと残酷なんじゃないの諏訪く~ん?
荒船隊は、最終的な勝ちを狙って、「
それを知っていて利用する
「 そうですね。これは釣りです 」
説明するまでもなかった。
東が発言した直後に、諏訪は半崎からの狙撃を受けた。「あ~~~っと!?」と叫ぶ武富も、サブトリガーというものを知らないでいるわけではない。諏訪の構える
「 ヘッドショットをピンポイントで
東は忙しくなってきた。
「 半崎の狙撃の正確さが仇になりました。荒船隊はバッグワームをONにしていますが、いずれも高台のどこかにいると読まれています。通常よほどのトリオン量がない限りこの距離で狙撃は防げませんが、狙いを読んで
「 なるほど!しかし一点読みが外れれば死んでいた! 」
「 良い度胸。彼って単騎待ちでツモれそう 」
「 俺だって弱くはないよ西さん 」
「 ふぅん? 」
のちに、諏訪は音声を再生して思った―――あんたら、人が足吹っ飛ばされてるときに何ほざいてんだ、と。これだから古株ってのはイカレてやがるぜ。
諏訪は、あるとき東から“牽制”を受けた時、本気の本気で呆れかえった。散々相手の頭を撃ち飛ばしておいて、それで惚れてるなんて正気じゃねーな、と。
正気の野郎についていって、「普通はできないこと」が出来るわけがない。
半崎を狙って狭路を走りながら、堤は笑いをこらえられなかった。我らが隊長諏訪洸太郎は、半崎の次は穂刈の的になった。そうやって、
イカレた逆転劇の始まりだ。
そのときバッグワームを翻して、空閑遊真が宙を舞った。
「 うお、速っえ! 」
先に点を獲りに動いたのは、“仕掛け手”の玉狛第二。
居場所の割れた半崎へと、空閑はスコーピオンで襲いかかった。アパートの屋上は広かったが、半崎は十分に避けられなかった。かろうじて致命傷を回避したものの、まさに手も足も出なかった。
( もう一発…! )
と、念じたのは空閑だったが、撃ったのは堤だ。
貯水槽やクーラーの室外機ごと、半崎は蜂の巣にされた。空閑も危うく撃たれるところだったが、空中で身を捩って避けた。
逆転劇の主導権争いが始まる。
武富は熱を込めて言った。
「 半崎隊員、
東は実感を込めて答えた。
「
西は「あー…」と呻いて苦笑した。
「 しまった。アレ、撃っても水が出ないですね?施設班に報告しときます 」
西は貯水槽に注目していた。
東は肩透かしをくった―――西さん、そこは俺を討ち取った思い出を話してくれてよかったよ!絶対に良い笑顔になると思ったのに、真面目な仕事人だな、うん、そういうところも良いと思う…。
このとおり東春秋は正気の男ではないが、西千夏も負けてはいない。どうかしている彼女は、
武富は興奮して諏訪隊の先制点獲得を報じ、このまま堤が2点目をとることを予想した。
緑川は嬉々として茶々を入れた。
「 どうかな?遊真先輩は強いよ! 」
東はトントンッと軽く指で西の腕に触れた。その目はスクリーン…それも、生存者全員の位置を示す図に釘づけである。西は目前の小競り合いについて、正直に「何とも言えません」と言った。それについて東から任されても、本当に予想ができなかった。
「 普通なら堤隊員がとります。ですが空閑隊員は、さっき壁を蹴って宙返りしていましたから―――わかりませんよこんなの 」
言い訳は無駄にならなかった。
新人とは思えない動きで、空閑は堤の懐へと飛び込んだ。「おおお!?堤隊員
「 今の動きはグラスホッパー!?空中機動を可能にするジャンプ台トリガーです! 」
「 あ、はい。
「 オレも使ってるよ~。ていうかオレが教えました、昨日! 」
緑川は得意気に言った。
いろいろと余計なことをするバカを、黒江は観戦席に引き戻した。
武富の明るい声が響き渡る中、西は「次こそは仕事をしよう」と念じた。
「 さあ玉狛第二も1点取り返して次の相手へ!狙うは穂刈隊員!徹底して荒船隊狙いだ! 」
西は屋根上を走る空閑を見つめた。
空閑が穂刈へと迫れば、間違いなく空閑が勝つ。
西は経験から語った。
「
荒船が空閑に斬りかかった。
西は空閑の目線だった。自分が敵に迫りきれば、必ず自分が勝つ。それが歴然としている時ほど、面倒くさい横槍が入る。もしも穂刈隊員が東くんだったら、この乱入は計算の内だろう―――と、西はスクリーンを睨んで口を引き結んだ。
なんであの狙撃手隊隊長、イーグレットの相方が孤月なんだかわからないけど、「現に有効だからアリね」としか言えない状況である。
西は取り急ぎ締めくくった。
「 …こうやって、いろいろ良くないことが起きるんですよ 」
東はクスッと笑った。
「 西さん、最後ざっくり投げましたね?今の荒船の攻撃、空閑は穂刈の弾を避けることに気をとられていたら、避けられなかった可能性があります 」
「 そう、それ 」
「 諏訪隊がここで別れましたね 」
東はあくまで大局を見たがった。
武富はいきいきとしてこぶしを握った。
「 剣も狙撃もマスタークラス!異色の武闘派荒船隊長が孤月抜刀!空閑隊員と剣比べか!? 」
西は神妙に言った。
「 数比べです。空閑隊員は削られていく―――結局、“囲んだ者勝ち”ですから 」
「 荒船は本職の
東は笹森の動きを目で追って言った。穂刈は荒船を援護し続けて、随時移動しても居場所がばれ続けた。
戦闘中ではないため映らないが、諏訪は今笑っているのに違いない。笹森が穂刈を斬るのは時間の問題で、その前に空閑が荒船にやられても、諏訪隊にとっては万々歳だ。「そうはさせない」のか「敢えてそうさせる」のか、東は三雲の次の手が早く見たくなっていた。東の把握するところ、この盤面の支配者は三雲修なのだ。
西がエンジニアらしく各種トリガーの強度の話をしたあとに、東は戦術家らしく言った。
「 玉狛の三雲が地味にいい動きをしています。荒船・穂刈と笹森を狙えるいい距離にいますよ。バッグワームを使わず敢えてレーダーに映っているので、荒船隊は三雲の攻撃にも意識を割かざるをえない。ただそこにいるだけで心理的に挟み撃ちにする、いい射程の使い方ですね 」
嵐山は純粋に感心した。木虎は「偶々では?」と主張したが、西さんと東さんがまた喋り出したので口を閉じた。
彼らはまた遊び始めた。
西はツンとした表情で言った。
「 いやらしい。空閑と荒船のどちらかが落ちたら、諏訪くんはわかってても三雲隊長の射程に飛び込んじゃいそうね 」
「 火中の栗を拾うのかなあ?漁夫の利を狙って 」
「 虎穴に入らずんば虎子を得ず 」
「 穂刈隊員、捨て身で狙撃!?諏訪隊が2点目獲得! 」
武富がふたりを遮った。
本人たちにしかわからない遣り取りの末に、穂刈は空閑の肩を削って散った。逃げることをやめて荒船の援護に徹し、自身は笹森に斬られたのだ。どちらも手負いになった空閑VS荒船―――それに迫る諏訪・笹森。案外凌いでいる空閑が誰に潰されても、状況は「玉狛第二有利」だった。あらゆる駒がエースへとひきつけられており、ふたりの“射程持ち”たちが主戦場を囲んでいる。
「 空閑のほうに行っちゃったか… 」
西さんは思ったことをすぐ言う子です。
みすみすこの状況をつくることになった笹森くんは、諏訪隊長のことが大好きな子です。風間さんも好きです。だって、力が及ばない者にも“仕事”があるって、彼はエネドラ戦から学びましたので。
本人たちしか知らない会話が、諏訪隊の敗因となった。ラウンジにて、昨日「それ俺ごと吹っ飛ぶやつですよね?」とたじろいだ笹森を、諏訪も強く信頼していた―――こいつは、いざとなったらガチでやる、と。空閑に組みついて
笹森は転落しながら空閑に斬られた。
諏訪は射程が足りなかった。
居場所のばれた雨取を撃ったのは、長距離手としての荒船だった。
残酷には残酷で返されて、諏訪は追う足のないまま二者に襲いかかられた。間近に迫る空閑を迎え撃つしか、諏訪には咄嗟の選択肢がなかった。そうなっては“読み”も無力だ。
爽やかな晴れの箱の底、虚妄の瓦礫のその上で、6対2対1にて、この日のランク戦は終わった。