“勝ち筋”の見えた時にほど、あれこれと横槍が入るものだ。観客たちの感想戦が盛り上がりすぎて、東は解説者であるのに発言ができなかった。作戦に頼るのは、ここまでか?
古寺が地形戦について熱弁をふるったあと、東は「全部言われてしまいました」と言った。会場はどっと笑った。そのなかで、西さんは笑わずに感心しているので、東は内心ヒヤヒヤした。
「 高校生?すごいわね 」
西は手放しに古寺を褒めた。予期せぬ相手から人前で褒められて、古寺は思いきり赤くなった。はじめに東へと「振り返り」を訊ねた武富は、西にも「いかがでしたか?」と訊ねた。
2秒、西の動きは止まった。
「 …先に東くんが言っていたことがすべてなんですが、“作戦”ではなく個々の技術面を見ると、どの隊員にも非常に伸びしろがあります。ここで具体例を話すことは、今後の彼らのスタイルの幅を逆に狭くするでしょうから、本人たちによる相談を待っています。本部長はそれをお望みです。トリガーをいじればすぐ強くなるっていうわけじゃないから、真剣に頑張ってる子優先ですよ 」
会場の熱はまだ冷めていない。西のコメントのあとにも、あちこちで会話が花開いた。自身が受け手に回っていることを逆手にとり、東は笑って軽く手を挙げた。
「 はい。ひとつ言いたいことがある 」
「 どうぞ東さん! 」
武富が間髪入れずに言った。
「 西さん、君は
夏目出穂はひときわ目立つ声で、「え~っ」と大きく喚いて落胆した。折角「よっし頑張るか!」という気分だったのに、「ただし
観戦室は動揺した。生駒も南沢も細井も
当然、西は焦らされた。西はひとつ溜め息をついてから言った。
「 …冷たいのは、あなたにだけよ、東くん 」
「 なぜ?俺はいつでも真剣なのに 」
「 東くんって、遠慮ってものを知らないよね。ライバルを強くしてどうするの 」
西はダミービーコンの件だと思った。そういったものが欲しいと、かつて東から言われたことがあるのだが、「これ以上鬱陶しい盤面をつくるな!」と思って、西は上手に忘れたふりをしてきた―――そこを突かれて揺すられたのだと思ったのだ。そんなガジェットを東に持たせたら、各隊のオペレーターの墓が立つ。そのように西は予想している。
東は愉快げに目を細めた。
“最後の一手”だった。
「 俺は、西さんとはそういう関係で来たと思ってるよ―――好きだ。これからもずっとそういよう 」
西はカッと目を見開いた。
突然、どこかから撃ち抜かれて、気づいたらマットの上にいるかのようだ。ただ驚きのショックだけがあって、痛みも何もない。何も失ってなどいないのに、衝撃で鼓動が速くなる。そしてそのなかでじわじわと、「やられた…」という感慨が育っていく。
西はおろおろと頬に触れた―――勝ち続けてきたわけではない東くんも、この感覚はわかっているんじゃないの?そのうえで機を逃さない!―――東は淡々と続けた。
「 もっと強くならせてくれ、さもないと浮かばれない仲間がいる。西さんは、そうは思わないか? 」
「 思う 」
西は反射的に呟いた。
嘘は吐けなかった。
しかし非常に満足そうな東を見ると、西はめらめらと闘志が湧いた。こんな場面においてまで、西千夏は東春秋を倒したい。
「 けどね、東くんちょっとセコすぎよ。そんなふうに尋ねられたら、わたしはYESって言うに決まってるじゃない。『言うに違いない』って、思っていたでしょう?い、いまのは、上手に合成して訊いてきたわよね。もっと強いボーダーになろうっていう件と…そ、その… 」
「 俺の個人的な告白の件 」
「 黙って。何度も言わなくていい! 」
西は真っ赤だった。色めき立つ観衆に囲まれて、西の声は上擦って震えた。
東は裁きを待つように膝に肘をついて手を組んで、穏やかな笑みを浮かべていた。西さんの責め句が尽きるときまで、ここで的になり続けるつもりだった。
西は早口で喋りまくった。
「 こ、こういうの、断れないやつじゃない!!いやらしい奴、正面から勝負すればいいのに!ディズミーランド城前で告るなとかフラッシュモブでプロポーズするなとか、東くんは全部知っててやるタイプよね。自信がないからそうするんでしょう?あんた近距離ではわたしに勝てないから、いつでもこっそり転がして!最後はこうやって数で囲んで…!! 」
「 そうだよ。それが俺のスタイルだ 」
「 くっ…開き直るんじゃない 」
「 では正面勝負といこう西さん。俺の『好き』の意味はわかるな?最期まで一緒に来てほしい 」
東は一段低い声で言った。西はNOのわけがなかった。
―――何人が直感しただろうか?
若し乃ち幾を知るは、其れ神なり、惟れ叡を聖となす。玄妙の境は希夷にして測られず―――そう、この恋に限って言うならば、“合成”は必然の形なのだ。初めから境界などないのだ。だからこそ迅の“未来視”は、初めて他者たちに共有された。次は
迅がゲートを開いたので、暗い観戦室に光が入った。自分たちの試合の感想戦を聞きに、玉狛第二は室内へ雪崩れ込んだ。奇妙な空気へと困惑して、三雲修は一度白い廊下を振り返った。まだ状況のつかめないうちに、不思議なマイク音声が響いてきた。
「 …東くんなんて、大っ嫌い 」
女性の声だ。誰だろう?こんなにも囃し立てられているのは…。
「あの人つまんない嘘吐くね」と、空閑遊真はからからと笑った。