【完結】西千夏は東春秋を倒したい   作:Tohka.A

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冬島慎次(29)---特殊工作兵

 

一度はやりすごしたと思ったのに、「乾杯」の後に西さんは追撃してきた。勢いよくグイッといっちゃって、唇に泡をつけてプッハー!だってさ。やっぱり可愛いなあと思っていたのに、いきなり刺してくるなんてひどい奴だ。

 

これがあの頃のランク戦であれば、東はトリオンを漏らしていた。とりあえず逃げて逃げて逃げて隠れて、その隙に誰かと挟み込み、同隊ではない奴も巻き込んで、包囲する作戦しかとれない時だ。

「で、どうなの?」と鋭く質問した西へと、東は巧みにとぼけ顔をした。

 

 

「 慎次さんって、何が好き?あなたたち親しいんでしょ 」

 

 

生まれつきの顔立ちに誤魔化されて、西は東の“隠蔽”を見抜けない。

東はレバニラをつついた。

 

 

「 レゴブロックが好きらしいけどなあ?レゴブロックが好きな人は、レゴブロックを持ってるだろうよ 」

 

「 大抵のエンジニアはレゴブロックが好き 」

 

「 そうなのか?西さんも? 」

 

「 もちろん。みんなレゴブロックからスタートして、そこからマインクラフトを極めるか、テラテックで趣味を拗らせるか、そのへんで細分化していって、果てはみんなファクトリコ末期になるの。自動化したものが自動で動いているか点検するのを、いかに自動化してそれをまた自動点検するか… 」

 

「 ハハハぞっとする!無限の入れ子構造だな 」

 

「 ひとりで出来ることを増やそうと思ったら、そうするしかないじゃない。ねえ、どのみちオモチャとか変だって 」

 

 

西はきっぱりと言った。あんまり伝わった気がしないので、「入隊以前の東くんは、わたしとは違う遊びに凝ったくちだな」と察したのだ。どうせ釣りとかそういうのだろう。手を変え品を変え場所を変えてじっと待つ、クソほど気の長い趣味って他にあるの?

西はバクバクと食事を進めながら、変人(違うの?)の同期へと常識を説いた。

 

 

「 職場でちょっとしたお礼といったら、普通お菓子かお酒だよ。上等なお茶っていう手もあるけども 」

 

「 うーん、菓子、酒、お茶かあ 」

 

「 手元に残らないのがポイント。食べたらなくなっちゃうのがいい 」

 

 

東だってそれくらいわかっている。

ただ、もしもここで「冬島さんの好きなものは、食べ物でいうとすき焼きだぞ」なんて、西さんに素直に教えてしまったら…。東はそれを想像するのに忙しくて、焦って変なテンションになってきただけだ。

 

ハハッ読めるぞ読める、“未来視”だ。

 

もしも、俺のアイドル西さんが、「冬島慎次の好きなものは、すき焼き」という情報を得たならば…まず、西さんは「へぇ!」と嬉しそうな顔を見せてきて、その次にスマホを取り出す。そしてブーブルで和食レストランを検索して、“他の男と行きたい店”の写真を堂々とこちらに見せつけてくる。「ここなんか良いかも?」と、あっけらかんと言うのだ。

 

知らんふりを貫いて、悪いか?

ダサくてもしのいで粘りきれば勝ちだ。

 

東はひっそりと決意した―――近日、諏訪にも設定を共有しておこう。今日を以て冬島慎次というやつは、「食べ物には興味がない」()()()()()()()()

エンジニア集団の飲み会、反対!

ボーダーでは古参の俺たちだって、そこには混じっていけないからな!

混じっても何言ってるやらわからないとツライ!

 

ああ嫌な想像が駆け巡っていく。

 

大規模な侵攻を退けたのだ。死亡者が出ているけれども、それは戦闘員たちが知らない顔ばかりだから、無邪気に祝勝会をする者たちもいて、各隊の作戦室が集うフロアは、未曽有の活気に湧いている。

自分は、それを止められずにいる。

自他の武勇伝を話さずにいるなんて、あの頃の俺に出来ただろうか?まだ中高生の隊員たちに、「見知らぬ大人の死を悼め」と、強いることは酷なように思える…。

 

東はそっと西を穿ち見た。

 

 

( …西さんからすれば、すぐ隣のフロアにいた同性たちなんだ。トイレは確実に共通だし、ロッカールームも共同かもしれない。“知っている顔”以上の間柄だっただろう。なのに泣きっ面を見せない )

 

 

「悔しい!東くんに勝てない!」と、涙目で叫んでつっかかってくる、いつもの西さんはどこへ…。

 

明るすぎるようなチェーン店ではあるけれども、我々はいま二人きりである。なのに、()()()()()()()ように感じられて、東は無闇におしぼりを触った。

 

俺たちって、今、二人だよな?

そうであると自分は感じているし、西さんもそうだと期待している。

 

ぎこちない接客をするアルバイトに、とても声の大きい料理人。カウンター席を埋め尽くしている、黙々と食事する客たち―――多くの人が近くにいるけれども、みんな我々とは別の存在で、近界民(ネイバー)と戦ったことのない、ランク戦に明け暮れてすっかりゲーム脳になってしまっていない、とても堅実にして小規模な、普通の生活を選んだ人たちだ。同じ三門市民なのに、下手すれば近界民(ネイバー)よりも遠い存在である。だから、こんなデートとはいえない席であっても、()()()()()()()()()()()だろう。

 

 

( …隊員(ボーダー)同士でも、心理的距離はある。年齢が違う。立場が違う。“死”を知っている者とそうでない者がいる。前者は後者がブラックトリガー(死の代償の力)を持つことを許せない。それゆえ派閥は崩れない )

 

 

東春秋の主観において、今日の西さんはますますクールである。もともと息巻いて挑んでくるとき以外は、真面目な木虎タイプで、一万光年先を見るみたいな目つきをしていて、知り合って四年目にして初めて「クラフト系ゲームが好き」という情報を得たほど、プライベートが謎なのであるが、初めて隣を歩いてみたら、もっと不思議な人だと感じた。

まるで蜃気楼を踏み越えるかのように、西さんはタッタカと歩いていく。不意に目の前に(ゲート)が現れたら、躊躇わず往ってしまいそうだ…。

 

 

( 悲しいとき悲しんでいられないのって、どんな感じなんだろうな )

 

 

食べ続ける西を正面から眺めながら、東はグビッとやって想像した。

―――もしも、今回の侵攻が、誰も死なずに済んだものだったら、血反吐はく復旧作業の完了後、当座の仕事を脇に置いて、開発室のエンジニア連中だって盛大に飲み会をしただろうから、“冬島さんの先回り”は、俺の息の根を止めるところだった。元A級2位隊長の西さんは、通常業務に戻ってすぐのとき、偶然射撃場で出会った俺を、もっと強気に顎をあげて見上げて、「東くん、今度はB級合同を指揮したですって?相変わらずやるじゃない。わたしも戦闘に参加したかった」とか「爆撃に耐えたなんて当たり前。浮いている的を撃ち落とさなかったら、わたしの稼業じゃ戦果じゃない」とかとか、とっても景気の良いことを言って、もっと可愛いを炸裂させた末に、「このあと慎次さんとデート」とスパッと俺の誘いを断り、一撃で俺を消し飛ばしたことだろう。そして俺は、作戦室で諏訪・太刀川に爆笑されたから、それは実質倒されたってことなんだよ、西さん。

“そんな今日という日”が、つらいけども在ったほうが良かったな…。

 

“餃子ときどき東”の塩梅で、西は物凄くいろいろ考えている顔の同期を穿ち見た。また隙あらば知略を巡らしなさって、出来る軍師ヅラしていらっしゃるわけだが、今は疲れていて張り合う気が起きない。

やがて東がポツリと言ったことに、西はびっくりして目を丸くした。

 

 

「 菓子か。それならぼんち揚げ一択 」

 

「 それをずっと考えてたの!? 」

 

 

東くんって、天然?

衝撃の新事実である。

 

 

「 慎次さんはお菓子なんて食べないってこと?必ず消費する子がいるモノにしろって? 」

 

「 ああ、それが良いと思う。そっちが熱心だったから、あれこれ振り返ってみたんだが 」

 

 

振り返ってみた結果、東くんは慎次さんがお菓子を食べているところを見たことがない―――と、いう意味だと西は解釈した。うっかり驚いてしまったのに、東くんは大らかだなとも思った。人に考えさせるだけ考えさせておいて、こっちは炒飯と餃子と唐揚げを食べていたっていうのにね。

気を悪くしていない様子の東に、西はおずおずと言葉をかけた。

 

 

「 う、うん…ありがとう。東くんって、頭良いのに意外と性格良いね 」

 

「 おいおい、俺への偏見がひどいぞ 」

 

「 だって毎回ウザいことされたから。自然と性格悪いイメージがつくでしょう 」

 

「 それは、俺はいつでも西さんには、距離を詰められたら勝てないからだよ 」

 

「 そうやって余裕ぶって言われるのがムカつく。結局勝つくせに 」

 

「 ポイントは『勝てなくてもいい』と思うことかもしれない。勝ちにこだわらずにその時の実力で、『やれることをやる』に徹するのも、価値ある取り組みだなと最近は思う。B級にいるのは楽しいし―――冬島さんの件、気楽に呼んでいいって言われたんなら、助っ人に対するお礼の品とか、そういうのもきっと要らないと思うぞ。『味方を援護するのは当然だ』って、あの人ならば考えているはずだ。あの人にとって君は仲間なんだ 」

 

 

東は鷹揚に笑った。正直、「冬島さんこの野郎ッ!」と後でシバきたいものの、あの人が望んでいることはよくわかる―――どうか、元気出してくれよ、西さん。誰とも心を重ねないで、いつのまにか遠くへと行かないでくれ。

 

同じ三門市で暮らすまま、人と人は深く隔絶されている。近界民と玄界民、市民と隊員、戦闘員と非戦闘員、“死”を知る者とそうでない者、向き合っても目の合わない我々。

西はビールジョッキを握って、消えていく泡を見つめ続ける。

東は窓越しの街を見る。そそり立つ基地をじっと眺めながら、手前を越えて行く影を味わった。本当に、いろんな人たちが暮らしている街だなあ、と。

 

出会ったって、人は簡単に別れてしまうものだし、分断を煽る奴だっているけどな。人類は、その脳容量の都合上の「個別の同族を記憶識別できる限界数」を突破して、複雑な感情を持っているながら、格別に大きな群れを作ることができる生物で、ほら例えば今ここに、1億2000万人の国がある。

我々はそうやって生き残ったし、これからもやっていくんだよ。

“数の有利”を活かさないで、どこまでもわかれていくことはない。

「そういうのって、寂しいだろ」と、いつか手を握って話してみたかった。

 

 

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