【完結】西千夏は東春秋を倒したい   作:Tohka.A

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諏訪洸太郎(21)---二丁散弾銃手、援護

 

さて、反省会を始めましょう。

 

 

敗戦の将となった東春秋は、西千夏にお願いされたとおりに行動した。彼はいい匂いをさせて開発室に現れて、エンジニアたちをとても喜ばせた。

誰も彼もが無神経だった。

鬼怒田は、東がフロアへと大量の差し入れを持ち込んで、「おつかいで来ました。こちら西さんからです」と報告すると、驚いたタヌキのように身を竦めて、ジロジロと東の全身を眺めた。

 

 

「 ほう、そうか。気が利くな 」

 

 

そのあとの一言が余計だった。

 

 

「 そうか、君たちは交際しとったか 」

 

 

東はフッと笑うしかなかった。

鬼怒田さん、そういうの、“死体蹴り”っていうんですよ…―――東は砂になっていく心地がした。

 

 

「 おいおい、もう尻に敷かれてんのか 」

 

 

冬島はニヤついて言った。

東は、鬼怒田に否定することもしんどいし、冬島に言い返すこともしんどかった。いつも「女子高生に弱いな」と、こちらが彼を揶揄ってきたことが悪いのだが…―――頼むから、今は「絶好の機会!」と語るような目つきをやめて、極力そっとしておいてほしい!

東は、「いいえ」と「あんたが言うな」という台詞を、腹の底からギリギリ絞り出した。撃てばトリオン切れが有り得るような状況で、離脱直前に放つ一発のようなものだった。東は、言った後ただちに帰路につくために、言いながら既に出入口を睨んでいた。

 

 

「 はあ? 」

 

 

冬島が声をあげたとき、東も「はあ?」と言いたくなった。

 

 

「 よう、お疲れさん 」

 

「 どうも 」

 

 

諏訪と寺島がやってきたのだ。他にも多くの職員たちが来たが、落ち着いた者の多いエンジニア集団のなかで、諏訪洸太郎はよく目立った。なんせ金髪ツーブロックだ。

ここが職場である寺島はともかく、なんで諏訪はここにいるんだ!?―――と、一瞬怖い顔になった東に対して、諏訪はひらひらと手を振って言った。

 

 

「 なーんもねえ何もねえ!コンパクトサイズ体験の後遺症、ないらしいっす。その間の記憶もねーんだけど 」

 

「 検査を受けていたのか…。うん、それは、よかった 」

 

 

東はハッと現状に意識を戻した。

そうだ色恋に現を抜かしていないで、今やらねばならないことは多い筈だ。三雲修による記者会見を思い出して、東は小さく顎を引いた。

諏訪は後頭部に触れながら言った。

 

 

「 検査はとっくに終わってるんすよ 」

 

「 今は再圧縮チャレンジ中です 」

 

 

寺島が当然のように言った。

 

 

「 目標、とりあえず再キューブ化。いずれは豆腐サイズ、レゴブロック… 」

 

 

寺島は親指と人差し指を引き寄せた。

なんと容赦のない奴であろうか、寺島は同期を指でつまむつもりである。

諏訪はただちに文句を言った。

 

 

「 レゴサイズはなしだろ。踏まれんじゃねーかよ 」

 

「 でも、輸送コスト良いだろ 」

 

 

寺島はエンジニアらしく言った。

冬島は、諏訪へと呆れた視線を投げつけた。

 

 

「 おまえ、なんでレゴは踏むものだと思ってんだよ。組むんだよ。片付けろや 」

 

 

真っ当…では、ない指摘である。

年配者からの指導であったが、諏訪は堂々と開き直った。隊員歴なら諏訪のほうが長いのだ。

 

 

「 あんたが持ち込んで散らかしてんだが~~~?なんか白板(とうふ)一個ねーっす 」

 

「 お前がなっとけ 」

 

「 ひとまず消しゴムで代用中 」

 

「 雑か!手牌もろバレじゃねえか 」

 

「 もう副露(鳴く)しかねえ 」

 

「 誰がうまいことを言えと 」

 

 

冬島も諏訪も笑った。頭の回転は速いが、どっちも大概のアホである。

東もぷっと表情を緩めたが、じゃれあいには参加しなかった。少し出た元気を使って、東は鬼怒田室長へと視線を注いだ。

 

 

「 “役のつく組み合わせ”で隊員を同地点に投下できるようになれば、盤面はもっと面白くなりますね…? 」

 

 

新しいおもちゃを欲しがる子供である。

鬼怒田は東を可愛らしく思って、深々と頷いてから返事をした。

 

 

「 そうだ。君も好きだねえ…―――安定したキューブ化に成功したら、次は撹拌機でぶん回す。その時はおまえの出番だ冬島!理論上、キューブならば酔いようがない筈だが、検証実験は要るからな―――ほれ、諏訪くんも食べなさい 」

 

 

冬島は大人しくなった。

鬼怒田は白いパックの上に箸をのせて、職員たちに配給を始めた。鬼怒田は来た者に選ばせずどんどん渡すので、誰に何があてがわれるやらわからなかったが、第一実験台としての御駄賃を得た諏訪は、「個人的に当たり」の品を引き当てたようだ。ガバッと乱雑にパックを開けて、「うっし酢豚!」と叫んでニッカリとした。

 

 

「 酢豚はぶただろうよ 」

 

 

東は諏訪を茶化してみた。

すると諏訪はドカッと空いている作業椅子に座って、荒っぽく箸を割りながらこう言った。

 

 

「 そういやさっき西さんからLlNEきたんすよ 」

 

「 知ってる 」

 

 

東は苦々しく呻いた。

諏訪の反撃は見事だ―――と、東は感じた。

呆れきった目で諏訪はぼやいた。

 

 

「 あんたの連絡先知りたいってよ。あとでグループ作っときますんで、勝手に繋がっといてくださいよ。な~んでサシ飲みまで行ってて自分で交換しねーかな… 」

 

 

東の目は最大化した。

冬島は「はああ?」とさっきよりも大声で言って、餃子のタレを少し溢した。

 

 

「 東おまえ何やってんだ。折角俺が“浮かせた”だろ! 」

 

「 東さん、今度一緒に飯行きましょ 」

 

 

手のかかる中坊を見るような目つきで、諏訪はどこか隊長らしく指示を出した。東が初めて見る一面だった。

 

 

「 俺ら“ソコでやったの”の反省会っす。日佐人も連れてくからノンアルで。ノンアルならちゃんと風間も来るんで。コンセプトは、“俺が風間と喧嘩してえから東さんというレフリーをよぶ会”。んで俺は、『無茶な指示出してんじゃねーよ』って風間を捕まえて100発シバいときますんで、その間になんとか 」

 

 

寺島が細案を補足した。

 

 

「 沢村さんも呼ぼうっていう話じゃなかったっけ? 」

 

 

諏訪は思い出したように頷いた。

 

 

「 女子1だとなんかアレだしな?東さん、わりぃけどあんたがする動きのことは、どのみちおサノには話しときますわ。沢村さんのスケジュール会うかどうかわかんねーけど、もし来て西さんと着いちゃうとマズいんで。そこ盛り上がったら俺ら入れないっしょ。女子3ならおサノが西・沢村を崩す。2ならおサノは最初から堤らと着いとく 」

 

 

なんという支援策の雨あられ。

感動的な心地で、東はフロアを去ることになった。

 

 

 

 

白で統一された通路を歩いていると、ここで惨劇があったのは嘘のようだ。朽ちていく廃墟たちと違って、気楽に歩けるがどこか怖い。沢村の記した状況報告書によって、東はこの場所で起きたことを知っている―――…。

 

東は立ち止まって想像した。

諏訪がキューブからヒトに戻ってすぐのとき、このフロアは近界民(ネイバー)による急襲を受けた。その近界民(ネイバー)は自在に肉体を非固形化できる者だったが、この通路を()()()()()。ここまで逃げてきたが動けなくなったオペレーターたちを、踏みつけて嗤うためだった。

 

それを撃ち飛ばしたのが、西のアステロイド。

ところが敵は死ななかった。

なのに寺島が突入してしまった。

 

寺島は達者に孤月を扱えるが、西の火力を信じて装備(セット)をシールドに全振りしていた。彼は倒れていた者のうち、まだ死んではいないオペレーターを選んで担ぎあげて、太ったのに頑張って走った。

敵は寺島を狙った。この時点で西は敵の抹殺を諦め、装備(セット)二丁拳銃(ダブルハンドガン)へと切り替えて、一直線に寺島を走らせながら、その周囲を撃ち続けて敵を足止めした。そこに鬼怒田室長の放送がとんだ。西と寺島の二人は、生え抜きではない若手たちであるながら、「エンジニアたち」と鬼怒田氏に呼びかけられ、「絶対に死ぬな」と命じられた―――彼らは研究室(ラボ)の防衛を放棄した。そして体制の整った諏訪隊と前線を交代して、退避した生粋エンジニア組を追った。

緊急脱出(ベイルアウト)して基地にいた風間は、急遽諏訪隊・風間残存隊の指揮をとった。彼は本部長まで駒に使って()()()()()()

 

 

( 風間だけでいいのか?風間隊からの参加者は… )

 

 

東はひとつ溜め息をついた。

きっと、俺が不甲斐ないから、俺が確実に西さんと話せるように、「風間とは同期」という事実を使って、諏訪は上手にシールドを張ってくれているんだな。それで自身が根回しするわけにいかない風間隊の子たちや、忍田本部長(絶対誘われたがる)を排除しているのだ。

 

 

( けれど、それって寂しいじゃないか。全員(チーム)で敵を倒したのに、一部のいない反省会なんてよくないだろう )

 

 

 

翌日東がそのように伝えると、諏訪は少々気の抜けた返事をした。

 

 

「 ふーん…まあいいっすけど 」

 

 

諏訪は読んでいた小説を雀卓に置いて、ちょっと“当日の盤面”を想像した。西を眺めて終わるだけになりそうな東に、「あんたちゃんとやれんのかよ」と諏訪は思ったが、親しい仲でも先輩であるので、それを口に出すことはしのびない。

 

 

「 そんなら冬島さんもよびてーな 」

 

 

諏訪はチラッと壁掛け時計を見た。

 

 

「 どうせそのうち来る。顔見たら『来て』って言おう。俺、風間の指示で対象を追い込むとき、敵が切り刻んだ(トラップ)の残骸踏んで地味にやべえことになったんすよ。いやーあれは焦ったわー!本部長には東さんから声かけてくださいね。俺にその勇気はないんで 」

 

「 沢村に任せておけば突撃してくるよ。あの人、お前のバイクのこと良いって言ってたぞ。太刀川が此処のこと全部喋ってるから、『いいなあ』と言われてビビったことがある 」

 

「 マジか。あいつ、何でも喋るな~!?フツー偉い人には言わねーよ 」

 

 

東は頷いて同意した。そうだよな、普通は「ある隊の作戦室がクズ学生の下宿っぽくて楽しい」「夜な夜な麻雀やってま~す」なんて、幹部クラスの面々には言わないでおく―――けれど、それを言ってしまうのが太刀川慶。そうじゃない太刀川は、太刀川慶ではない太刀川だ。その太刀川慶の師匠が忍田真史で、我らがボーダー本部長である。城戸司令に知られたらキレられそうなことをしているのに、握り潰してくださっていて有難うございます…。

東は忍田の佇まいを思い浮かべた。

 

 

「 あの人、打てば絶対強いだろうな。麻雀やるようには見えないのに 」

 

「 違いねえ。ぶっちゃけあんたらの一局は見たい。うちに本部長こられるのキツいけど 」

 

「 恩義があるだろうが?座布団を敷いてお迎えしろ 」

 

「 いやいやガチでキツいですって 」

 

「 雑魚川をボコって代打ちを呼ばせたら…誰をよぶと思う? 」

 

「 来る~~~!それは、来ちまうからやべえ!でも、今じゃねーよな~… 」

 

「 ああ、今は、そのようにするべき時じゃない 」

 

 

諏訪は黙り込んだ。

東は、何もない宙をしばし見つめた。

 

死んでいった者たちに報いるために、上層部はいま手を尽くしている。黙って機を待ち牙を研ぐことしか、我々の世代はまだできないのだ。

 

覚悟なら、もうあるんだけどな。

でないと就活もせずに遊んじゃいない。

 

どうぞ境界者(ボーダー)とお呼びください。モラトリアム学生ライフ、最高である。

 

 

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