VS太刀川慶・弓場隊・鬼怒田本吉
もう夜だから帰らないといけないけど、基地は楽しいからまだ帰りたくない。そんな気分の帯島ユカリは、ラウンジの一郭でピクッとした。彼女は、先ほど孤月の稽古をつけてくださった、太刀川隊長に挨拶をしにあがったところだった。お話を遮ってはいけないので、太刀川隊長の後ろに控えていたら―――非戦闘員の人を相手に、太刀川さんは凄いことをおっしゃった!
躾けられた行儀を忘れて、帯島は女子中学生らしくジタバタした。
「 うっひゃー、東さんにも恋愛とかあるッスか!?西さんっていう人、気になるッス! 」
帯島ユカリは声がでかい。
斬られたうえに、追撃だ―――西千夏はぐらっとよろめいた。わらわらと集まってきた中学生たちに、西は無邪気に退路を断たれてしまった。噓でしょ東くん、ちょっと知名度高すぎよ…と、恨むけれども彼は悪くない。
( 悪いのはコイツだ… )
コイツだコイツ、太刀川慶。
西は瞳をかっぴらいて、まるで荒野のガンマンかのように仁王立ちした。自販機で平然とジュースを買っている太刀川を、今すぐぶっとばしてやりたかった。
引き金をひく指で―――バキィ!と西が缶コーヒーを開けたとき、太刀川は殺気に反応した。「ぶちのめすぞ」という意志を宿した西の瞳に、太刀川はゾクゾクして笑った。今の我々がぶつかったら、どんなに面白いか…。太刀川は楽しくてならなかった。
帯島はつい浮ついて騒いだが、猛者たちの気迫に圧倒されて固まった。西は極力穏やかに言った。
「 ねえ、銃は怖くないでしょ? 」
とある決断を下したのだ。
よし、本日実験台としてキューブ化される奴は、お前で決まりだ太刀川ァ!シミュ室で砕いて記録とってやるから、蜂の巣にされに来いや!!!―――と、西さんは思うけど怒鳴ったりしない子です。もう新卒というわけではありませんので、ちゃんと我慢ができるんです。
太刀川は不敵に微笑んで言った。
「 怖いわけないだろ? 」
「 上等。ちょっとあんた開発フロアに来なさい。玉狛の小南ちゃんにするようなこと、わたしにまでしてくるんじゃない 」
西は穏やかに言ったつもりだ。
そこへ弓場が走りこんできて、固まっている帯島の頭を鷲掴みにした。
「 すみません、姐さァん!! 」
弓場拓磨もまた声がでかい。
しかも速い。速い。遮る暇なんてない速さだ。
西は彼にリボルバー式銃を与えている。
「 帯島ァ!こちらの姐さんが西千夏さんだ!!! 」
西は社会的に死んだ。
無数の
現場を離れて長いので、西からすればそれは「知らない子たち」ばかりだが…弓場隊狙撃手の外岡は、「おおお…!」と興奮の息を漏らしていた。知ってる、あの人、こないだ射撃場で見た!たしかに東さんと仲良さそうだった!―――という個人の囁きはどよめきへと変わる。
爆発的ラウンジから緊急脱出したとき、西は恥ずかしいやら悔しいやらで涙目だった。思い思いに騒ぐ中高生たちなど、ただのエンジニアに止められるわけがない。
西は開発室に駆け込むなり、「うぇぇ虐められたぁ!」と叫んだ。「雷蔵!あいつぶっとばそう!」と言って、西はスコーピオン開発者に絡んだ。大騒ぎするやんちゃな子たち(姉のほう)に、鬼怒田は腕を組みながら訊いた。
「 どうした 」
「 うっうっ太刀川がぁ…!まあまあアホのくせに、わたしのこと高校生と同じ扱いしてきて、ラウンジで嘘を広めたんです! 」
弓場くんたちは悪くない。
と、西は涙目だがちゃんとわかっている。
襟首を掴まれたまま寺島は、「やっちゃってください室長!」と騒いだ。
鬼怒田は真剣な態度で言った。
「 対処が必要か?どういった内容だ? 」
「 それは… 」
西はしゅんとして後悔した。
ああこんなくだらないことで、室長のお手を止めさせるんじゃなかった。「舐めてる後輩」というつながりで、あとで響子ちゃんにそっと愚痴っておけばよかった。「迅がお尻触ってくるって?太刀川も最悪だよ」と…―――こんなのはロッカーの前でする話だ。
「さっさと言え」と鬼怒田に叱られて、西は正直に述べるしかなかった。
「 …東くんが、わたしのこと好きっていう嘘です 」
物凄く恥ずかしかった。
そっと寺島を離してやって、西は項垂れた。
鬼怒田は不快そうに顔を歪めて、浮ついている若手をどやした―――
「 それは嘘じゃないだろう。何を言っとるんだおまえは 」
鬼怒田は仕事に戻った。
「 えええ!? 」
西は素っ頓狂な声で詳しく訊いたものの、二度と鬼怒田に相手をしてもらえなかった。
さながらネズミ返しからの転落だ。もう取り付く島なんてないのだ。
自由になった寺島は、自席でケタケタと笑うばかりだった。ゆるやかにそしてしたたかに、彼もまた牙を研いでいるのだ―――このほど敵の懐柔を任されて、心理技術書で勉強をしていた。