沢村響子25才。ポジションは本部長補佐。
響子はびっくりした。必ず、この同期たちを結びつけねばならぬと決意した。響子には東のよさがわからぬ。響子は、忍田本部長一筋である。忍田さんに憧れて孤月をふるい、ランク戦で遊んで暮らしてきた。それほど恋愛に対しては、人一倍に行動的であった。
「まずいことになったわ」と千夏が暗い声でぼやいたとき、響子は本当に本当にびっくりした。「西千夏と東春秋はワンセット」、その事実は、古参組のあいだでは常識だった。今更「広まってしまいそう」と怖れることではないし、千夏ちゃんのほうはともかく、東くんが千夏ちゃんのこと好きなのって、「嘘」ではないよねと思えてならなかった。
だって沢村は質問したことがある。
沢村は、同期の東に対して、「実際のとこ千夏ちゃんのことどう思ってる?」と、単騎で斬りこんだ経験がある。そして少なからぬ安心を得た。あれは、冗談ではなかったと思うが―――「西さんは俺のアイドルだよ」と、当時の東春秋はスパッと言いきったのだ。
それって、「好き」のうちに入りません?「三年前だから無効」だとしても知らないよ。
本部長!これは事件です!ソサエティに脆弱な点が見つかりました!
つまり、この人たち放っといたら一生やりあっといてくれて駒たちを強くしてくれるのに、他に夢中になる相手をつくって、あっさり離れちゃう可能性があるんです!「意外と良い人だったのに、気まずいわ。すごく申し訳ない。関わりを避けたい」って言うんです!そんなのって大損失です!東西紛争は続くべきですよね!?
どうせお互いの思考回路や、強みと弱みを知り尽くしているのだ。そこまでお互いのことを意識しているなら、好きじゃなくても好きになっているみたいなものだ。もうこの際付き合っちゃえ。
と、沢村響子は思った。
並みいる
トリオンを探知されて、間近に
沢村は厳しい顔つきで頷いて、愚痴を言う西に発破をかけた。
「 そうね。それで、まさか、カスタムの仕事を放棄して、『もう戦闘員のいるところに行けない』とか言わないよね?しっかりしてよ西隊長。シャキッとして 」
「 うん。うん。それは、当然しないけど…。でもね今度の“反省会”、なぜかグループに東くんまで入ってるし、めちゃくちゃ気まずくなっちゃうから、行きたいけど行きたくないの。なんでアレ東くんも入ってるのかな?彼、エネドラ戦には関係ないでしょう。彼、あのときはお外でB級合同を指揮して、一級戦功をあげていらしたそうじゃない。聞かせたくない話もあるわ 」
「 もう直接対戦しないのに?そこまでとことん張り合うんだ…!? 」
沢村はぽかんと口を開けた。
まあね、そりゃあ模擬戦では毎回千夏ちゃんは前衛で、東くんは後衛だった。西隊長ってば東隊長のことを、「コソコソ屋。いつでもバッグワーム野郎」と呼んだものだが、現在の組織運営の面では、二人は逆の配置であるに決まっている。
出来る前線指揮官がいるの、有難くない?
でも、今のでピーンときちゃったわ!
ねえ、千夏ちゃんは、東くんがあのとき冷静でいられた理由が、「基地には忍田真史がいるから」であって、「西千夏がいるから」ではないのが悔しいんだね。逃げて生き抜かないといけない立場になったこと、まだ心が追いつかないんだ。
( どのみち千夏ちゃんじゃ本部長には敵わないよね~! )
沢村響子は残酷な女だ。“忍田さんの雄姿”を思い出して、沢村はとてもニコニコした。この女、実はあのときの記録映像を個人的に回収しており、何度も視聴しなおしては、「キャー忍田さんかっこいいー!」とキュンキュン悶えている。盟友として、西の気持ちはわかったのであるが、どこまでも自分の道を行った。
「 ダメ。反省会、東くん抜きはダメ。流石に東くんがいなかったら、久々に現役から声をかけられて本部長はお喜びだけど、絶対にご遠慮なさるもの―――本部長の隣、譲らないから!千夏ちゃんには構ってあげません 」
「 ああ酷い。うちのチーム酷い。隊員の癖が強すぎる… 」
「 太刀川くんはあとで“指導”ね。ねえ、東くんは有名だから、千夏ちゃんが恥ずかしかったのはわかるよ?でもね、逆にいえばどうして“技術部の西”は、“あの東さんを最も手こずらせてきた人”なのに、ほとんど顔を知られていないの?『東くんとはそういうのじゃない』って言うなら、『たしかに』とみんなに思わせる状況をつくりなさいよ。迅がお尻触ってくる理由、わかる?折角ランク戦に復活したのに、あの子に構ってあげてないでしょ 」
沢村は真剣に言った。
西は虚を突かれて、じっくりと沢村のことを見つめた。
沢村は大きく踏み込んで言った。
「 本部長はいつもおっしゃってる―――『西と東の戦い』は、下の子たちがついていけないんじゃ意味がないの。
「市民を」とは言ったものの…。
名前も知らない市民よりも、もっと守りたい人たちはいた。本当に死んでいった同僚たちを思い出して、沢村はここで言葉を切った。
すべては、ゲームだとばかり思っていた。
死ぬって
西は、不意に沢村が泣くような気がして、向かい合っている沢村を直視することを避けた。
6名の非戦闘員が死んで―――使用者の減った女子休憩室には、死者たちの私物が一部遺っている。ずっと置いてある紙袋に、使われた気配のない歯ブラシ。「誰それはそういう趣味だった」と、本人がいなくなってから初めて知らせる物たち…。
それらは、持ち主が生きていたうちは、いつのまにか置かれていつのまにか片付けられた。だから西は、全然存在を気にしないできた―――今は、ちょっとでも遺っていると目立つなと感じる。西は、死んだ6名を知っている筈なのだが、実のところ持ち物の趣味どころか、6名の顔の名前の一致に自信がない。毎日挨拶はしていたのに、「オペレーターだから」という理由で、最初から覚える気がなかったのだ。
( …きっと響子ちゃんは、全員を知っていた )
西は沢村に視線を戻した。
響子ちゃんの頬には雫があるけれども、これくらいは通常営業ってことにしていかなきゃ。居抜きで旋空を放ったら、自然に風圧で涙が出るもんね―――西は優しい笑みを浮かべて、「抜いたの?」と沢村を揶揄った。
沢村は笑った。直後に真っ直ぐな目で沢村が言ったことに、西はまたバッサリとやられた。
「 決めた。本部長に進言して、千夏ちゃんと東くんのランク戦解説合戦をやろう 」
「 待って 」
「 地力をあげよう。下の子を育てよう。わたしたち、もっと強くならないといけない 」
軌道は見えていたのに、コレである。
西は猛烈に左右に首を振った。
「 無理、死ぬ。少なくとも今は無理。やめて! 」
「 死なない。トリオン体だから死なない 」
このマッチアップは西の負けだ。