さあ大変なことになった。
結局、シミュレーション室でキューブ化されてどこがどう損傷したらどんな影響が出るか、手も足も出ない状態で何度も撃たれて、何度も死にながらデータをとらせてくれたのは、同じ装備エンジニアの寺島だった。太刀川でやってやりたかったのだが、今は太刀川を追いかけて探し出す余力がなかった。次のデータとりの条件を確認しながら、西は端末ばかりを見て言った。
「 ごめんね。気分良くないでしょう 」
寺島は首を回しながら言った。
「 いえ別に。ちょうど煮詰まってました 」
「 『タフなのにしとけ』って室長が言ったんだ。あんた大丈夫?まいったらすぐ言ってね 」
「 『痛かったら言ってくださいね』の歯医者さんですか?あれで油断させておいて、結局止めてもらえたことないです。今のは手の内が見えてますね 」
「 あはは。たしかに―――次、やるよ 」
寺島はまたキューブ化された。
西は、指示書にあるとおりの損傷を寺島に与えた。
二人は真面目に仕事をしているのだが、これは繰り返すほどに奇妙な作業である。元戦闘員である彼らは、自身の手足を削られた回数や胴が千切れた回数を、いちいち覚えてなんかいないのだ。そんなのにショックを受けていた頃の心を、彼らはもうなくしてしまっていた。恐怖心はある。あるから攻撃を避けられる。恐怖心がなかったら強くなれない。
寺島は勉強に戻りたくなくて、最後まで西の手伝いをした。そうやって時間を稼ぐほど寺島は、自身へと下った指令が嫌だった。「いいな。自分もそっちが良かったです」と、寺島は恨みがましい目でぼやいた。
「 どうしてエネドラッドに舐められないといけないんだ―――後進の育成、楽しそう。スコーピオンはもっと使いこなされるべきですよ。孤月じゃ太刀川がのさばるんだから 」
「 そうね…少なくとも懐柔よりは、楽しい。けど、太刀川のせいでとてもやりづらい 」
西は雑談をやめた。
ひととき真剣になって記録を整理してから、西は不服そうな後輩に笑いかけた―――こうして一覧にしてみると、今日の寺島はよく消えたね!「誰と対戦したらこうなる?」と、西は寺島に質問してみた。
寺島はムスッとして唸った。
「 二宮ですかね 」
「 はあ?わかってない。そこはどうせなら出水くん 」
「 出水は太刀川が使ってるから嫌です 」
「 あんたも大概だわ… 」
「 西さんと東さんほどじゃないですよ―――あの、さっきおっしゃってたの、深く窺ってもいいですか?一丁やらないといけないんで。さっきの台詞、地味にびっくりしたんですけど―――東さんに言ったことありますか 」
寺島は勉強のために訊ねた。
西は、何のことやらわからなかった。
西は“元祖感覚派
『 はあ、終わらな~い。うちの職場残業ヤバいよね。帰りにはねられたらどうしよう?生身って痛いの、忘れちゃうよね。昨日は酔って飛び出しちゃった―――多くの生身事故者は、轢かれてすぐのとき痛みを感じないそうよ。わたし、生身で蜂の巣にされても、気づかないで笑っちゃう気がする―――『やられたぁ~!』っていう気分のまま、キラッと
寺島雷蔵は思うのである。
西さん、それ“誘い”で言ってますか?明るく笑うのも戦術ですか?人をぐちゃぐちゃにするの、楽しいですか?あなたにとっては、全部が遊びなんですか?―――そういうわけではなさそうなのが、元祖感覚派
必要な聴取を終えた後、寺島は老婆心からこう言っておいた。
「 西さん、おれには未来が視える 」
「 うーん似てない。似てないよ、やり直し 」
「 はい―――今の、東さんの前では言ってはいけないが、敢えて言ってみると吉。おれのサイドエフェクトがそう言ってる 」
「 ナイストライ。今のは後半が似てた 」
「 躱すのうまいなあ… 」
寺島は深追いをやめた。
じゅうぶん義理は果たしたし、これ以上の“援護”は要らないだろう。
頑張れ東さん、ちょっとは自分で頑張れ。諏訪が呆れて言っていたぞ、「あいつ、後方軍師面がやべえ。タイムアウトねーと思ってんのかな?普通四年めにもなったら無理だろ」と。そうでなくてもタイムアウトはあるぞ。
白い白い廊下を歩くたびに、寺島雷蔵は惨劇を思い出す―――ごめんな、君が気になっていたってこと、今は幻のように感じるよ。どう見ても死んでいる君を見たら、まだ息のあるほうへと手が伸びたから―――…。
おい、東さんよ、だらだら麻雀打ってる場合か?いくら気が長いといったって、男だろう、そろそろ勝負するときじゃないのか。後悔してからは遅いぞ。たとえ100万回負けたって、我々は平気で笑っていられる。けれど100万1回目の離脱が、本当のサヨナラじゃない保証はない。
いつもの諏訪隊作戦室で、そのとき東は「ロン」と言った。