黄泉の巫女。最強醜悪の魔王は、聖人妹のために呪術を振るう   作:氷水メルク

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十二の聖人の現在

 

「おれというと……バリル?」

 

 額から汗を流して妹は頷いた。

 バリルの偽物……。

 おれの偽物か。どういうことだ? 

 おれの持つ呪術を解析した。そこまでは分かる。

 しかし妹、聖闘士サクヤは十二の聖人のひとり。

 そのひとりが解呪できない? それこそあり得ないだろ。

 

 おれは右目を瞑り、左目の【魂魄眼】を通して妹を見る。

 

 するとそこには悍ましい現実があった。

 百戦錬磨の妹を苗床に集る八匹の黄色い蛆。

 右目で見れば状態以外は綺麗で健康的な肌艶を持つ妹の姿。

 しかし左目で見れば、妹の身体はもう八割ほど蛆に食まれている。

 腐った方の妹の右手が腐食して落ちる。共鳴するように正常な方の妹も右手を抑えた。

 呪術、【呪詛:(らい)(うじ)変性(へんせい)】。いずれ神へと至る外道呪術。

 おれは妹から数歩離れる。今着ている巫女装束を脱いで【神彩の宝玉】に押し込む。

 

「……何して」

 

「おれの服には絶対触るな。今は悪化する」

 

 おれの着ている装束の名は【黄泉(よもつ)装束】。

(さかい)()の空洞】と呼ばれるダンジョンの奥深く。祠に眠っていた代物。そして妹が掛かっている呪術の原点。

 八つ神の蛇鬼(じゃき)が込められた逸品。着用者を力に溺れさせ、侵食し、やがて飲み干す。

 呪術を使う上で色々と上昇補正が入るから着ていた。しかし今は妹の身体に障る毒でしかない。

 

「さて、でどうしたんだ? その偽バリルにやられたのか?」

 

 衆悪の六魔王はこのAWIにとって厄災、天災とされる。

 イベント限定レイドボスより手が付けられない。

 国のトッププレイヤーが手を取って挑んでも討伐不可能。

 プレイヤーだから、どこでも神出鬼没に現れる。

 そんな奴が同等以下以上とはいえ、そう何人も居てたまるものか。

 内心で手を振るおれに反し、妹は浮かない顔だった。

 

「……圧倒的だった」

 

「圧倒的?」

 

「あたしらは、その偽物に真正面から十二人で挑んだ。そして敗北した」

 

「十二人……というと、十二の聖人全員でか?」

 

 妹は苦虫を嚙み潰した顔で、口を閉ざす。

 えっ、マジ? 

 マジかぁ……。

 話に聞く限り十二の聖人って本当に強い奴らの集まりだ。衆悪の六魔王が超えられない壁として抜きんでているだけで。

 

 まだ本物にやられたとかなら納得がいく。

 現実味が薄すぎてどういう感情を持てばいいのか分からない。

 怒りの感情すら忘れて、おれは馬鹿みたいに口を開けていると思う。

 しかし現にバリルしか使えないはずの呪術が妹に掛けられている。

 その呪術は今確かに妹の身体を蝕む。着々と命を奪わんと進行する。

 今の話が例え嘘だとしても、その事実だけは変わらない。

 

「ゲーム時代にそんな奴の話を聞いたことが無い。居たとすれば必ずどこかで話題に上がるはず。となると、現実になったタイミングで現れたNPC? だがNPCがあの領域に達するのは……」

 

 AWIにレベルという概念は存在しない。

 ステータスを上げるには現実の筋トレ及び、少年漫画よろしく死線を何度も潜り抜ける必要がある。

 例えば裸一貫で百以上の魔物の群れに勝利する。ソロでレイドボスに挑んで一度も攻撃を受けない。

 何ならレイドボスの最大攻撃を裸で百回受けてノーダメージ、なんて鍛え方もある。

 流石にここまでしてようやくステータスが上がる奴は衆悪の六魔王(へんたい)の領域だ。

 普通はレイドボスにチームで挑んで勝利するだけでも、聖人クラス。

 だけど、その聖人クラスの領域に偽物は勝利したと。NPCという、復活もやり直しもできない一度きりの命しかない存在が。

 

「あにぃ?」

 

「悪い悪い。大丈夫、任せろ妹! おれがその偽バリルをぶっ潰してやる!」

 

 頭の片隅に入れた方が良いだろう。

 少なくともその偽物は、弱いレイドボスなら一騎でも討伐可能な奴なのだから。

 

「……やってくれんの?」

 

「妹に掛けられている呪術は、それはもう悪趣味な代物だからな」

 

「……創ったのはあんたでしょ」

 

「それはまぁ、色々と紆余曲折ありましてね」

 

 妹のジト目に耐え切れずおれは視線から逃れるように目を泳がせる。

 ぐらりと馬車が振動で揺れれば、妹はまたも横になる形で席に倒れ込んだ。

 その顔は汗まみれで、今にも落ちそうになる瞼が落ちそうだ。

 なのに何かを憂うかのような目で、おれと目を合わせてくる。

 

「あんた、他に服は?」

 

「それよりもう寝てろ。城に着けば呪いは解いてやるから」

 

「……巫女の恰好だと……民が不安になる」

 

「あれ一着」

 

【黄泉装束】は性能が良すぎた。

 理由はそれに限る。

 妹は覇気のまるで籠っていない顔を俯かせる。

 ボソッと今にも消え入りそうな声で「服屋行くか」と呟いている。

 

「それは今度だ」

 

「あにぃ、いつも二着……。せめて三着」

 

「なら妹が代わりに選んでくれ。そういうの興味無いし」

 

「……へぇー」

 

 呪いを解けば元気になるから、なんて軽い意味で言ったのに。

 妹は不敵な表情で取り出したポーションを飲み干す。

 膝に手を付いて立ち上がった。

 馬車が足を止めるのはほぼ同時だった。

 もう着いたのかとおれは席を乗り出して窓の外を眺める。確かにもうここは町の中だ。

 シルバーウェザーからヒジリオラシオンまでの距離は知らない。けど、もう着くとは予想外だ。

 案外早いんだなとか考えていたら、妹に突然手首を引っ張られた。

 馬車内に転がるおれ。妹は窓のカーテンを閉めた。

 

「下着姿でカーテン開けんな。とりあえずこれ着て」

 

 妹は【神彩の宝玉】から冬用のもこもこしたジャンパーを取り出してくる。

 サイズは妹用のためか、上から被るだけで、上と下両方隠れる程度にはぶかぶかだ。

 おれは服に袖を通しながら思わずつぶやく。

 

「……妹の服を着る兄。字面やばいな」

 

「絵面は姉のぶかぶかな服を着る妹だけどね」

 

 さらにサイドテールに結んでいた髪留めを外してストレートに。

【神彩の宝玉】が付けられた髪留めは、ブレスレットにするよう言われた。

 横から妹が口を挟む。

 

「そういや、真祖じゃなかった? なんで太陽の下に」

 

「長くなるぞ、その疑問。簡単に言えば吸収した陰光を陽光に当てて逸らして相殺している」

 

「陰光……月の光? それを吸収? 後で聞く」

 

 おれは自分に当たる太陽光が逸れるジェスチャーをして見せる。

 賢明な判断だと思う。

 おれは単に呪術を用いた特殊な手法で、太陽を克服しているだけ。

 切られたら即死する。

 

「できるなら瞳の色も変えたいんだけど」

 

 そう言いながら妹は馬車を降りる。

 呪いの影響なんておくびにも出さない顔と仕草で。

 妹はなんでそこまでして呪いの影響を隠そうとするのか。

 ここでおれが心配な表情を見せれば、妹は多分迷惑だろうな。

 だからおれは、いつもの調子で言うのだ。

 

「できるぞ?」

 

 おれは同じように馬車からようやくヒジリオラシオンの地に足を降ろす。

 

「はぁ?」

 

 妹は素っ頓狂な声を張り上げて振り向いた。

 おれは自分の両目に手のひらをかざす。

 少しして手のひらを放してみれば、今度こそあっけに取られた顔で妹はおれの顔をじっと見つめてくる。

 

「赤から青に……」

 

「呪術なら余裕」

 

 さらにおれは指をパチンと鳴らす。

 これで髪の色も変化したと思う。

 目の色が青なので髪もそれに合うように青色にしてみた。

 呪術、呪いなんだから変装くらいお手の物。気づかぬ相手に忍び寄り、情報や道具を集めるのである。

 妹はわなわなと震えながら訪ねてくる。

 

「他の六魔王は?」

 

 おれは妹の質問に、顎に指を添えてひとつづつ思い出していく。

 

「ひとりを除いて変装可能だな」

 

 口と瞼を震わせて、妹は極めて嫌そうに言葉を絞り出した。

 

「お前ら、マジでふざけないでよ……。道理で」

 

 まぁそりゃ、指名手配がこうも簡単に姿を変えられるとか。ぼやきたくもなるわな。

 やろうと思えば貌を変えることも可能だ。指紋、それこそ魔力の質ですらね。

 でもな妹よ。

 冷静に考えて国を何度も襲撃するやばい奴らなのに、足取りをほとんど掴めない方がどうかしているだろ。

 それにポーションとか準備をするために町とか入るだろ。大抵国を破壊した時にそのまま全部持っていくけど。

 妹の気苦労を半分だけ察しながらも、おれはその後ろ姿を付いていった。

 

 *  *  *

 

 妹の腕時計を盗み見してみれば、針は十時半を指していた。

 聞けば会議の始まる時間は十一時とのこと。

 ケルト風や日本風の木造建築が混合した町中を通る。おれは妹の後ろ姿を追い駆ける。

 何やらいつの間にか周囲に人だかり。

 聞き耳を立てれば、誰も彼もが妹の名を話題に挙げている。

 ひそひそと遠目で憧憬の目を向ける者、安らかな顔を浮かべる者、他には声援を口にする者と、妹を讃える文字の羅列に暇がない。

 そして皆が皆、口々に妹の近くにいるおれを疑問視する。

 ……面倒くさいことこの上ない。

 

 妹は、そんな彼らに聖人然とした姿を見せる。

 自分が一番苦しいのを隠して。

 

「また魔道具が爆発して!」

 

「ウチもそう、何とかなりませんか!?」

 

「魔物の数も最近多いですし」

 

 なんて民の喝采に真摯に向き合い、笑顔をばら撒き、優しい言葉を持って、民草の想う英雄に成り切り応える。

 己を殺して力無き者のために身を粉。血を流すよりも痛ましいのになお働くその姿。

 妹は民衆からしてみれば理想の英雄像そのものだ。

 まったく、反吐が出る。

 情けは人のために行うものじゃないのに。

 妹のヒジリオラシオンでの立ち振る舞い方を垣間見た気がした。

 

 *  *  *

 

 妹に手を引っ張られて歩いていくうちに、やがて城の外観が姿を現す。

 それは教会と城を合体させた白亜の城。

 

 城に入れば天井が高い。

 十二人の天使と六の悪魔が聖魔戦線を繰り広げる壁画。

 壁にはこの国のシンボルを描いた旗。

 そんな、教会といえばこんな感じかなをそのまま形にしたような内装。

 コツンコツンと足音を響かせていた妹が片膝を付く。まるで意図せず力が抜けてしまったかのよう。

 治ると言っても心配は心配。おれはすぐにでも走り寄る。

 

「もう少しで治——」

 

 妹はおれの服を弱々しい手つきで握り締める。

 

「ねぇ、やっぱり呪いの考察について聞いていい?」

 

「……治るのに聞きたいのか?」

 

「うん、お願い」

 

 そう言われても話していいものか。

 あんまり妹の精神に負担を掛けたくないんだけど。

 真実を語って良いものか。

 妹の腕が振るえる。瞳の奥、言わなきゃ許さないと訴えてくるように感じる。

 

「その呪いは【呪詛:雷蛆変性】だ。力を使うたび全身を激痛が走り、身体を衰弱させ、魂は摩耗する」

 

「……そんだけ?」

 

「死んだ後、その魂は強制的に術者の力として還元される。肉体は(しかばね)(いかさ)(おと)()へと変性する」

 

「……変性したらどうなるの」

 

「ゾンビパニック。その死人版戦乙女に殺された者の魂もまた、術者の力として還元される。殺された物は呪詛に当てられ生きる屍兵と化し、無尽蔵に屍兵を増やし続ける。だがこれでもまだ終わらない。呪いを掛けられ、気に入られた者の末路はこれだよ」

 

 妹に見えるように、おれは指に挟んだ式神を振って見せる。

 気に入られた者は悪行罰示(あくぎょうばっし)へと姿を変える。術者が死ぬまで永遠に使役される。

 呪いで強制的に悪霊に変えさせられる分、物凄い力を秘める。

 生前、どれほど人に慕われる聖人であろうとも、その力の限りを尽くして世界を血に染める悪鬼となる。

 いうなればこの呪いは、やがて神を生み出す。

 神産みの女神イザナミは、蛆に蝕まれて黄泉の神へと変性した。

 そんな神話から名前を取った。

 ゆえに【呪詛:雷蛆変性】。

 

 好奇心に駆られて作ったけどすぐに後悔した。

 リスポーン地点でゾンビパニック。復活時点で即キル。

 術者が解除すれば、死ぬ前ならばまだ助かる。

 しかし死人版戦乙女と化した後は、もう止められない。

 だから二体、この呪いで式神を作ってから二度と使っていない。

 さらにこの呪術、とんでもない弱点を抱えていて……。

 まさか再現する奴が出てくるとは思いもよらなかった。

 

 血相を変えた妹はおれの両肩に指が食い込む勢いで掴み掛かる。

 

「猶予は!」

 

「一か月あるかないか。この期間までに偽バリルを倒すか、おれに解呪してもらうかすれば解放される。あくまで現時点でおれの知る解呪方法はだけど」

 

「……解呪までの期間は」

 

「二から三、いや一分あればできる。解呪とは言ったけど正確には呪術を人型代に映す方法を使う」

 

 妹の指圧が緩くなる。

 だから、すぐに呪いを解いた方が良いぞ妹よ。

 そんな状態で会話すること、頭を使うこともままならないだろうに。

 おれがどれだけ説得を施しても、妹は「今はまだいい」を繰り返すばかり。

 多分、おれが何を言っても妹はこのまま会議室に向かうだろう。

 流石におれの方が折れて、妹共に会議室前までやってくる。

 妹は会議室の前で待機するよう言いつける。まず自分から先に中へ入っていった。

 ……おれ、なんて自己紹介すれば良いんだろう? 

 

 妹が扉を開けておれを呼ぶ。

 

 おれは意を決して扉を開いて会議室へ突入する。

 会議室には華やかな円卓と十二の席があった。

 それはまるで、伝説で語り継がれるアーサー王伝説のように。

 

 しかしひとつ足を踏み入れただけで、世界は真の姿を見せる

 一言では形容出来ない濃密。掃溜めを想起させる陰鬱。

 八つの空席。

 アーサー王伝説など過去の栄光。

 今はただ、ブリテン崩壊一歩手前のように暗然としていた。

 妹がおれの背中を押す。

 

「さっきも話したけど、うちのリアル兄貴」

 

 妹はおれの両肩に手を置いて紹介する。

 だからおれは決して変なことを言わないように頭を下げるのだ。

 ゲーム内で使用していた偽名を言おうと口を開き、——そして妹がおれの言葉を遮って口を手で塞いでくる。

 

「その名はバリル。正真正銘、本物の衆悪の六魔王、黄泉の巫女バリル」

 

 *  *  *

 

 まるで世界の時が凍り付いたかのような感覚だった。

 瞬きひとつ。唾を飲んで妹を見る。

 正体をばらして良かったのか? 

 妹の顔は真剣だった。一筋の汗が伝っていた。喉をこくりと動かしていた。

 

 停滞する水面に斬撃が一筋走る。

 豪快な笑い声が響いた。張り詰めた空気を吹き飛ばすかの如く。

 最初の反応は見せたのは、赤黒い禍々しい鎧を着た男だった。聖人だよね? 

 

「おいおい、お前も冗談を口にできるようになったんだな! そいつがバリルだって? 目も髪も、何より雰囲気がどこにも面影ないじゃねーか!」

 

「私もヤーティと同意見です。仮にその子がバリルだとしましょう。ではなぜ、そのバリルはあなたにまで襲い掛かってきたのです?」

 

 追随するように銀色の袴を来たポニーテールの女性が言う。

 凛とした雰囲気は、正しく委員長気質のそれだ。まとめ役、秘書とでもいったところだろうか。

 これにサクヤは一歩踏み込み、臆することなく答える。

 

「だからあいつは偽物。こっちが本物なの。何度もおかしいと言ってるでしょ。大体ゲーム時代にあれだけ暴れたバリルが、今になってなんでヒジリオラシオンを襲ったわけ」

 

「ヒジリオラシオンは聖国。【魔術:聖魔】の総本山。対してバリルは真祖の吸血鬼。世界が現実となった今、真っ先に潰しておくべき場所だと判断したのでしょう」

 

「それはおかしいって。十二人全員ぶっ飛ばせる実力があるのに。なんで真っ先に潰すなんて考えになるわけ? 本物なら脅威にすら思わないっての!」

 

 拒絶される。けなされる。追放される。

 いくつかのパターンを考えてはいたけど、まさか信用されないってパターンに入るとは。

 ……というか、おれの方がバリルの偽物? 

 普通に聞き捨てならないんだけど、その言葉。

 あと、本物はリアルで妹の雷撃が落ちるから怖いが真実である。

 

「まーまー落ち着きなよ、シグレンとサクサク。その議論は後でするとして、そっちのサクサクのリアルお兄ちゃんの自己紹介を聞きたいな」

 

 十二の席に座る女性が手を叩く。

 この人が女王だろうか。聖人たちの中でも一層、煌びやかで王様然とした聖衣を身にまとっている。

 まるで聖女、いや聖人の王みたいだ。

 だが纏う雰囲気はお調子者。それが演技か真であれ、おれの苦手なタイプだ。

 

「バリル。サクヤのリアル兄。懐かしい気分になるから和を感じる物が好き。おれが真祖であることは気づいているだろ?」

 

 それだけ言って、おれは妹の一歩後ろに控える。

 口を閉ざしてもうこれ以上話すことはないと示す。

 ついでに変装の呪術も解いておこう。これで髪はオレンジになる。

 ブレスレットにした髪留めもサイドテールに戻しておく。服以外はもう噂に違えぬバリルそのものだろう。

 女王は少し困った顔つきでサクヤに話しかける。

 

「サクサク、ほんとーにこの子は衆悪の六魔王バリルであってる? なんというか……イメージが」

 

「そんための証拠を見せる」

 

 妹は歯を食いしばる。呪いは今も刻々と妹を蝕んでいる。その証拠にもう、目の焦点が合っていない。

 それでも振り返っておれの手首を掴んでくる。

 

「【雷蛆変性】だっけ? 解呪するために何をすればいい」

 

「うわっとと。禊……この場合はシャワーか。水でもお湯でも良いから、とにかく頭から水を被れれば」

 

 妹は二つ返事で会議室を出て、おれを引っ張るように進んでいく。

 妹の手は酷く冷たい。その手から伝わる力も。まるで僅かに残った力を懸命に込めているかのよう。

 今分かった。だから妹はあえて呪いを残したわけだ。おれが本物のバリルであると証明するために。

 おれがいくら本物だと言っても、周囲からは分からない。区別なんかつきようもない。

 偽物は凶暴で、本物は大人しい。

 被害を受けた側からすれば、偽物が本物と考えてもおかしくない。

 再びおれは変装の呪術を掛け戻す。

 

 怪訝な様子で女王とシグレ、ヤーティと呼ばれた男性も立ち上がって付いていく。

 

 流石に子どもを引き摺るのは体制が悪いのだろう。妹はおれに隣を歩くよう言ってくる。

 給仕服を着た人たちは男女問わず、妹たち聖人を見るなり恭しく頭を下げる。

 答えるように妹たちも手を振れば、その各々は自分の役割にへと戻っていった。

 

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